2018.10.24
他人の話に「上の空」になる自分を変える方法|「聞く力不足」は多くの人が抱える問題だ
最初からきっとこうだと決めつけていたり、自分の提案に都合のいい情報ばっかり聞いてしまっていませんか(写真:Greyscale / PIXTA)
人と話をしているとき、「この人はちゃんと自分の話を聞いているのかな?」と感じる相手はいませんか? 一方、自分でも人の話をしっかりと聞けているか自信がない……という方もいるでしょう。
何をもって本当に聞けているかは人により感じ方もあるでしょうが、「聞けない」ということは存外大きな“損失”をもたらします。
筆者は多くの企業で研修を担当していますが、「聞く力不足」には大いに危機感を持っています。きっかけは、提案書を作成するためのロールプレイング研修でした。
お客様役(講師)に受講者がヒアリングをして提案書を作成するという研修だったのですが、お客様役の講師が、「せっかく情報を準備しているのに、全然聞き出せずにヒアリング時間が終わっちゃうんだよね。大体2割くらいしか必要な情報を聞き出せてない」とぼやいていたのです。
実際に受講者によって作成された提案書をみると、クライアントの課題を把握し切れておらず、単に商品やサービスの説明ばかりになってしまっていたのです。これではお客様の信頼を勝ち得ることも、競合との差別化も難しいでしょう。
聞く力はこれからますます重要に
聞く力がますます重要になる背景としては2つあります。1.ローコンテクスト時代、2.売れない時代です。
ローコンテクスト時代は耳慣れない言葉かもしれませんね。コンテクストとは前提や背景という意味で、ローコンテクストとは、前提や背景が共有されていない状態という意味です。反対の言葉であるハイコンテクストは前提や背景などの共通認識が強いという意味です。
これまで日本企業は新卒で一斉に入社し終身雇用で転職も珍しく、会社や部門の考え方をみんなが共有している究極のハイコンテクスト社会であり、あまり細かいことを聞かずとも仕事を進めることができてきたわけです。しかし今では企業の統廃合やグローバル化、人材流動化などが進み、ますますローコンテクスト化が進んでいます。するときちんと相手の考えを聞きださないと仕事そのものが進められなくなってくるわけです。
2.の売れない時代は、皆さんご存じのとおり、現在の日本や先進国の顧客ニーズは、情報、モノ、コト、そのすべてがほぼ掘りつくされていて、商品・サービス自体の優位性をアピールするのはとても難しくなってきています。
そこで重要になるのが「聞く力」です。アメリカのリサーチ会社であるコーポレート・エグゼクティブ・ボード社が6000人の購買担当者を調査したところ、半数以上が「営業担当者がどれだけ自社を理解しているか」が購入の決め手になると回答していたのです。商品・サービス、ブランド、価格という要素を大きく引き離しています。聞く力はモノが売れにくい時代に大きな決め手になりうるのです。
聞くモードにスイッチを入れよう
では、どうしたら聞く力が上がるのかを考えてみましょう。そのためには、まずは人の話を聞く際に、自分がどのようなモードになっているか気づく必要があります。4つの聞くモードをご紹介します。
1.ライトリスニングモード
これは聞き流しているモードです。表面上は聞いているふうを装っていても、違うことを考えていたりして話の内容をはっきりととらえていません。自分が話すほうにばかり気を取られている場合はこのモードになりがちです。
2.シニカルリスニングモード
シニカルとは皮肉な、とかねじ曲げたという意味です。聞く前から相手の話を「きっとこうに違いない」と先入観を持っていたり、「この話には賛成できないな」など思い込みや偏見を持って聞いているモードです。
3.セレクティブリスニングモード
セレクティブとは選ぶという意味です。自分にとって都合の良いところだけを選んで聞いているモードです。よく「それわかる〜!」と調子よくいう人がいますが、もしかしたら都合の良いところだけを聞いてわかっている気になっているかもしれません。
4.マインドフルリスニングモード
マインドフルネスは「今、ここ」に意識を向けることですが、マインドフルリスニングは同様に目の前の相手に興味を持ち、相手の言葉や感情にフォーカスして聞くモードです。自分の注意のすべてを、相手が話していることに向けることによって、話の内容だけでなくて、相手の気持ちや意図、置かれた環境など、さまざまなことが伝わってきます。それにより深く相手のことを理解できるようになり、相手に対する共感が呼び起こされます。
実際にあるコンサルタントにこのモードのことを説明したところ、「コンサルは頭のよさそうなこと言わなきゃ、というプレッシャーが強いので、ついついライトリスニングになりがち。クライアントの話も落としどころを決めてるから、きっとこうだと最初から決めつけていたり、自分の提案に都合のいい情報ばっかり聞いちゃうんだよね」と反省していました。うなずけると思われる方も多いでしょう。
4つを比べるとマインドフルリスニングがいちばんいいというのはおわかりかと思いますが、注意していただきたいのは、このモードは意識しないかぎりなかなかそうならないモードだという点です。
意識せずに聞いている場合には、ほかの3つのモードのどれかになっていることがほとんどです。まずは目の前の相手に集中して意識のスイッチを切り替える必要があります。聞き流していないか、決めつけていないか、選んでいないかをチェックし、意識を目の前の相手に集中させます。
事実と感情を聞き出す聞き方
話をきちんと理解するということは大きく2つの意味を持ちます。相手の情報を理解するということ、相手の感情を理解するということです。
まず情報を理解する際には、「空・雨・傘」を使って整理しながら聞きましょう。空・雨・傘はマッキンゼーというコンサルティング会社で使われている以下のようなフレームワークです。
空:事実や状況
雨:それに対する解釈
傘:結論や行動
相手の話をこの種類の情報に整理しながら聞いていきます。たとえば、「こうしようと思うんです(傘)」という結論だけを相手が言った場合には、「なぜそうお考えになったのですか?(雨の質問)」「具体的にはどのようなことがあったのですか?(空の質問)」など足りていない空・雨を補うような質問をしていくのです。
また、事実だけを話す人に対しては、「それについてどう考えますか?(雨の質問)」「どのような対策を考えていますか?(傘の質問)」など、その人の考えや行動を聞くことでより話の理解度が深まっていきます。さらには「山田部長もそうお考えですか?」などほかの人の解釈を聞くことで多面的な情報を得ることもできます。
頭の中だけで考えるのは難しいので、ノートやメモを空・雨・傘と区切っておくと足りない情報が見えやすくなります。もしくはメモをとった後に赤・青などのカラーボールペンで色をつけてもよいでしょう。単に漠然としっかり聞こうと思うだけでは、何を聞き漏らしているかが把握できないので、事実・解釈・結論の3点を意識しながら聞くことで、質問もしやすくなってきます。
次に感情を把握するやり方ですが、情報を聞き出すのは聴覚に頼るのに対し、感情は主に視覚から得られる情報を意識します。話している人の表情や視線、身振り、声のトーンなどにフォーカスします。興味があるのかないのか、よく思っているのかどうか、問題意識の強さなどは非言語メッセージのほうによく表れてきます。ついメモをとったり、パソコン操作などに意識が向きすぎてしまうと、重要な非言語メッセージを見落としがちです。時にはペンを置き、相手をしっかりと見るようにしてください。
そして、相手の感情が理解できたと思ったら、それを言葉にして確認しましょう。たとえば「この点に危機感をお持ちなのですね」「とても煩わしいと感じていらっしゃるのですね」「すごく心配されているんですね」という具合です。この感情の聞き取りができると相手から「この人はしっかりと受け止めてくれた」と認識され、信頼感が高まります。
自分の話を価値判断を加えることなく、ありのままに聞いてくれたと思えると、安心したいという欲求や、承認欲求なども満たされます。相手の話をきちんと聞き、受け止めることは人間関係全般をよくすることにつながります。自分が思っている以上に、相手の話に注意を向けているかどうかは相手には伝わっています。上の空になりがちな自分の気持ちを、目の前の相手に集中させてみましょう。
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提供元:他人の話に「上の空」になる自分を変える方法|東洋経済オンライン