2024.03.15
健康意識が高い人は注意「塩分、糖分は控えめ」の罠|悪者にされがちだが、不足するリスクも大きい
好きなものをおいしく食べることが健康への第一歩です(写真:takeuchi masato/PIXTA)
塩分や糖分の摂取は控えめに――。健康に気をつけている人ならば、最初に実践する食生活の「常識」のひとつでしょう。しかし、高齢者専門の精神科医として30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わってきた和田秀樹氏は「高齢者になれば、この『常識』がリスクになる」と言います。塩分や糖分の摂取制限だけでなく、健康長寿のために粗食に勤しむ高齢者も注意が必要なのだとか。果たしてその理由とは?
※本稿は和田氏の新著『「健康常識」という大嘘』より、一部抜粋・再構成のうえお届けします。
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塩分を控えめにした結果「低ナトリウム血症」に
血圧が高い人は、決まったように医者から「塩分控えめ」を忠告されて、真面目な人はそれを頑張って実行します。血圧を測定するたびに数値が下がって医者からほめられれば、それを励みにして、ますます塩分を摂取しなくなったりもします。
私の知人のお父さんも、医者のアドバイスを守って塩分の量には過敏なほど反応し、奥さんが時間をかけてつくった煮魚もタレを洗い落としてから食べていたといいます。
そのような暮らしを続けていた結果、血圧はずっと抑えられていたそうですが、ある時、気分が悪くなり、ひどい頭痛で入院してしまいました。検査をしたところ、頭痛の直接の原因かは定かでないものの「低ナトリウム血症」であることがわかりました。
低ナトリウム血症とは血液中のナトリウム、つまりは塩分の濃度が低くなった状態を言います。ナトリウムには体内の浸透圧を調節したり、神経や筋肉を正しく機能させたりする役割があって、体内のナトリウム濃度が下がると最初は軽い疲労感があり、重症化するとけいれんを起こしたり、昏睡状態に陥ることもあります。
近年増加の一途にある熱中症も、その多くは低ナトリウム血症によるもので、夏の暑い日に塩分を補給することなく水分ばかりを摂っているとひどいめまいに襲われたりするのはそのためです。
軽度の糖尿病でも長生きなアジア人
塩分と並んで悪者にされがちなのが糖質です。しかし、脳を働かせるためにブドウ糖は欠かせません。元気な子どもでも「朝ごはんを抜くと学校の成績が下がる」といわれるのですから、高齢者でブドウ糖が不足すればなおさら頭が働かなくなります。
糖質を摂取する場合に、パンとごはんのどちらがよいかはきちんとした研究やデータがないのでわかりませんが、どちらも糖質を摂るための大切な食べ物です。
「いつも和食だから自分は健康的だ」と言う人がよくいます。納豆や豆腐のような大豆製品、魚、海藻、キノコ、野菜類をたっぷり使ったお惣菜は健康的で、それらをおかずにして食べる炊きたての白米は本当においしいのですが、食べすぎると血糖が下がりにくくなる「インスリン抵抗性」を起こす原因になります。
どの程度が多食になるかは人それぞれですが、和食は肉類のおかずが少なく、タンパク質や脂質をあまり摂れないため、「健康にいい」と信じすぎるのもどうかとは思います。
さまざまな研究から、アジア人は欧米人と比べて糖尿病にかかりやすいことが指摘されていて、その理由が白米の摂取量にあることもわかっています。
2012年にハーバード公衆衛生大学院のチームが、日本、アメリカ、オーストラリア、中国の4カ国で行なった計35万2384名分の研究報告を分析した結果を発表していて、それによると一日当たりの白米摂取量が茶碗1杯増えるごとに糖尿病のリスクは11%上昇することが明らかになっています。
しかし、それなのにアジア人のほうが寿命の長いことは忘れてはなりません。年をとるほど「栄養が余ること」よりも「足りないこと」の害のほうが多くなるのです。
中高年になればタンパク質や脂質を積極的に摂ることが大切で、ご飯やパン、麺類などの炭水化物の摂取量は、タンパク質や脂質を増やすことで相対的に減らしていくことが健康のためにいいと思います。
作家の幸田露伴は食通としても有名で、味の好みにうるさく、舌に合わないものを供されると「俺は、掃き溜めではない」と激怒したそうです。その一方で「食べ物というのは、うまいと思って食べれば栄養になる。まずいと思って食べれば決して滋養にはならない」とも言っています。こうした心得は、とくに高齢者にとって参考にすべきものでしょう。
免疫力をアップするために好きなものを食べよう
現在、日本国内における死因はがんがもっとも多く、厚生労働省による2022年の統計では38万5797人が、がんで亡くなっています。がんがなぜ発症するかについてはさまざまな説がありますが、いずれにしても毎日体内に発生する、がんになるかもしれないできそこないの細胞を撃退するうえで、免疫の力は欠かせません。
ストレスのある生活を続けていれば、免疫力は間違いなく低下して、健診の数値がすべて正常でも急にがんになってしまう可能性は決して少なくありません。免疫力アップに効果的なのは好きなものを食べることです。
同じものばかりを過剰摂取するフードファディズム(食べ物の健康への影響を過信すること)は、慢性型アレルギーを発症して身体の酸化を招くリスクがあります。
私もかつて「海藻やソバがよい」と世間でいわれるのを聞いて、意識してたくさん食べていたら、逆に海藻やソバの慢性型アレルギーになってしまいました。
食物アレルギーが人によって異なるのと同じで、身体にいい食べ物も人によって異なるのです。だから自分の身体や脳が欲するサインに素直に応じて、食べたいものを食べるほうがいい。一般的には身体に悪いといわれるカレーや牛丼といった高カロリーの食事も、無理に避ける必要はありません。
新型コロナ3回陽性でも無症状だった理由
私は新型コロナ禍に3回の陽性判定を受けましたが、いずれも無症状でした。高血圧、糖尿病、心不全を抱えていて、年齢も60歳を超えています。コロナ発症リスクがもっとも高いとされる条件を満たしていたにもかかわらず、なぜ無症状だったのかと言えば、免疫力が強かったからでしょう。
医者の言うことを聞かないで、血圧が高くても好きなワインを飲み、おいしいものを食べていた。そんな生活こそ免疫力を高めるのだろうと、自らの体験から確信しています。
高血圧や心不全、糖尿病の人が、新型コロナの発症リスクが高いとされたのは、逆に普段からいろんな薬を飲み、節制をしていたことで、さまざまな免疫力が落ちてしまっていたからではないでしょうか。
好きなことを我慢しているせいで、さらに免疫力が落ちていたところに新型コロナに感染すればひとたまりもない。これはがんに関しても同じようなことが言えるのだろうと思います。
食事については、脳に栄養をいきわたらせるため、とくに朝食をしっかり食べてください。一般的に朝食と昼食の間は4時間程度。昼食と夕食の間は7時間程度の間隔ですが、夕食から朝食までは約12時間もあります。そのため朝は、低血糖を一番起こしやすい時間帯なのです。
60代からはエネルギーを補完することが大切
ブドウ糖が不足した状態は脳の働きを鈍らせて、記憶力などの認知機能において大きなマイナス要因となります。
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脳はものすごくたくさんのエネルギーを消費しますから、食事の間が空いてブドウ糖が不足している脳には、できるだけ早くエネルギーを補給する必要があります。
動脈硬化など生活習慣病の予防が大事なのは50代まで。60代からはむしろ老化を防ぐために食事でしっかりエネルギーを補完するべきで、なかでも意識したい栄養素がタンパク質、脂質、亜鉛です。
タンパク質は筋肉の衰えを防ぐとともに、タンパク質に含まれるアミノ酸の一種であるトリプトファンは幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの材料になり、幸福感を呼び込みます。
脂質に含まれるコレステロールは性ホルモンの材料となり、牡蠣やニンニクに含まれセックスミネラルとも呼ばれる亜鉛は元気の源となります。美容面でも、タンパク質や脂質は肌や髪の弾力とツヤに直結します。
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提供元:健康意識が高い人は注意「塩分、糖分は控えめ」の罠|東洋経済オンライン