2023.02.13
本当のところ「1日何歩」歩くのがベストなのか|害として報告されるのはほとんどが「けが」
「1日1万歩歩くと健康に良い」と言う人もいれば、「1万歩は歩きすぎだ」と言う人も。一体何が本当なのでしょうか(写真:プラナ/PIXTA)
健康に関する「ちまたでよく聞く噂」には実際のところ、どこまで科学的根拠があるでしょう。
例えばウォーキングは体に良いと一般的にいわれるところですが、歩けば歩くほど効果は上がるのでしょうか。NY在住・新進気鋭の専門医、山田悠史氏の著書『健康の大疑問』より一部抜粋、再編集して最新の知見を紹介します。
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歩数と死亡率の関連性は?
スマートフォンをお持ちの方にとって、歩数というのは活動度を容易に示してくれる身近な目安になっているかもしれません。歩数が多ければ多いほど健康につながりやすいというのであれば、「一駅手前で電車を降りて歩こう」なんて考えることもあるかもしれませんよね。 歩数に関しても、いろいろな噂を聞くのではないでしょうか。「1日1万歩歩くと健康に良い」と言う人もいれば、「1万歩は歩きすぎだ」と言う人もいます。
一体何が本当なのでしょう?
運動習慣がもたらす健康上の有益性は、多くの人にとってほとんど間違いのないものですが、歩くことは健康に好影響をもたらすのでしょうか。
そうした研究は実は数多く存在します。
代表的な一つとして、2020年にJAMA誌に掲載された研究を挙げることができます。
この研究では、平均約57歳の4840人を10年間ほど追跡して、歩数と死亡率の関連性を調べました。また、死亡率だけでなく、追加で心臓・血管疾患やがんによる死亡率との関連性も合わせて調べられています。
研究 ※外部サイトに遷移します
そのうえで、歩数と死亡率の関連性を評価してみると、次のグラフのような関連が見られました。とてもきれいな、わかりやすいグラフになっています。
JAMA 2020; 323: 1151–1160. を参考に作図
1万歩を超えたあたりからはカーブがフラットに
また、年齢別に見てみても、年齢に関係なく、この関連性が見られることがわかります。
このような関連性は、心血管疾患やがんの死亡率でも同様に見られており、これらの結果から、1日の歩数と死亡率の間には、少なくとも1万歩を超えるあたりまでは歩数が増えれば増えるほど、死亡率が低下するという関連性が確認できます。
一方で、1万歩を超えたあたりからはカーブがフラットになっています。
これはある程度の強度や量までいくと、運動には「天井」が存在するということを示唆しているともいえます。なお、この「天井」については、他の研究で繰り返し指摘されており、あくまで何事もバランスなのかもしれません。
ここで、研究結果を見慣れている方であれば、「とはいっても、よく歩く人ほど肥満が少なくて、実は肥満が死亡率と関連しているんじゃないの?」と考えるかもしれません。しかし、この研究では、歩数以外のさまざまな健康による影響が邪魔しないよう、 年齢や肥満、喫煙や飲酒、さまざまな持病などといった要因が、解析にあたって調整されています。よって少なくとも肥満に関してはあまりその心配はなさそうといえます。
もちろん、この研究で調整しきれていない持病などが影響を与えた可能性はあるでしょう。一つの研究で真実をすべて明らかにすることは難しく、このように必ず限界もあるのです。
また、この研究では興味深いことに、歩行の強度(スピード)の影響も評価の対象にしており、こちらのほうは、歩数で調整をすると、死亡率との関連性が見られなかったこともあわせて報告されています。どうやらスピードではなく歩数こそカギのようなのです。
ここでは、歩数と死亡率との関連性を主にご紹介しましたが、実はウォーキングを含む有酸素運動は、死亡率だけでなく、心臓の病気、高血圧や糖尿病、少なくとも8つのがん、アルツハイマー病を含む認知症の発症率低下との関連性も報告されています。
また、病気のリスクを「減らす」だけでなく、認知機能や睡眠、生活の質を「改善させる」効果も指摘されています。
ただし、これらの結果は、そのほとんどが比較的大規模な観察研究で示された「関連性」です。すなわち、運動をする傾向と病気の発症率の低下との間に関連があることまではわかっているものの、実際に「運動をしたから病気が減るか」という因果関係までは明確になっていません。
運動には「害」もある
一方、運動には「害」もあります。「害」として報告されるのは、ほとんどが筋骨格系の問題、すなわち筋肉や関節のけがです。また、普段運動をしない人が運動をすると、運動習慣のある人よりもけがをする確率が高くなるという指摘も頭に入れておくべきでしょう。
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また、稀ですがより深刻な合併症として、脱水による腎機能の障害や、心臓に持病がある場合に不整脈を引き起こす可能性なども挙げられます。ただしこれらは、水分補給をこまめに行う、心臓の持病がある場合には主治医と事前に運動の中身について相談しておくなど、未然に防げる部分があるのも事実です。
こうした「害」と「益」の可能性を比較してみると、有酸素運動はほとんどの人にとって、益が害を上回るといえます。
以上から導かれる結論として、「歩く」という有酸素運動を好む方にとって、おそらく1日1万歩の歩行はあなたの健康を守ることにつながるでしょう。因果関係までは明らかになっていないという注意書き付きにはなるものの、1日1万歩程度の歩行が健康を守ることにつながる可能性が高いと考えられています。大きな心臓の持病などがなければ、害のリスクは益を上回るものにはならず、総じて健康増進のために勧められるといえそうです。
「運動は苦手だが、ウォーキングなら」という方は、それを取り入れる価値があるのではないでしょうか。
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提供元:本当のところ「1日何歩」歩くのがベストなのか|東洋経済オンライン