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2023.07.20

82歳で肺がん「たばこを禁止」にした家族の決断|和田秀樹さんが語る「80歳の壁」を越えてからの生き方


人生100年時代、「80歳の壁」を越えてからの生き方について(写真:Ushico/PIXTA)

人生100年時代、「80歳の壁」を越えてからの生き方について(写真:Ushico/PIXTA)

人生100年時代が叫ばれ、平均寿命も上がっています。ですが、老後資金の枯渇問題、健康や認知症といった老いへの恐怖などなど、不安を抱えている方は多いと思います。そんな暗雲垂れ込める人生100年時代をどう過ごしたいいのでしょうか?

30年以上の長きにわたり、高齢者医療に携わってきた医師の和田秀樹さんの著書『わたしの100歳地図』より一部抜粋し再構成のうえ、「80歳の壁」を超えてからの生き方について語ります。

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不安、心配事のない人などいない

多くの人は、年齢を重ねることに相関して「老い」への不安や心配事が増えてくるものです。ところが、不安や心配事を相談したくても、一般的に日本の病院では、病名がついてないと保険診療を受けることができないため、老いや老後の不安のために医師に相談し、診察を受けることはなかなか難しいのが現状です。

いままさに苦しくて、つらい症状があるから病院にかかるわけで、先の不安よりもいまの苦痛をなんとかしてほしいという人のほうが圧倒的に多いので、医師や病院が不安の解消まで手が回らないのは当然のことと思います。

それではシニア向け自費診療のクリニックはどうかというと、多くは若返りと老化予防のケアがメインとなるアンチエイジング治療を中心にしているため、先々の不安、心配事についての相談はなかなかしにくいものがあります。

わたしも長い間、高齢者をはじめ多くの方の診察をしてきましたが、患者さんの口から直接、先々の不安についての悩みを聞くことはあまりありません。しかし、語らずとも多くの患者さんに不安や心配事があることはわかります。

養老孟司先生と対談したときのことです。

「ぼくは世の中、理屈どおりにいかないと思っているから、医者の言うことも聞かないんだよ」とおっしゃって、たばこをスパスパ吸っていました。

養老先生に限らず、かなりのヘビースモーカーでも100歳まで生きた人もいますし、逆に、たばこを吸わなくても肺がんになって死んでしまう人もいます。それは当たりくじのようなもので、自分が当たりくじ側にいて長生きするのか、はずれくじ側にいてがんになってしまうのかは、いまの医学では誰にもわかりません。

あくまでも、がんになるリスクの大きいものがなんであるかという話であって、「絶対」はないのです。ですから、たばこを吸うと気分がいい、ホッとするというのに、先々の不安や心配事から無理やりたばこをやめたりやめさせられたりしてイライラするくらいなら、気分のいいほうをとったらいいのではないでしょうか。

わたしの友人の祖父は82歳のときに肺がんが見つかり、医師には「もう手遅れで手術もできない」と言われ、家族には「がんが進行してしまうから、たばこはやめなさい」と取り上げられてしまいました。

それでなくても、がんと宣告されてショックを受けていたのに、そのうえたばこまで取り上げられてしまったので、「オレはもう死ぬんだ」と言って、うつ状態になってしまいました。

ある日、その老人はたばこが原因でがんになることがあっても、たばこのせいでがんが進行するわけではないと開き直りました。その老人は再びたばこを吸いだすと見違えるように元気になり、そのあともたばこを吸い続けて10年、92歳まで生きました。最期は肺がんではなく、脳出血で亡くなりました。

いつ死ぬかなんて誰にもわからない

わたしの血圧や血糖値、コレステロール値は、一般的に治療が必要とされる数値ですが、わたしは快適に暮らしていくため、自分なりに治療を受ける受けないを判断しています。これは自らのからだを使って人体実験をしているので、正直、何歳まで生きられるかはわかりませんし、70代、はたまた60代のうちに致命的な支障をきたしてしまうこともあるかもしれません。

しかし、80歳の壁を超えることができれば、なんらかの問題を抱えていたとしても、この80代もストレスなく愉快に生きられるはずだと思っています。なぜなら、一般的に「要治療」とされる数値であっても、自分の判断でどうするのか=対策を決めていますから、それに対する不安や心配事などないのです。

いくつまで生きられるか、それはわたしも含めて誰にもわかりません。これを心配しても始まりませんから、ただ自分の好きなことや楽しいと思えることを続けていくことが大切だと思っていますし、これは80代となっても変わらないはずです。

不安のことでもう一つ、大切な話をしておきましょう。

著名な政治家や会社の社長が、カッとなり暴言を吐いたことで失脚してしまうというニュースを聞くことがよくあります。そのことで多くの人が「簡単に怒ってはいけないんだ」と思ってしまっているかもしれません。ところが、そのようなことは日本では珍しいからニュースになるわけで、怒り感情をあらわにして地位を失う人は、実はそんなに多くありません。

逆に腹が立っているのに、うまく怒ることのできない人のほうが日本人には圧倒的に多いのです。それは、怒りの感情をあらわにして他人から嫌われるのがイヤだからという理由で、正しい感情のコントロールができていないからなのです。

それよりも問題なのは、企業の社長をはじめとする高学歴でかつ出世競争にも勝ち抜いてきた人が、いとも簡単に粉飾決算をしたり、リコール隠しをしたりして、結局のところ刑事罰を受けるような始末となることです。

業績や評判の悪化、株主たちの目を恐れる不安感情から善悪の判断がつかなくなっているからで、わたしのような精神科医の立場から見ると、このように怒りの感情よりも不安感情のコントロールができないほうがよほど怖いといえます。

人の目を気にするから不安にさいなまれる

ここでおもしろいエピソードを紹介しましょう。

以前わたしが出版した『不安に負けない気持ちの整理術』という、不安にまつわる本はあまり売れませんでした。一方で『感情的にならない本』『感情的にならない気持ちの整理術』という本は50万部と30万部のベストセラーになりました。

感情的になってはいけないと思っている人は多いのですが、不安感情のほうがもっと怖いものだと認識している人が少ないということをよくあらわしています。怒りも不安も気持ちをきちんと整理すれば、怒るべきところで怒ることができるし、不安に支配されて判断を誤ることもないのです。

わたしは2022年の秋、日本国内では新型コロナウイルス感染症第7波のただ中にオーストラリアへ行きましたが、そこでは誰もマスクをしていませんでした。日本では、室内でなくても誰もがマスクをしていて、その当時の日本のマスク着用率は85%以上と、世界各国に比べて突出していました。

日本にいると日本人だけが異常だということに誰も気づかないのです。テレビをはじめとするメディアが報道している情報だけでなく、実際に自分の目で見たことのほうがよりリアルな情報として正しいことが多いのです。

さらに高齢者は感染リスクや感染後の死亡率も高いとされて、ここ日本では高齢者をマスクどころか家や施設に閉じ込めてしまいました。海外では、高齢者も当たり前のようにマスクを外して自由に行動しています。コロナ感染を怖がって家に閉じこもり、皆がマスクをするからマスクをするのではなく、もっと外へ目を向けてみるべきです。

このように、不安感情は人の行動を制限してしまいます。不安を強く感じすぎると思考がゆがんでしまい、何をするにも縮こまって生活していくこととなり、人生そのものがとても苦しいものになってしまいかねません。

結局はなるようにしかならないのですが、とはいえ残念ながら人は不安感情を完全に払拭することはできません。とくに日本人は先々の不安を感じやすい傾向にあります。

「なるようにしかならない」

がんになったらどうしよう、認知症になったらどうしよう……考え始めたらキリがないほど不安材料が出てくると思います。実際は起こらないか起きてもささいなことがほとんどなのですが、なぜか多くの人が先々の不安を抱えて悩んでしまうのです。

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不安を少しでも解消する方法があるとすれば、実際に起こりえることを予測するのが有効です。人は、自分が知らないことや経験したことがないことで、不安になります。ですから、その不安の正体を突き止めることができれば、不安に振り回されることもなくなるはずです。

がんになるかもと思っている人は、自分ががんになったら、どこの病院でどんな治療を受けるか、認知症になるのが不安なら、介護保険を受給するための準備をするなどです。なるかならないか、誰にもわからないことに不安をもつのではなく、なってしまうことを前提にあらかじめ解決策を用意しておくことで、先々の不安はかなり軽減されることでしょう。

多くの不安を抱える高齢者を診てきたなかで、「なるようにしかならないのだから先々の不安、心配はいらない」というのがわたしの持論です。

そして、これは誰もが知っておいたほうがいいと思いますが、先のことを心配していい対策が見つけられるのならそうすればいいのですが、それが見つけられないなら心配なんてしないほうがいいのです。先のことは、誰にも予想がつきません。予想がつくと思っているのは、人間のおごり高ぶりです。

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提供元:82歳で肺がん「たばこを禁止」にした家族の決断|東洋経済オンライン

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