2023.10.24
ひどい腰痛でも検査異状ナシ?驚きの「その原因」|レントゲン検査でも問題なし、いったいなぜ?
ひどい腰痛や高血圧、糖尿病、胃腸障害といった身体の不調が、実は脳過労と睡眠負債が原因だった、ということは珍しくありません(写真:Ushico/PIXTA)
多くの人が悩む「不眠」。なぜ眠れなくなってしまうのか。不眠は、どのような症状を引き起こすのでしょうか。日本認知症学会専門医・指導医 おくむらメモリークリニック理事長の、奥村歩氏の新著『スマホ脳・脳過労からあなたを救う 脳のゴミを洗い流す「熟睡習慣」』を一部抜粋・再構成し、お届けします。
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睡眠負債の先には生活習慣病が控えている!
睡眠負債は万病の元。睡眠負債の先には、高血圧や糖尿病、脳卒中、うつ病・MCI(軽度認知障害)といった、いわゆる「生活習慣病」が待っています。
ある患者さんの例を紹介しましょう。
Aさんは電気通信会社に勤めるサラリーマンです。元来、健康体だったのですが、今年になってから体調不良を訴えるようになりました。
まず、健康診断で高血圧と糖尿病を指摘され、薬を飲み始めました。さらに、胃痛や胃もたれで胃カメラ検査も受けました。検査の結果、胃には異状はなかったのですが、医者からは数種類の胃薬を処方されました。
加えて、ひどい腰痛に! 頑固な腰痛が続くため、近所の整形外科を受診しました。
そこでのレントゲン検査などでは、異状なし。しかし、その後も、鎮痛剤を服用しても、接骨院に通っても、痛みは一向に軽減しません。
当院を受診され、諸検査をしました。その結果、脳の前頭葉の機能が低下し、脳過労がさまざまな体調不良の原因になっていることが判明しました。私は「睡眠負債による身体表現性障害」と診断しました。
Dr.O「Aさんの、腰痛・高血圧・糖尿病・胃腸障害の根本的原因は、すべて同一犯人の睡眠負債の可能性があります。これらの体調不良は、すべて最近起こってきたのですよね?」
Aさん「はい」
Dr.O「睡眠負債によって、もっとも影響を受けるのは自律神経です。熟睡中に交感神経が沈静化し、副交感神経が活動するのです。Aさんは睡眠負債によって、交感神経優位・副交感神経劣位が継続しているのです。交感神経優位が高血圧や糖尿病の状態を引き起こし、副交感神経劣位は、胃腸障害を引き起こしているのです」
Aさんは、睡眠薬の導入によって体調を回復し、鎮痛剤・降圧剤・抗糖尿病薬・胃腸薬を中止することができました。その後、熟睡習慣の導入によって、睡眠薬も1カ月で中止できました。
症例のAさんのように、ひどい腰痛や高血圧、糖尿病、胃腸障害といった身体の不調が、実は脳過労と睡眠負債が原因だった、ということは珍しくありません。この脳過労や不眠が、身体の至るところで悪さをしています。
これらは万病の元。脳過労や睡眠負債が、血圧を上げ、自律神経を乱し、身体の痛みを引き起こしているのです。
このように、睡眠負債はさまざまな生活習慣病と密接に関係しています。例えば、腰の痛みやめまい、肩こりなどといった、一見、寝不足とは関係ないような症状も、眠れないことによって脳の疼痛(とうつう)調節機能が低下したり、自律神経の活動が不調になるなどで生じる場合があります。
睡眠負債が老後の認知症の発症を早める可能性も
睡眠負債は、まず、その初期段階で高血圧や糖尿病、不定愁訴、ストレスといった生活習慣病の原因になります。例えば、高血圧症と診断されている方の30~50%が不眠に悩んでいると言われています。
さらに、睡眠負債が改善されないままだと、脳卒中やうつ病などの引き金になり、やがては老後の認知症の発症を早めることにもなりかねません。
また一方で、生活習慣病の患者さんは不眠症になりやすいと言われています。睡眠負債が心身に与えるダメージだけでなく、生活習慣病が睡眠に与えるダメージを認識することも重要です。この両方がスパイラルになって、相互に悪影響を及ぼすようになると、病気は思わぬ速さで進行することもあるのです。
夜の睡眠が十分に得られないと、交感神経が昂ぶった状態が夜も続いてしまうため、夜間の血圧が下がらないばかりか、翌日の血圧がさらに上昇してしまいます。これが、睡眠負債が高血圧を引き起こしてしまう仕組みです。
睡眠負債による血圧異常で睡眠中の血圧が高くなると、血管に過度な負担がかかって傷ついてしまいます。通常、睡眠中の血圧が低いときに血管がその日に受けたダメージの修復が行われるのですが、睡眠中に血圧がしっかり下がらないと血管の修復が進みません。
不眠と真面目な気質が脳卒中リスクを高める
不眠や睡眠負債で眠れない日が長く続けば、脳卒中のリスクも高まります。
睡眠負債や不眠によって高血圧が長く続くと、動脈硬化が進行し、やがて脳の血管が詰まって脳梗塞になります。さらに高血圧の程度が強い場合は、脳の血管が破れて脳出血やくも膜下出血のリスクも上がります。つまり、睡眠負債によって眠れないことで起こる高血圧が脳卒中のリスクを高めているのです。
また、脳卒中のリスクとして、日本人の性格にも因果関係があると言われています。
脳卒中になりやすい人の性格はA型。これは血液型ではなくAggressive(アグレッシブ)のAです。A型の性格は「精力的、仕事熱心、せっかち、社交的」。
パワフルで自分の身体のことを顧みずに頑張ってしまう一方で、人の目を気にして、ストレスを抱えがちな面もあり、脳卒中になりやすい傾向があると言われています。
そうした性格といえば、長嶋茂雄さんや田中角栄さん、小渕恵三さんなど、スポーツ選手や政治家が脳卒中で倒れるというニュースを耳にする機会は少なくありません。
睡眠時間が短いと太る
「睡眠時間が短い人ほど太っている傾向がある」という調査報告があります。これは世界各地で、また大人でも子どもでも同様の傾向を示しています。これはどういうことなのでしょうか。
基礎代謝量を左右するのは「成長ホルモン」です。
そして成長ホルモンを最大限に出せるのは「眠り始めの3時間」の深いノンレム睡眠時なのです。ところが、不眠や睡眠負債が原因で深いノンレム睡眠をしっかりとれないと、成長ホルモンが出ずに、太りやすい体質になってしまうのです。
不眠が原因で起こる心身の不調には、例えば、頭痛やうつ状態、のどや舌の痛み、めまい、自律神経失調症、パニック障害などがあります。
こうした、具体的な異常がないのに起こる症状や、客観的に原因が特定できない症状が「不定愁訴」です。
脳過労が全身不調の真犯人!
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「不定愁訴」は、頭痛や肩こり、腰痛などという症状で現れます。
ところがこうした痛みは、本当に頭や肩、腰が悪いわけではなく、睡眠負債が溜まっているせいで脳が非常に疲れてしまって感じている痛み。
人の脳の前頭葉には痛みを手なずけるような働きがありますが、睡眠負債で脳過労になると前頭葉の働きが低下して、痛みや症状に対して逆に過敏になるのです。
具体的には、舌の痛みや手足のしびれ、発汗や吐き気など。さらには、動悸、息切れ、めまい、ふらつき、気分の落ち込みやもの忘れなどといった症状としても現れます。
不眠とうつの負のスパイラル
不眠症に悩まされている人が3年以内にうつ病になるリスクは約4倍、不眠状態が1年以上続いている場合は約40倍高まると言われています。
現代の不規則になりがちな生活サイクルも、不眠の引き金になっているでしょう。今や、日本人の5人に1人が睡眠に関して何らかの悩みを抱えており、10人に1人が不眠症に悩んでいるという調査報告も出ています。中年以降になると、その割合は高くなります。
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提供元:ひどい腰痛でも検査異状ナシ?驚きの「その原因」|東洋経済オンライン