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2023.05.02

日本人が持つ「太りにくくなる菌」効果が出る食品|最新調査でわかった「日本人とやせ菌」の関係


日本人が多く持つ「やせ菌」。ある食べ物や食べ方によって、その効果が発揮されるといいます(写真:takeuchi masato/PIXTA)

日本人が多く持つ「やせ菌」。ある食べ物や食べ方によって、その効果が発揮されるといいます(写真:takeuchi masato/PIXTA)

同じものを同じだけ食べたとき、ある人は太り、ある人は太らない、ということはよくあります。実は、その人が持つ「腸内細菌叢(腸内フローラ)」が、太りやすさに大きく影響しているのです。

腸と腸内細菌研究の第一人者の國澤純氏の新刊『9000人を調べて分かった腸のすごい世界』(日経BP)から一部抜粋・編集のうえ、日本人の体型を特徴づけている「やせ菌」について紹介します。

前回記事:「食べても太らない人」は太る人と腸内環境が違う

『9000人を調べて分かった腸のすごい世界』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

「食べても太らない人」は太る人と腸内環境が違う ※外部サイトに遷移します

「日本人の腸には“やせ菌”はいない」という大誤解

「デブ菌」「やせ菌」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。前者は太りやすくなる菌、後者は肥満を抑制する効果がある菌を指し、いずれもネット検索すると多様な情報が出てきます。

その中で、やせ菌としてよく紹介されるのが、「アッカーマンシア菌(Akkermansia muciniphila)」です。アッカーマンシア菌は欧米人、特にヨーロッパ人が多く保有する菌で、2021年には低温殺菌したアッカーマンシア菌が「肥満をコントロールする食用菌」として欧州食品安全機関(EFSA)に承認されました。

日本でも「アッカーマンシア菌が腸内にいるか調べるサービス」や「アッカーマンシア菌を増やすためにはどうしたらいいか」という記事も散見されます。

しかし、われわれの研究で調べた限り、日本人で「腸内細菌のうち、1%以上をアッカーマンシア菌が占める」という人は10%程度にすぎません。もともと腸内にいる菌であれば食生活を改善することで増やすことができますが、いない菌を定着させるのは至難の業です。

ただ、アッカーマンシア菌の保有率が高いヨーロッパ人はやせている人が多くて、保有率が低い日本人は太っている人が多い、というわけではありませんよね。つまり、このアッカーマンシア菌は多くの日本人の体質を特徴づける菌ではないということです。

もし腸内細菌叢を調べることがあって、アッカーマンシア菌が少なかったり、いなかったりしても、落胆する必要はまったくありません。実はわれわれの研究で、日本人にとってのやせ菌と見込まれる菌が見つかったのです。

日本人の「やせ」と「菌」の関係性

われわれ国⽴研究開発法⼈医薬基盤・健康・栄養研究所が明らかにしたのが、肥満や2型糖尿病を予防・改善する可能性がある新たな有⽤菌としての、「ブラウティア属」の「ブラウティア ウェクセレラエ(Blautia wexlerae)種」(以下、ブラウティア菌)です。

早稲田大学の竹山春子教授らと共同し、山口県周南市と連携して行った健常な人と糖尿病患者を比較した研究と、動物モデルを⽤いた検証、基礎研究によるメカニズム解析の結果をまとめて、2022年8月に『ネイチャーコミュニケーションズ』に発表しました。

近年、肥満や糖尿病の増加が社会問題になっていますが、⾷べすぎや運動不⾜などの⽣活習慣的な要因に加えて、腸内細菌の関与も⽰唆されてきました。

そこで、⽇本⼈の腸内細菌と肥満や糖尿病との関連について、ヒトを対象にしたデータ解析を⾏なったところ、ブラウティア菌が肥満や糖尿病リスクと「逆相関」する、すなわち、「肥満や糖尿病のリスクが低い人ほどブラウティア菌が多い」という知見を得ました。

その「抗肥満」「抗糖尿病」効果を検証するために、⾼脂肪⾷を与えて太らせたマウスにブラウティア菌を摂取させたところ、内臓脂肪の蓄積と体重の増加が抑えられました。また、高脂肪食を与えたマウスは糖尿病症状を示しましたが、ブラウティア菌の摂取によって糖尿病の症状も改善していました。

加えて、ブラウティア菌は、オルニチンやS-アデノシルメチオニン、アセチルコリンなど、代謝促進作用や炎症を抑制する効果のある物質をつくることも確認しました。

人間での有効性や安全性の検証はこれからですが、今回の結果から、ブラウティア菌が肥満や2型糖尿病を予防・改善する可能性があることが明らかになったのです。

「やせ菌」というと、体重や体脂肪がぐんぐん際限なく減っていく効果をイメージするかもしれません。しかし、ブラウティア菌を高脂肪食マウスに摂取させたら脂肪がつきにくくなった一方で、通常食のマウスにブラウティア菌を与えても体重変化などの影響がありませんでした。つまり、より正確にいうと、ブラウティア菌は「脂肪がつきにくくなる菌」、あるいは「太りにくくなる菌」です。

まさに、肥満を予防・改善して健康を維持する効果が見られたわけです。われわれの調査だと、このブラウティア菌が腸内細菌叢の1%以上を占める日本人は、9割にも及びます。

ただ、注意も必要です。ブラウティア菌の割合が腸内細菌の1%程度だとBMI値が高めの人もいます。6%以上になると、BMI値が標準体型か、やせ型に分類される人の割合が格段に上がるのです。つまり、「ブラウティア菌がいるから大丈夫」と安心してはダメで、ある程度の割合を占める必要があるといえます。

日本人のやせ菌「ブラウティア菌」を増やすには?

このようにお話しすると、「いったい、どうしたらブラウティア菌の割合を増やすことができるのか」が気になりますよね。

今のところ、一番効果があったのは、自分の食事内容を調べて、過不足を整えたときでした。特定の何かを食べるのではなく、摂取栄養のバランスを見て、「自分がとりすぎているものを減らして、足りないものを補う」。そうした「バランスを整える」ことが一番、効果があったのです。

これまで「○○だけダイエットはよくない」という話をしてきましたが、このブラウティア菌こそまさに、「○○だけダイエット」の対極にあるといえるでしょう。ちなみに、こうした栄養バランスのとり方は、多様な腸内細菌の活性化にもつながります。

なお、ブラウティア菌は、先に挙げた代謝促進作用をもつアミノ酸をつくって「やせ菌」として私たちの体に直接働きかけるだけではありません。短鎖脂肪酸の酢酸をはじめ、乳酸やコハク酸、さらには難消化性でんぷんのアミロペクチンも生み出します。ほかの有用菌と協調的に働いて、腸内環境の改善にも効果を発揮してくれます。

さらに最近の研究では、ブラウティア菌はビフィズス菌とも相性がよいことがわかっています。ビフィズス菌が母乳中のオリゴ糖から生み出す乳糖とフコースはブラウティア菌の好物で、結果としてブラウティア菌を増やすようです。

そうした効果も勘案すると、ビフィズス菌や乳酸菌などのヨーグルトに使われる菌とともに、ブラウティア菌も腸活に欠かせない新たな有用菌の一つだといってもよいのではないでしょうか。

われわれの食事調査では、厚生労働省や各自治体をはじめ多くの調査でよく使われる「BDHQ(簡易型自記式食事歴法質問票)」を使用しています。約1カ月間の食事を振り返りながら約80の質問に答えていくと、58種類の食品と100種類以上の栄養素の摂取量が算出されます。

もっともこれは調査のためなので、みなさんが自分の食事を見直す際は、ここまで多くの質問に答える必要はありません。厚生労働省の「食事バランスガイド」などを参考に、食事のバランスを振り返ってみてください。自身の食生活の、大きな傾向をつかめるはずです。

さらにくり返しチェックしていただければ、「どんな食事のときに、自分の体調はどうか」も見えてくるでしょう。

いろんなものを食べるといろんな菌が活性化する

より実践しやすい方法として、食品の品目ではなく、栄養素で考えることをお勧めします。五大栄養素の炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル(カルシウム、鉄など)を軸に、一食ごと、もしくは1日の食事のバランスを考えてみてください。くれぐれも、炭水化物は糖と食物繊維でできていて、白米で摂取できるのはおもに糖であることをお忘れなく。

大麦などの雑穀を加えたり、また、白米を冷まして食物繊維と同じ働きをする難消化性でんぷんを増やした状態にして食べるのが、腸内細菌のエサを増やす食べ方です。

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『9000人を調べて分かった腸のすごい世界 強い体と菌をめぐる知的冒険』(日経BP) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

腸内細菌の中には、ヒトには消化できないものを好物にする菌もたくさんいます。腸内には多様な菌がいますが、私たちがエサを与えないと活性化しません。

さらに、菌は単独ではなく分業制です。菌によって役割が違うので、様々な種類の菌が活性化するように、食物繊維だけではなく、食事全体での栄養バランスも整えることが大切です。

「バランスのよい食事」は大事だということはよく知られていますが、それには、腸内細菌に対する効果もあるわけです。様々な栄養素をしっかりとること。そして、ヨーグルトなどでビフィズス菌や乳酸菌を継続してとること。これこそが、日本人の腸内環境から見て合理的な食事のとり方といえるのではないでしょうか。

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提供元:日本人が持つ「太りにくくなる菌」効果が出る食品|東洋経済オンライン

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