2024.04.10
原因不明の不調「自律神経の乱れ」はなぜ起きるか|ヒトの体は「24時間働くようにできていない」
自律神経の乱れは、最も早くに表れる「疲労のシグナル」です(写真:mits/PIXTA)
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頭痛、肩こり、不眠、手足のしびれ……さまざまな不調を引き起こす「自律神経の乱れ」。
日本リカバリー協会の代表理事であり、科学的な視点で「疲れ」と「休息」を研究する医学博士の片野秀樹氏は、自律神経の変調は最も早くに表れる「疲労のシグナル」であり、自律神経を知ることが疲労回復の近道であるといいます。
自律神経とはいったい何なのか。片野氏がこのほど上梓した『休養学:あなたを疲れから救う』より、抜粋・編集してお届けします。
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2種類の自律神経
自律神経とは自分の意思ではコントロールできない、血流や臓器のはたらきを司る神経のことです。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があります。
両者の違いはのちほど詳しく説明しますが、ここでは「緊張・興奮すると優位になるのが交感神経」「リラックスすると優位になるのが副交感神経」と理解しておいてください。
まず、ストレスがかかると副腎に影響があるのは内分泌系と同じです。
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副腎は肉まんのように二重構造になっていますが、肉まんの内側の副腎髄質からはアドレナリンというものが出ます。アドレナリンが出ると、自律神経のうち興奮や緊張の神経である交感神経が高まり、心臓がドキドキしたり、血圧が上がったりします。
(出典:『休養学』)
こうした過緊張の状態が長く続きすぎると、さまざまな不調が体のあちこちに顔を出してきます。
自律神経の乱れは疲労のサイン
疲労を専門とする医師が真っ先に注目するのが、自律神経の変調です。疲労のシグナルが最も早期にあらわれるからです。
目の疲れや肩こりなどもその1つです。交感神経が優位になると目が疲れたり肩がこったりするのは、筋肉が緊張するからです。血管のまわりには筋肉がはりついていますが、この筋肉が緊張していると血管がしぼりあげられるので、血管が細くなり血液の流れが悪くなります。そのため眼精疲労や肩こりを引き起こすのです。
ほかにも自律神経が乱れると、不安や焦燥感で眠れない、集中できない、頭が痛い、倦怠感がある、イライラする、疲れやすい、食欲不振などの症状を訴えるようになります。
これらの症状は「検査値には異常がないけれど本人は不調を感じる」というもので、いわゆる不定愁訴といわれることもありますが、「疲れ」のサインと表現することもできます。
自律神経は、今後お話しする疲労回復のためにとりわけ重要ですので、もう少し詳しくご説明したいと思います。それにはまず、サーカディアンリズム(概日リズム)というものから説明するのがいいでしょう。
人間の体は、地球が太陽のまわりを一めぐりする天体のリズムにそって、24時間周期で動いています。つまり昼間は活動して、夜は眠るようにできています。これをサーカディアンリズムといいます。人間の社会もそれに合わせて、多くの人が昼間の時間帯に活動し、夜は休むようになっています(夜勤のある職業や深夜営業のお店など例外もあります)。
ヒトの体内時計は25時間周期
なぜ人間は朝、目が覚めて、夜になると眠くなるかといえば、人間の体には生体時計とか体内時計といわれるものが備わっているからです。ただしこれは24時間周期ではなく、なぜか25時間周期で動いています。だから実験のために、太陽の光がささない真っ暗な部屋でずっと過ごしていると、自然と毎朝目が覚める時刻が後ろ倒しになっていくことがわかっています。
しかし普通に暮らしていれば、まずそうはなりません。それは毎朝、太陽の光を浴びることで生体時計が24時間サイクルにリセットされるからです。太陽の光はとても強いので、曇りや雨の日でもリセットされます。このリセットボタンを押すのが自律神経です。
自律神経とは、24時間サイクルで私たちの体を、その時間帯に最適な状態に自動的に調整する神経であるということもできます。
まず朝起きると交感神経が優位になります。交感神経は興奮・緊張の神経なので、交感神経が優位になると血圧は上がり、心拍は速くなり、筋肉は緊張し、瞳孔は拡大し、汗をかきます。交感神経が優位になるのは、敵に襲われて戦闘状態になったようなときなので、何かあったらすぐに攻撃したり逃げたりできるように、血圧が上がり、心臓が速く打つというわけです。
その一方で腸のぜん動運動など、消化管の働きは抑制されます。交感神経が優位なときは突発的な出来事にもすぐ対応できるよう身構えているときなので、ぜん動運動などしている場合ではないからです。
そして交感神経のはたらきはお昼ごろに最高潮になり、そこからだんだん下降していきます。夕方になると今度はリラックスの神経である副交感神経が優位になる番です。
(出典:『休養学』)
夜は「リラックスモード」に
副交感神経が優位になると、心臓はそんなに強く打つ必要もないのでゆっくり打つようになります。筋肉は弛緩状態になり、血管もゆるんで広がるので血圧は下がります。
夜になると、昼間は活動が優先され十分にできなかった腸のぜん動運動がおこなわれます。ですから翌朝、排便がうながされるのです。
逆にいえば夜間、腸がしっかりぜん動運動をしないと、翌朝排便がうながされません。
旅先で便秘になりやすいのは、寝ているあいだもなんとなく緊張しているので副交感神経があまりはたらかず、ぜん動運動があまりおこなわれないからです。
そして再び朝になると副交感神経は下がり、今度は交感神経が優位になります。このように交感神経と副交感神経は逆位相で動いていて、12時間交代で切り替わるようになっています。
このように見てくると、しっかり休むには、夜、副交感神経が優位である必要があるとわかるでしょう。
にもかかわらず仕事で心配事があったりイライラしたりしていると、寝る時間になっても交感神経が優位のままで、過緊張が続き、うまくリラックスできなくなってしまうのです。
つまり、自律神経が乱れた状態が続いた結果、先ほどお話ししたように肩こりや眼精疲労といった症状があらわれてきます。そして、疲労がさらに蓄積すると、不眠や便秘などの症状も出てくるようになります。
交感神経と副交感神経のバランスが大事
交感神経と副交感神経の関係は、しばしば自動車のアクセルとブレーキにたとえられます。交感神経はアクセルで、体を興奮・緊張させる力です。
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一方の副交感神経は自動車のブレーキのように、活動を止めて休ませる力です。
なぜ交感神経と副交感神経両方のバランスがとれていることが大事かというと、強いアクセルを踏んだあと、弱いブレーキではなかなか止まれないからです。つまり昼間エネルギッシュに活動したあとはしっかりブレーキを踏んで休まなければいけないのに、ブレーキが弱いと眠りが浅かったり緊張がほどけなかったりして疲れがとれなくなってしまいます。
逆もしかりで、交感神経のはたらきが弱いと、アクセルが弱くてあまりスピードが出ていないのにブレーキを踏んでばかりいるようなもので、ほとんど前に進めません。つまり活動的になれず、いつもだるくて元気がない状態になってしまいます。これも一種の「疲れ」でしょう。
したがって交感神経と副交感神経はどちらも同じくらいのパワーがあるのが望ましく、どちらかが優位になりすぎないよう気をつけることが大事です。それが疲労の予防にもつながります。
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提供元:原因不明の不調「自律神経の乱れ」はなぜ起きるか|東洋経済オンライン