2023.08.12
「加齢で記憶落ちた」嘆く人が知らない意外な真実|「結晶性知能」を使い、成長し続ける脳をつくる
加齢で記憶力が衰えるのは当たり前と思い込んでいませんか?(写真:jessie/PIXTA)
耳馴染みのない専門用語、難解な公式、膨大な英単語、数分間のスピーチ原稿やプレゼンの台本、複雑な歌詞やセリフ、何人もの顔と名前……。
大量に覚えなければいけない課題やテキストを前に圧倒され、絶望した経験が皆様にもあるかもしれません。そんな方にオススメしたいのが「A4・1枚記憶法」。
A4・1枚の「魔法のシート」に書くだけで、覚えにくいものも大量に記憶できる画期的なメソッドです。
考案したのは、記憶力日本一を6度獲り、日本人初の「世界記憶力グランドマスター」の称号を得た池田義博氏。
池田氏は、40代半ば「ド素人」の状態からたった1年で記憶力日本一になりました。
その体験から生まれた「超効率的なシート学習法」をまとめたのが新刊『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』で、同書は発売後たちまち重版がかかるなど、大きな話題を呼んでいます。
以下では、その池田氏が「加齢が記憶力に与える好影響」について解説します。
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年をとると「もの覚え」が悪くなる?
「社内で突然DX化が進んだけれど、新しいことなんて今さら覚えられない」
「リスキリングの話を見聞きするたびに、心配になる」
これらはいずれも、加齢による記憶力についてのお悩みといえます。
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確かに、お気持ちはよくわかります。
「年をとったから物覚えが悪くなった」「年齢を重ねると記憶力も衰えて当然」などと意欲を失ったり、不安になったりしている方は多いものです。
ですが、それは単なる思い込みに過ぎません。そんな誤解は早く解き、年を重ねることをポジティブに捉えていきましょう。
なぜなら「年をとってもの覚えが悪くなった」という先入観こそが、記憶力を低下させていることも多いからです。
アメリカのタフツ大学のアヤナ・トーマス博士らによる実験をご紹介しましょう。
実験では、「18~22歳の若者の群」と「60~74歳のシニアの群」に、それぞれ単語の記憶力テストを行いました。
そのテストとは、被験者らに単語リストを見せた後に別の単語リストを見せ「どの単語が元のリストにあったか」を当ててもらうものです。そこで驚くべき結果が出ました。
「これは、ただの心理実験である」と説明したときには、両群の正解率は約50%でほぼ同じでした。しかしテスト前に「これは記憶実験で、高齢者のほうが成績が悪い傾向がある」と知らせておくと、シニアの群だけ、正解率が約30%にまで低下したのです。
この結果から「高齢者は覚えが悪い」という事前の刷り込みで記憶力が下がったのだろうと推察できます。
要は思い込みや先入観が意欲を損ねた結果、記憶力まで低下させたというわけです。なんともったいないことでしょうか。
「40代から記憶力が衰える」わけじゃない
自分の例で恐縮ですが、私は「記憶力を含めた認知機能が低下する」とされる40代半ばから記憶競技をはじめ、記憶力日本一の座を6回も獲得しています。
具体的に言うと、44歳で記憶術と出会い、わずか10カ月のトレーニングで「記憶力日本選手権」で優勝したのです。
ライバルたちの顔ぶれは、東大生やMENSA会員(人口の上位2%のIQを持つ人たち)など、そうそうたる面々。もちろん20~30代を中心とした私より若い人たちです。
「44歳の人間が若い人たちに勝てた」という事実こそ、「年齢とともに記憶力は落ちる」という説を反証しているでしょう。
さらにいうと私は、記憶や学習に取り組む際は「年齢を重ねるほどメリットがある」とすら考えています。
その科学的根拠を挙げておきましょう。
そもそも学習に必要な「知能」とは、「流動性知能」と「結晶性知能」に二分されます。
若い時にピークが訪れる「流動性知能」、そして経験や学習によって、20代以降も上昇を続ける「結晶性知能」です。これらの概念は、アメリカ・ハワイ大学教授のレイモンド・キャッテル教授が提唱したものです。
「流動性知能」とは、新しい情報を獲得し、それをスピーディーに処理、加工、操作する知能を指します。
計算力、抽象的な思考力、IQ(知能指数)などが当てはまります。いわゆる受験テクニックに反映されるような知能のことです。25歳頃にピークとなり、65歳前後で低下が見られます。
情報の蓄積量の多さが有利に働く
一方「結晶性知能」とは、経験や学習などから獲得していく知能を言います。
言語力に強く依存するもので、知恵、洞察力、理解力、表現力、批判力、応用力、創造力などが当てはまります。経験や学習によって20歳以降も上昇をつづけ、高齢になっても安定しています。
両者の違いを、「計算」を例にして説明してみましょう。
若い学生と高齢者が、足し算や引き算などの単純な計算問題を解く〝速さ〟を競った場合。深い知識や理解は不要であるため、若い人がおそらく勝つでしょう。
一方、経理の計算で勝負をするとどうでしょう。
学生も高齢者も、経理の作業は未経験だとします。
資料を渡され「利益を計算しなさい」と言われたら。
高齢者は、それまでの社会経験などを活かして、何とか取り組むことができるはずです。しかし社会経験のない学生は知識がないため、混乱することが予想されます。
つまり、反射神経を必要とするような計算問題を解くのは流動性知能の範疇、経理作業のような経験も求められる作業は結晶性知能の範疇なのです。
「年齢を重ねるほどメリットがある」とお伝えした理由がおわかりでしょうか。
私が6回目の「記憶力日本一」を獲得したのは、すでに51歳のとき。2位は大学4年生、つまり22歳の青年でした。22歳に51歳が勝てた理由は、結晶性知能の差であることに間違いありません。
その理由について、より深く考えてみましょう。
記憶のコツとは、抽象化です。抽象化とは、新しい知識と、脳内にある既存の知識を組み合わせて再編集し、新しい考え方を生み出すことです。
「このシチュエーションは、既に経験した」
「この語呂合わせには、あのネタが使える!」
つまり、既知の情報に、新たな情報を紐付けていく作業が求められるため、頭の中に蓄積された情報や語彙が多いほうが有利だったというわけです。
さあ、ミドル世代もシニア世代も記憶や学習を臆せず続けてください。
「やってみたい」「学びたい」「覚えたい」「成長したい」という動機は記憶力を磨いていく際の土台となります。「ここまでやってきた自分なのだから、できるはず」と前向きに取り組んでみてください。
記憶力の低下を年齢のせいにするのは、お門違い。
周囲の意見やメディアの論調に惑わされることはありません。
あなたの脳の可能性を信じていきましょう。
感情を動かすことが最高のアンチエイジング
世界には「スーパーエイジャー」と呼ばれる人たちがいます。
スーパーエイジャーとは80歳を超えても脳の認知機能が20〜30代と変わらず、何事にも興味関心を持ち、挑戦し続けている人たちのこと。
その方々の脳は、他の人よりも感情にまつわる部位が発達しています。
感情豊かであることが、脳のアンチエイジングに繋がるというわけです。
冷静に立ち振る舞うことが常識と思われがちですが、脳の仕組みからいえば、大人こそ感情を存分に表現していくべきなのです。
あなたも、スーパーエイジャーを目指していきませんか。
まずは簡単なことからでかまいません。
道端に咲く花の美しさ、ご飯の美味しさ、お風呂の気持ちよさなど、日常にある感動に意識を向けてみてください。その繰り返しが、感受性を高め、興味関心を育ててくれるでしょう。
「仕事で忙しすぎて無理」という場合は、日常の中でビジュアルでイメージする癖をつけるのがおすすめです。
たとえば、タスクに取り組む際は、事前にそれをしている風景や自分の姿をイメージする。すると、単純に作業として処理するときよりも、感情が動きます。
それだけでも感受性を高めるよいトレーニングになりますよ。
脳を老けさせるのも、若々しく保つのも、その人の心がけ次第なのです。
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提供元:「加齢で記憶落ちた」嘆く人が知らない意外な真実|東洋経済オンライン