2024.03.19
専門家に聞く、自宅でできる「姿勢改善の方法」|姿勢が悪い人が抱える「恐ろしいリスク」とは
姿勢改善が未来の大事故を防ぎます(写真:freeangle/PIXTA)
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姿勢が悪いと見た目が悪くなるだけじゃなく、肩こりや腰痛の原因にもなるといわれています。ですが、実はそれだけではなく、姿勢が悪いと将来にとんでもないリスクを抱えることになると語るのは、リハビリ特化型デイサービスで、高齢者の体を20年以上見続けてきた理学療法士の上村理絵氏。「姿勢が悪いままだと、年をとったときに、歩行困難や寝たきりになるリスクが高まる」といいます。そこで、今回は、同氏の書籍『こうして、人は老いていく』から一部抜粋・再編集し、そのリスクと改善法を紹介します。
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姿勢の悪さは、筋肉の衰えから
姿勢が悪くなる理由の1つが筋肉が衰えです。筋肉は、どんなときに働いているか、ご存じですか? 歩いたり、走ったり、はたまた何かをつかみとろうとしたときなど、何か体を動かすときに働いている。確かに、その通りです。
しかし、それだけではありません。実は今、あなたがこの記事を読んでいる間も、ぼーっとしているときも、24時間、365日、筋肉は働いてくれています。
しかも、高齢者の体を転びやすい形に変形させてしまう見えない敵と戦ってくれているのです。
その敵とは、重力です。人間の体には絶えず重力がかかっていますが、重力に押しつぶされないように体を保ってくれているのが筋肉です。
しかし、筋肉が弱ってくるにつれ、重力に負けて、直立不動の姿勢を保てなくなります。
ただ、人間の体は非常によくできており、筋肉が衰えたら衰えたなりに立てるよう、自動的に姿勢を変えてバランスをとってくれます。
そして、背中が丸まり、肩と頭が前に出て、その代わりに骨盤が後ろに倒れ、お尻が後ろに突き出て、膝を曲げた姿勢になります。
この状態を円背(えんぱい)といいます。街中で腰を曲げてシルバーカーを押しながら歩いている人を見かけたことはないでしょうか。その様子を思い浮かべていただくと、イメージしやすいかもしれません。
姿勢改善が未来の大事故を防ぐ
この円背の状態になることが、転倒の大きな原因の1つです。
人間の頭の重さはどれぐらいかご存じですか。およそ5㎏、スイカ1玉分ぐらいの重さです。
スイカを同じ幅の背の高い台の上に固定して置いているところを想像してみてください。
台がまっすぐのときは、スイカは落ちないですよね。しかし、それをほんのちょっとでも前側に傾けたら、どうでしょう。
手を離せば、スイカもろとも台が前に倒れてしまいますよね。これと同じ理屈です。
筋肉の衰えによって円背になり、重い頭が前方に傾けば傾くほど、人間は転倒しやすくなるというわけです。
もともと姿勢が悪い人は、筋肉が衰えれば、衰えるほど、腰は丸まり、さらに頭は前方に傾いていくので、より転びやすくなります。
つまり、円背にならないよう、それをなるべく悪化させないようにすることが、転倒予防には大切です。
たかが転ぶことと思うかもしれませんが、それが「たかが」ですむのは若かったときの話です。
高齢者にとっては、この事故は「肉体的な老化」の最終到着地である「寝たきり」への出発点となりかねない危険性をはらんでいます。高齢者が転倒すると、骨が弱くなっていることもあり、骨折を起こす危険性があります。
高齢の場合、ケガからの回復に時間がかかるため、長い安静を強いられがちです。その結果、さらに体が衰えていき、寝たきりになってしまう……。
また、一度、転倒したことで、自分自身や周りが外出など動き回ることを制してしまい、活動量が減り、筋力が落ち、寝たきりに……。こういった話は非常によく耳にします。
交通事故よりも要注意!
さらに、転倒することで、より強烈に自分の体の老いを実感してしまったり、転ぶのが怖くて歩けなくなる「転倒恐怖症」になったりして「精神的な老化」を引き起こす可能性もあります。
消費者庁によると、2015(平成27)年4月から2020(令和2)年3月末までの5年間で、医療機関ネットワーク事業を通じて、65歳以上の高齢者が自宅で転倒したという事故情報が275件寄せられたそうです。うち、約69%を後期高齢者が占めていました。
また、8割以上の方が、通院や入院が必要となるケガを負っていました。もちろん、これは氷山の一角にすぎず、自宅外での事故、通報されない事故を含めれば、おそらく件数はこの数十倍にも上るでしょう。
さらに、こんなデータもあります。厚生労働省の「令和元年人口動態統計」では、高齢者の転倒・転落・墜落による死亡者数は8774人と発表されています。これは、交通事故の3倍以上の死亡者数です。
つまり、姿勢が悪いままでいることで、将来に非常に大きなリスクを抱えることになります。円背にならないためには、重力に負けないように、筋肉を鍛える必要があります。
重力に負けないように働く筋肉のことを「抗重力筋」と呼びます。首から足まで抗重力筋が張り巡らされていて、これらの筋肉がお互いに連動しあって、重力下でバランスを保っていることを知ってもらえれば十分です。
転倒予防なのだから、足の筋肉を鍛えればよいのだろうと思われがちですが、全身にある抗重力筋を鍛えることが重要です。
筋肉を鍛えるというと、筋肉量を増やすというイメージが強いですが、大切なのはそれだけではありません。輪ゴムが古くなると固くなって伸びが悪くなるように、年齢を重ねてくると、筋肉が固まって伸びが悪くなり、思うような働きができなくなります。
固さをとるには、固くなってしまった筋肉を伸ばし、ほぐしてあげる必要があり、筋肉がきちんとほぐれれば、今ある量の筋肉が十分に働くようになります。
筋肉は、量だけでなく、質も大事だということです。
そして、筋肉は量を増やすよりも、ほぐして質を高めるほうがラクです。そこで今回は、自宅で簡単にできる7つのリハビリ、通称「セルフリハ」から、3つを厳選して紹介します。
姿勢改善のためのトレーニング法
まず、1つは「肩甲骨はがし」です。このトレーニングは、肩甲骨周りの筋肉をほぐして、可動域を広げるためのものです。肩甲骨周りの筋肉が固まってしまうと、服を身につけるのがつらくなります。
また、洗濯物を干す、高いところの荷物をとるなど、腕を高く伸ばして行う作業がしづらくなっていきます。
そして、何より、円背を防ぐことにもつながるのです。筋肉が衰えてくると、腕の重みに耐えかねて、左右の肩甲骨が外側に引っ張られ、肩が前に倒れた状態になります。肩が前に倒れることで、背中が丸まり、円背へとつながっていくのです。
筋肉は同じ姿勢を続けた場合、その状態で固まるという性質を持っているので、正常な状態よりも左右の肩甲骨が外側に開いたまま固定されてしまいます。
つまり、肩甲骨周りの筋肉をほぐさない限り、肩が前に倒れた状態は解消されないのです。
(画像:『こうして、人は老いていく』より)
時計回り、反時計回り各10回、1セットで1日2~3セットを行ってください。
次に「腰ひねり」です。
腰方形筋、同じく抗重力筋である大殿筋や腸腰筋など、起き上がる、歩く、服を着るといった動作に必要な筋肉を鍛えることを目的としたトレーニングです。
(画像:『こうして、人は老いていく』より)
10回1セットで1日2~3セットを行ってください。
最後に「お尻歩き」です。歩くときに必要な抗重力筋、腹筋群、腸腰筋、大殿筋を鍛えるトレーニングです。今回紹介するトレーニングのなかでは、一番大変かもしれません。無理をせず、できる範囲でトライしてみてください。
(画像:『こうして、人は老いていく』より)
前後8歩をずつを1セットで、1日2~3セット行ってください。
無理をしないことが大切
回数はあくまでも目安と考え、「ちょっとこれは大変だな」「続きそうにないな」と感じたら、回数は減らしていただいて構いません。
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その後、慣れてきたら、徐々に回数を増やしていきましょう。週にどれだけやればいいのかも同じです。毎日取り組んでいただくことがよいのはもちろんですが、忙しかったり体調が悪かったりして、難しいときもあるでしょう。
「毎日、絶対やるんだ!」と意気込んでいると、いざできなかったときに「毎日やらなかったから、効果はでない」「どうせ効果がないなら、もうやらなくてもいいか」という思考回路に陥りがちです。最低1日おきの取り組みでも大丈夫です。たとえ忘れた日があったとしても、「今日は忘れたけど、明日からまた頑張ろう」という気持ちで取り組んでください。姿勢が悪いのは、長年のクセでもあり、すぐによくなるわけではありません。
継続していくことが大切です。無理のない範囲で、続けていくことが、未来のリスクを減らすことにつながります。
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提供元:専門家に聞く、自宅でできる「姿勢改善の方法」|東洋経済オンライン