2023.06.21
【シミ】薬が効く肝斑、レーザー治療がNGな理由|紫外線のほかにもある、悪化させる行動とは
シミ全体の3割を占める「肝斑」のメカニズムと治療法について紹介します(写真:shironagasukujira/PIXTA)
顔などにいつの間にかできてしまう「シミ」。一口にシミと言っても、実は症状や原因によっていくつかの種類がある。例えば、30~40代の女性で目のまわりや両頬に左右対称のシミが広がっていたなら、それは肝斑(かんぱん)かもしれない。
他人からはほとんどわからない程度のシミであってもひどく気になってしまう人もいるように、シミへの思いは千差万別だ。皮膚科専門医で近畿大学病院皮膚科非常勤講師の山本晴代医師に、肝斑を中心にシミの原因やメカニズム、治療法などについて聞いた。
そもそもシミとはなんだろうか。
一般的には“シミ=メラニンが肌に沈着した状態”とされる。メラニンとは、表皮と真皮の間の基底層に存在する色素細胞(メラノサイト)が作る色素のこと。紫外線や摩擦など、肌にダメージを受けたときに作られる。本来、紫外線による肌の傷害から肌を守る役割を担っており、人間にとってなくてはならない大切なものだ。
シミの半数以上は老人性色素斑
「シミにもさまざまな種類がありますが、半数以上は“老人性色素斑”です。境界がはっきりしていて、丸く茶色っぽくなっているのが特徴で、男女問わず40代以降なら誰でもできます。顔に限らず、手の甲や前腕など、紫外線を浴びやすい部位にできます」と山本医師。
老人性色素斑の主な原因は、過剰に産生されたメラニンが、表皮内に蓄積してしまうことだ。
紫外線などの刺激によって表皮の一番下の基底層で作られたメラニンは、通常は肌のターンオーバー(新陳代謝)により表皮上部へと押し上げられて、やがて排出される。ところが、加齢などでターンオーバーの周期が長くなると、メラニンの排出が遅れる。その結果、メラニンが表皮に蓄積してシミになるというわけだ。
老人性色素斑の次に多いのが“肝斑”で、シミ全体の約3割にのぼる。
肝斑は30代以降の女性の顔にできやすいシミで、境界がはっきりしない淡い褐色の色素沈着が左右対称にできるのが特徴だ。女性ホルモンとの関連が指摘されていて、妊娠やピル(経口避妊薬)の内服をきっかけに発症することも少なくない。
実際、多くの女性を悩ませているのは肝斑だ。顔に突如、出現するため、気になりやすいということもあるだろう。
「肝斑患者の42%が“妊娠をきっかけに発症した”とする海外の文献もあります。はっきりしたメカニズムはわかっていませんが、妊娠やピルの内服などをきっかけに、女性ホルモンによりメラノサイトが活性化されてメラニンが増加し、肝斑が生じると考えられています」(山本医師)
ただ、女性ホルモンだけが原因ではないともいう。
紫外線、寝不足などの生活習慣の乱れ、ストレス、過度な洗浄やマッサージなどの物理的な刺激も要因となる。「シミを隠そうとして何度もファンデーションやコンシーラーをこすりつける人もいますが、そうした肌への摩擦も悪化につながります。コロナ禍では連日のマスクの刺激によって悪化するケースが増えました」と山本医師は注意を促す。
ヒゲのように口まわりにできる型も
肝斑はシミができる場所によって、主に以下の4つの型に分かれる。
山本医師への取材を基に筆者作成
このうち最も多いのは頬骨にできるタイプだが、いくつかのタイプが組み合わさっていることもある。口のまわりにできるケースは割合としては高くないが、まるで鼻の下にひげが生えているかのような印象を与えるケースもあり、患者さんの悩み度は高い。
「『これも肝斑なんですか?』とびっくりされる人もいます。このように一般にイメージする肝斑とは異なるタイプもありますので、気になる症状があれば、皮膚科医に相談してください」と山本医師は話す。
先に挙げた老人性色素斑(いわゆる一般的なシミ)と肝斑が大きく異なるのは、その治療法だ。
「老人性色素斑はレーザー治療や光治療などで効果が認められることが多いですが、肝斑は注意が必要です。不適切な設定でレーザーや光治療を行うことで、肝斑が悪化し、余計に濃くなってしまうこともあります」(山本医師)
したがって、治療の基本は色素沈着を抑制する作用があるトラネキサム酸とビタミンCの内服だ。まずは2カ月をめどに内服する。
「効果が現れるのが2カ月目ぐらいからで、『肌のトーンが明るくなった』『くすみが減った』と話される患者さんが多いです。半年ほど続けると60~80%程度の患者さんに改善効果が見られます。肝斑は完全には消えませんが、メイクで隠れる程度に薄くなります。ご本人が満足されれば、そこでおおむね治療は終了です」(山本医師)
山本医師への取材を基に筆者作成
治療では塗り薬も使われることがある。メラニン色素の産生を抑え、シミを薄くする効果のあるハイドロキノンや、皮膚のターンオーバーを促進するトレチノインなどだ。
ただし、これらの治療はあくまで美容目的であることから、保険診療ではなく自由診療となる。
ほかにも注意点がある。内服薬のトラネキサム酸は妊娠・授乳中や、ピル内服中には原則、使えない。血栓ができやすくなり、血栓症のリスクが上がるためだ。高血圧、脂質異常症、糖尿病などで血栓症のリスクが高い場合も注意が必要だ。
「これは市販のトラネキサム酸配合薬(トランシーノなど)を使う場合も同様です。ピル内服中の人や妊娠の可能性がある人は、かならず薬剤師に相談しましょう」(山本医師)
こうした治療でも改善が認められない場合は、肝斑に似た別の病気である可能性がある。その1つがあざの一種であるADM(後天性真皮メラノサイトーシス)だ。肝斑同様に30代以降、顔に左右対称に出現する。好発年齢も症状も肝斑とよく似ているため、皮膚科医でも鑑別が難しいことがあるそうだ。
「ADMが肝斑と異なる点は、色と形です。肝斑は茶褐色のシミが面状に広がりますが、ADMはグレーから若干青みを帯びた褐色のシミが、頬や額を中心に点状に集まって表れます。ただし、肝斑とADMが混在していることもよくあります」(山本医師)
ADMと肝斑は治療法が異なるため、やはり専門的な知識を持つ医師(皮膚科専門医)に見てもらったほうがいいだろう。
肝斑を作らないための工夫とは
紫外線に当たらなくてもできてしまう肝斑。防ぐ方法はあるのだろうか。
「まず大事なのは極力、肌を摩擦しないということです。洗顔はとにかく肌にやさしく、余計な刺激を加えないようにしましょう。洗顔料はスクラブ入りのものは避け、よく泡立ててやさしく洗います。クレンジングも指の腹でやさしくなじませる。洗顔後はタオルで肌をこすらず、水気を軽く押さえる程度にします」(山本医師)
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メイクの際も、シミを隠そうとファンデーションやコンシーラーで上から何度もこするのはやめたほうがいいという。山本医師が勧めるのは、重ね塗りをしないですむような、色付きのカバー力が高めのファンデーションだ。
肝斑はほかのシミよりも紫外線の影響で起こりにくいが、それでもやはり日焼け対策は必要だ。
(取材・文/石川美香子)
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近畿大学病院皮膚科非常勤講師 美容皮膚科レーザーチームリーダー
山本晴代医師
2004年近畿大学医学部卒業。同大学医学部附属病院皮膚科助教、PL病院皮膚科医長、近畿大学病院皮膚科医学部講師を経て、現在、近畿大学病院皮膚科非常勤講師として美容皮膚科レーザーチーム主任・リーダーを務める。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本皮膚科学会認定 美容皮膚科・レーザー指導専門医 、日本レーザー医学会レーザー指導医・専門医、日本抗加齢医学会抗加齢専門医。シミ、シワ、ニキビで悩む方向けにメディアを通して、正しい知識やスキンケア法などを伝える活動も行っている。
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提供元:【シミ】薬が効く肝斑、レーザー治療がNGな理由|東洋経済オンライン