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2018.12.03

「地方移住」ですれ違った夫婦を救った時間 |2人で開く月1回の「パイナップル会議」とは


今年6月から期間限定で岐阜県郡上市に移住している岡野さん夫婦(写真:岡野さん提供)

今年6月から期間限定で岐阜県郡上市に移住している岡野さん夫婦(写真:岡野さん提供)

「家族会議をしたくても、まず夫婦がそろう時間がない」というのはよく聞く悩みだ。

共働き家庭が増えたこともあるが、何より夫の仕事の帰りが遅く、平日はまったく時間が取れないという家庭はまだまだ多い。それに、家族会議をすれば、家族の問題がすぐに解決するわけじゃないし、会議をしているから家族円満でいられるというわけでもない。すれ違いや日々の問題が、起きるのが家族というものだ。

それでも定期的に家族会議を開くことで、自分たちが大切にしているものに気がつくことができることがある。今回はそんな家庭の話を聞いた。

夫婦の時間がないからこそ家族会議

岡野家:家族構成

夫:岡野春樹さん 妻:早登美さん 息子:咲也(さくや)くん(2歳)、立樹(たつき)くん(0歳)

家族の課題:夫婦間のズレを月に一度解消していきたい

岡野家は現在、岐阜県の郡上市(ぐじょうし)で暮らしている。東京の広告代理店に勤務する春樹さんが、仕事の傍ら友人たちと立ち上げた社団法人の活動がきっかけだった。日本各地のいいところを探す旅をコーディネートする取り組みの中で、郡上という町に出会い地域発信の事業を立ち上げた春樹さんは、なんと会社に掛け合って期間限定の出向という形を認めてもらえた。

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自然豊かな環境や、地域の人たちとの新しい出会いに恵まれた新生活は、充実している。育休中ということもあり慣れない土地で子育てを主に担当する早登美さんと、新しい挑戦に奔走する春樹さん。お互いの状況を共有したいと思うものの、まだ幼い2人の子どもの世話に追われていると、夫婦でゆっくり会話する時間がないのが実情だ。

「子どもが生まれる前は、2人で趣味のランニングをする時間もあり、そこでいろんな話ができていたんです。でも2人子どもがいて、生活の中ではなかなか夫婦2人で会話をする時間が少なくなってしまっていますね」(早登美さん)

そんな岡野家では月に1回「パイナップル会議」を開催している。

そもそも岡野家の家族会議が開催されたのは、2年ほど前。長男の咲也(さくや)くんが生まれた直後のことだった。初めての赤ちゃんのお世話で慌ただしい今だからこそ、これからどんな家族でいたいか考えよう。そして開いた第1回の会議は、家訓を決めるところからスタートした。

岡野家の家訓

一、言葉は魂、言葉は心である
一、呼吸と身辺を整えよ

約束ごと

一、朝日を浴びて、深呼吸
一、おやすみ前のありがとう
一、週に1度のさく散歩
一、月に1度のパイナップル会議
一、年に1度のご褒美旅行

額縁に飾られた家訓は春樹さんが書いたもの。現在は約束事がいくつか追加され、リニューアル準備中(写真:岡野さん提供)

額縁に飾られた家訓は春樹さんが書いたもの。現在は約束事がいくつか追加され、リニューアル準備中(写真:岡野さん提供)

家訓の1つ目は、歌人である春樹さんの祖父の教えだ。2つ目や約束事は夫婦2人で作ったもの。子どもが生まれ、日々の忙しさに翻弄されても、深く呼吸をし、心身や環境を整え、自然や楽しいことに触れ、相手への言葉に気をつけよう、という意味だ。そして月に1度はパイナップルなど新鮮な果物を食べながら話をしよう。遠回りに感じるかもしれないけれど、それらが「みずみずしい岡野家」を作っていくための指針になった。

2人が描く未来が異なっていたと気づく

パイナップル会議の内容は、1カ月の振り返り、モヤモヤしたこと、5年、10年先の家族の未来、お互いの夢についてなどさまざまだ。まずそれぞれがノートに書いて、それをシェアしてじっくり聞き合うという時間を取っている。岐阜への移住話は、春樹さんから会議に挙げられた。

新鮮なフルーツを囲んでするパイナップル会議。行き詰まったら甘い果物を食べて気分を変える(写真:岡野さん提供)

新鮮なフルーツを囲んでするパイナップル会議。行き詰まったら甘い果物を食べて気分を変える(写真:岡野さん提供)

「東京に住んでいた時、そろそろ家を買おうかという話題が出た時があったんです。2人目が生まれて、ママ友たちはみんな家を買うとか、車を買うとかいう話をしていて、私も焦っていたところがあって。『仕事に復帰するなら二世帯住宅がいいかな』などと考えていました。でも、夫は岐阜への移住を考えているという話になり、最初は考えが合わないところもありました」(早登美さん)

東京で家を買い安定していくことと、岐阜への期間限定の移住をすること。並べるとまったく異なる未来への道が並んでいる。そこで2人は、家訓どおり心身を整え、もう一度きちんと話し合った。

「プールで泳いだ後に話をするとか、ひと呼吸おいて環境を整えてから、根っこのところで自分たちはどうありたいかを確認し合いました。子どもが生まれたからすぐ家を買うということでなく、僕らが目指す根っこにある気持ちがいい暮らしをするために、エネルギーがいい郡上という場所に行って、試してみるのもいいんじゃないかなぁという話になったんです」(春樹さん)

早登美さんも改めて考えると、移住が楽しみになったという。「1年先がわからない生活を選ぶのはちょっと普通とは違う選択だけど、それも楽しいかも、と。家族会議をして、ほかの人の価値観に引っ張られないで、自分たちがどうありたいかに焦点を当てたら、岐阜での暮らしって実はすごく理想的だと思えました」(早登美さん)

気がつくとケンカが増えるように…

移住先の住まいは、吹き抜けのログハウスや、広い庭つきの家。地域の人たちにも優しく受け入れられて、岐阜での暮らしは順調だった。

一方で春樹さんの仕事はどんどん忙しくなり、出張して家を開けることも増えた。大勢の人と会って1日中張り詰めて家に帰ると、どうしても完全「オフ」のモードになってしまう春樹さん。2人の育児と家事を一手に引きうけている早登美さんとの間に、意識の違いが増え、気がつくとケンカが増えるようになった。

家族でキャンプに出かけたり、できるだけ自然に触れ、体を動かすことを心がけている(写真:岡野さん提供)

家族でキャンプに出かけたり、できるだけ自然に触れ、体を動かすことを心がけている(写真:岡野さん提供)

「ある時、夫が『早登美は育児を楽しんでくれてるから、安心して預けることができる』と話していたのを聞いて、あれ、何か違うぞって思ったんです。確かに育児は楽しいけれど、やっぱり助けを借りたいし、話を聞いて欲しいこともある。”育児を任せる”という感覚に違和感があって。それをちゃんと伝えられてなかったんだと気づいたんです」(早登美さん)

「最近は特に、仕事で人と話し続けているから、帰宅するとまったくしゃべれないほど疲弊してしまって。早登美の不満の原因だというのはわかっていたけど、どうしようもできなかったんです」(春樹さん)

ある時、出張で東京に行く春樹さんに家族がついていく機会があった。早登美さんは、ドライブ中、子どもたちが寝た合間に会議を持ちかけた。自分が感じているズレを議題にしたが、その会議の間に2人は大ゲンカをしてしまう。

「本当に悲壮な感じで会議が始まって(笑)。出張で家にいないといかに大変かとか、とにかく不満を投げられ続けたんです。大変なのはわかるから最初は黙って聞いていたんですが、だんだん、早登美は全部環境や他人のせいにしてるじゃないか、と感じてしまったんですよね」(春樹さん)

「怒られて、めちゃくちゃ険悪な雰囲気になりました(笑)」(早登美さん)

夫婦のすれ違いを話し合おうとしたら、不満の出し合いになりかえってケンカになる、というのはよくある話だ。だが、岡野家の場合、険悪な雰囲気は長く続かなかった。途中、コンビニでフルーツを買って食べながら、互いの気持ちを吐き出してぶつかるだけぶつかると、せっかく会議をしているのだからと、早登美さんの孤独感や閉塞感をどう地域の人の手を借りて軽くするか、というアイデアを出しあう方向に会議の流れを変えた。

「冷静になれば、早登美の今の状況って終わりのない育児と家事でブラック企業に勤めているようなものだ、と思い直せたんです。それをなんとかするために、僕も変わらなきゃいけないし、思い絵描いていた理想の暮らしと違うならそのために何をすればいいかを出し合いました」(春樹さん)

問題を解決するだけが会議じゃない

毎週土曜日の朝はヨガを習う、近所のおじさんに畑仕事を教えてもらう、忙しくてもただいまとおやすみは機嫌よくする、外で自然に触れる機会をもっと作る、春樹さんの仕事ぶりを家族で見る機会を作る――。岡野家の家訓と約束事という原点に戻ると、そんな前向きなアイデアが次々と出た。全部をすぐに実践できいるわけではないが、話し合えたことで、早登美さんの春樹さんへの気持ちや態度も変わったという。

「ちゃんと家族のことを考えてくれてるとわかったら、やっぱり今は忙しいピークの夫を支える気持ちにもなって。家を開ける日があっても、夫の仕事を家族で見に行くチャンスを増やしたり、子どもたちに『お父さんお仕事頑張っているんだよ』と伝えて気持ちよくおかえりを言えるようにもなりました」(早登美さん)

ケンカをしたドライブ会議から1カ月後、2人は庭で薪割りをしながら、会議を開いた。春樹さんの忙しさは変わらなかったし、早登美さんの状況も同じだったが、この時の会議はとても和気あいあいと楽しいものだったという。

火を焚いて、眺めながらの家族会議。この日は子どもたちが起きてきて、薪でスープを温めて家族で夜更かしを楽しんだ(写真:岡野さん提供)

火を焚いて、眺めながらの家族会議。この日は子どもたちが起きてきて、薪でスープを温めて家族で夜更かしを楽しんだ(写真:岡野さん提供)

「毎日、本当に忙しいけど、冷静になれば今の暮らしって実はすごく幸せだなって思って。焚き火を囲んでご飯を食べたり、こちらで出会った人に畑仕事や染物を習ったり、人から教わることも増えて、東京にいた頃よりずっと豊かな暮らしができているんだって気がつきました」(早登美さん)

「いろいろ問題はあるし、すぐに解決できないことは多いけど、まずズレがあるならそれを認識するのが大事だと思えるようになりました。月に1度、会議を通して振り返り、家族の形もアップデートすればいい。なんだかんだ言って、思い描いている理想の暮らしに近づいているかなと再確認できています」(春樹さん)

具体的な「問題」を解決する会議もある。しかし、岡野さん夫妻のように、時にずれていっても、家族の理想の姿を確かめ合い、原点に戻る習慣づけとして会議を使うこともできる。新しい家族の形を作っていく土台に、家族会議が役割を果たすこともあるのだ。

本連載「家族会議のすすめ」では、実際に家族会議を行っている方からの情報・質問・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらにフォームにご記入ください。

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提供元:「地方移住」ですれ違った夫婦を救った時間|東洋経済オンライン

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