2022.10.11
【めまい】ストレスや疲れ以外が要因になる事も|起こったときの対処法や再発予防の対策も紹介
生活の質を落としかねないめまいの正体、専門家に解説していただきます(写真:Ushico/PIXTA)
日常でよくみられる症状、めまい。よくある症状とはいえ、周囲がぐるぐる回っているように感じるめまいに急に襲われたら、誰だって不安になってしまう。
そして、ひと口に「めまい」といっても、さまざまな種類や原因、症状がある。めまいはなぜ起こるのだろうか。そして、めまいの予防や改善法などはあるのだろうか。耳鼻科医の菅原一真医師(山口大学病院)に聞いた。
めまいというのはなぜ起きるのだろうか。それについて考える前に、人間はなぜ日頃、動かずにピタッと座ったり立ったりできるのかを考えてみたい。菅原医師によると、人は体から3つの情報を得ることで「止まって」いられるのだという。
めまいはなぜ起こるのか
「視覚、平衡感覚(体のバランスを保つ機能)をつかさどる内耳の三半規管、足の裏などを通して感じる重力の感覚から、『自分は空間の中でピタッと止まっている』という情報を私たちは得ることができています。視覚と内耳、足の裏の感覚が正常ならめまいは起きない。ここになんらかの異常を来したときにめまいが起こります」(菅原医師)
めまいで受診する患者の約7割が診断されるのは、「良性発作性頭位めまい症」だという。その原因は、三半規管の中に耳石の小さい欠片(かけら)が入り込んでしまうため。つまり、三半規管の異常がこのめまいの原因だ。
三半規管の根元あたりには重力や体の方向を感知する耳石器という器官があり、耳石は通常、この耳石器の中に入っている。それがなにかの拍子に剥がれて、三半規管に入ることでリンパ液の流れを乱し、三半規管を強く刺激することで発症する。
「耳石が剥がれる原因としては、スポーツや事故などで頭に衝撃が加わったことによる場合もあれば、とくにこれといった原因がないことも多い。主に加齢が関係しているといわれています」(菅原医師)
一方で、この病気に関しては、ストレスはあまり関係ないという。
でもなぜ、加齢が関係するのだろうか。
耳石も骨と同じ炭酸カルシウムが主成分だ。加齢によってカルシウムの代謝障害が生じると、耳石も剥がれやすくなると考えられている。実際、良性発作性頭位めまい症は、骨粗鬆症の患者や、骨密度が急激に低下し始める閉経後の50歳以降の女性に多くみられる。
良性発作性頭位めまい症は、周囲がぐるぐる回っているように感じる回転性のめまいの代表的な疾患だが、同じ回転性めまいが起こるものにはメニエール病もある。メニエール病も聴覚や平衡感覚をつかさどる内耳の異常が原因だが、こちらは過労や睡眠不足、ストレスなどによって、内耳がむくむことから引き起こされる。
どちらのめまいも吐き気などを伴うこともあり、発作を繰り返す点は似ているが、良性発作性頭位めまい症のめまい発作は長く続くことはなく、数秒から2〜3分程度で治まる。
「動かずにじっとしているときにはめまいが起こらないのも、良性発作性頭位めまい症の特徴です。朝起きたときや寝返りを打ったとき、上を向いたときなど、頭を動かしたときに、ぐらぐらっと回転性のめまいが起こることが多いです」(菅原医師)
それに対し、メニエール病では、難聴や耳鳴りなどの症状を伴い、10分~数時間という長い時間めまい発作が続く。患者数は良性発作性頭位めまい症ほど多くはないが、症状としてはより激しい。
めまいの診断とその後の経過
医療機関で良性発作性頭位めまい症かどうかを診断する際は、問診などのほかに、眼球の動きなどを調べる検査を行う。実際に頭を動かしたときに眼球が 振れる「眼振」が起これば、良性発作性頭位めまい症と診断される。めまいが起きる向きを確認し、そのときの眼球の動きによって、どの半規管に耳石が入っているかもわかる。
「耳石が入った三半規管が判明すれば、めまいの専門医なら、患者の頭や体を動かすことで耳石を耳石器に戻す『浮遊耳石置換法』を行う場合もあります。耳石が三半規管から出ればめまいは起きないため、この治療だけでよくなってしまうこともあります」(菅原医師)
良性発作性頭位めまい症は自然治癒が期待できる、比較的治りやすい疾患だ。耳石が残っていても、約2週間で自然に体に吸収され、それとともにめまいも治まっていくことが多い。そのため、症状を和らげるための薬や吐き気止めなどが処方され、様子をみる場合もある。
「良性発作性頭位めまい症の場合、めまいや吐き気などの症状はおおむね1〜2週間で軽快します。ただ、後遺症として慢性的なめまい症状が続いてしまう人もいます。いずれにしても、なかなか治らない場合はまれに脳の病気などが隠れているおそれもあるため、速やかに耳鼻咽喉科を受診しましょう」
めまい発作というのは、ある日突然起きてしまうものだ。実際にもし、急なめまいに襲われたときは、どのように対処するのがよいのだろうか。
「そもそも、めまいは“体を動かさないようにするために、体があえてそうしている”と考えられています。そのため、大半のめまいは、発作が起きたら、無理に動かないことが大切です。症状が落ち着くまで安静にして様子をみる。症状が強い場合や翌日まで治まらない場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう」(菅原医師)
最初のめまい発作から1週間以上経った慢性期には、安静にするよりもむしろ積極的に体を動かすように勧める医師も多い。三半規管に刺激を入れるような首振り運動などを指導し、積極的に行うことを提唱する医師もいる。
「慢性期は過度に怖がって頭を動かさないよりは、可能な範囲でなるべくいろいろな方向に頭を動かすほうがよいとされています。症状に応じて、できる範囲で家の中で歩いたり、安全な場所で散歩をしたり、といった運動も大切です」(菅原医師)
慢性的なめまいが続いている人には、漢方薬が効果を発揮することも多いという。
「めまいの漢方薬として有名な『五苓散(ごれいさん)』は、どちらかというと水分代謝がうまくいかずに発症するメニエール病に効く薬。効果のある漢方薬はめまいの種類によって異なります。医師に相談してみてください」(菅原医師)
予防には「寝る向きを変える」
良性発作性頭位めまい症は治りやすいが、再発しやすいという特徴もある。一度治っても、たびたびのめまい発作に悩む人も多い。メニエール病のように、ストレスや疲労などとは直接的な関係がないとされるが、どんな予防法があるだろうか。
「まず、寝る向きをいつも同じにしないこと。いつも頭を同じ向きにしていると、いずれかの半規管に耳石がたまりやすくなってしまいます。頭を固定された状態での長期間の入院治療後にも発症しやすいです。予防にはなるべく寝る向きを変えて、寝返りなどで頭を動かすように意識するのもいいですね」(菅原医師)
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また、カルシウム代謝異常や骨粗鬆症が原因で発症することも多いため、骨粗鬆症にならないような生活を送ることも大事だという。
「乳製品や小魚といったカルシウムを多く含む食材を積極的に摂るなど、カルシウム不足にならないような食生活に改善しましょう。そして、骨粗鬆症予防、骨密度を高めるには適度な運動も大切です。栄養と運動、そして、寝る向きに気をつける。日々の工夫次第でかなり、めまいは予防できるはずです」
(取材・文/石川美香子)
山口大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科学准教授
菅原一真医師
奈良県出身。1996年に山口大学医学部を卒業、同大学医学部耳鼻咽喉科入局。2002年に山口大学大学院医学研究科修了。2003年よりアメリカワシントン大学医学部耳鼻咽喉科客員研究員などを経て、2017年より現職。専門は中耳手術、人工内耳手術、難聴・感染症・アレルギー疾患の薬物治療、内耳保護機構の研究。
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提供元:【めまい】ストレスや疲れ以外が要因になる事も|東洋経済オンライン