2018.11.15
「防災食」のごはんがおいしくなったワケ|亀田製菓、アサヒGHDに続き永谷園も参戦
災害時の防災食もバリュエーションが増えている(記者撮影)
今年の夏から秋にかけて日本全国を襲った台風、大雨、地震などの自然災害。これらの災害を機に、「災害時の防災食」への関心が高まっている読者も多いのではないだろうか。
以前は、防災食といえば乾パンなどパン類、というイメージが強かった。だが、現在の市場で乾パン類のシェアは2割以下。主流なのは4割を占めるコメなどの米飯類だ。
乾パンよりもアルファ米が主流
市場調査会社の富士経済によれば、防災食の市場規模は2018年に186億円(予測)。それまで120億円強だった市場規模は、2011年の東日本大震災をきっかけに自治体の食料備蓄重要が急増、2012年に2割近く伸びた。
その後も、防災食の賞味期限は5年が一般的なため、2016年には買い替え需要に熊本地震の特需が重なり、前年比で37%の伸びを記録した。足元での市場は2011年比で1.5倍ほどに膨れている。
防災食の中でも、最もメジャーなのがアルファ米だ。アルファ米とは、炊いたコメを高温で乾燥させることによって表面のデンプンの状態を炊きたてのままキープしたもの。水を加えて60分、熱湯なら15分待てば、炊きたての白米に風味は劣るものの、食べられるようになる。
このアルファ米で国内シェアの半分を握るのが、2013年に亀田製菓が子会社した尾西食品だ。同社は1944年にアルファ米を開発、戦時中は日本軍への食糧供給を担っていた。2005年には宇宙食に採用されるなど高い技術力を誇る。
尾西食品の小寺芳朗社長は、「(1994年1月に起きた)阪神淡路大震災以降、自治体の備蓄需要は冬場には特に硬くて食べづらい乾パンなどから米飯類にシフトしてきた」と話す。
尾西食品のアルファ米商品の主力は白飯だったが、市場の拡大に合わせて「エビピラフ」や「チキンライス」などの洋風メニューや「松茸ごはん」などの和風メニューのラインナップを拡充してきた。全部で12種類があり、価格は1食210~260グラムで300円台だ。
この10年ほどで、アルファ米の品質自体も向上させてきた。以前は製品によって原料米の産地がバラバラで、あまり品質のよくないコメも多く使われていたというが、現在は高品質のあきたこまちに切り替えた。製造工程でも、炊きムラが少なくなる炊飯釜を導入した。
また、味の種類が増えてきたことで、キッコーマンやヤマサ醤油から仕入れているしょうゆなどの調味料は長期保存に適したものを開発してもらい、仕入れるようになった。「原料のコストは上がっているが、販売数量が増えたことで削減された固定費の分で賄っている」(小寺社長)。
尾西食品のアルファ米の売上高は30億円強。災害が続いた今年の7月から9月にかけては、EC(ネット通販)を中心に販売数量は例年に比べ20%程度伸びたという。
販売のほとんどは自治体向け
ただ、一般の消費者向けは売上高の1割ほどにすぎない。メインの取引先は自治体で、売上高の約8割を占めている。全国の市区町村のおよそ半分と取引があるという。
商品を自治体向けにまとめて大量に販売できるうえ、「販路が限定されているため、値引きのための販促費や広告費がかからない」(小寺社長)。そのため、同社の営業利益率は20%以上。1ケタ台が一般的な食品メーカーでは異例の高さだ。
EC以外では東急ハンズなどのホームセンターで登山用のアウトドア用品として販売される場合が多く、ほかの食品との競争も起きづらい。
市場の広がりによって、アルファ米だけではなく、災害時以外にもなじみ深いフリーズドライ食品のメーカーも米飯類で防災食市場に参入し始めている。
中でも、2016年に参入した永谷園が存在感を高めている。主力のお茶漬けやふりかけがフリーズドライ食品ということもあり、もともとノウハウを持っていたからだ。
フリーズドライとは、食品を真空状態で冷凍や乾燥させたもの。乾燥時に熱を加えないため、アルファ米に比べて風味、品質の劣化が起こりにくいのが特長だ。
永谷園の防災食ビジネスは、2016年に同社の工場があり災害協定を結んでいた三重県松阪市にフリーズドライの備蓄米を納入したことで始まった。生産態勢が整った2017年からは、一般向けにも販売を開始している。
永谷園の防災食の売上高は2017年度に2億円ほどだったが、今2018年度は4億円、来2019年度は8億円と、倍々での成長を見込んでいる。
フリーズドライ食品には冷凍過程が必要なため、アルファ米に比べて短時間での大量生産は難しい。そうした製造工程の違いから価格も高くなりがちで、自治体への納入のための入札では安価なアルファ米に軍配が上がることが多い。
ただ、フリーズドライ米はアルファ米に比べて調理時間が圧倒的に短いのがメリットだ。お湯なら3分、水でも5分で出来上がる。「自治体との取引を増やすことに加えて、一般の方向けに登山時の食事としてもメリットを訴求していく」(業務用営業部の加藤光治氏)。
家庭向けをどこまで開拓できるか
「アマノフーズ」ブランドでフリーズドライ食品を展開するアサヒグループ食品は、2015年から家庭用の防災食に力を入れ始めた。
アマノフーズは、かつて天野実業の名前で上場していたこともある。1970年代からカップラーメンの具材を手掛け、1980年代からはフリーズドライみそ汁などのスープ類を製造している。2008年にアサヒグループ入りし、傘下の食品子会社と経営統合し、アサヒグループ食品となって現在に至る。
自治体向けの取引は数件と少ないが、「専用のセットを作って、日頃からフリーズドライ食品を消費しながら備える“ローリングストック”を消費者向けに推奨している」(食品事業本部の武田喜英氏)。
同社のフリーズドライ商品はスープ類を中心に150種類以上。「災害時にも普段と同じようなものが食べたい」という需要の取り込みを狙っている。
防災意識の高まりで成長を続ける防災食市場。新規参入によって、白米に限らずさまざまな食品が出始めている。職場や家庭での防災対策を見直すいい機会かもしれない。
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提供元:「防災食」のごはんがおいしくなったワケ|東洋経済オンライン