2018.11.28
70歳以降も働きたいシニアが8割もいる背景|自営業者は「生涯現役」を希望する人が多い
何歳ごろまで収入の伴う仕事をしたいですか(写真:DragonImages/istock)
あなたは何歳くらいまで働きたいと思っていますか? 数年前であれば、「引退は定年の60歳」と答える方が多かったかもしれません。しかし、人生100年時代を迎える今後は、そうもいかなくなりそうです。
10月22日、政府は成長戦略の立案を担う「未来投資会議」を開き、人生100年時代を踏まえた雇用制度の改革案について議論しました。安倍晋三首相は「70歳までの就業機会の確保を図り、高齢者の希望・特性に応じて、多様な選択肢を許容する方向で検討したい」と述べ、早期に法案を提出する方針を示しています。
高年齢者雇用安定法が改正されて5年。65歳までの雇用確保措置のある企業は99.8%と制度上は65歳までの雇用対応はほぼ浸透したと言って過言ではありません。しかし、「いきなり5歳も延長?」と思う方もいるでしょう。
高齢者の体力も約5歳若返っている
未来投資会議において、高齢者の体力・運動能力はこの10年強で約5歳若返っている、というデータが示されました。今の70歳前半の高齢者の運動能力は、14年前の60代後半と同じであり、健康状態だけで見れば、高齢者の就業率は現在より大幅に高い水準になる余地があると見立てています。
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内閣府の「高齢者の日常生活に関する調査」(2014年)を見ると、就業形態別では、正規の社員・職員、非正規の社員・職員で「70歳くらいまで」(正規の社員・職員32.2%、非正規の社員・職員27.9%)、農業漁業、自営業・個人事業主・フリーランスで「働けるうちはいつまでも」(農林漁業53.6%、自営業者など53.1%)とする割合が高くなっている点に着目したいところです。
「希望する高齢者に就業の機会を」というのは、確かにそのとおりです。ただ、その背景には経済的ニーズがあることも忘れてはなりません。自営業などの場合、40年間保険料を納めても、国民年金のみであれば、毎月の年金額は6万4941円(2018年)です。
十分な蓄えがなければ「働けるうちはいつまでも」と言いたくなるかもしれません。もっとも、会社のように自営業は定年制がありませんので、いつまでも元気であれば働きたいという希望があるのは頷けるところです。
企業側の状況はどうでしょうか。現行の「高年齢者雇用安定法」では、65歳までの安定した雇用を確保するため、企業に「定年制の廃止」や「定年の引き上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じ、希望者全員を65歳まで雇うことを義務づけています。
60~64歳の男性就業率は、2002年においては64%でしたが、2017年は79%と15年間で15%も増加しており、雇用延長を行った政策の影響は大きいといえるでしょう。
11月16日に厚生労働省が発表した「高年齢者の雇用状況」(2018年)によれば、65歳定年企業は16.1%、66歳以上働ける制度のある企業は27.6%(うち中小企業は28.2%、大企業は21.8%)もあります。さらに70歳以上働ける制度のある企業割合は25.8%(うち中小企業は26.5%、大企業は20.1%)と、深刻な人材不足を背景に、中小企業において高齢者を積極的に雇用する動きが見られます。
雇用延長と年金をセットで考える
高齢者の雇用延長の話と、セットで考えたいのが年金です。先頃、厚生労働省が公的年金の受給開始時期(原則65歳)について、70歳まで遅らせた場合の年金水準の試算を初めてまとめ、公表しました。
夫婦2人世帯(2014年度)の場合、70歳まで厚生年金被保険者として働き、年金の受け取りも70歳まで遅らせると月33万1000円となり、60歳で仕事を辞めて65歳から受け取る一般的なケース(月21万8000円)よりも最大10万円以上増えるという内容です。
月額で10万円も増えるなら、70歳まで働いて年金受け取りも5年遅らせたほうがいい、という意見も多数聞かれました。ただ、このモデル世帯はあくまでも厚生年金に加入していた夫婦(妻は専業主婦)の場合なので、自営業者などにこの試算は当てはまりません。
安倍首相は、70歳までの就業機会の確保について、「早急に法律案を提出する方向で検討したい」と話しています。この背景にあるのが、日本の人口構造と社会保障問題です。高度経済成長期のように人口が増大している社会はマーケットも拡大し、需要が増えるので生産も増え、GDPも増えます。
一方、人口が減っていく人口オーナス期では、マーケットも縮小するため、経済を維持させるためには少ない労働力で生産性向上を考えていかねばなりません。これが働き方改革へとつながっているわけですが、その数字をみるとかなり深刻な状況がわかります。
生産年齢人口(15~64歳)は戦後一貫して増加を続け、1995年の国勢調査では8726万人に達しましたが、その後減少局面に入り、2015年の国勢調査によると7728万人となっています。さらに、2040年ごろには約6000万人まで落ち込みます。そして2053年には、総人口が1億人を割って9924万人になる見込みとなっています〔国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2017年推計)より〕。
一方、老年人口(65歳以上)はこれから団塊世代が次々と高齢化していくため、どんどん増え続け、2042年でその数3935万人とピークに達します。生産年齢人口が急激に減り始め、老年人口が増え続ける今後20年余りが、日本にとって最も厳しい時期と考えられます。
膨らむ社会保障費
ここで社会保障費に目を向けてみましょう。社会保障給付費の対GDP比は2018年の21.5%(名目額121兆3000億円)。2040年度には23.8~24%(同188兆2000億~190兆円)にハネ上がることが予想されています(「2040年を見据えた社会保障の将来の見通し」内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省 2018年5月21日)。これだけ生産年齢人口が減っていくにもかかわらず、約67兆円も社会保障給付費が増えていくというシビアな現実があります。
社会保障費は、国民から税金や保険料という形で集められています。企業も社会保険に加入している従業員の社会保険料を折半して負担しています。日本の財政状況を考えれば、65歳を超えても元気であれば、受け取る側でなく支払う側に1人でも多く回ってもらいたい、と考えても不思議ではありません。むしろ、そうしなければ立ち行かなくなる現実が突き付けられているのです。
法律改正によって60~64歳の就業者が増えた実績などを踏まえても、70歳まで働くことを想定した実行計画は着々と進められていくでしょう。ただし、高齢者の雇用を手厚くするあまり、現役世代にしわ寄せがいくようであってはモチベーションが下がるばかりで、企業側も難しい舵取りが迫られていると言えます。
もちろん、高齢者の希望や健康状態もあるので、働くことを強いることなどできません。現行の65歳雇用についても、あくまで「本人が希望すれば」雇用の機会があるという話です。
最終的には、私たち一人ひとりの問題です。どのような働き方をしたいか、どのような引退が理想か。変化の激しい時代にあって、長期的なビジョンは立てにくいものですが、人生100年時代を見据えて、日々自分に問い続けたいものです。
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提供元:70歳以降も働きたいシニアが8割もいる背景|東洋経済オンライン