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2023.08.29

専門医が教える「肝臓にまつわるウソ」と新常識|脂肪肝、アルコール…SNSで蔓延するウソホント


世の中で肝臓に関して言われていることには勘違いも多いようです(写真:MikeSaran/PIXTA)

世の中で肝臓に関して言われていることには勘違いも多いようです(写真:MikeSaran/PIXTA)

知り合いが肝炎や肝臓がんになったと聞いたとき、これといった根拠もなく、「ああ、お酒を飲みすぎたんだな」と思ったことはありませんか。昔から、お酒が好きな人は肝臓を悪くすると言われてきました。しかし、いま、肝臓治療の現場では、普段はお酒を飲まないという患者さんが増えています。

肝臓にダメージを与えるのはアルコールだけではありません。私たちは毎日、肝臓を酷使しています。肝臓は、栄養を蓄えたり、エネルギーに変えたり、有害物質を排出したりしています。これを「肝機能」といいます。肝臓は、私たちが生きていくうえで不可欠な臓器なのですが、残念ながら、肝臓に関する正しい情報は世間に浸透していないようです。

ここでは肝臓に関してよく言われている勘違いを、肝臓専門医の浅部伸一先生の近著『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』から引用・再編集して紹介します。

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「脂肪肝」に関する誤解

肝臓の常識のウソ(1) 脂肪肝の原因は脂の摂り過ぎ?

「脂肪肝」と聞くと、病名に「脂肪」が入っているためか、食事での「肉の脂身や食用油の摂りすぎ」が原因だと思っている人が多いようです。これは誤解です。脂肪や油の摂りすぎが脂肪肝の主な原因ではありません。

食べた肉の脂身や食用油に含まれた脂肪で肝臓まで入ってくるのは、肝臓に蓄積される全脂肪の15%ぐらいです。食事で摂る脂肪の占める割合は大したことありません。だから、「トンカツは大きな脂身を切り落としたうえで、揚げずに焼く」「パンにはバターは控えてジャムを塗る」など、気をつかっても、あまり意味はないといえるでしょう。

脂肪肝の原因になる食材は、脂肪だけではありません。「糖質」も脂肪肝の原因になります。糖質は体の中に取り込まれると、ブドウ糖という形に変わって体内の細胞に取り込まれます。ブドウ糖は、肝臓の代謝機能によってグリコーゲンという物質に作り変えられ、肝臓と筋肉に貯蔵されます。

「ご飯大好き」「スイーツ大好き」という人は、糖質を必要以上に体内に取り込むことになります。そうなると、肝臓に蓄えられたグリコーゲンもどんどん増えていきます。ところが、困ったことに、肝臓はそれほど多くのグリコーゲンを蓄えておくことができません。そこで、肝臓は多すぎるグリコーゲンを「中性脂肪」に作り変えます。食事で油をあまり取らなくても、糖質をたくさん取っている人が太る(=脂肪が増える)のはそのためです。

そして、脂肪は血液に乗って体中をめぐるのと同時に、肝臓にもしっかり居座って、肝細胞一つひとつにたまっていき、それが脂肪肝になっていきます。スイーツをはじめ糖質の多いものを食べすぎていると、脂肪肝がたまり、正常な肝臓の細胞を圧迫して、肝臓の機能を落としていくのだと覚えておいてください。

肝臓の常識のウソ(2) 脂肪肝は肝臓の外側に脂肪がくっついた状態?

「内臓脂肪」が胃や腸などの「臓器の周囲につく脂肪」のことだと知っている人は、脂肪肝もまた、肝臓の周囲に脂肪がべっとりまとわりついた状態なのだろうと想像するかもしれません。これも誤解です。

「脂肪肝」とは、肝細胞(肝臓を形成している細胞)に脂肪がたまる病気です。内臓脂肪のように肝臓のまわりに脂肪がくっつくのではなく、肝細胞の一つひとつの中に、水滴のような形で脂肪がたまるのです。

脂肪と聞くと、豚肉の白くて硬い脂身などが思い浮かびますが、あの見慣れた脂身は、脂肪の温度が下がり、固体に変化した状態です。人間も含めて、生きている動物の脂肪はもっとずっと柔らかく、内臓脂肪もゲル状です。体温で溶ける良質のバターのようなものだと思ってください。脂肪肝の脂肪も同じように、粘性はありますが、柔らかいものです。肝細胞の中に、ぷよんぷよんとした水滴のような状態で存在しています。

女性は更年期で体質が変わる

肝臓の常識のウソ(3) 脂肪肝は男性がなるもの、女性でなる人は少ない?

NASH(非アルコール性脂肪肝)になるのは、若い人では男性が多く、最近では女性が多くなっています。女性は特に閉経後に増えます。これは、女性ホルモンのエストロゲンが影響していると思われます。

エストロゲンには、体内の炎症を起こりにくくしたり、内臓脂肪をたまりにくくしたり、筋肉をある程度維持したりと、よい作用がたくさんあります。それが閉経とともに全部なくなってしまうわけです。そのため高齢女性は、炎症を伴うNASHになるリスクが高まると言われています。

そもそも男性は女性よりリスクが高いのですが、閉経後の女性は、体質が男性に近くなっています。更年期を迎えた女性は、若い頃とは根本的に体質が変わるのだと考えてください。若い頃と同じように食べていれば、脂肪肝になるのはあたりまえです。とくに更年期や閉経後に急に太った女性は要注意。思い当たる人は検診を受けましょう。

肝臓の常識のウソ(4) 肝臓が弱っているときはレバーを食べるとよい?

「肝臓が悪ければ、レバーを食べればいい」などと聞いたことがあるかもしれません。悪い内臓と同じ部位を食べるといいというのは、「同物同治(どうぶつどうち)」といって、東洋医学に根ざした考え方です。

たしかに、レバーは栄養価が高く、しかも低カロリーの優秀な食材です。たとえば豚肉のレバーにはビタミンAが多く、葉酸やビタミンB1・B2・B12も豊富です。けれど、それらの栄養素はほかの食材でも摂ることができます。

むしろ、肝臓が悪い人はレバーの食べすぎに注意してください。なぜなら、レバーには鉄分が多く含まれているからです。特に不足していない人が鉄分を取りすぎると、体内で炎症が起きることがあります。そして、その炎症は、特に肝臓で起きることが多いのです。

肝臓の常識のウソ(5) 酒飲みは「休肝日」をつくるべき?

「週に1日は休肝日をとりましょう」と聞いたことがあるかもしれません。そうかと思うと、「週に2日は休肝日を」と説く本や、「休肝日なんていらない」と主張する専門家もいます。いったい、何が正しいのでしょうか。

問題は、「アセトアルデヒド」という有害物質です。お酒を飲むとアルコールの成分はすぐに腸で吸収され、血液中に入ります。その9割は肝臓の代謝機能で分解されます。肝臓で分解されたアルコールがアセトアルデヒドに変わります。そのあと、アセトアルデヒドは水や二酸化案素などに分解され、やがて体の外に出て行きます。

体内にアセトアルデヒドが長時間あると、二日酔いや悪酔いの原因になるのですが、このアセトアルデヒドを分解する時間は人によってかなり違います。

「お酒に強い人」=「肝臓が丈夫な人」という誤解

アセドアルデヒドを分解する能力は、生まれつき高い人と低い人がいます。分解能力の高い人は、いわゆる「お酒に強いタイプ」、分解能力が低い人は「お酒に弱いタイプ」、その中間が「そこそこ飲めるタイプ」です。3つのうちのどのタイプなのかは遺伝で決まります。日本人の約1割は「弱い」タイプだと言われています。

ところで、ここが大切なポイントですが、「お酒に強い人」「そこそこ飲める人」=「肝臓が丈夫な人」というわけではありません。お酒が強い人でも大量に飲み続けていれば、アルコール性肝障害や肝硬変になる可能性はあります。

大切なのは、体内のアセトアルデヒドをなるべく早く分解すること。そのためには、お酒を飲みすぎないこと、つまりお酒の「総量規制」が必要です。肝機能を下げないために、どのタイプの人も「適量」を、それも時間をかけて飲みましょう。毎日大酒を飲む人なら、ときには休肝日を設けるのもいいですが、肝臓を「休ませる」よりも、「適量」でやめておくのを心がけましょう。

では、「適量」とはどのぐらいの量でしょうか。厚生労働省は「一日20g(純アルコール換算)」を適量としています。ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合、ワインなら2〜3杯に相当します。

ただし、前述したように、アセトアルデヒドの分解能力には個人差が大きいので、「適量」にも個人差があるということになります。「二日酔いしない」「気分が悪くならない」「悪酔いしない」ことを「適量」のひとつの目安にしてください。

肝臓の常識のウソ(6) 肝炎になったら一生治らない?

ウイルス性肝炎には、A型からE型まであります。ABCDEというのは、ウイルスの種類です。見つかった順に付けられた名前で、ウイルスのタイプがそれぞれ違います。D型は日本ではあまり見られません。

結論からいいますと、「一生治らない」というのはウソです。ウイルス性肝炎の研究は日進月歩で進んでいます。治りにくいタイプでも、かなりよい薬が開発されています。患者さんの数は非常に多く、けっして他人事ではありません。くわえて、肝炎に限らず、ウイルス性の病気の患者さんが理不尽に差別されるケースもありますから、ぜひ最新情報と正しい知識を共有してほしいと思います。

まずは医師に相談

では、タイプ別にみていきましょう。まず、A型とE型は食べ物で感染します。いってみれば食中毒のようなもので、特殊なケースを除き、たいていの場合は慢性化する心配はなく、普通は治ります。ただし、まれに劇症になって死亡する人もいます。

A型は魚介類からの感染が多く、E型はレバ刺しのような「生の肉」から感染します。A型もE型も、きちんと処理されていない魚介類やホルモンは生焼けで食べないなど、自分で注意して防ぐことができます。

B型とC型は、ウイルスに感染している人の血液を介して感染します。まだ学校の集団接種で予防注射の針を使い回していた数十年前のことですが、たくさんの人がウイルスに感染して社会問題になりました。たとえば、ピアスの穴をあけるときでも、他人に使われた針を消毒して使わなければ、感染する可能性があります。それより危険性が高いのは、タトゥー(入れ墨)です。しかし、衛生観念が高まった今では、どちらもほとんどなくなりました。

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現在でも、B型とC型を合わせて100万〜200万人も患者さんがいるのですが、よい薬が開発されてきたので、患者さんはどんどん減っています。とくに、C型肝炎は完治する薬ができたので、かなり安心です。副作用がほとんどなく、2カ月も飲み続ければウイルスが消えます。将来、C型肝炎で亡くなる人はいなくなるでしょう。残念ながらB型のほうは、完治できる薬がまだありませんが、それでもいい薬はあります。

B型もC型も、衛生管理が行き届き、治療薬の開発も進んできた現在、かつてのように怖がる必要はもはやありません。とはいえ、肝臓がんにつながることもある危険な病気であることは確かです。しかも、厄介なことに、感染者の8割にまったく自覚症状がないので、本人も知らないうちにウイルスに感染し、そのまま肝臓にウイルスが潜んでいるという人が少なくありません。

肝炎ウイルス検査を受けたことがない人は、一度でいいので検査に行ってください。市区町村や職場の健診で無料で受けられます。検査を受けて、もしもウイルス性肝炎だとわかったら、すぐに専門医に相談してください。肝炎の人は「高タンパク食品を」とアドバイスしている本などもありますが、まずは専門医を受診すること。食事は二の次だと思ってください。

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提供元:専門医が教える「肝臓にまつわるウソ」と新常識|東洋経済オンライン

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