2018.08.22
仕事を増やす「6つのモンスター」を倒す方法|「効率化」より「前提破壊」するのが先だ
仕事の効率を上げるのではなく簡素化すべきことを見直してみよう(写真:kou / PIXTA)
「働き方改革」「生産性向上」と言いながら、そもそもやらなくていいこと、やるべきではないことをやっていませんか? 自分や組織の中での「当たり前」を見直すことが、結果、働き方改革につながります。
では、その「当たり前」に気づくには?『「残業だらけ職場」の劇的改善術』の著書もある清水久三子氏が語ります。
「残業だらけ職場」の劇的改善術 ※外部サイトに遷移します
仕事は放っておくと「増殖」する
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「仕事を減らしたいけど、どうしたらいいかわからない」--。私はさまざまな企業で講演や研修の機会をいただきますが、実に多くの方がこうおっしゃいます。
働き方改革が始まってから1年以上経ちますが、劇的に楽になったという成果を聞くことはまれです。なぜか――。それは多くの働き方改革が、仕事の効率を上げることで何とかしようとしているからです。
大前提として、仕事は放っておくと増えていくことを意識すべきです。企業は成長するため、売り上げや利益を上げるために、新たな価値を生み出したり、創意工夫の活動をします。さらにコンプライアンス対策、ガバナンス対策、セキュリティ対策……など、社会からの要請に応える仕事、管理の仕事も増える一方です。つまり「普通にしているだけで、仕事は増え続ける」のです。
そこを意識すると、仕事の処理スピードをあげる効率化では、焼け石に水であることがわかるようになります。まずやるべきは、意図的に「仕事の総量をコントロールする(減らす)こと」なのです。
とはいえ、時が経つにつれ、その当時は当たり前であったことが現状にそぐわなくなってきたり、必然性がなくなってくることもあります。顧客や社会のニーズが変わってきたりという環境変化が要因であることもあれば、テクノロジーの変化によって今まではできなくて当たり前であったことができるようになることもあります。
前提には種類があると認識する
そこでおすすめなのが、自分や組織の中で当たり前、つまり前提になっていることを洗い出し、それを疑うことでその作業自体をやめたり、もっと効率のいいやり方に変えていくことです。これは「アサンプション(前提)・スマッシング(破壊)」というやり方です。革新的なアイディアを出す手法としても有名ですが、いまやっていることを疑い、やめるきっかけを探すことにも有効です。
やり方として当たり前化している前提を出すのですが、一口に前提と言っても図のようにさまざまなものがあります。どのようなものか見てみましょう。
自分の思い込み
まずは自分自身が「これをやらなくてはいけない」と思い込んでいることがないかどうかです。簡単な打ち合わせなのに資料に凝りすぎているなど、必要のない「過剰品質」は個々人の思い込みから生まれることが少なくありません。そこまでやる必要あるかな、ということを洗い出してみましょう。
うわさ・伝聞
「誰かが言っていた」「こうしないといけないらしい」――不確かなうわさや伝聞が知らないうちに前提になっていることもあります。「これって誰が言ってたんでしたっけ?」など周囲の人に確認してみて、問題がなければやめてしまうリストに入れましょう。
人(特に上層部)の意見
うわさ・伝聞よりも強いのが、特定の人が言ったこと、特に上層部の意見です。一見これは崩せない前提のように思われがちですが、よくよく聞いてみるとある時点で上層部があまり状況を把握せずに発言したことが、曲解して広まっていたり、周囲の人が忖度してしまっていることも。「しっかりと方針を理解したいので考えを聞かせてほしい」とお願いしたうえで状況を説明すれば「それはやる必要がない」と納得してもらえることもあります。
(古い)業務ルール・社内カルチャー
業務ルールは必要性があって作られていくものですし、その時点では効果的でしょう。しかし、環境変化とともに必然性がなくなってくるルールもそのまま残っていることも。
見直すことで時間が半分に減った事例も
私が以前コンサルティングをした営業部門では、顧客に提案書を提出する際に、何と20人の社内承認を得ないと提出できないというルールになっていました。見積もり承認だけで3人、技術承認では4人、法務で2人など複数の承認者の印鑑をもらう必要があったわけです。これでは顧客に対してタイムリーな提案ができるはずがありません。調べてみると実際にはほとんど内容を確認せずに印鑑を押している人がいたり、せいぜい2人が見れば十分だ、などがわかり3分の1に減らすことで提案にかかる時間が半分以下になりました。
過去に事故や失敗があると承認プロセスを増やし、チェック機能を増やしますが、意識を徹底することで必要がなくなっていることもたくさんあります。年に1度など定期的にプロセスやチェック機能を減らす視点で見てみましょう。
業界商習慣
商習慣などは業界全体で浸透していることもあり、1社だけやめるのはハードルが高いこともありますね。しかしいまでは顧客の側も疑問視している商習慣もたくさんあります。
たとえば、車で来店した顧客が帰る際、車が見えなくなるまでスタッフ全員で見送るサービスなどは本当に必要でしょうか? 顧客の中には道を確認してからゆっくり出発したかったり、見守られていると思うと焦ってしまって危ない方もいます。
また、季節ものの食品が大量に店舗に並んだ後、余ってしまって大量廃棄される……。これも「常に昨年比増!」という前提があるからかもしれません。
この前提に挑んだ店があります。兵庫県のスーパーが「もうやめにしよう。成長しなきゃ企業じゃない。けど何か最近違和感を感じます」という広告を出し、恵方巻きを昨年実績で作ったのです。結果的に消費者から苦情はなく、むしろ支持する内容の電話やメールが相次いだそうです。人口減の時代、増やし続けるという前提を見直す時がきているのではないでしょうか。
兵庫県のスーパーに関する記事 ※外部サイトに遷移します
法制度
最も覆しにくいものですが、法制度にどう従うべきなのかはいろいろ考えるべきところでしょう。マイナンバー制度が導入され、私は20社近くからマイナンバーの提示を求められましたが、会社によって処理の仕方には相当の違いがありました。専門業者を介してゆうパックや書留、一般的な封書での郵送などさまざまでした。
前提だと考えられているものは下に行けば行くほど、覆しにくいものではありますが、その分やめたときの削減効果も大きくなります。安易に当たり前の前提としてとらえずに、やめるべきこと、簡素化すべきことを考えてみるとよいでしょう。
5W1Hで前提を洗い出してみる
何が前提条件となっているかを考えるのは実は難しい、とお気づきの方も多いと思います。自分や周囲も「これが当たり前だ」と思っているからです。そんな時は5W1Hで前提条件をまずはあげてみましょう。
私は人材育成部門に育児休業明けに復職した際にはタイミングが悪く、リーマンショックの直後で部門メンバーが半数以下になっており、小さなお子さんがいたり介護をしていたり、メンタル疾患を抱えていて働く時間に制約のある方がほとんどという状況でした。
これでは以前のような仕事をするのは無理があるということで、まず前提を変えられないか、研修に関する前提を5W1Hで洗い出してみました。
■Why(目的)の前提
研修とはスキル移転の場である
■What(内容)の前提
コンテンツは確立されたものを使う
■Who(人)の前提
講師と受講生がいる
■When(時間)の前提
日中もしくは業務終了後に行う
eラーニングは時間に縛られずに受けられる
■Where(場所)の前提
教室に集合する
eラーニングは場所に限定されない
■How Many(人数)の前提
人数は20〜30人程度
■How Much(お金の前提)
1講座数十万円
こんな感じで当たり前化している前提を洗い出していくと、「これは変えてもいいんじゃないか?」という意見が出てくるようになったのです。たとえば、「いつでもどこでも受講できるからeラーニングはいい」と考えられがちですが、いつでもどこでも受講できると思っているから受講率が上がらないのでは?という仮説が浮かび、受講できる時間帯だけ制限したところ、それまでよりも格段に受講率が上がったということもありました。これによって何度も受講者に受講促進の案内をするという業務が減らせました。
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20~30人のクラスを多数開催することは、スタッフや講師にとってかなりの時間と負荷がかかります。この前提を覆すことはテクノロジーでできそうですね。実際に当時は「セカンドライフ」と呼ばれる仮想空間で世界中の人たちと研修イベントを開催する試験的な試みをしましたが、操作性や英語のコミュニケーションの問題などの理由で定着には至りませんでした。その後は別のテクノロジーを活用して数百人が同時に受講できるよう実施回数を減らすことでスタッフの負担を軽くすることもできました。
VRの進展によっては、今後さらに楽に、安価に多数の人の学びの機会が簡単に提供できるようになるかもしれません。テクノロジーの進展は、できなくて当たり前と思われていることを簡単にできるようにする可能性を秘めています。
増え続ける仕事を前に、高速処理だけで働き方改革に取り組むのは無理があります。自分や組織の中の当たり前に気づき、それをやめたり、ほかのやり方で変えていく。働き方を本気で変えたいのであれば、今の当たり前を疑うところから始めてみませんか?
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提供元:仕事を増やす「6つのモンスター」を倒す方法|東洋経済オンライン