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2017.12.18

東大で人気化する「アイデア出し」授業の中身│「呪縛」から抜け出す5つの方法


アイデア発想の邪魔をする「悪い思い込み」とは?(写真: flyingv / PIXTA)

アイデア発想の邪魔をする「悪い思い込み」とは?(写真: flyingv / PIXTA)

ブレストや会議、アイデア出しの打ち合わせ。そんな場で発言できない人を多く見かけます。彼らは実は「アイデアの呪縛」にとらわれた間違った思い込みをしている。そう指摘するのは、博報堂のブランド・イノベーションデザイン局局長として数々の企業の問題解決に取り組み、東京大学の特任教授として東大生にアイデア法の授業を教える宮澤正憲氏。

テストの点がいい人ほど陥るアイデアの罠(わな)とは? 『東大教養学部「考える力」の教室』として書籍化もされた人気授業で、乃木坂46のメンバーも学んだといわれる思考メソッド。東大で実際に行われた授業をベースに紹介します。

『東大教養学部「考える力」の教室』 ※外部サイトに遷移します

アイデアは才能か

あなたはアイデアを考える必要に迫られていますか?

もしかすると、上司やクライアントから「ボツ!」「つまらない!」とダメ出しをされ、「アイデアの才能がない……」と落ち込んでいるかもしれません。

これまで「アイデアを考える力」とは、一部の才能ある人の特権とされてきました。いわゆる、アイデアマンと呼ばれる人です。彼らは経験上、暗黙知で新しいことを考える力があるので、周りからは、特別な才能があると見なされていました。

しかし、アイデアを考える力は、天賦の才能ではありません。「考える力」は誰でも訓練すれば向上が可能です。頭が固くて面白いネタを思いつけなかった人が、次々と斬新なアイデアを出せるようになる。そんな変化を、目の前で数多く見てきました。

筆者は、現在、特任教授として東京大学で授業を行っていますが、普段は広告会社でクライアントの問題解決に携わっています。日頃から、いかに独創的なアイデアを出すか、魅力的なコンセプトにたどり着くかを求められ、最前線で数多くの経験を積んできました。

コツをつかむだけで、自分でも思いもよらなかった「面白いアイデア」を思いつき、世界を変える発想ができます。ここではまず、アイデア発想の邪魔をする「悪い思い込み」について紹介しましょう。

【誤解1】アイデアをパクるのはダメ?

ブレスト(ブレーンストーミング)で黙ってしまう人を見かけます。これは強烈な固定観念に支配されているからです。

これまで学校教育を受けてきたほとんどの人は、「カンニングなんて絶対にダメでしょ」「人のアイデアをパクるなんて、恥ずかしいこと」と思い込んでいるのです。筆者が教える東京大学の生徒も例外ではありません。

そこで筆者は、授業のたびに、東大生にいつも伝えています。

「パクりは悪いことではない。(ブレストでは)カンニングもOK。授業では、まずそのルールを守ってください」

すると学生のマインドががらっと切り替わります。のびのびと自由な発想ができるようになっていくのです。

1つの例を紹介しましょう。

「『自然』という言葉から思い浮かぶ言葉をチームでたくさん書き出す」というお題を与えられたら、何が思い浮かびますか?

いろいろ考えるものの、30個ほど書き出したところで、ペンが止まってしまう……。そんな状況が想像されますね。そのとき隣にいるメンバーをちら見したら、「自然=たまたま、偶然」という意味で書き出していたらどうでしょう。

「ああ、『自然=ネーチャー』という意味だけでなく、その切り口があったな」

すると、あなたの出せる答えは広がるはずです。メンバーからどんどんもらっていい、与えていい――。そう頭を切り替えることができたら、自分のアイデアを出すことへの恐れが消えます。

とにかく量を出すことが大事

【誤解2】アイデアは「量より質?」

「千三つ(せんみつ)」という言葉をご存じですか。「1000のうち3つしか本当のことを言わない」というウソつきの意味もありますが、私たちは「1000個のアイデアを出せば、その中に3つくらいはよいアイデアがあるだろう」という意味でよく使います。割合にして、わずか0.3%……それほどまでによいアイデアが生まれる可能性は低いのです。

ですから、大事なのは「とにかく量を出すこと」。

10個や20個ならともかく、1000個出すとなれば、何でもアリのルールで挑まなければ達成できません。くだらないアイデア、OK。突飛なアイデア、OK。周りの人の協力を仰いでOK。アイデアの質にこだわらず、とにかく量を出します。私の今までの経験でいえば、10個や20個程度で面白いアイデアがでてくる可能性は高くありません。

量を出すのも、コツがあります。アイデアを考えるときの、「空気づくり」に、工夫をこらすのです。

たとえば、私は会議や打ち合わせではできるだけ「お菓子持ち込みOK! 食べながらのアイデア出し」を推奨しています。根を詰めて厳格に考えても、アイデアの量は増えていかないからです。「くだらなくてもいい、突飛でもいい、とにかくみんなでたくさんアイデアを出そう」というときには、ノリや盛り上がり、楽しさが大事になってきます。

大半の会社で、会議へのお菓子の持ち込みは禁止だと思います。深刻な情報を共有するための会議ならわかりますが、よいアイデアを出し合おうという場なら、お菓子の解禁が空気を和らげる効果を発揮するでしょう。同様に、「ネクタイを外して会議をする」「肩書ではなく、さん付けで呼び合う」といった工夫も、場のよい雰囲気をつくるうえで有効です。

言語化できない無意識領域は「宝の山」

【誤解3】「ニーズは直接相手に聞けばいい?」

新しいアイデアを生み出す過程で、「必要なものを相手に直接聞いてしまう」人は多いかもしれません。でも、相手に直接聞いたところで、つまらない答えしか返ってきません。なぜなら、本当によいものは、聞かれた本人も気づいていない「深層心理の部分」に眠っているからです。

ハーバード大学のジェラルド・ザルトマン博士は、無意識の重要性についてこんな言葉を残しています。

「人間は、自分自身の意識の5%しか認識していない。そして、残る95%のほうがわれわれの行動に関係している」

相手にニーズを直接聞いても、聞かれた本人は答えを持っていません。逆にいえば、言語化できない無意識領域は「宝の山」です。だからこそ、大事なのは「問い」です。

ビル・クリントン元大統領をはじめ、世界的投資家のジョージ・ソロス、俳優のアンソニー・ホプキンス、 テニスプレーヤーのアンドレ・アガシなどのコーチングを務めるアンソニー・ロビンズはこう言います。

「私たちが得る答えは、私たちが何を質問するかによって決まります。つまり、どれだけすばらしい答えを得る質問をするかどうかなのです」

また、テニスコーチの草分け的存在であるティモシー・ガルウェイは、「球をよく見ろ」と教える代わりに、こんな問いを投げかけました。

「ネットを越える瞬間、ボールの回転はどうなっている?」

この質問のおかげで、選手はまずボールを見ることのみに集中できるようになりました。さらに、実際に回転がどうなっているのか、自発的に練習に取り組むようになりました。

すばらしいたった1つの「問い」が、すばらしいアウトプットを引き出した典型例といえるでしょう。

【誤解4】課題に向き合えばアイデアはよくなる?

世間では、解決策のアイデアが平凡で、最終的なアウトプットが同質化した商品をよく見かけます。これは、明確なコンセプトを定めないままアイデア開発を進めた場合に起こりがちです。競合他社も同じ課題を持っており、解決アイデアも似たものになりがちだからです。

町おこしを例に考えてみましょう。課題に対して1対1解決を図ろうとすると、たとえばこうなります。

•その街ならではの土産がない → 土産となる饅頭を作る
•街のPRのための顔がない → シンボルキャラクターを導入する
•企業が集まらない → 税の優遇などをして企業誘致を行う

もちろん個々の活動は悪いことではありません。しかし、ほかの街も当然ながら似た取り組みをしてきます。その結果、全国どこに行っても似たような街が多くなっていることも事実で、「同質化の罠」に陥るのです。

では、このとき「あたらしいスタートが世界一生まれる町」というコンセプトを立てたらどうでしょうか?

同じ企業誘致でもスタートアップ企業に重点をおいた施策が可能です。土産はよりオリジナリティのある商品を生み出すことができます。シンボルとして新しいことを生むためのフューチャーセンターといった施設を設立するなども可能になります。

これは昨今、世界からも注目されている宮城県の女川町での実際のコンセプトと活動例です。コンセプトを明確にすると、アイデアがそれに従ってさらに大きく広がり、解決策アイデアは競合と同質化しづらいものになるのです。

一見関係なさそうな要素を組み合わせる

【誤解5】この世にない新しいアイデアを見つけたい!

「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」

聞いたことのある人も多いでしょうが、ジェームス・W・ヤング(1886〜1973)というアメリカの広告マンが書いた古典的名著『アイデアのつくり方』の中の有名な一節です。

アイデアを組み合わせるには、基となる知識が必要です。だから、知識量はあればあるほどいいのです。

ただし、単に知識があるだけではダメで、一見関係ないと思われる知識を組み合わせる力が必要です。アイデアマンと呼ばれる人たちは、「一見関係なさそうな要素を組み合わせる」という作業が自然とできてしまう人たちなのです。

では、「一見関係なさそうな要素を組み合わせる」という作業には、センスが必要なのでしょうか?

もちろんある程度センスに依存するところもありますが、ルールや仕組みをうまく設定すれば、誰でもできます。組み合わせる思考は、何度か経験していくうちに習慣化してくるからです。そのことを体験してもらうために、授業では「強制発想法」を使います。

「しりとり」を活用した強制発想法

その中の1つが、「しりとり」を活用した強制発想法。たとえば、新しい自動車のアイデアを考えるとします。一方で、しりとりをしてみます。「自動車→シャワー→アヒル→ルビー→イカ……」などと適当に続けます。そのうえで、たとえば「自動車×アヒル」で考えてみます。

「アヒルは水の中で泳ぐから……水陸両用の車なんてどうだろう」「アヒルは優雅に泳いでいるように見えるけど水面の下で足をバタバタさせているな……サスペンションのまわりに機能を集約して、目に見える部分はスッキリさせた車があったらどうかな」

などと考えてみるのです。自動車×シャワー、自動車×ルビー、自動車×イカ……ほかにもいろいろ考えられます。

自動車とこういった要素の組み合わせは、普段はなかなか考えつきません。けれども、しりとりという仕組みを使ってしまえば、簡単にできてしまいます。その偶然によって、今までに誰も思いつかなかったようなすばらしいアイデアが誕生する可能性があるのです。

「考える」と聞くとなんだか難しそうに聞こえます。

しかし、考えるとは、1人で決まったフレームを眉間にしわを寄せて、こねくりまわすことではありません。「新しいことを考える」という行為は、自由であり、仲間と楽しめるものなのです。楽しみながら、ぜひ新しい考え方自体を自由に考えてみてください。

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提供元:東大で人気化する「アイデア出し」授業の中身│東洋経済オンライン

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