2017.12.27
「決断疲れ」を起こす人は「判断軸」を知らない│決められないのは「決め方」を知らないからだ
自分も周囲も納得のいく意思決定をするにはどうしたらいいのでしょうか(写真 : ふじよ / PIXTA)
人生は決断の連続。ビジネスでも日常でも何かを決めなくてはいけない場面はたくさんあります。選択肢がありすぎる、どの選択肢もイマイチ、とっさの判断ができない……といった理由で、決断に思いの外、労力や時間をかけてしまっている方も多いでしょう。
たくさんの可能性がある中で、自分も周囲も納得のいく意思決定ができるようになると、ぐっとラクになります。今回は、すっきりと決めるための意思決定のテクニックをご紹介します。
意思決定の種類を意識する
私はコンサルタントとして、多くの企業で重要な意思決定の支援をしてきました。大勢の関係者の合意を得ることは非常に難しいことでしたが、決めるためにどんなふうに考えて、絞り込んでいくのかという方法論をしっかりと学んだことは、自分のキャリアにとてもプラスになったと感じています。人生において重要な意思決定ほど、どう考えて決めたのかというプロセスの納得感が自信につながり、その選択がよい結果になるからです。
一方、人生や仕事を左右するような大きな意思決定だけではなく、日常の中にも小さな意思決定がたくさんあります。これらに時間がかかってしまうと、重要なことを実行する時間が削られたり、決断に時間がかかることで自分や周囲がストレスを感じることにもつながるでしょう。
しかし、「決め方」を教えてもらったことのある方は実はあまりいないのではないでしょうか? まず、意思決定の種類を知ることからはじめてみましょう。ここでは4つの意思決定の方法をご紹介します。
総合評価法は複数の選択肢の中から選ぶ、それも重要なことを決めるのに向いている方法です。端的な例で言えば買い物、それも何度も買うようなものではなく、車や家電、金融商品などでしょうか。仕事の例で言えば、提案コンペで1社に決める、業務委託業者を選定する、就職・転職先を決めるなど、選択肢は多くないものの、大いに迷うものをイメージしてください。
まずは評価軸を決めます。就職先であれば、給与、福利厚生、働きやすさ、将来性、自分のスキルとの適合度……など重視する評価軸と点数の基準を決めます。基準は100点満点としたり、5段階評価などが良いでしょう。
各評価軸の重み付けが重要だ
重要なのは各評価軸の重み付けです。評価軸全てが同等に重要であることは稀ですから、給与が最も重要ならば50%の重み付け、次は将来性に20%、働きやすさが10%……などと、重要度のウェイトを決めます。こうすると各選択肢を総合的に評価することができます。
評価軸とウェイトは、自分や組織が何を重要視するのかという意思でもあります。総合評価というとまるで客観的かつ正確な答えが出せると勘違いされやすいのですが、意思決定には文字通り、「意思(Will)=こうしたいという思い」が必要です。ここをしっかりと考えたかどうかが納得感につながります。
コンサルタントはこの総合評価が身に染み付いている人が多く、ある知人はベビーカーを購入する際に、かなり緻密な総合評価シートを作り込み、その後購入を考えている人たちに代々引き継がれていました。
もう1つ重要なことは、この評価を二次情報(加工されたデータ)だけに頼らないことです。私自身の手痛い経験なのですが、あるクライアント企業のデータセンターを選定する際に、総合評価法で検討をし、ほぼ決定という段階で視察に行ったところ、あるデータセンターは、物品が乱雑に置かれていたり、スタッフの勤務態度が悪かったりと、そもそも検討に値しなかったということがありました。視察や経験など、一次情報から得られることは意外に大きなものです。総合評価法を用いる際にはデータ偏重にならず、自分で足を運び実感を伴った意思決定にすることが大切です。
やるべきことの優先順位を決める時間管理マトリクス法
やることが多すぎて何から手をつけていいのかわからない……。そんな場合におすすめしたいのは、スティーブン・コビー氏の「7つの習慣」にある時間管理マトリクス。重要度と緊急度で4つの象限に振り分けていくこの方法、どこかで見聞きしたことがある方もいるでしょう。
私は働き方改革の講演やコンサルティングの仕事で、企業に呼ばれることが多いのですが、多くの方から、緊急の仕事に忙殺されて、やるべきことが後回しになっているという悩みをお聞きします。重要なのは、このマトリクスで、③の「緊急だけど重要ではない」カテゴリーに入った仕事をどう処理していくかを考えることです。そうしないと、せっかくこのマトリクスを使って分類しても、単に振り分けただけで、実際は緊急の仕事ばかりに追われ続ける……ということになりかねません。
緊急の仕事が多すぎる場合には、以下の改善を検討するとよいでしょう。
①あらかじめ予定する
「緊急仕事」と言いつつ、よくよく見ると特定の時期(役員会の終了後、期末など)に決まって発生するものや、ある程度予測できるものがあります。割り込みで発生する仕事は著しく生産性を落とすので、予定しておくことでできるだけ影響がないようにしておきます。
②組織ミッションから対応方針を決める
個人として重要度を判別することは難しい場合もあります。そのような場合にはその組織やチームのミッションから、何が優先順位が高い仕事なのかをあらかじめ決めた上で、いつまでにやるかという期限を交渉します。
③チェックリストで手戻りを未然に防ぐ
仕事を受ける際に確認不足であったために、急ぎで修正や追加になったりすることが多い場合。そんなときには、仕事の受け方を見直すことで、手戻りを防ぎましょう。チェックリストなどを作ることで対応します。
④リスク対応方針を決めておく
緊急会議がやたら多いという場合には、あらかじめリスクを洗い出して対応方針を決めておきましょう。緊急会議は大勢の人の時間を無駄にします。ある程度の対応方針が決まっていれば、何か起きた時にいちいち緊急招集することが減らせます。
状況に合わせて即断即決するための事前リスト法
臨機応変に、最適な判断を求められる場面。勧と経験に頼りがちですが、それではコンディションなどに左右されてしまいます。そんなときにものをいうのは、事前の準備です。
職場の歓送迎会の店選び、カラオケの選曲、服装選びなど軽めの意思決定から、クレーム対応など重めのものまでさまざまありますが、以下の特徴が共通しています。
・都度状況に合わせて決める必要がある
・選択肢が多い
・意思決定に時間をかけられない、もしくは時間をあまりかけたくない
まずは、状況を事前にタイプ分けしておきます。たとえば、店選びであれば、目的、人数、年齢、エリア、ジャンルなどでタイプを作り、お店をリストアップしておくのです。私は、コンサルタント時代によく会食の店選びの相談をされることが多かったのですが、エクセルでリストを作成してあったので、かなり早く回答することができました。その都度、Webで検索しても良いのですが、選択肢が多すぎて時間がかかってしまいます。
リスト化は一見面倒に思えますが、仮説検証も可能です。この店はウケがよかった、この店はXX向きとリストの精度が高まるので、より素早く決めることができるようになるわけです。もっと日常的な例でいくと、カラオケなどもいざその場になると相応しい選曲ができないことも多いもの。スマートフォンに状況別選曲リストを作っておけば、迷うことなく決められます。
最初はショートリストから始めても、次第にデータベース化されて、自分にも人にも役立てるのでおすすめです。
ここまで決め方をご紹介してきましたが、あまりにも決めることが多すぎると「意思決定疲れ」を起こしてしまいますので、意思決定の機会自体を減らすことも重要です。
皆さんもよくご存じのスティーブ・ジョブズ氏がいつも同じ服装だったり、イチロー選手がバッターボックスに入る前に決まった動きをする例に代表される「ルーティン化」がこれに当たります。ルーティン化は余計な意思決定を減らして、重要なことだけに意識を集中することを目的としています。
これも注意点を述べるとすれば、人によって何が余計な意思決定かは違うということです。ファッションが好きな人が毎日同じ服装をしてもモチベーションは下がっていきますし、毎回同じ手順で仕事をしようとした場合、もしかすると良い発想や改善ポイントを見逃すことになるかもしれません。
ルーティン化は、他の選択肢の可能性を捨てることを意味します。自分にとって重要なこと、集中すべきことが何かを理解していなければ、可能性を捨てることはできません。意思決定は何をすべきかを選ぶことと同時に、何をしないかを選ぶことでもあります。つまり、ルーティン化は意思決定を減らすのではなく、自分にとって本当に重要なことを決めた結果として、起こることなのではないでしょうか。よって、闇雲に人のルーティンを真似てみても思うような効果は得られないでしょう。
今は、情報過多の時代ですから、「あれもすべき、これもすべき」とすべきことが山のように目の前に積み上がっているように見えます。それをすべて鵜呑みにしていては、本当に自分が何をしたいのかがますます見えなくなってくるでしょう。「私のルーティンはこれだ」と胸を張って言えるように捨てる覚悟を持ちたいものです。
『一流の学び方: 知識&スキルを最速で身につけ稼ぎにつなげる大人の勉強法』 (クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)
最後は判断ではなく、決断
いろいろと意思決定のテクニックについて、ご紹介してきました。ここで敢えて言いますが、この方法を使えばいつでも正しい意思決定ができるということは絶対にありえません。正解のない予測不能な世界になった今、絶対的に正しい選択肢があるわけではないのです。
だからこそ言えるのは、過去の情報から判断をするという決め方ではなく、自分がこうしたい、こういう未来にしたいという「意思」が重要ということではないでしょうか。自分が納得のいく選択をしたという自信が行動につながり、その選択肢が正しいものに結果的になります。ご紹介した意思決定の方法が、皆様の次の一歩を踏み出すものになることを願っています。
【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します
提供元:「決断疲れ」を起こす人は「判断軸」を知らない│東洋経済オンライン