2018.02.05
優秀な人が陥りやすい「無意識の忖度」の罠│境界条件を外せば「必ずできる」に近づく
優秀な人は上司や先輩の感情を忖度できるから、「やらないほうがいい」という境界条件を設けてしまいがちだ(写真:sunabesyou / iStock)
組織の中で優秀と見なされている人ほど、自社の前例、上司や他部署の都合や気持ちを忖度できてしまうのではないか。しかし、大きな挑戦や難問に直面したとき、この忖度が目標達成や解決策につながる大胆な発想を妨げる罠になる。
最新刊『必ずできる。』で、マッキンゼーでの25年間にわたる経験で鍛え上げた論理的ポジティブ思考の方法として、ストレッチ、メイクイット、インサイト、デッサンの4つの思考法を伝授している著者が、無意識のうちにも陥りがちな「忖度の罠」から逃れる思考法を伝授する。
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大きな挑戦。高い目標。難しい問題。これらに直面したときは、メイクイット思考で境界条件、「できない理由」を外して考えることで、「できる」可能性が高まる。
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高い目標や難問を前にしたとき、組織の中で優秀と見なされている人ほど、自社の前例や慣習、さらに上司や他部署の都合を忖度し、その結果、次に挙げるような「できない理由」に縛られてしまう。
・資金が足りない、人材がいない、時間がない(からできない)
・前例がない、過去に否定された(からできない)
・他部署との軋轢が生じる、自部門のリスクになる(からできない)
「経費節減が命じられているから、おカネも人手も使えない」「社長がやらないと3年前に言っていたから(できない)」「この分野は隣の事業部の取り組みと重なることだから(邪魔になってはいけない)」……。
組織の中にはさまざまな境界条件が存在している。やっていいことと、いけないこと。やらなくてはならないことと、そうではないこと。これらが明示的にも暗示的にも存在し、1人ひとりにとって「できない理由」になっている。
「できない理由」を考えてはいけない
企業という組織では、前例を踏襲して上司から評価された人が昇進することが多いだろう。そうやって課長になったら、自分を評価してくれた部長には逆らいにくい。「部長の教えてくれたとおりのやり方」を踏襲し、守っていくのが、組織の中では「愛い奴(ういやつ)」なのだ。
もちろん、「これまでとは違う、新しいやり方をする!」という課長だっているだろう。そうした人物は、上司や先輩たちの目には「自分たちのやり方に挑戦する者」と映ることがある。上司や先輩たちにしてみれば、新しいやり方を主張されることは、ずっと守ってきたやり方、すなわち「自分の成功パターン」を否定されるようなものかもしれない。
優秀な人の多くが、そういう上司や先輩の気持ち、感情を忖度できるから、「やってはいけない」「やらないほうがいい」という境界条件を思考の段階でも設けてしまいがちなのだ。
歴史や伝統がある組織ほど境界条件は多いだろう。その中には大切なものもあるが、過去の遺産であり、現在では重要でなくなっているものや、「これを外すことで大きな成果が得られるなら外してもいい」というものも多く含まれている。
「社長がやらないと言っていた」というのも、実は無意識のうちに忖度していることで、高い数字を達成するためなら社長もやれと言うかもしれない。事業部間で競争してもかまわないかもしれない。それなのに最初から、「社長の意に背いてはいけない」「これはうちの事業部の範囲ではない」「隣の事業部の領域に踏み込んではいけない」と決めつけていることは多いのではないか。
日々同じことを繰り返すルーティンワークなどでは、境界条件を熟知し、踏襲することが大切だし、仕事の効率化にも役立つ。しかし、高い目標、難問、改革などに挑むときは、境界条件を忖度することが思考の足かせになる。
最初から「できない理由」を考えて忖度をしていたら大きな成長や改革につながる発想は生まれず、小さくまとまった予定調和の解決策しか出てこない。境界条件は、検討や企画の段階では無用のものだ。
不要な境界条件を外す3つのステップ
可能性を面白がる「メイクイット思考」では、意図的に、意識的に、境界条件を1つひとつ外すことによって、無意識の忖度の罠に陥ることを避けられる。
不要な境界条件をはっきりと見えるかたちで外していくには、次のステップを踏むとよい。
ステップ①すべての境界条件を書き出す
ツリーを使って、境界条件の種類を網羅的に書き出そう。
まずは法律・規制、コンプライアンス、倫理観など、組織を超えて共通する厳格なものから始めるとよい。次に自分たちの組織が大切にしていること、企業理念・価値観、ビジョン、事業領域などを書き出していく。たとえば「わが社は近隣環境にマイナス影響を与えかねない事業はしない」と言ったのはこの範疇に入るだろう。
そのあとに自社の中長期的な戦略や経営計画、経営資源、事業モデルといった項目が続く。さらに自社の規制・規定・制度、業務上の慣行、組織風土、長年のしきたりや不文律など、細かいものやソフトなものが続く。こうして項目をツリーで書き出したあとに、それぞれの項目の具体的な境界条件をリストアップしていく。
ステップ②できる限り境界条件を外す
次に、そのリストの1つひとつをできる限り外していく。創業以来の理念や長期ビジョンなど、守り続けるべき境界条件も当然あるだろう。しかし、冒頭でも挙げたような境界条件、「できない理由」は要注意であり、極力外すべきだ。
・「資金やコスト、人材、時間」といった経営資源面での境界条件
・「なぜこれがダメなのか」という理由があいまいな境界条件
・「前例がない、過去に否定された」といった理由に基づく境界条件
・「他部署との軋轢や自部門のリスク」というような組織内部の理屈による境界条件
こんな境界条件をそのままにしていたら、大きな成長や改革につながる発想は生まれず、小さくまとまった予定調和の解決策しか出てこない。こうした境界条件は、検討や企画の段階ではいったん横に置こう。
どうしても外すべきでない境界条件だけを残し、それを明示的に確認しておくことが重要である。どんなに思い切って外していっても、境界条件がなくなることはないだろう。自社の理念、全社的な戦略方向性などが残るかもしれない。それでも、書き出した境界条件の多くを消していければ、発想は広がってくる。
一番厄介なのは「無意識の境界条件」
ステップ③「無意識の境界条件」を外す
境界条件を外す際に一番厄介なのは、その存在を誰も意識していないにもかかわらず皆が従っているような「無意識の境界条件」である。過去に誰かが指示した、あるいは今まで誰もやっていないという理由で、組織や個人に染み込んでいるものだ。
無意識の境界条件は明確に言語化されていないため、なかなか書き出せないだろう。だが、ふとした瞬間に明らかになる「やってはいけない/やらなくてはいけない」という思い込みのうち、誰もその論拠を明確に答えられないし、自分自身も説明できないものがあったら、それこそ外すべき無意識の境界条件だ。
たとえば、あなたの会社で販売チャネルについて、「うちの会社の商品は、子会社である販社経由でしか売らないことになっている」という決まり(境界条件)があるとすれば、それを外して自由に考えてみる。
「どんな販売チャネルも使えるなら、社として初めての直販も、大手卸経由も、ネット販売も選択肢となるな」とアイデアを広げて、より高い目標の実現を目指すのだ。
頭の中で検討しているだけなのだから、リスクもないし反対意見も出ない。「あれもできる」「これもできる」と面白がりながら発想していこう。
「面白がりながら考え、発想を広げる」のは案外難しい
ところが「面白がりながら考え、発想を広げる」というのは、案外難しい。
「いきなり新しい取り組みを3つも同時に行なうのはリスクが高すぎる。1つに絞ろう」
「想定される投資や経費を考えたらインターネットだけを試すのが現実的だろう」
「直販を提案したら、営業本部長の猛反対に遭うのは見えているな」
境界条件が染み付いているゆえに、自分の頭の中でさえ、忖度をしてしまうのだ。
検討する段階で境界条件を忖度するというループにハマると、発想の新鮮さ、自由さ、広がりはたちまち消える。考えることを面白がるどころか、分析と否定に終始する「アラ探しの達人」に逆戻りしてしまう。
最後の意思決定は別のプロセスでやるべきことだし、場合によっては経営陣や上司など、別の人が判断すればいい場合もある。
境界条件を広げないと高い目標は達成できない。ニワトリとタマゴのような関係であり、理不尽なくらい高い目標を立てる(参考:前回記事「優秀でも『なぜかできない人』の目標の立て方」)と、境界条件も広げざるをえなくなる。これに伴い、発想も大きく広がってくるものだ。
前回記事「優秀でも『なぜかできない人』の目標の立て方」 ※外部サイトに遷移します
理不尽なまでに高い目的・目標を目指す「ストレッチ思考」と、必ずできると信じて面白がる「メイクイット思考」を組み合わせて考えることで、境界条件を外すトレーニングを続けていこう。
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提供元:優秀な人が陥りやすい「無意識の忖度」の罠│東洋経済オンライン