2024.01.26
「朝ごはんにフルーツ」が"食後血糖値"にNGな根拠|スムージーや、朝食抜きも避けたほうがいい
血糖値の改善には、昼ご飯でも夜ご飯でもなく、朝ご飯が重要。いったいなぜなのでしょうか(写真:kueqa / PIXTA)
糖質制限がいいのか、動物性脂肪を控えたほうがいいのか――。健康を維持するためのさまざまな食事療法が乱立するなか、ここにきて新しい考え方が出てきた。それはなんと「朝食は、ご飯少なめ、肉やアブラ(油・脂)多め」というもの。もちろんエビデンス(科学的根拠)はちゃんとある。そこで、この食事法を提唱する北里大学研究所病院副院長で糖尿病センター長、山田悟さんに話を聞いた。
朝、しっかり食事をしたつもりなのに、何となく疲れてしまったり、集中力が続かなかったり……。そんな経験はないだろうか。
「それは朝食を摂った後に、血糖の乱高下を起こしたのだと考えられます」と山田さん。
体のだるさなど生活習慣病にも直結
聞くと、朝食後はそもそも血糖値が上がりやすいのだが、そこに自律神経を興奮させる行動、例えば運動や、ストレスがかかる仕事(会議やクレームの電話など)などが加わると、血糖値が急激に上がって下がるといった乱高下が起こりやすいという。
その結果、脳にエネルギー源となるブドウ糖が足りなくなり、冒頭の症状が出てくる。
「食後血糖値の乱高下」問題は、体のだるさや、やる気の喪失だけにとどまらない。太りやすい、糖尿病になりやすい、動脈硬化を起こしやすい……といった、さまざまな生活習慣病にも直結していると、山田さんは言う。
「例えば、血糖値が急激に下がると、『低血糖にならないよう、食べて止めなきゃ』という抗いようのない空腹感、まさに飢餓感に襲われます。その結果、カロリー的には必要もないのに食べすぎてしまう、といったことが起こります」
また、血糖値が高いことで血管が傷つき動脈硬化を進行させてしまう。いずれにせよ、食後の血糖値をどうするかで、これからの人生を健康的に過ごせるか否かがかかっている、といっても過言ではなさそうだ。
血糖値の上がり方については、体質的なものもあるといわれている。「親が糖尿病だから……」と諦めてはいないだろうか。あるいはその逆で「家族が糖尿病じゃないから大丈夫」と安心していないだろうか。
実は、ここには大きな問題が2つ隠されている。
1つは、健診などで「血糖値が正常」といわれている人でも、その多くが食事をしてから2時間後の血糖値(食後血糖値)が正常値を超えて上がっている“隠れ食後高血糖”の可能性があるという怖い事実だ。
山田さんらは過去に、ある会社の健康的な社員に協力してもらって、食後血糖値を測ったことがある。その結果、食後血糖値のボーダーラインとされる数値(140mg/dL)以内に収まっていた人は、ほとんどいなかったそうだ。
多くの人が隠れ食後高血糖であるということに関しては、中国でも同じような調査が行われており、なんと成人の2人に1人が血糖異常だったことが明らかになった。
体質よりも食べ方に問題がある
そして問題のもう1つは、食後血糖値は体質よりも食事の影響のほうが大きい、という真実だ。
山田さんは、「細かくは説明しませんが、基本的に血糖値は体質よりも生活習慣に依存することを立証した論文がいくつか出ています。血糖値がコントロールできないのは、体質よりもむしろ食べ方に問題があると思うべきでしょう」と言う。
見方を変えれば、どんな人でも食事次第で食後血糖値の問題が解決できるともいえる。
気になる食事法だが、それは冒頭でも紹介した「朝食は炭水化物を減らし、タンパク質+脂質を多めにする」というもの。なかでも重要なポイントは、アブラを控えない、という点だ。
ここで山田さんらが推奨する朝食の、具体的なイメージを以下に挙げてみたい。
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この例を見るとわかるが、パンやご飯などの主食も食べていい。炭水化物をゼロにしないほうがいい理由は、食物繊維が含まれているからだという。
「この食事をすると、食後血糖値の上がり方が緩やかになります。この『朝、しっかり食べると、その後の血糖や食欲にブレーキが利く』ことに関しては、いくつかの研究で確かめられています」(山田さん)
意外にも、食後血糖値を上げてしまうのは、スムージーや野菜ジュース、果物、シリアルといった、多くの人がヘルシーだと思っている朝食や、「朝食抜き」だそう。
スムージーや野菜ジュース、果物は確かにビタミンやミネラルは多く摂れる。だが、糖質に偏っていて、肝心のタンパク質や脂質がほとんど摂れない。食後血糖値の問題からみたら、避けたほうがいい食事なのだ。
「朝食抜きについては、1食目にあたる昼食で時間が取れず、麺類や丼物を早食いする方が多い。結果として、昼食後血糖値がとんでもなく上がってしまうのです。逆に、朝食でタンパク質や脂質をしっかり食べておくと、昼食に麺類や丼物を食べても、血糖値の上昇を抑制できることが報告されています」(山田さん)
なぜ、昼でも夜でもなく、朝に前述した食事に変えると血糖値が上がりにくいのか。糖質を控えているから、ということ以外にも理由がある。
実は、タンパク質を摂るとGLP-1というホルモンが、脂質を摂るとGIPというホルモンが小腸から多く分泌される。これらのホルモンは血糖の上昇を抑える働きがあるため、血糖値がつねに安定した状態に保たれる。血糖の急激な降下や低血糖を生じないので、飢餓感に襲われることもなければ、食べすぎることもなくなる。
「GLP-1やGIPの作用は絶大で、昨今、話題になっている肥満症治療薬、糖尿病治療薬として注目されています。また、グレリンという食欲をもたらすホルモンの分泌も長く抑制されるので、お腹が空きにくくなります」(山田さん)
昼や夜の食べ方も基本的に朝と同様の考え方なのだが、食事会や飲み会などで料理を選べないこともあるだろう。その場合は、タンパク質を先に摂り、炭水化物、糖質は最後に摂る「カーボラスト」を意識することが大事だという。必ずしも「ベジファースト(野菜を先に食べること)」にしなくてもいい。
乾杯のお酒もOK。おかずやアルコールを炭水化物よりも先に口にすることで、前述のGLP-1やGIPの作用に加え、カーボラストの力で食後の血糖上昇を抑えられるという。
もう1つ、ビタミンやミネラルが豊富な果物を食べるときはどうしたらいいかというと、「朝ではなく、夕食時、食後にするとよいでしょう」と山田さんは助言する。これもカーボラストの考え方に通じる。
海外でも朝食で血糖値が改善
「タンパク質+脂質」を重視する食事に関しては、2019年に出たアメリカ糖尿病学会のガイドラインでも推奨されており、2015年に出たアメリカの食事摂取基準でも「油を控えることに健康上のメリットはない」としている。
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カナダやオーストラリアでは、朝食に糖質を少なくして、タンパク質と脂質を増やしたメニューを提案するだけで血糖値が改善し、エネルギー摂取を少なくさせることに成功したという研究が出ているそうだ。
今年こそ無理なくダイエットをしたい、健康的になりたいと思っている人は、一度この食事法を検討してみてはどうだろうか。
(取材・文/山内リカ)
北里大学北里研究所病院副院長 糖尿病センター長
山田 悟医師
1994年、慶應義塾大学医学部卒業後、同大学内科学教室に入局。東京都済生会中央病院などの勤務を経て、2002年から北里研究所病院で勤務。現在は同院副院長、糖尿病センター長。診療に従事する傍ら、2型糖尿病についての臨床研究を進める。日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医
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提供元:「朝ごはんにフルーツ」が"食後血糖値"にNGな根拠|東洋経済オンライン