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2024.03.09

「高血圧」が気になる高齢者に教えたい意外な真実|若者も高齢者も「140㎜/Hg以上」基準の疑問


高血圧と糖尿病にまつわる勘違いとは(写真:stpure/PIXTA)

高血圧と糖尿病にまつわる勘違いとは(写真:stpure/PIXTA)

年齢が上がるにつれて、「高血圧」と「糖尿病」を気にし始める人は増えていくもの。数値をめぐって一喜一憂が繰り広げられるこの2つの“病気”ですが、高齢者医療の現場に長年携わってきた和田秀樹氏は「血圧は無理に下げる必要はなく、糖尿病の治療にインスリンが必須という考えは間違っている」と言います。

※本稿は和田氏の新著『「健康常識」という大嘘』より、一部抜粋・再構成のうえお届けします。

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血圧が上がったからと過剰に心配する必要はない

日本で血圧の基準が定められたのは1987年のことで、当時、厚生労働省は「上(収縮期血圧)が180㎜/Hg以上」を高血圧の基準としていました。ところが日本高血圧学会は2000年、この基準を「140以上」にまで引き下げました。

さらに2019年になると同会は、高血圧治療ガイドラインの改訂に伴って、高血圧の診断基準は140以上のままとしながらも、それまで正常の血圧とされていた130~139を「高値血圧」(正常よりも高めの血圧)に分類しました。

アメリカで、2017年頃から高血圧の診断基準が140以上から130以上に引き下げられたことに追随した形で、この変更によって数値上の高血圧患者は急増しました。

そしてアメリカでは、年間3000億円程度だった降圧剤の売り上げが、基準値を引き下げた5年後には1兆6300億円にまでハネ上がったといいます。つまり、降圧剤などの高血圧治療薬をつくる製薬会社が潤ったわけです。

実は日本で「140以上」を高血圧とする基準値が示された時、高齢者に関してはそこまで求められず、70代は150未満、80代は160未満なら正常とみなす緩めの診療目標が設定されていました。

高齢者の場合、年齢に伴い血管の弾力性が失われてきて血流が悪くなり、血管に対して血流の圧がかかりやすくなります。そのため全身の臓器に血液をいきわたらせるには、ある程度血圧が高くなければいけません。

若い時よりも血圧が高いからこそ、脳への血流も十分保たれて認知症にかかりにくくなりますし、認知症になっても症状の軽い元気な状態が続くと考えられるのです。それが今では、若年者も高齢者も一律で140未満を正常とする方針に転換されました。

そもそも、100歳以上は高血圧の人が多め 

その一方、30年ほど前から100歳以上の人を対象とした研究を続けている慶應義塾大学医学部のデータでは、100歳以上では高血圧とされる人の多いことがわかっています。

世の中には「正常値絶対主義」で、血圧の数値を下げることを目的化している医者がたくさんいます。しかし、私が勤務していた当時の浴風会病院のデータだと、血圧130の人と150の人では生存曲線に差がありませんでした。

本来ならば厚生労働省が、日本人の血圧の正常値がどのくらいかという全国的な大規模調査を行うべきなのです。今はアメリカが135と言えば訳もわからずそれに従っていますが、おそらく日本の高齢者からすると、それが適正値ではないはずです。

ただし、同じ浴風会病院のデータでは、血圧が180以上になると明らかに生存率が悪くなっていたので、私自身は血圧170以下をキープするようにしています。

かつて降圧剤で血圧を基準値まで下げていた時には頭がぼんやりして、仕事やプライベートを快適に過ごすことができなくなりました。それ以来、降圧剤を適度に服用して、170をキープしているのですが、まったく不具合は感じていません。

さらに言えば、高血圧を放っておいても、そのせいで血管に本格的な障害が生じて心筋梗塞や脳卒中になるのは20年後ぐらいだと考えられます。現在70歳の人が好きなように生活を続けて90歳で亡くなるのと、血圧の正常値ばかりを意識して20年以上の節制を続けて95歳まで生きるのとでは、どちらが幸せなのか。

これから先の20年のうちには医学の進歩もあるはずです。これらを考えたうえで、みなさんそれぞれが自分の受ける医療を、もっと自己決定してもいいのではないかと思います。

糖尿病の可能性がある予備軍は約1000万人

糖尿病は国の定める重要疾患の一つです。厚生労働省が発表した2019年の国民健康・栄養調査によると、糖尿病患者数は約1000万人。糖尿病が強く疑われる、もしくはその可能性を否定できない予備軍も約1000万人になります。

糖尿病のリスクは、HbA1c値(ブドウ糖と結びついたヘモグロビンの割合)によって判断され、特定保健指導ではHbA1c値5.6%を基準値として、これを超えたものを糖尿病予備軍としています。

糖尿病治療のためには、このHbA1c値を基準値未満に抑えることが大事だというのですが、アメリカ国立衛生研究所の関連組織による試験では、従来の常識とは異なる結果が出ました。

計1万人の糖尿病患者を対象に、HbA1cを当時正常値とされていた6%以下に抑える強化療法群と、7.0~7.9%とする標準療法群の2つに分けて調査したところ、3年半後の死亡率は強化療法群のほうが高かったのです。

イギリスでも4万8000人を対象に同様の調査を実施したところ、やはりHbA1c値が従来の基準値を超える7.5%の時にもっとも死亡率が低くなりました。なおHbA1c値が11.0%まで上昇すると死亡率は、7.5%の時よりも79%上昇し、5.4%まで下げた時にも死亡率は52%上昇しています。

欧米人と日本人で体質は異なるものの、これらの調査の結果からは、HbA1cが基準値よりもいくらか高い、つまり「軽い糖尿症とされている人」のほうが長生きできるのだろうと予測できます。

2型糖尿病ならインスリンは原則的に不要

糖尿病には、膵臓からのインスリン分泌が低減することで発症する「1型」と、遺伝的な要因に過食や運動不足、肥満などが加わって発症する「2型」があり、日本人の糖尿病患者の95%以上が2型です。

1型の場合、血糖値を下げるためのインスリン注射を打たないと血糖値が急上昇して、その状態が続くと合併症を起こすおそれがあります。しかし、2型糖尿病の場合はインスリンを受け止めるレセプター(受容体)の故障が主な原因で、インスリン自体はきちんと分泌されることも多いので、原則的に注射は不要です。

私は以前の検査で血糖値が660mg/dlにまで達していました。厚生労働省による基準値は、通常の場合、空腹時で70~100mg/dlとされていますから、明らかに重症の域でした。医者からは当然のようにインスリン注射による治療を勧められましたが、私は2型だったのでこれを断りました。

その後はもっぱら、歩くことで血糖値をコントロールしています。毎日30分ほど歩くようにしたところ、それまでまったく運動をしていなかったこともあり血糖値は200~300mg/dl前後を維持しています。

数字に固執せず適度にコントロールしよう

厚労省の掲げる正常値よりはずっと高いのですが、それでもときどき喉が渇く程度で、支障を感じることはありません。

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そもそも糖尿病とは「血糖値が高すぎる病気」ではなく、「血糖値が安定しない病気」です。

血糖値は低ければいいというものではなく、50mg/dl以下になると臓器にダメージを与えるリスクが高まり、40mg/dlまで下がれば意識を失い、20〜30mg/dlになれば命が危ぶまれます。

慢性的な低血糖状態になると身体や脳の活性が落ちて終日、頭がぼうっとしたり身体がふらついたりします。

また血糖値が下がる時間帯には脳に糖分がいき届かなくなるので、低血糖によって認知症のリスクが高まることも考えられます。

こうしたことから血糖値は正常値にこだわらず、本人に不具合のない状態で適度にコントロールするのがベストだと考えます。

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提供元:「高血圧」が気になる高齢者に教えたい意外な真実|東洋経済オンライン

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