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2023.11.07

「菜食主義は疲れやすい」が嘘でない医学的理由|20~49歳「日本女性の3割」は"かくれ貧血"?


なぜだかイライラしたり、年中疲れが抜けないのは「かくれ貧血」が原因かもしれません(写真:アン・デオール/PIXTA)

なぜだかイライラしたり、年中疲れが抜けないのは「かくれ貧血」が原因かもしれません(写真:アン・デオール/PIXTA)

日々診療を行っていると、感染症ではなく血液検査でも異常はないのに、年中疲れが抜けなかったり、原因はわからないけれどイライラしたり、といった症状を訴える女性が非常に多い。

私の診療経験上、そういう場合は「かくれ貧血」を疑ってみるといい

20〜49歳日本女性の3割は「かくれ貧血」

いわゆる「貧血」は、血中の鉄成分「ヘモグロビン」の値を見て、男性は13g/dL以下、女性は12g/dL以下を基準に診断される。ヘモグロビンは酸素を繋ぎ止めて全身に運搬する役なので、ヘモグロビンが少ないと全身が「酸欠状態」に陥る。貧血のさまざまな症状は、この酸欠から引き起こされると言っていい。

これを踏まえて「かくれ貧血」とは、血液検査では貧血と診断されないが、実際には「鉄欠乏」状態にある人たちである。実は、生殖年齢にある日本女性のおよそ3割は「かくれ貧血」だ。

かくれ貧血の指標は大まかに言って2つある。1つは、血液の酸素運搬能力を示す「総鉄結合能」(TIBC)だ。

血中の鉄はトランスフェリンというたんぱく質に結合した状態(血清鉄)で存在していて、TIBCはトランスフェリンと結合できる鉄の総量を示す。鉄が不足すると、体はトランスフェリンを頑張って増やし、鉄が結合しやすい状態をつくろうとする。結果として鉄欠乏だとTIBCの値が上がることになる。

日本最大の検査会社SRL社の基準値では、女性のTIBCは246~410μg/dLが正常範囲とされている。400μg/dLを超える場合は、鉄欠乏状態と判断して差し支えなかろう。

SRL社の基準値 ※外部サイトに遷移します

実際、令和元年の国民健康・栄養調査では、TIBCが400μg/dLを上回る人の割合は、20歳代で19.5%、30歳代で28.7%、40歳代で29.8%にものぼった。ここには貧血治療をしている人は含まれていない。

つまり、20〜49歳女性の3割が鉄欠乏でありながら、放置されている。そして、貧血の人を含めれば、実際にはもっと多くの人が鉄欠乏ということになる。

国民健康・栄養調査 ※外部サイトに遷移します

鉄欠乏症の症状は、息切れ、頭のぼんやりした感じ、疲労、ふらつき、冷え症、動悸など、本当に多様で漠然としていて、鉄欠乏の決め手となる決定的な症状というのがない。不安やうつ、睡眠障害などの精神症状、さらには心不全など循環器疾病にも関連している。

放置される「疲れやすさ」「イライラ」の原因

そのため「原因不明の症状」、要するに「不定愁訴」としてまとめられ、鉄の補充によって治療可能であると認識されることが少ない。

先に鉄欠乏は要するに「酸欠」とざっくり書いたが、もうちょっと詳しく説明しておこう。

鉄はヘモグロビンの製造に使われる。ヘモグロビンは赤血球中のタンパク質で、肺で酸素を受け取って体のすみずみに届け、代わりに二酸化炭素をもらって肺に戻り、放出する働きをしている。のみならず鉄は、生命維持のために細胞内で行われる様々な化学反応の際に、触媒としても作用している。ホルモンの生成にも不可欠の微量元素だ。

だから、鉄不足は生命そのものの危機と言っていい。原因不明といって放置している場合ではないのだ。

一方、とりあえず使われなかった鉄は、「フェリチン」と呼ばれるタンパク質として、骨髄や肝臓に貯蔵される。

体内の鉄貯蔵量が低下すると、残りの鉄は心臓、脳、筋肉の機能を犠牲にして、赤血球の維持に振り向けられる。貯蔵されている鉄を使い切ると、ヘモグロビンを多く含む健康な赤血球を作ることができなくなり、貧血になる。

つまり、貧血まで行ってしまったら、それは体内の正常な生命維持機能が破綻した状態に他ならない。貧血、つまりヘモグロビンが低下して初めて医療機関を受診するようでは遅いのだ。

さて、これまで見てきたように、鉄は体の中で大きく3つの形で存在している。

●「機能鉄」=ヘモグロビン

●「輸送鉄」=血清鉄(トランスフェリンと結合)

●「貯蔵鉄」=フェリチン

かくれ貧血の指標としては、先のトランスフェリン関連の数値(TIBC)を見るよりも、フェリチンを見る方法が普及している。

ただしその基準値については、専門家の間でも議論が分かれている。

「かくれ貧血」を見つけるもう一つの方法

WHOが推奨する月経のある年代の女性の正常値はフェリチン15μg/L以上、かつヘモグロビン12g/dL以上だが、最近では、フェリチン30~50μg/L以上、かつヘモグロビン13g/dL以上を正常範囲とすべきとする研究者が増えている。要するに、従来の基準をギリギリ満たすだけでは足りない、ということだ。

私はいずれにせよ、法律の定める定期健康診断に、ヘモグロビン値(貧血)等だけでなく血清鉄、TIBC、フェリチンの3項目を加え、鉄欠乏の人を積極的に見つけて鉄補充をおこなうべきと考えている。鉄剤で鉄欠乏を改善するだけで慢性頭痛が改善した、といった例も、枚挙に暇がない。

成人女性の鉄欠乏率が高いのは、やはり月経に伴う出血が主な原因だ。

今年発表されたアメリカでの研究では、21歳までの女性・女児のおよそ17%が、WHOの基準値に基づく鉄欠乏症だった。さらに、フェリチンの基準値を50μg/Lと高くしてデータを分析すると、月経のある女性の77パーセントが鉄欠乏とみなされた。日本でも、状況は大きくは変わらないだろう。

アメリカでの研究 ※外部サイトに遷移します

今年、国際産科婦人科連合(FIGO)は、その歴史上初めて、「月経のあるすべての女性と女児は、貧血だけでなく、妊娠中以外も定期的に鉄欠乏症の検査を受けるべきである」という勧告を発表した。

勧告 ※外部サイトに遷移します

鉄欠乏にならないようにするには、月経のある年代の女性では1日15mg程度の鉄の摂取が望ましい。だが現状では、女性が摂っている鉄は平均7mgほどで、必要量の半分に過ぎない。

では、何をどれくらい食べたら必要量を満たせるのだろう? 100g中に含まれる鉄の量は、豚肉が13.0mg、鶏肉が9.0mg、牛肉が4.0mgである。卵は1個0.9mg、本マグロ80gあたり0.9mgだ。

菜食主義・ヴィーガンの男性も要注意

また、ビタミンCや酢、クエン酸、貝類に多いコハク酸などは、鉄吸収を促進するので、ぜひ一緒に摂りたい。一方、豆類・納豆に多いシュウ酸塩や、お茶などに含まれるタンニン、牛乳などに多いカルシウム、胃酸を抑える制酸剤などは、鉄の吸収を妨げるので、食べ合わせに注意したい。

なお、男性では鉄欠乏症はまれであり、鉄欠乏症が起こる場合は、胃潰瘍や大腸がんなど、消化管から出血するような基礎疾患の存在を疑うべきだ。もちろん、閉経後の女性も同様である。

ただし例外は、菜食主義者やヴィーガンの人だ。

食物中に含まれる鉄には、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」と2種類あって、肉や魚に含まれる「ヘム鉄」は吸収がよい。だから日本の平均的な、バランスのよい食事を摂っていれば、月経がない人は心配することはほとんどない。

他方、肉や魚を食べない人が十分な鉄分を摂取するのは困難だ。たしかに野菜にも鉄は含まれるが、ほうれん草は1/3束あたり2.0mg、小松菜は100gあたり2.8mg、ブロッコリー70gあたり0.7mgで、野菜だけで必要量の鉄を摂るのはかなり難しい。

しかも植物性食品に含まれる鉄は「非ヘム鉄」で、体にとっては吸収が難しい。要するにたくさん食べてもほとんど身に付かずに排泄されてしまうのだ。

女性と男性が互いの長所を生かし、共に活躍できる社会は理想的だ。ただ、女性には月経があり、男性と生物学的に大きな違いがある。鉄が欠乏しやすいせいで疲れやすかったり、 イライラしやすかったり、と様々な症状が出る。

医療者の意識改革も必要

しかし、鉄欠乏による症状は日本社会では過少評価されており、多くの人が治療を受けられず、放置されている。この状況が続くなら、女性がアクティブに活躍する社会の足を引っ張り、大きな社会損失に繋がるのではと、私は懸念している。

鉄欠乏に対する意識を変え、社会として治療を“あたりまえ”にする必要がある。

医療者の意識改革も必要だ。貧血で受診した方を鉄剤で治療するのはよいが、ヘモグロビン値が回復すると治療を終了してしまう。結局は大抵2年後くらいに再発し、また治療に通うことになる。その2年の大半を鉄欠乏の状態で過ごすことになる。

医療者は、女性の貧血が月経に起因し慢性的に治療が必要であること、貧血でなく鉄欠乏状態をも治療対象とすべきことについて、認識を新たにしなくてはならない。

また、鉄欠乏症に関する研究が不足していることも、診断できずに見逃され、多くの女性が健康を損ねる原因となっている。鉄欠乏の程度によりどのような症状が出現するのか、そして鉄補充が身体症状の改善やパフォーマンス向上に役立つのか、明らかにすべきだ。

女性の皆さんにはぜひ、健康診断や人間ドックを受診する際、フェリチンなど鉄欠乏の指標となる採血項目が含まれる検査機関を選択し、積極的にご自身の血液の“鉄加減”を調べてみていただきたい。

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提供元:「菜食主義は疲れやすい」が嘘でない医学的理由|東洋経済オンライン

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