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2024.03.07

寿命を延ばそうと糖質制限する人の"落とし穴"|長寿遺伝子サーチュインは活性化するが…


(写真:Nana/PIXTA)

(写真:Nana/PIXTA)

これまで、一般的には人の寿命を人為的に延ばすなど不可能と思われてきました。しかし、近年の科学はそれを可能にするヒントをつかみました。それがサーチュインです。そのヒントを基にした研究者の努力により、人の寿命延長はより現実味を帯びてきたのです。しかも、もたらされた長寿は寝たきりや認知症などを伴わない、いわゆる健康長寿なのです。

このような、いわば「正しい寿命の延ばし方」を査読付き論文の研究をベースに解説した今井伸二郎さんの著書『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』より一部抜粋・再構成してお届けします。

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前回記事:『「寿命が短くなる」食事とそうではない食事の差』 ※外部サイトに遷移します

カロリー制限は基本的に長続きしない

長寿遺伝子サーチュインを活性化させる方法を解説します。最も直接的なサーチュインの活性化は、食事のカロリー制限です。アカゲザルに30%のカロリー制限をすると、サーチュインが活性化され寿命延長が期待できます。

しかし、この方法はあまりおすすめできません。なぜかというと、意識してカロリーをカットする食事は食欲を激しく刺激し、相当に意思の強い人でない限り長続きしないからです。

我慢できずにカロリー制限した後に通常食に戻すと、かえって過食になってしまう場合が多く、この状況は体重のリバウンドを引き起こしてしまいます。 サーチュインの状態もカロリー制限していた間は順調に活性化していても、制限を解除した直後に脱アセチル化活性は低下し、タンパク質のアセチル化量も元に戻るのみならず、かえって増えてしまう危険性もあります。

仮に、非常に意思が強いという理由でカロリー制限を続けられたとしても、別の問題があります。おそらく、この記事をお読みの方で、今まで風邪をひいたことのない人はいないでしょう。なぜ風邪をひいてしまうのかというと、まず、体温の低下によって免疫系の機能が下がってしまいます。その結果、風邪ウイルスが体内に侵入し、免疫システムが初期防御できずにウイルスが増殖してしまい、感染状態に至ってしまうからです。

免疫系の機能を低下させるのは、体温の低下だけではありません。栄養状態の低下もまた、免疫システムの機能低下を引き起こします。カロリー制限による栄養状態の低下は直接免疫システムの低下をもたらすだけでなく、さらに体温の低下をも引き起こすのです。

食事をすると体が温かくなるのを感じたことがあるでしょう。食事により摂取した栄養素は体内に吸収され、筋肉組織などの細胞内では栄養素は呼吸により得た酸素とともに燃焼されエネルギーとなります。このエネルギーは熱エネルギーのため、当然体温も上昇します。

しかし、カロリー制限した場合は、体内に吸収された栄養素は細胞内で燃焼されず細胞の成分として合成されてしまいます。そのため、当然体温は上昇しません。 このように、カロリー制限は免疫システムの低下をもたらし、感染症のリスクを上昇させてしまいます。風邪程度の感染であれば大きな問題はありませんが、がんを引き起こすウイルスや直接死を招くような感染であれば、結果的に寿命を縮めることになってしまいます。

栄養失調に至るようなカロリー制限は感染症のリスクを引き起こし、寿命延長どころか死を招いてしまう可能性があります。ダイエットや健康目的でカロリー制限や絶食を行う人がいますが、この行為も同じ理由でおすすめできません。

糖質制限は効果がある?

読者の中には、糖質制限に興味を持っている人もいるのではないでしょうか? 糖質制限は、低炭水化物ダイエットまたはケトジェニックダイエットとよばれることがあり、その潜在的な健康上の利点により人気を集めています。

例えば、炭水化物を制限すると、主に全体的なカロリー摂取量が減少するため、体重減少につながる可能性があります。また、炭水化物を制限することで、体は貯蔵された脂肪をエネルギーとして燃焼するよう促され、その結果、体重が減少します。

さらに、炭水化物制限は特にインスリン抵抗性の糖尿病の人にとっても有益です。炭水化物の摂取を最小限に抑えると血糖値が安定する傾向があり、インスリンやその他の血糖降下薬の必要性が減少します。

当然、糖質制限は摂取カロリーの減少にもつながりますので、サーチュインの活性化を誘導します。その結果、寿命が延びる可能性があります。

このように、糖質制限は一見素晴らしい食事法に思えます。しかし、カロリー制限と同様糖質制限も私はあまりおすすめしません。

糖質制限には多くの欠点もあることが知られています。例えば、糖質制限をすると食物繊維、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質の重要な供給源である果物、全粒穀物、豆類などの特定の栄養価の高い食品の摂取量が減少してしまう結果につながります。糖質の多い食品である果物や穀類を食べないことは、糖質以外の必要な栄養成分を摂取しないことにつながってしまうのです。このように、食事方法として適切に管理されずに糖質制限食を実施すると、これらの必須栄養素の欠乏のリスクを高める可能性があります。

全粒穀物、果物、豆類などの多くの高炭水化物食品は、食物繊維の優れた供給源です。食物繊維は、健康な消化を維持し、血糖値を調節し、健康な腸内微生物叢を促進するために不可欠です。糖質制限による食物繊維の摂取不足は、便秘、消化器系の問題、腸内細菌叢のバランスの崩れを引き起こしてしまう可能性があります。

炭水化物を制限するとどうなる?

本来、糖質などの炭水化物は我々人体にとって好ましいエネルギー源です。特にアスリートなどの激しい身体活動を行う人の場合、炭水化物の摂取が大幅に制限されると、エネルギーレベルの低下、疲労、運動能力の低下につながってしまいます。

炭水化物の不足は、体を維持するための燃料として脂質を使用することで順応できます。しかし脂質分解の程度が強すぎた場合は、脂質をエネルギーに変換するのに手間取り、運動活動中は効率的ではないことになってしまい、問題が発生する場合があります。

糖質制限は、穀物、豆類、芋類などのでんぷん質を多く含む野菜の摂取を避けるか、極端に制限することと同一視されている場合が多いようです。これらの食品の摂取制限により、肉食が極端に増加してしまい、結果的に好き嫌いの助長、伝統的な日本的食習慣から逸脱し、食生活の社会的状況を満たすことが困難になってしまいます。

また、欠乏感を引き起こし、長期的にこの食生活を続けることが難しくなる可能性もあります。炭水化物が極端に制限されると、炭水化物よりも多くの脂肪、特に飽和脂肪を摂取することにつながります。飽和脂肪の多い食事は、心臓病のリスクを高め、コレステロール値を上昇させ、その他心臓血管の健康に悪影響を与える可能性があります。

もし、十分な管理のもとで糖質制限が行われれば、前述した肥満の抑制や寿命が延びるなどの利点も得られますが、その継続には極端な自己管理が必要です。ちなみに、私にはとてもできない芸当です。

糖質制限を実施した場合は、飽和脂肪やトランス脂肪を最小限に抑えながら、ナッツ、種子、アボカド、脂肪の多い魚などの健康的な脂肪源摂取を優先することが重要です。

糖質制限は日本人には感覚的に合わない?

人によっては、厳格な糖質制限を長期にわたって維持することが難しい場合もあります。本来、農耕民族である日本人にとって、肉類を主体とした糖質制限食は、感覚的に受け入れられない方法なのかもしれません。毎日肉食を続けると、体は麺類などの炭水化物を欲します。お酒を飲んだら締めのラーメンを食べたくなるのが、まさにそうです。

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糖質制限食の場合、ビールも日本酒もダメです。焼酎やウイスキーは残留糖質が少ないですが、アルコールも炭素と、酸素、水素から構成されている炭水化物の一種ですので、厳しくいえばこれら蒸留酒の摂取もできません。ましてや、蕎麦やラーメンも食べられないなんて、私にはとても耐えられません。

このように、限られた食品しか摂取できないことに対する不満感や、定食屋で定食を注文したら必ずご飯がついてくるなどの潜在的な社会的制限により、さまざまな状況でその食事法を遵守することが困難になりやすい側面もあります。

もし、持続可能な食事方法の変更が可能で、過剰な努力や犠牲を払わずにライフスタイルに組み込むことができるならば、この糖質制限は成功する可能性が高くなるのかもしれません。

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【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

「寿命が短くなる食事」とそうではない食事の差

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提供元:寿命を延ばそうと糖質制限する人の"落とし穴"|東洋経済オンライン

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