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2023.11.28

肝機能の検査値、今は「ガンマGTP」だけ見てもダメ|肥満や糖尿病で生じる肝臓病が新たな問題に


肝臓の健康度を見る肝機能検査。γ‐GTPだけ見ていませんか?(写真:そよかぜ/PIXTA)

肝臓の健康度を見る肝機能検査。γ‐GTPだけ見ていませんか?(写真:そよかぜ/PIXTA)

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アレルギーや肥満、メンタル疾患などとともに、現代病の1つに位置付けられている肝臓病。脂肪肝から肝硬変、さらには肝がんへの道をたどる。

肝機能を見る検査は3つある

肝機能を見る血液検査には、ALT(GPT)やAST(GOT)、γ-GTPの3つがある。

国立病院機構九州医療センターがん診療統括部長・肝胆膵外科部長の髙見医師

国立病院機構九州医療センターがん診療統括部長・肝胆膵外科部長の髙見医師

「肝機能検査の結果が悪い人は、肝細胞が破壊されて炎症を起こしている肝炎や、肝臓内の線維組織が増えて硬くなる肝硬変も疑われるので、注意が必要です」。こう話すのは、肝臓の病気に詳しい髙見裕子医師だ。

慢性の肝疾患を放置して肝細胞が壊れると、その部分が線維組織に置き換わっていく。これを「肝臓の線維化」といい、肝臓の線維化が進行し、肝臓が硬くなった状態を「肝硬変」と呼ぶ。

肝臓はアルブミンというタンパク質などを合成しているが、肝硬変になるとアルブミンを作れなくなるので、全身にむくみが起きやすくなる(アルブミンには血液中で水をためておく作用がある)。

肝硬変が進行すれば老廃物を処理できなくなり、黄疸(おうだん)が出たり、精神や意識に異常をきたす脳症という症状を起こしたりする。さらに進行すると、脳や腎臓、血球などに影響が出て、生命を維持することが困難になる。

肝臓で怖いのは、肝がんだけではない。肝硬変も命に関わる怖い病気、ということなのだ。

かつては、B型やC型といった肝炎ウイルスが原因で起こるケースが多かった肝臓病。しかし今は、むしろアルコールが原因の肝疾患のほか、肥満や糖尿病に関係して生じる非アルコール性脂肪肝(NAFLD:ナッフルド)や、非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)が増えている。

NAFLDやNASHをそのまま放置しておくと、肝臓内に脂肪が蓄積され(いわゆる脂肪肝という状態)、炎症を引き起こしていく。その状態が、長期にわたると肝硬変、さらには肝がんになる可能性が出てくる。

NAFLDやNASHの患者数を、わが国の有病率(疾病を有している人の割合)から推計すると、約2000万~3000万人。このなかでも、肝硬変に進展したり、肝がんを併発したりしやすいNASHの患者数は約370万人と推定され、2030年には約430万人まで増加すると試算されている。

実は、こうした肝疾患が増えた背景には、約3年間におよぶコロナ禍も影響したといわれる。外出制限のため、自宅でつい食べ過ぎたり、健康を維持するための運動ができなかったりしたことが、NASHの増加に拍車をかけたというのだ。

肝機能検査「ALT」の基準が変わる?

肝臓の表面には痛みを感じる神経が走っているが、内部にはそうした神経がない。このため、肝臓がダメージを受けても、症状としてはなかなか自覚することができない。「沈黙の臓器」だからこそ、健康診断の検査値はとても重要な意味を持つ。

NAFLDやNASHを早期に見つけるために必要なのが、前述の肝機能検査。このうちALTとASTは、いずれも肝臓で作られる酵素の数値だ。

肝臓が傷つくとALTが血液中に流れ出すので、この値が高くなると肝臓が炎症を起こしている可能性が高い。ただし、ASTは肝臓だけでなく心臓の筋肉や骨格筋などにも存在する。そのため、ASTの値が上昇すると、肝臓だけでなく、心臓や筋肉などになんらかの障害を負っている疑いがある。

現在のALT、ASTの基準値は、厚生労働省の「標準的な健診・保健指導プログラム」で決められている。保健指導判定値がALT、ASTともに「31」で、受診勧奨判定値がそれぞれ「51」となっている。

このALTに関しては2023年、大きな動きがあった。

日本肝臓学会が6月に奈良で学会を開催し、「奈良宣言2023 STOP CLD(Chronic liver disease:慢性肝臓病)」を打ち出した。そしてそこで、「健康診断でALTが30を超えた場合、かかりつけ医に受診を促す指標とする」と発表したのだ。

なぜ、51という数値を厳しくして、30にしようと考えたのか。そこにはこんな理由があるようだ。

肝臓病で代表的なのが肝がんだ。全国がん登録罹患データによると、日本の肝がんの罹患率は2016年に対人口10万人当たり33.7例だったが、それ以降減少し続け、2019年には同29.6例に低下している。

死亡者数は1990年代から急増し、2000年代中頃には約3万4000人に達した。その後は少しずつ減っていき、2022年の人口動態統計では「肝および肝内胆管のがん」の死亡者数は2万3621人となっている。

これは、この国の肝がんの最大の原因だった、ウイルスの感染によるC型肝炎に対する抗ウイルス治療が大きく進歩したためだ。

代わって台頭してきているのが、NAFLDやNASHである。

リスクの高い人を早期で見つける

奈良宣言ではウイルス感染とは別の指標となる「ALT30超」を、健診の肝機能検査項目での具体的な目安として打ち出して、慢性肝臓病、ひいては発がんリスクの高い患者をいかに早期に見極め、効果的な対策にしようとした、というわけだ。

髙見医師も「私が臨床現場についた頃、肝がんといえばB型やC型のウイルス感染が主な原因で、肝がん患者の7割がウイルス性肝炎だった。ところが、2000年初頭頃から、脂肪肝を由来にした、私たちは“Non-B・Non-C”と呼んだりしている肝がん患者さんが急速に増えている」と話す。

そこで、健診の血液検査でALT30超という指標を設定して、患者をスクリーニング(ふるい分け)し、必要であれば早期に治療を開始して、肝炎や肝硬変、さらには肝がんの予防をしていこうという学会の方針には納得感がある、という。

要するに、「肝臓を守るには、肥満や糖尿病を予防する、あるいはしっかり治して体重や血糖値が適切な状態を維持していくということが肝心」ということだ。

その医学的な根拠はどこにあるのかというと、今から、約10年あまり前にさかのぼる。

日本肝臓学会と日本糖尿病学会が2012年に合同委員会を設置して、糖尿病とがんの罹患リスク調査を開始した。糖尿病と肝がんを含めた肝臓病との関連性を、エビデンス(科学的根拠)で示そうという取り組みだった。

その後、両学会は2021年5月、合同委員会での研究結果を報告書にまとめた。

報告書には、糖尿病罹患によるすべてのがんの罹患リスクは1.2倍になり、臓器別では肝がんが1.97倍、膵がんが1.85倍、大腸がんが1.4倍の順にリスクが高かったとした。また、近年はウイルス性肝炎を合併しない肝がんが急増しており、その背景には肥満・糖尿病患者の増加があると結論付けた。

18センチの肝がんを発見

肝がんは血液検査で異常値が出てくるのも遅く、早期発見が難しい。

髙見氏が遭遇した過去最大の肝がんは、18センチにも及んでいたという。ただ、さいわいこの患者さんは肝がんの場所や肝機能の状態が良かった。おかげでそれくらいの大きさでも切除ができたうえ、その後の経過も良好とのことだ。

だが、一般的にいうと肝がんは外科的手術で切除しても再発率が高く、1年で約3割、5年で約7割が、肝臓のほかの場所に局所再発するといわれる。それは多くの場合、肝硬変を経て肝がんになるので、肝臓全体がダメージを受けているためだ。10年生存率を見てみても、5年後以降も下がり続ける傾向にある。

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一方で、NAFLDやNASHなど、“Non-B・Non-C”の肝がんは再発率が比較的高くなく、多発するケースも多くないという報告が聞かれ始めている。

髙見氏も「まだデータが集まっていないので明確には言えない」と断ったうえで、「“Non-B・Non-C”の肝がんは、多発する症例が少なくて、単発で切除すれば再発率が少ないという印象がある」という。

早期であれば治せる可能性も

そうなると、早期に発見して切除すれば再発しにくい、つまり治せるがんの可能性がある。

かつてウイルス性の肝炎をフォローしていたように、リスクの高い人たちを見つけて定期的に見ていけば、効果的に予防ができる。

そのリスクとは、例えば、糖尿病予備軍や、ウエスト周囲径が男性85センチ/女性90センチ以上で、血圧や血糖、血清脂質のうち2つ以上が基準値を外れている、いわゆるメタボリックシンドロームとされる人で、こうしたリスク群をフォローすることも、肝がんの予防、あるいは早期発見に有効だ。

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肝臓には主に、私たちの生命活動に不可欠な「代謝」「解毒」「胆汁の生成」という重要な働きがある。これらの大事な役割を担う肝臓の健康を守るために、アルコールの過剰摂取をさけるだけではなく、肥満や糖尿病予防にも心がける必要があるだろう。

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提供元:肝機能の検査値、今は「ガンマGTP」だけ見てもダメ|東洋経済オンライン

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