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2022.12.01

医師が指摘、睡眠不足は乳がんリスク2倍の現実|乳がん予防には、胸部・肩甲骨を鍛えよう


がんの専門医である石黒成治氏が、医学的な根拠と自らの実践をもとに「貯筋習慣」の重要性をご紹介します(写真:ふじよ/PIXTA)

がんの専門医である石黒成治氏が、医学的な根拠と自らの実践をもとに「貯筋習慣」の重要性をご紹介します(写真:ふじよ/PIXTA)

「筋肉とがんの予防効果には相関関係がある」。そう語るのは、がんの専門医であり、ヘルスコーチでもある石黒成治氏です。

最新刊『筋肉が がんを防ぐ。専門医式 1日2分の「貯筋習慣」』は、医学的な根拠と自らの実践をもとに、「貯筋習慣」の重要性と始め方を伝える書。本書を一部抜粋・再構成してお届けします。

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日本人女性に激増している「乳がん」

日本人の死亡要因の1位はがん。2人に1人ががんになると試算されています(日本がん治療学会ホームページより)。部位別に見ると、増加しているのは男性では前立腺がん、女性では乳がんで、それぞれの罹患数のトップになっています。女性に最も多いのは乳がん。しかも、ここ20年で10倍以上に急増しています(国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」より)。

そしてがんの死因別でも、2020年でのデータでは、大腸がん、肺がんに次いで、女性では第3位が乳がんとなっています。欧米では2005年ぐらいをピークに乳がん患者は減少傾向を示していますが、日本では右肩上がりで上昇しています。乳がんの予防策を講じることは喫緊の課題です。

乳がんの発症にはホルモン、特に女性ホルモンであるエストロゲンの影響を強く受けることがわかっています。エストロゲンは主に卵巣から分泌されます。卵巣からの分泌が低下すると閉経となります。欧米の人は閉経後も乳がんの発症は増加していきますが、日本人は閉経がおこる50歳まで増加し、その後は減少または横ばいとなります。

閉経後は主に副腎、脂肪組織からエストロゲンが分泌されます。肥満の多い欧米人では閉経後もエストロゲン分泌量が多いため、乳がんになる人が減少しないと考えられています。

これまで知られている乳がんの危険因子としては、初経年齢の早さ、出産経験がない(少ない)、初産年齢の遅さ(30歳以上)、閉経が遅いことなどがあげられます。正確な因果関係はわかりませんが、閉経後の乳がんに関しては身長の高い人ほど乳がんリスクが高いことも知られています。日常の活動性が高い人(運動以外にも、散歩、ハイキング、庭いじりなど)は閉経後の乳がんのリスクが減少します。またアルコール摂取量が1日あたり10g増加するにつれて、乳がんのリスクが6%ずつ上昇することが示されています。

睡眠6時間以下は「乳がん」リスクが2倍

睡眠不足は様々な健康被害をもたらしますが、がんの発症も例外ではありません。乳がん、前立腺がん、甲状腺がんなど、さまざまな種類のがんのリスクが、乱れた質の悪い睡眠と関連していることが、研究により明らかになっています。

また、睡眠の乱れは、がんをより攻撃的にする一因であると考えられています。睡眠はサーカディアンリズム(概日リズム)という細胞に備わっている特有の時計でコントロールされています。サーカディアンリズムの乱れがなければ、人は毎日大体決まった時間に眠たくなり、決まった時間に起床します。サーカディアンリズムは、睡眠と覚醒のサイクルだけでなく、消化、免疫機能、ホルモン生成など、私たちの身体の基本的なプロセスの多くをコントロールしています。

このサーカディアンリズムを乱す代表的なものに夜勤があります。医師、看護師や食品などの生産ラインでの勤務では、本来睡眠しているはずの時間帯に照明を浴び続けることになります。看護師の健康調査を扱った研究では、夜勤で夜にライトを浴びている人は進行乳がんのリスクが上昇することが報告されています。世界保健機関(WHO)の一機関である国際がん研究機関(IARC)は、「概日リズムの乱れを伴う交代勤務は、ヒトに対しておそらく発がん性がある」としています。

日本人女性のデータで、睡眠時間平均6時間以下の人は8時間睡眠をとっている人と比べて乳がんリスクが1.98倍にも上ります。睡眠不足は肥満の原因にもなりますので、規則正しい睡眠習慣をもつことは乳がん予防には重要なのです。

運動不足は、大腸がん、子宮がん、前立腺がん、肺がんなど種々のがんの危険因子として認識されています。もちろん運動不足は乳がんの危険因子でもあります。特に閉経後の乳がんでは運動をすることにより乳がんのリスクが下がることが示されています。

研究では、身体活動レベルを計測して比較するために、メッツ(MET)という単位を使います。安静時を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかというもので、例えばメッツが3の活動は、中程度の歩行(例えば、時速4km)を1時間行うことを意味します。

50歳から79歳のアメリカの女性7万4000人のデータの解析では、1週間あたり40メッツ運動する人は全く運動しない人に比べて22%乳がんのリスクが低下します。これは週あたりの運動量が増加するにつれてリスクは低下していました。メッツ値40は、週5日1時間のジョギングの運動に相当するのでかなりの運動量です。

実際には週3回30分程度の運動(10メッツ)でも、18%低下します。特に痩せ型の人(BMI<24.13)ではその傾向が顕著で、1週間あたり40メッツ運動する人は37%、10メッツでも30%の乳がんリスクの低下を認めています。

逆に太っている人では運動を増やすだけでは、それほど乳がんリスクの低下はありませんでした。太っている人は運動と減量の両方が必要です。この研究では若い頃(35歳)から運動をしっかりしている人は閉経後の乳がんのリスクが低下することも示されています。運動はなるべく早くから始めた方がいいし、継続することが鍵となります。

1日30分、週6日の自重トレーニングが最終目標

乳がん予防のためには1週間あたり10メッツの運動を行う必要があります。筋力トレーニングを行った場合、自体重を使った軽いものは3.5メッツ/時間、高強度のウェイトトレーニングでは6.0メッツ/時間です。そのため1つの目安としては1日30分程度の自重トレーニングを週6日行うことが目標となります。もちろんジムにいってバーベル、ダンベルなどを使ったウェイトトレーニングを1回1時間、週2日行えばクリアできます。

もちろん、運動習慣のない人が、この目標にすぐ到達することは難しいので、習慣化のためには1日2分からのスタートで十分です。

これまで一貫して報告されているのは運動することは乳がんのリスクを下げること、そして乳がんになってしまった患者は運動をすることで乳がんの再発、死亡のリスクを下げることができることです。そのため乳がん患者には積極的に運動を始めることが推奨されています。

しかし残念ながら筋力トレーニングが乳がんを予防するというデータで今のところはっきりと示されているものはありません。これは、女性でそれほど積極的に筋力トレーニングに取り組んでいる人が少ないために、研究で統計的に解析できるほどの人数を確保できないからではないでしょうか。少なくとも今乳がん患者にとって筋肉は非常にホットな話題なのです。

筋肉量が「乳がん」の予後を左右する

筋肉の量が乳がん患者の予後を決めることが報告されています。1年以内に乳がんと診断された471人の患者の予後が、筋肉量によって違いが生じるのかについて検討を行いました。

筋肉量の多寡は、若い女性を筋肉量で比べた時、とくに少ない2.5%に相当する人を、筋肉量が少ない(=サルコペニア)と定義しています。471人のうち、75人(16%)がサルコペニアと診断されました。

サルコペニアの人はサルコペニアではない人に比べて、5年後、10年後の生存率が明らかに低下し、その死亡リスクは2.9倍でした。サルコペニアの人は、筋肉量が正常な人に比べて年齢が高く、脂肪の量も少ない傾向であったため、この影響を取り除いた解析を行っても結果は同じく筋肉量が少ないと死亡リスクは上昇していました。

特に閉経後乳がんの患者(年齢55歳以上)ではサルコペニアの人ほど死亡リスクが高くなります。サルコペニアの人ほど、乳がんの抗がん剤副作用が出やすい傾向にあるため治療に伴う健康状態の悪化のリスクが高まります。そのため治療に先立って筋力を向上させたいと思うのですが、手術、抗がん剤、放射線治療などを行うため、がんになった後で筋肉を増加させることは簡単なことではありません。

乳がん患者の予後を改善するための運動では、有酸素運動とセットで行われることが多く、筋トレ単独での効果は実証されていません。しかしこれも乳がんの予防のところでお話ししたように、筋トレに積極的に取り組む女性は数が少ないからだと思います。現実的に筋肉量が少ない人ほど乳がんになってからの予後が悪いという事実から、がんと診断される前に筋肉量を増加させる試みを始めなくてはいけません。

ジョギング、ヨガ、スタジオフィットネスだけでは筋肉量は増加することは期待できません。いかに意識的に筋トレを行っていくかが重要になります。

乳がんリスクを下げる筋トレと深呼吸

がんを防ぐには、日常的に発生するがん細胞が増殖してがん化する前に、免疫細胞を運ぶリンパをよく流し、炎症を抑えたり洗い流しておくことが重要です。

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乳腺周囲のリンパ流は主に胸から肩、腋の下にかけての流れと、胸腔(胸の中)へ直接流れる流れの2つに分かれます。免疫細胞がパトロールできるように、乳腺周囲のリンパのつまりを解消しておくためには、胸周り、肩周り、肩甲骨周囲の筋肉をよく動かします。

このために、鍛えるべき部位としては、胸前面にある「大胸筋」と、肩甲骨の内側についており肩甲骨をスムーズに動かすための「菱形筋(りょうけいきん)」です。

この部位を鍛える具体的なトレーニングには、「プッシュアップ(いわゆる腕立て伏せ)」「タオルプルダウン」(タオルを使って胸を張ったり肩甲骨を引き寄せる)があります。

また胸腔内のリンパの流れをスムーズにおこなうために必要なのは深呼吸です。深呼吸で息を思いっきり吸ったときに全身から胸の中にリンパが集められ循環します。毎日意識的に深呼吸することは胸腔内のリンパのつまりをとる行為になります。

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提供元:医師が指摘、睡眠不足は乳がんリスク2倍の現実|東洋経済オンライン

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