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2024.05.21

「16時間断食のデメリット」無理なく克服する方法|脂肪のほかに「燃やされてしまうもの」を補う


せっかくの「断食」が裏目に出ないよう注意すべき点があるという(写真:takeuchi masato/PIXTA)

せっかくの「断食」が裏目に出ないよう注意すべき点があるという(写真:takeuchi masato/PIXTA)

1日のうち16時間は何も食べない、あとは自由に飲み食いしていいという 「16時間断食」のブームが続いています。生活習慣病の専門医であり、ブームの火付け役としても知られる青木厚氏曰く「誰でも簡単に実践できるうえ、がんや認知症、生活習慣病の予防にも役立つ」という「16時間断食」。そのメカニズムとはいったいどんなものなのでしょう? またデメリットはないのでしょうか?

日進月歩で研究が進む「空腹」や「断食」に関する最新の知見を、青木氏の著書『新版「空腹」こそ最強のクスリ』より一部抜粋・再構成して解説します。

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空腹や断食に関する研究は日進月歩で進化している

「16時間断食」は、オートファジー研究をもとに生み出された食事法です。「オートファジー」は、古くなった細胞が新しく生まれ変わるという体の仕組みです。2016年に東京工業大学の大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、にわかに注目を浴びました。

近年、「空腹」に関する世界の認識は急速に深まりつつあり、オートファジー研究をはじめ、新しい研究成果が続々と発表されています。

次々に発表される論文のなかでも『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(NEJM)』に掲載された、「空腹」に関する論文は大変話題になりました。『NEJM』は世界で最も権威ある週刊総合医学雑誌のひとつです。

この論文は「『間欠的な断食』によりメタボリックスイッチが入る」と述べていました。「間欠的な断食」とは「数時間の食べない時間を作ること」ということなので、「16時間断食」もこれに当てはまります。

「メタボリックスイッチ」という言葉を初めて聞いたという人もいるだろうと思いますが、「16時間断食」を行ううえで、ぜひとも知っておいてほしい重要なポイントです。

「メタボリックスイッチが入る」というのはどういうことか。それは人間の体の代謝に関わってきます。

私たちが日々の食事で摂った糖質や脂質の一部は、

(1)分解されてブドウ糖になり、脳や筋肉、内臓などが働くためのエネルギー源として使われる。

(2)次に、エネルギーとして使われず余った分が、筋肉や肝臓に蓄えられる。

(3)それでもおさまりきらなかった分は中性脂肪になって脂肪細胞に蓄えられる。

そして、「16時間断食」を行っているあいだ、

(4)まず、肝臓や血液中のブドウ糖がエネルギー源として使われる。

(5)肝臓や血液中のブドウ糖を使い切ると、体は中性脂肪や筋肉のタンパク質をケトン体に変換してエネルギー源として使うようになる。

(1)と(2)から(4)のサイクルを「ブドウ糖代謝」といい、(3)から(5)のサイクルを「ケトン体代謝」といいます。

1日3食ではメタボリックスイッチは入らない

「メタボリックスイッチが入る」というのは、ブドウ糖代謝がケトン体代謝に切り替わり、中性脂肪や古くなった細胞内成分が分解されるようになることです。メタボリックスイッチが入ると、代謝、循環、神経、精神などにおいて、体にさまざまな良い変化があらわれます。

メタボリックスイッチが入る条件は、肝臓や血液中のブドウ糖がカラになってブドウ糖代謝ができなくなること。体が飢餓状態になると、メタボリックスイッチが入って、ケトン体代謝に切り替わります。

肝臓や血液中のブドウ糖を使い切るまで、最後にものを食べてから10~12時間ほど要します。つまり、メタボリックスイッチが入る条件は「空腹の時間」なのです。

メタボリックスイッチが入り、ケトン体代謝が行われると、中性脂肪やコレステロールといったメタボリックパラメーターが改善されます。

古くなった細胞内成分が分解されて、抗酸化作用が発揮され、活性酸素が減ります。傷ついた細胞のDNAが修復されて、さまざまな病気を遠ざけてくれるのです。

メタボリックスイッチが入ると、体が喜ぶことばかり。

・血液では、血糖、インスリン、総コレステロール、炎症マーカー、酸化ストレスマーカーが低下する。

・心臓では、心拍数が減少し、血圧が低下する。

・肝臓では、インスリン抵抗性が改善する。

・脂肪組織では、脂肪が減少する。体重が減る。

・脳では、副交感神経が優位になり、集中力の増加、認知機能が改善される。

・全身で炎症反応が減少し、皮膚のアンチエイジングや、アトピー性皮膚炎の改善などにつながる。

・同時に、腸内環境も改善される。

1日3食で常にお腹が満たされていると、体はブドウ糖代謝しか行わず、ケトン体代謝に切り替わるスキがないということになります。

細胞そのものが膨れ上がる、脂肪細胞の厄介な性質

ケトン体代謝で分解される中性脂肪は、脂肪細胞に蓄えられるのですが、この脂肪細胞が実に厄介な性質を持っています。

もちろん脂肪細胞は、私たちが生きていくうえで欠かせない働きをしています。エネルギーを貯蔵して体温を維持したり、善玉ホルモンや胆汁の原料になったり、各種ビタミンの吸収を助けたりします。

先ほど述べたように、エネルギーは、まず筋肉や肝臓に蓄えられます。しかし、貯蔵スペースに限りがあり、あまりたくさん蓄えることができません。

すると体は、筋肉や肝臓にも入りきらなかった余分なエネルギーを中性脂肪に変え、脂肪細胞に蓄えようとするのですが、ここで、脂肪細胞が厄介な性質を発揮します。

脂肪細胞は柔軟性が高く、中性脂肪を取り込んで、もとの数倍の大きさにまで膨れ上がることができるのです。これが、いわゆる「脂肪がつく」「脂肪が増える」という状態です。ほとんど無限に容量を増やすことができるのは、人体の中では脂肪細胞だけです。

そのうえ、先ほど述べたように、メタボリックスイッチが入って脂肪細胞に蓄えられた中性脂肪がエネルギー源として使われるようになるまでには時間がかかります。体が飢餓状態にならないと、ブドウ糖代謝からケトン体代謝に切り替わりません。

特に減量目的で「16時間断食」を行う場合は、脂肪細胞の性質を知ったうえで、メタボリックスイッチが入ることをイメージしてみてください。「空腹の時間」をやり過ごすためのモチベーションが高まるのではないでしょうか。

「オートファジー」の活性化で体が内側から蘇る

「16時間断食」の最大の効能は、最後にものを食べてから10~12時間ほどたつとメタボリックスイッチが入り、脂肪が分解されエネルギーとして使われるようになることです。そして、16時間を超え、細胞が飢餓状態や低酸素状態に陥ると、「オートファジー」の機能が活発に働き始めます。

メタボリックスイッチを入れるだけなら16時間も断食する必要ありません。けれども、私が16時間という時間にこだわるのは、オートファジーを活性化させたいから。それほどオートファジーがもたらす効果は大きいのです。

オートファジーとは、「細胞内の古くなったタンパク質が、新しく作り替えられる」というもの。オートファジーが活性化すると、体が、内側から若々しく蘇ります。

空腹の時間を作るだけで、メタボリックスイッチが入り、オートファジーが活性化します。でも、いきなり毎日16時間も食べない時間を作るのは難しいという人もいますよね。そんな人は、週に一度でもかまいません。

無理のない範囲から始めてみてください。空腹の時間を作ることで、食べすぎがもたらす害が取り除かれ、加齢や食生活によるダメージがリセットされるのが実感できると思います。

「16時間断食」にはメタボリックスイッチやオートファジーといった、もともと私たちの体に備わっている仕組みを利用して行う食事法ですが、もちろんデメリットもあります。それは、筋力が落ちてしまうこと。

外部(食べもの)からエネルギーが入ってこなくなると、体は、脂肪だけでなく、筋肉をも燃やしてエネルギーに変えようとするため、必要な筋肉も落ちてしまうのです。

筋力低下のデメリットは、簡単な筋トレでフォロー

筋肉量が減少すると基礎代謝量が減るので、かえって太りやすい体質になってしまいます。特に高齢者の方は、体を支えるのも難しくなってしまう可能性があり、非常に危険です。せっかく健康のために空腹の時間を作っても、これでは逆効果です。

だから、「16時間断食」を行う際には、必ず、簡単な筋トレを行ってください。

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ただ、「筋トレ」といっても、特別なことをする必要はありません。「階段を上り下りする」「腕立て伏せや腹筋、スクワットを、できる回数だけやる」といった生活の中でできる程度の運動で十分です。過度の運動は、かえって活性酸素を発生させる原因にもなります。

例えば、階段の上り下りも、日常生活の中でできる立派な有酸素運動です。体重60キロの人が20分程度、ゆっくりと階段の上り下りをすると、約100キロカロリー消費するといわれています。これは、体重60キロの人が12分程度、ジョギングを行った場合の消費カロリーに匹敵します。

実際、私も、日々この食事法と並行してトレーニングを行っていますが、その内容は「朝、腕立て伏せと腹筋をやり、しんどくなったらやめる」というものです。

空腹の時間を作るのも、並行してやるトレーニングも、とにかく「無理のない範囲でやる」ことを心がけましょう。

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提供元:「16時間断食のデメリット」無理なく克服する方法|東洋経済オンライン

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