2024.08.07
自己流だと危険?痛みを防ぐ「宅トレ」のやり方|「短時間で高い効果」は夢物語、一歩ずつが肝要
自宅でトレーニングする「宅トレ」で身体の痛みが出てしまったらどうすればいいのか、専門家にインタビューした(写真:Mills / PIXTA)
体力低下や体重増加など、運動不足に悩む人々の間で定着した「宅トレ」。YouTube動画などを見ながら行う自宅でのトレーニングは手軽さが魅力ではあるものの、自己流で体を動かし続けた結果、思うように効果が出ないどころか背中や腰、膝が痛くなったという人も多い。
そこで、ケガをした人に対して治療を行う柔道整復師の国家資格を持ち、スポーツ医療が専門の環太平洋大学健康科学科 副学科長の小玉京士朗氏に、効果的な宅トレのやり方と注意点を聞いた。
(編注:本記事で言及されている痛みとその原因はあくまで一例であり、身体の違和感が続く場合は医療機関の受診をお勧めする)
まずはストレッチ「3週間継続」が肝
「10分で痩せる!」「1日5分ダイエット」「おうちで簡単トレーニング」……YouTubeなど動画サイトには目を引く謳い文句が並ぶ。忙しい毎日のなかで運動不足を解消しようと考えたら、早く効果を得られるエクササイズを選びがちだが「短時間で効果を出す運動は注意が必要だ」と小玉京士朗氏は警鐘を鳴らす。
「1日5分、1週間ダイエットなどといった短期間で効果を得るための運動は、強度が高い内容のものが多いのです。当たり前ですが強度が弱い運動で効果を出すには、ある程度の長い期間が必要だからです」
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例えば強度が強いものとして「HIIT」(ヒート)と呼ばれるトレーニングがある。動画サイトで目にしたことがある人も多いだろう。
これは、「High Intensity Interval Training」(高強度インターバルトレーニング)、つまり負荷の高い運動と休憩を繰り返すもの。
「HIITは、短時間で高強度の運動により心肺機能の向上を目指すトレーニング法なので、運動習慣がない初心者がやるにはきつすぎることがあります。もちろん、初心者用の導入編もありますが、短時間で何かしらの身体的効果を得ようとし、何年も運動をしていない人が急に強度が高いトレーニングを始めると、ケガのリスクを高めます。
学生時代にスポーツをしていた人、週に2回身体を動かしている人、週に4回身体を動かしている人、毎日ランニングを欠かさない人、毎日ストレッチを続けている人などそれぞれに、どの程度の負荷が適しているかは異なります。自分の身体の状態を見極めてからトレーニングを開始することが必要です」(小玉氏、以下の発言すべて同様)
小玉京士朗(こだま・けいじろう)/環太平洋大学 体育学部 健康科学科 副学科長、准教授、博士(健康科学)。柔道整復師、(公財)日本パラスポーツトレーナー。医療技術系高等教育機関や専門教育機関で研究教育、都内の整形外科クリニックにてリハビリテーション科科長を歴任。小児や高齢者、障がい者、トップアスリートと幅広い対象層の外傷・障害に対するリハビリテーション、発生予防に携わる。2014年より岡山県の環太平洋大学に着任。2015・16年岡山県国体スタッフ(サッカー)、2015年~シッティングバレーボール男子日本代表チームのメディカルスタッフとして国際大会に帯同、医学的観点から県内のパラスポーツの普及・推進活動に従事している(写真は本人提供)
何年も運動をしていない人は、まずストレッチから始めたい。硬くなっている筋肉や関節を軟らかくするために、小玉氏がまず勧めるのが「ラジオ体操」だ。
「ラジオ体操は、真剣にやると意外とキツかったと話す患者さんもいます。若い頃ほど肩が上がらないなど気づきもあるかもしれません。人間の身体はそれほどすぐに変わりません。3週間ほど毎日ラジオ体操を続け、全身の筋肉や関節がなめらかに動くことを実感したら次にウォーキングを追加してみる。
ウォーキングもいきなり早歩き1万歩ではなく、ゆっくり5000歩程度から始めるのがいいでしょう。例として歩数を挙げましたが、人によって歩幅も異なりますし、歩数に意識が行きがちになるため、時間を目安にするのもおすすめです。
初めは15~20分程度の持続的な運動として取り組みます。その後、運動時間を30分、40分、50分と伸ばしていくのもいいですし、時間は変更せずに歩く速度を日頃の速さから早歩き、ランニングと徐々に負荷を上げていく方法も1つです。負荷を上げるタイミングは、継続した取り組みを行って3~4週間程度を目安にします」
運動をやめるべき「身体のサイン」
「YouTube動画を見ながらダンスエクササイズをしていたら背中が痛くなった」「速い速度でのウォーキングを朝の日課にしているが最近、膝が痛い」といったように、運動を続けていたら痛みが出てくることがある。
小玉氏はこういった痛みに対し「運動を続けていくと気がつかないうちにやりすぎてしまっていることが多いので、いったん休むことが大前提」としつつ、痛みとの向き合い方を次のように説明する。
「運動時に関節に違和感を生じた場合は、運動を続けるとより痛みが出る可能性があるので運動は控えたほうがいいです。関節以外の痛みでは筋肉による痛みが多いので、回復するまでの間も、ストレッチなど負荷を下げたトレーニングを続けてもいいでしょう。ウォーキングを続けたい場合は、運動時間を短くする、歩く速度を遅くするなど痛みが出ない負荷を確認することが重要。
運動を継続していく中で2〜3日経っても痛みが引くどころか強くなったり、しびれが出てきたりした場合は運動を中止し、医療機関で診てもらうことを勧めます。ほかにも、痛みに加えて腫れてきた、熱を持ち始めた、体重がかけられなくなったなどの症状も注意が必要です」
加えて関節は、引っかかり感やつまり感などの違和感が出たらトレーニングはいったんやめるべき、と話す。
「引っかかり感やつまり感というのは、膝や足首、股関節を曲げるときの曲がりにくさや動きの悪さといった違和感です。関節がきれいに動いていない状態でトレーニングを続けると悪いフォームでクセ付けされてしまい、関節を痛めることにつながってしまいます」
運動を続けるために「やり方を変える」ことも大切
痛みがあるけれど大好きなダンスを続けたい、健康診断で運動不足だと言われたから膝が痛くてもトレーニングを続けなければ、という人もいるだろう。こういった場合でも、トレーニングを継続する方法はあるのだろうか。
「膝に体重がかかることによって引き起こされる痛みの場合は、体重がかかる量を減らせばいい。例えば、ウォーキングではなく自転車を漕ぐ、あるいはフィットネスバイクを使った運動に切り替える。健康増進が目的なら、膝に負担がかからないプールでのトレーニングも効果的です。
膝が痛い場合は、フィットネスバイクを検討してみては(写真:kou / PIXTA)
ダンスの場合は、痛みが出るのがいつなのかによって対応できる場合もあります。もし2時間やると痛みが出るといった場合はやりすぎなので時間を半分にする。残りの1時間は、ダンスに必要な動きのなかで痛みが出ない部分の筋力アップトレーニングなどに切り替えるといいでしょう」
10〜20代の若い頃にスポーツをやっていた人は当時の記憶があるので、ついやりすぎることがある。10年以上ブランクがある人こそ、まずはストレッチをしながら自分の今の身体の状態を観察することから始めたい。
健康増進のためのトレーニングで身体を痛めたら本末転倒。ケガのリスクを減らしトレーニングや好きな運動を続けるには、やりすぎに注意してムリをしないことが肝要だ。
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提供元:自己流だと危険?痛みを防ぐ「宅トレ」のやり方|東洋経済オンライン