2018.08.15
成功する人は「失敗はノウハウ」と考えている|「どうしたらやれるか」よりずっと重要なこと
失敗は最高のノウハウです(写真:shironosov/iStock)
ビジネスでトラブルが発生したり、難題が持ち上がったりすると、人は「問題を解決する」方法を考えるものです。しかし、イベントのプロデュース、コミュニティ作り、カフェの運営など、いくつもプロジェクトを実現させてきた水代優氏(著書に『スモール・スタート あえて小さく始めよう』がある)は、「『どうしたらできるか……』と根詰めて考え始めてしまったら、そのプロジェクトはうまくいかない」と言います。
『スモール・スタート あえて小さく始めよう』 ※外部サイトに遷移します
失敗・イズ・ノウハウ
まず僕は、「失敗はノウハウ」――そのように本気で思っています。
うまくいかないことがあったら、「なるほど、こうするとうまくいかないんだな」と、頭の中の“うまくいかないリスト”に書き加えます。それは、次に何かをするときに頼れる参考書になるからです。
たとえばあなたがレストランの支配人だったとします。何冊も料理本を読み込んでいるけれどキッチンに立ったことのない人と、洋食店の厨房に毎日立ち続けてきた人がいたとして、どちらをシェフに採用しますか。
後者だと思います。なぜなら、毎日料理をしてきた人には、本を読んできただけの人が持っていない、数え切れないほどのノウハウがあるからです。
では、何冊も料理本を読んだ人と、厨房に立ち続けてきた人とでは、どちらが料理での失敗をしてきたでしょうか。もちろん、この答えも後者です。
もしも僕が外科医や裁判官なら、こんな悠長なことは言っていられませんが、一般のビジネスにおいては、失敗は最高のノウハウだと思うのです。
「失敗をしたくないから、勉強して知識を仕入れて、練習もしっかりしてから本番に臨みたい」という人もいるでしょう。でも、やってみないとわからないこと、失敗してみないとわからないことはたくさんあります。
どんなことでもそうです。たとえば、お店のキッチンに置く棚を買うとします。たいていの人は、キッチンの空きスペースをメジャーで測り、そこに置けるサイズの棚を選ぶでしょう。「せっかく買ったのに置けなかった」という失敗をしたくないからです。
ただ、その棚の一段分の高さまでは気にしない人が多いのではないかと思います。でも、もしもそこに飲料の入った瓶を置きたいなら、高さは47.5センチ以上確保できないとダメです。なぜかというと、業務用の飲料の瓶には、高さが47センチのものが意外とあるからです。つまり、棚一段分には47.5センチくらいの高さがないと、瓶を置きにくいし、取り出しにくいのです。
「瓶には47センチの高さのものもある」ということは、飲料の瓶を扱う仕事をしている人にとっては当たり前の情報なのかもしれません。でも、キッチンのインテリアの本にも、飲食店経営のノウハウの本にも書いてありません。
きっと飲食店経営の本を書く人もこのことは知っているけれど、本に書かなくてはいけないことはほかにもっとあるので、棚の高さのことまでは手が回らないのでしょう。
僕がこれを知っているのは、せっかくつくった棚に、瓶を入れることができなかったという経験をしているからです。「悔しい! あとちょっとだけ高さが足りない!」という失敗を、自分のノウハウにしているのです。
本を読んでいるだけでは、ノウハウは吸収しきれません。逆に、やってみて、失敗してみて、身にしみることはたくさんあります。
僕の実感として、そうやって体当たりでノウハウを身につけている人のことを、周囲は「失敗ばかりしている人」とは思いません。「リスクを把握している人」「ノウハウのある人」という目で見てくれるのです。
会社でも、新規プロジェクトのリーダーを任される人は、ほかのプロジェクトのメンバーとしての経験がある人でしょう。プロジェクト未経験の人がいきなりリーダーに抜擢されることはほとんどないはずです。
やはり、経験はないよりあったほうがいい。何かを始め、失敗しながらも続けることは、次のチャレンジへのノウハウを蓄積することでもあるのです。
スタート地点に立ち返ってみる
×「どうしたらできるか」 ○「どうしてこれをやろうと思ったか」
やったことのないことをやってみるときも、やってみて壁にぶち当たったときも、僕は「どうしたらできるか」とは考えないようにしています。それを考えるのは、「できなかったらどうしよう」という恐怖を生むし、「できないかもしれないことをやるなんて……」とつらくもなるからです。
僕の場合、もしも「できなさそう」と立ち止まりそうになったら、「どうしたらできるか」という打開策を探るのではなく「どうしてこれをやろうと思ったのか」というスタート地点に立ち返ることにしています。
僕もたとえば、丸の内でいくつか連続でイベントを開催していたとき集客に悩み、「どうやったらお客さんが来てくれるか?」ばかりを考えていたことがあります。50人が入るスペースに講演者の知り合いが5人だけ……という状況もありました。でもそこで、そもそもそのイベントをやろうと思ったときの「コミュニティが会社内で完結しやすい街だからこそ、新しい仲間を作って喜んでもらおう」という原点に立ち返ると、いろいろな試行錯誤を自然と、前向きに取り組めるようになります。このときも、メルマガへの登録方法をオンラインだけにしていたのを、現場でメールアドレスを書いてもらうようにして仲間を増やしていくなど、あらゆることを試し、最終的には年間110本のイベントがほとんど満席で埋まり、半分以上はキャンセル待ちまでいきました。
葉山にある海の家を運営していたときも同じです。企画するあらゆることがさまざまなところから反対されるし、経済的にもしんどい……というときに、「仲間たちやみんなに、どうしても夕日と富士山を見せたい」に立ち返れば、つらい状況も乗り越えられました。当初は1500人くらいだったお客さんも、ラストシーズンは海外からもたくさん人が来てくれて、2万人以上を呼ぶことができました。
やると決めたときの気持ちを取り戻す
この考え方は、あらゆるケースに応用できます。たとえば、手作り市に出店するときに、「どうしたら売れ残らないようにできるか……」と不安になって考え込むのではなく、「どうして手作り市にお店を出そうと思ったのか」。
楽しそうだと思ったから。自分の好きなものを広めたいと思ったから。ありがとうと言ってほしかったから。週末のイベントとして適切だと思ったから。1度くらいやってみたいと思ったから。ニーズがあると思ったから――。
スタート地点まで戻ってみると、「だったら、やろう」という気持ちが再び持てます。そうすると「どうしたらできるか」などとは考えなくなります。
「どうして手作り市にお店を出そうと思ったのか」という疑問は、「どうして社内でこんな活動をしようと思ったのか」に置き換えることもできます。すると「それが本当に必要で、みんなに喜んでもらえると確信したから」なのか「なんとなくうまいことやって注目されて、評価も得られればラッキー」だったのか、はっきりするはずです。
そのさらに先で、「好きなものを広めたいのならお店にこだわることはない」「周囲の役に立ちたいのなら、ほかの選択肢もある」といったことにも気がつくことができるかもしれません。
もちろんその後には、やるための方法を探ることになります。でも、下を向いて「どうしたらできるか……」と苦しみながら考えたり、思考停止に陥るようなことにはならず、「やると決めたのだから、あとはやるだけ」という、やって当たり前、できて当たり前という気持ちになれます。この気持ちが、次の行動を大きく左右します。
一生懸命になればなるほど、まじめであればあるほど、「どうしたらできるか」と考えてしまいがちです。でも、「やってみたい」と思ったことは、「やらなくてはならない」ことではありません。国民としての義務でも、生活のためにどうしてもやめられないものでもない。
はっきり言ってしまえば、しなくてもいいことです。でも、それをやろうと決めていたのは自分のはずです。だから、問題が発生して、立ち止まってしまいそうになったときには、やると決めたときの気持ちを取り戻すことがいちばんいいと思います。
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