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2022.12.29

【繰り返す下痢】10人に1人が悩む便通異常の訳|ストレスが脳と腸にダメージ「過敏性腸症候群」


すぐに入れるように、いつもトイレの場所を探している人は過敏性腸症候群かもしれません(写真:ponoponosan/PIXTA)

すぐに入れるように、いつもトイレの場所を探している人は過敏性腸症候群かもしれません(写真:ponoponosan/PIXTA)

大事な会議中に突然、便意が襲ってくる。我慢できずにトイレに行くと、十分に排便できず下痢をもよおしてしまった――。そんな症状が数カ月以上続いたら、それは過敏性腸症候群(IBS)かもしれない。いったい何が原因となり、慢性的な便通異常が続くのか。心の問題で起こる体の病に詳しい東急病院心療内科の伊藤克人さんに話を聞いた。

過敏性腸症候群は、大腸や小腸に腫瘍や炎症などの異常が見られないにもかかわらず、下痢や便秘、ガス(おなら)を繰り返す病気だ。便通の状態などから「便秘型」「下痢型」「混合型」「ガス型」の4タイプに分けられる。

国民の5~10人に1人

日本大腸肛門病学会によると、わが国の過敏性腸症候群の有病率は10~20%とされている。

「患者さんは高校生から60歳近くまで、幅広い年齢にわたります。男女ともにいますが、症状のために通学や通勤に支障をきたすような場合、より深刻度が高いといえます 子育て中の主婦では、例えば“子どもの学校での説明会の出席は、いつでもトイレへ行けるような席でないとつらい”ということもあります」(伊藤さん)

また、「複数ある症状のなかでも、来院するケースとして圧倒的に多いのは、下痢の症状がある患者さん」と付け加える。患者のなかには、授業中や仕事中に頻繁にお腹が痛くなることを苦痛に感じ、学校や職場に行けなくなっている人もいるという。

一般的な下痢は、食あたりなどでお腹を壊したときや、体が冷えたときに一時的に生じるものだが、過敏性腸症候群の下痢型は、こうした下痢症状と異なる。その違いはどこにあるのか。伊藤さんは以下の基準から、過敏性腸症候群かどうかを判断している。

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この基準にもあるように、過敏性腸症候群では、大腸や小腸など消化管には目立った異常は見られない。では、患者の体ではいったい何が起きているのか。そのポイントとなるのが“脳と腸の動き”だ。下痢型のケースでみていく。

ストレスと脳・腸の働き

まずは脳の動きについて。

心理的ストレスを受けると、自律神経系の中枢である視床下部にストレスが生じたことを知らせる信号が送られる。ところが、過度な心理的ストレスを受けた場合、送られる信号が過剰になるため、視床下部はオーバーワークしてしまう。

心理的ストレスは誰でも持つものだが、神経質な人ほど過度に捉えやすい。さらに過敏性腸症候群では、排便の不調そのものが大きなストレスとなる。伊藤さんも「神経質な人は、お腹が少しでも痛いとそれを強いストレスとして感じるため、悩みとして大事(おおごと)に捉えてしまいがちです。そして、それにより意識がお腹に向くためにより痛みが強く感じられる、という心の悪循環が起こります」と話す。

排便をうながす腸の蠕動(ぜんどう)運動は、自律神経系の交感神経と副交感神経によって支配されている。交感神経が優位になっているときは蠕動運動がゆっくりになり、副交感神経が優位になっているときは活発になる。この交感神経と副交感神経に指令を出して、両者のバランスを取っているのが視床下部だ。

ストレスで視床下部がオーバーワークとなり、正しく機能しなくなると、交感神経と副交感神経のバランスも乱れてしまう。その結果、交感神経が優位になっているときにも蠕動運動が過剰になり、便意を感じてトイレに行きたくなるのだ。

過敏性腸症候群で下痢になるもう1つの原因は、腸の動きそのものにもある。

食事を摂ると、食べ物は胃や小腸などの消化器官を経て、消化されなかった残渣(ざんさ:食べ物のかす)が大腸へと運ばれる。大腸の水分の吸収能力は体質によるところも大きく、人によって異なるが、このときに残渣に含まれた水分が大腸でうまく吸収されないと、そのまま水分を多く含んだ下痢便として体外に排出される。

また、下痢になるかどうかは、ガスの有無も大きく関わってくる。ガスが過剰にたまると、大腸が刺激される。すると大腸の動きは活発になり、けいれんのような激しい動きを起こす。これにより残渣が押し出されて、下痢便となって体外に排出される。

ガスが過剰にたまるかどうかは、「食事の摂り方も影響する」と伊藤さんは言う。例えば早食いのように、食べ物と一緒に空気を一気に飲み込むような食べ方をすると、その空気がガスとなり体内にたまってしまう。「また、口呼吸で空気を飲み込むと、ガスがたまりやすいです。コロナ禍でマスク生活が続くと知らないうちに口呼吸になりやすいので、気を付けましょう」(伊藤さん)

では、日常生活ではどういった点に気を付けるとよいのだろうか。

食事面でいうと、下痢が続く場合は水に溶ける性質があり、糖質の消化や吸収を緩やかにしてくれる水溶性の食物繊維が比較的多く含まれている食べ物を摂るとよいという。

【水溶性の食物繊維が比較的多い食べ物】

海藻類、オートミール、ライ麦パン、押し麦、大根、ごぼう、さつまいも、ブロッコリー、モロヘイヤ、キウイ、イチジク、アンズ、プルーン、しいたけ

一方、コーヒーや香辛料など、消化管の粘膜を刺激するような飲み物や食べ物はできるだけ避けたほうがよさそうだ。

「(コーヒーや香辛料は)まずは1回、飲んだり食べたりすることを控えて、しばらく様子見をするとよいでしょう。やめてみると、その食べ物が原因かもしれない、といったことがわかります」(伊藤さん)

自律神経のバランスが大事

食事以外では、日々の生活でストレスをためないようにすることも大切だ。ポイントは自律神経のバランスを整えること。

ストレスを受けて交感神経が優位になり続けていると、自律神経のバランスも乱れてしまう。例えばヨガは、副交感神経の働きを高める腹式呼吸と、交感神経を優位にする胸式呼吸が組み合わさっているため、自律神経のバランスを整えることができる。

また、入浴はシャワーだけで済ませず、毎日湯船に入ることも、ストレスの緩和につながる。温度は38℃~40℃程度の比較的ぬるいお湯がおすすめだ。ゆっくりとつかることで、緊張がほぐれてリラックス状態になり、副交感神経が優位になる。

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睡眠不足もストレス増加の要因になる。例えば寝る直前にスマートフォン(スマホ)を見ているとブルーライトの強い光の影響で脳が休まらないだけでなく、スマホから入ってくる情報によって脳が覚醒してしまうため、眠りが浅くなる。できれば、寝る直前にスマホをオフにしておくなど、ちょっとした日々の心がけも大切だ。

後編では、症状がなかなか改善されない場合に病院ではどのような治療を受けられるのかをまとめる。

(取材・文/若泉もえな)

この記事の後編:【繰り返す下痢】受診の時期と行くべき診療科は ※外部サイトに遷移します

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東急病院心療内科
HDCアトラスクリニック心療内科、東急電鉄株式会社統括産業医
伊藤克人医師

1980年、筑波大学医学専門学群卒業後、東京大学心療内科に入局。1986年より東京急行電鉄株式会社東急病院に勤務。現在は東急電鉄株式会社統括産業医兼、東急病院心療内科医師。専門は心身医学、産業医学、森田療法。著作・監修に『いちばんわかりやすい過敏性腸症候群』(河出書房新社)など多数。

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提供元:【繰り返す下痢】10人に1人が悩む便通異常の訳|東洋経済オンライン

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