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2022.11.25

故郷に移住した「余命6カ月の男」に起きた重大変化|長寿の人が多い「ブルーゾーン」では何が起きるのか


余命6カ月と宣告され、故郷であるギリシャのイカリア島に移り住んだ男性に起こった出来事(写真:hirokiss0725/PIXTA)

余命6カ月と宣告され、故郷であるギリシャのイカリア島に移り住んだ男性に起こった出来事(写真:hirokiss0725/PIXTA)

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どうしたら、生き生きと輝く毎日を過ごしながら長生きできるのだろう。

研究者で探検家であるダン・ビュイトナーは、雑誌『ナショナル・ジオグラフィック』とチームを組み、研究者たちをも巻き込んで、「長寿者」が多く暮らすエリア「ブルーゾーン」にそのヒントを探す旅に出る。

100歳を超えて長生きする人々──いわゆる「百歳人(センテナリアン)」たちは、何を食べ、どのような環境で、どんな生活習慣を持ち、何を大切にして暮らしているのか。健康長寿の秘密を探るルポルタージュ『The Blue Zones(ブルーゾーン) 2nd Edition(セカンドエディション)』から、ビュイトナーのルポルタージュの一部を紹介する。

ブルーゾーンの1つ、ギリシャのイカリア島に移り住んだ1人の男性に起こったある出来事は、はたして奇跡か、それとも……。

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余命6カ月を宣告されて──

第2次世界大戦後の60年間に、25万人ものギリシャ人がアメリカに移住してきた。その中に、スタマティス・モライティスという小柄な男性がいた。彼はエーゲ海に浮かぶ小さな島、イカリア島の出身である。

スタマティスは、手の治療のためにアメリカに渡った。そのままアメリカに残り、ニューヨークのポートジェファーソンに住み、家や学校のペンキ塗りの仕事に就いた。誠実で仕事熱心だという評判がすぐに広まった。その後、オハイオ州に移り、さらにフロリダ州のボイントンビーチに移り、ローズ・ケネディの家の塗装を担当した。

その間に、13歳年下のギリシャ系アメリカ人女性エルピニキと結婚し、3人の子どもをもうけ、3LDKの家と1951年製のシボレーを購入した。つまり、彼はアメリカンドリームを手に入れたのである。

60歳代前半となったスタマティスは、ある日、仕事中に息切れを感じた。息切れの頻度は日増しに高くなっているようだ。階段を上るのもひと苦労。医者がレントゲンを撮ったところ、スタマティスはすぐに肺がんと診断された。おそらく、長年にわたるペンキの煙の吸い込みや、1日3箱の喫煙習慣が原因だろう、と。しかし、スタマティスにはその理由がよくわからなかった。さらに4人の医師が診断結果を確認した。余命6カ月から9カ月と宣告された。

スタマティスは、ボイントンビーチに残り、地元の病院で積極的ながん治療を受けることを考えた。そうすれば、大人になった3人の子どもたちのそばにいられる。

しかし、ふと思いついて、故郷のギリシャ・イカリア島に戻ることにした。

コバルトブルーのエーゲ海を見下ろすオークの木蔭のある墓地に、両親と一緒に埋葬してもらうのだ。ボイントンビーチで葬儀をすると最低でも1200ドルはかかるが、イカリア島で立派な葬儀をしても200ドル程度で済み、老後の蓄えを妻のエルピニキに残すことができる。彼は、同胞と祖先の間で死のうと決めた。

移住して数カ月後に起こった不思議なこと

スタマティスと妻のエルピニキは、島の東海岸にあるアギオス・キリコスという町の郊外にある、なだらかな2エーカー(8094平方メートル)のブドウ畑の中にある白亜の小さな家に、スタマティスの年老いた両親と一緒に引っ越してきた。ここでは、ユリシーズの時代から伝説となっている海のそよ風が1年中吹いている。

最初、彼は母と妻に看病されながら、ベッドの上で過ごしていた。

しかし、人生の終わりが近づいていることを感じた彼は、宗教とのつながりを取り戻すことを決意した。日曜日の朝、家を出て丘を登り、祖父が司祭を務めていたギリシャ正教の小さな礼拝堂に足を運んだ。

彼が戻ってきたことを知った幼なじみたちは、定期的に彼を訪ねてくるようになった。彼らは何時間も話をし、必ず地元産のワインを持ってきてくれて、彼はそれを1日中飲んでいた。彼は思った。これで、幸せに死ねるかもしれないと。

その後の数カ月間、不思議なことが起こった。体力がついてきたのだ。

午後になるとベッドから起き出して、家の裏にある庭やブドウ畑を歩き回った。ある日、彼は野心を抱いて、ジャガイモ、ネギ、ニンニク、ニンジンを植えた。生きて収穫できるとは思っていなかったが、太陽の光を浴び、海のきれいな空気を吸い、自分の生まれた土で手を汚すことを楽しんだ。自分がいなくなっても、妻のエルピニキは新鮮な野菜を楽しむことができる。

半年が過ぎた。スタマティスは死ななかった。それどころか、彼はあの庭から収穫し、勇気を出して家のブドウ畑もきれいにしたのである。

遅く起きて、昼過ぎまで畑仕事をして、自分で昼食を作り、長い昼寝をするという、島での生活になじんでいった。

(写真:OlenaMykhaylova/PIXTA)

(写真:OlenaMykhaylova/PIXTA)

夜になると、家で友人とワインを飲んだり、歩いて近所の酒場まで行き、夜中までドミノ倒しをしたりして過ごした。

年月が過ぎ、彼の健康状態は向上し続けた。両親の家には、子どもたちが遊びに来られるようにと、数部屋を増築した。ブドウ畑を整備し、年間400ガロンのワインを生産するようになった。

そして35年後の今日、彼は100歳になり、がんとは無縁の生活を送っている。彼がしたことは、イカリア島への移住だけだった。

もう1つのブルーゾーン?

私とイカリア島のつながりは、2008年の暮れ、1本の電話から始まった。

「調査しなければならない」

と、人口統計学者のミシェル・プーランがベルギーから電話をかけてきたのだ。

ブルーゾーンを探すために世界中を回っていた彼は、ギリシャの島々で驚くべき発見をした。最近の国勢調査のデータによると、85歳以上の高齢者の割合が非常に高い村々がそこに集まっている。どうやら、イカリア島は健康な百歳人(センテナリアン)の宝庫だったのだ。

その後2年間、ミシェルと私は「ナショナル・ジオグラフィック」の2回の調査団を率いて、イカリア島の驚異的な長寿を調査した。そしてイカリア島にもブルーゾーンがあることを確信した私は、なぜブルーゾーンができたのかを説明する最初の手がかりを探すために出発した。

ブルーゾーンの研究を始めてから、私はどこに長寿のヒントがあるかを知ることができるようになった。

8年前にはじめて沖縄を訪れたときは、酸化ストレスを抑制する秘密の微量栄養素や、ウコンやヨモギのような昔からある薬用食品など、長寿の特効薬を探していた。それらを組み合わせてサプリメントにできないか。サルデーニャでは、動脈硬化を予防するポリフェノールの含有量が世界一のカンノナウ・ワインに興奮した。コスタリカでは、メソアメリカの「三種の神器」と呼ばれる、豆、カボチャ、トウモロコシが、ニコジャ半島の並外れた長寿の秘訣ではないかと考えた。

しかし、私の科学アドバイザーたちは、これらの食材だけでは長寿を説明できないと指摘した。時間が経つにつれて、私が探しているのは1つの独立した成分ではないことを受け入れるようになった。

なぜ、イカリア島の人々は長寿なのか?

島の北岸にあるエフディロスという町に着いた私は、副市長であり、島では数少ない医師でもあるイリアス・レリアディス博士に電話をかけた。この島の人々が非常に長生きしているという証拠があること、そしてその理由について何かヒントがないかと尋ねた。すると彼は、「君の研究には驚かないよ」と言った。彼はイカリア島の出身だが、アテネで学び、ヨーロッパを広く旅していた。

レリアディス博士は、ランガダ村を見下ろす週末の農家に私を招待してくれた。屋外のパティオで、レリアディス博士はテーブルにカラマタのオリーブ、フムス(ひよこ豆のペースト)、重いイカリアンパン、そしてワインを用意し、議論に入った。レリアディス博士は、イカリアの人々が長寿であることを説明するために、さまざまな可能性を列挙した。そのほとんどが、文化的な特異性に関係するものだった。

「ここでは夜更かしが多いんです」と、彼は言った。「遅く起きて、いつも昼寝をしている。午前11時までは誰も来ないから、オフィスも開けないんだ」彼はワインを一口飲んだ。

「ここではだれも腕時計をしていないことに気づいただろうか? 時計もちゃんと動いていない。だれかをランチに誘っても、来るのは午前10時かもしれないし、午後6時かもしれない。ここでは、単に時計を気にしないのだ」

「15キロ先にはサモス島があるんだよ」と、ラガダの遺跡の向こう、スモーキーブルーのエーゲ海の地平線上にある島を指差して彼は言った。

「発展したその島はまったくの別世界だ。高層ビルやリゾート、100万ユーロの家がある。サモス島では、人々はお金を大切にしている。ここでは、そんなことはない。多くの宗教的、文化的な祝祭日には、人々はお金を出し合って、食べものやワインを買う。残ったお金は、貧しい人たちに配るのだ。ここは“私”の場所ではなく、“私たち”の場所なのだ」

長寿の秘訣はイカリア島の食事? それとも?

彼は地元の食生活について語ってくれた。

記事画像

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オリーブオイルと野菜が豊富で、乳製品や肉は控えめ、アルコールは毎日飲むという、地中海式食事法の一種である。イカリア島では、岩場でよく育つジャガイモ、ヤギの乳、豆類、くだものなどを豊富に食べる。また、ギリシャに自生している150種類以上の野菜を季節ごとに集め、サラダやパイにして食べている。これらの野菜の中には、赤ワインの10倍以上の抗酸化物質が含まれているものもある。

村では毎日のように「マウンテン・ティー」が飲まれている。薬として飲まれることもあるが、1日の終わりのカクテルとして、旬のハーブや野菜を使って作られることが多い。新鮮な魚が大好きなイカリアンだが、海から山への移動に1日以上かかっていたこともあり、魚を食べることはあまりない。そのため、魚屋が来ると、魚の匂いがした。

レリアディス博士は、ワイルドマジョラム、セージ(フラスコミリア)、ミントの一種(フリスクーニ)、オリーブの葉の煎じ液、ローズマリー、タンポポの葉を煮出してレモンを少し入れて飲むお茶を挙げた。「この島の人たちは、気休めの飲み物だと思って飲んでいるが、どれも薬になるんですよ」と博士は述べ、こう付け加えた。「ここでの万能薬はハチミツです。ほかでは見られないような種類のハチミツがあります。傷の治療、2日酔いの治療、インフルエンザの治療など、あらゆる用途に使われています。お年寄りは1日の始まりにスプーン1杯のハチミツを食べます。薬のように飲んでいるのです」。

それから3日間、私はレリアディス博士の患者を訪ねるツアーに出かけた。子どもの落書きのようなコースをたどって、谷に降りたり、丘に登ったり、村の間を縫うようにして未舗装の道を進んだ。

近くにある人口800人の町では、墓地に立ち寄って生年月日と没年月日を確認した。アメリカでは5000人に1人しか100歳まで生きられないのに、この1年間で3人の百歳人が亡くなっていた。つまりそれだけ100歳まで生きた人がいたということだ。

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提供元:故郷に移住した「余命6カ月の男」に起きた重大変化|東洋経済オンライン

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