2018.11.02
「年5日」有休が必ず取れるようになる理由|来春から取得が義務化、違反企業には罰金も
年次有給休暇をうまく活用していますか(写真:amadank/PIXTA)
「仕事が忙しく、あまり休みが取れていない」という方、多いのではないでしょうか? 長時間働けば成果が出るというわけではありませんが、「あふれる仕事量をこなすために働かざるをえない」という声も聞こえてきます。
日本人は、まじめで休みを取ることをよしとしないところがあります。先日お会いしたある企業の人事部長は、「うちの社員は、病気のときしか休みは取らない」と言い、“だから勤勉である”という肯定的なニュアンスでお話しされていました。
人手の足りない職場では、「休みを取られるとほかの人へのしわ寄せがきて、むしろ過重労働になる」といった声もあります。
限られたマンパワーでの仕事のやりくりは確かに大変ですが、年次有給休暇は労働者に与えられた権利であり、休みが自由に取れない働き方というのは疑問です。
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生産的な職場ほど休みを取り入れている
一方で、生産的な職場ほど、休みを効果的に取り入れているといわれています。ILO(国際労働機関)の報告書によると、「製造業においては、労働時間の長時間化は必ずしも生産性の増加につながらない。そのほかの産業においても、労働時間の短いセクターほど時間当たりの生産性が高いという相関が観察される」という調査結果もあります。
先進的な働き方を導入している企業では、スケジュール管理においても「スラックタイム」を積極的に取り入れているところもあります。スラックとは「ゆとり」「遊び」という意味で、プロジェクトを始動する際にあらかじめ必要な時間を計算し、そこにスラックタイムを加算して時間に余裕を持たせるようなスケジュール管理のことです。
多少の「遊び」を敢えて入れることで、心にゆとりを持たせて、新しいアイデアを生み出すなど、創造的な仕事へつなげようとするものです。また、年次有給休暇をはじめリフレッシュ休暇やボランティア休暇など、社内の休暇制度をうまく活用して休みを取っている方もいます。
よく働くためには、よく休むことが必要――。頭ではわかっていても、なかなか実践できない職場風土が日本ではまだ根強く、政府が肝いりで進めている「働き方改革」においても、長時間労働の是正が重要なテーマの1つとなっています。
諸外国と比べても日本の有休取得率の低さは際立っています。旅行サイトのエクスペディア・ジャパン「有給休暇国際比較調査2017」によると、フランス、スペイン、香港などの有給休暇消化率は100%という驚異的な数値を誇る一方で、日本は世界30カ国の中で最低の50%という結果になっています。あくまでも調査対象者(30カ国、約1万5000人)の数値なので、国ごとの平均値とはいえませんが、その差は歴然です。
10月23日に発表された厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」でも、2017年の年次有給休暇の取得率(1人当り平均)は51.1%。1998年(51.8%)以来20年ぶりの高水準でしたが、政労使が目標とする2020年70%にはほど遠いです。
違反企業には罰金も課される
こうした中で、2019年4月より労働基準法が改正され、年次有給休暇のあり方が見直されることになりました。年休はそもそも労働者が自ら申し出なければ取得することができません。
しかし、申し出がしにくい状況を鑑みて、改正後は年間10日以上の年休の権利を持つ労働者に対し、「5日間は労働者ごとに毎年時季を指定して与えなければならない」というルールができ、使用者は労働者に対して年間5日の年次有給休暇を取得させることが義務化されるのです。違反企業は、30万円以下の罰金に処せられます。
ちなみに、年次有給休暇は業種・業態や正社員・パートタイム労働者などにかかわらず付与されます。一般労働者(フルタイム)の人は、入社から起算して6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤していれば10日付与されます。その後、勤続年数に応じて加算されていきます。
法改正は、決して驚くような話ではありません。せめて、「お1人様年5日は年次有給休暇を取らせてあげてください」ということです。使用者は労働者ごとに時季を指定して年休を与なければなりません。時季を定めるにあたっては、できる限り労働者の希望に沿った時季指定となるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければならないことが通達にも盛り込まれています。
ただし、社員自らが年5日以上の年次有給休暇を取得している場合や計画的付与によって5日付与されている場合には、追加で5日分を消化させる必要はありません。計画的付与とは、年次有給休暇の付与日数のうち、5日を除いた残りの日数について労使協定を結ぶことで、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。
社員が自発的に年5日以上の年次有給休暇を取得するかどうかは、ふたを開けてみなければわかりません。これまで病気のときしか休めないような職場であれば、自発的に休むことに抵抗を感じることもありうるので、企業側としては年5日を消化させる仕組みを考える必要があるでしょう。この改正は、中小企業に対する猶予期間は設けられておらず、2019年4月1日から施行されます。
こうなると、なかなか休みが取りにくい職場では、次のような発想も生まれるようです。それは「最初から年5日の年次有給休暇を買い取ってあげればいいじゃないか」というもの。つい先日も、ある経営者からこうした質問を受けましたが、結論から言ってNGです。
年次有給休暇は、実際に休みを取らせて労働者の心身の疲労を回復させることが目的なので、原則として会社が法定の有給休暇を買い上げることは認められていません。行政解釈においても、あらかじめ買い上げの予約をすることで付与日数を減らすことや請求された日数を与えないことは違法としています。
ただし、買い上げについては例外もあります。年次有給休暇は2年で時効となりますが、時効で消滅した年次有給休暇や、会社が法定の日数を上回って付与している場合は、法定を超えた日数を買い上げても違法とはなりません。また、退職や解雇によって年次有給休暇を取得する余地がない場合に、消滅してしまうものを会社が恩恵的に買い上げることは違法とはいえません。
休みを取っても仕事が回る組織作りが重要
しかし、「法律を改正しなくては休みが取れない」というのは欧米では考えられないことでしょう。とかく私たちは休みを取ることを遠慮しがちなところがありますが、休みを取っても仕事が回る仕組みを組織として考えていくことは重要です。
もっとも、仕事とプライベートの境目がわからないくらい、働くことが楽しい、充実している、という方もいることでしょう。ただ、そういった方が雇用契約で働く労働者とは限りません。むしろ、個人事業主や経営者は、このような法律の適用はありませんので、自分自身でうまく働き方・休み方をマネジメントしていくことが求められます。
創造的に働くために、敢えて休みを取ること。ライフステージによっても、働き方は変化していくものです。人生100年時代のこれからを持続的に働いていくために、自分の中のゆとりや遊びを大切にしたいものです。
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提供元:「年5日」有休が必ず取れるようになる理由|東洋経済オンライン