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2022.10.01

整形外科医が解説「骨盤のゆがみと不調との関係」|代謝の低下、冷え、肥満などの原因といわれるが


整形外科医が、ちまたで言われる「骨盤のゆがみ」について解説します(写真:kei.channel/PIXTA)

整形外科医が、ちまたで言われる「骨盤のゆがみ」について解説します(写真:kei.channel/PIXTA)

腰部にある環状の骨の一群である「骨盤」。ここがゆがむと、全身の調子が崩れたり、血行が悪くなったり、肩こりや腰痛や膝痛、冷え、肥満、生理不順などさまざまな不調の原因になったりする、といわれている。

実際、何らかの施術(整体やマッサージなど)を受けたときに、「骨盤がゆがんでいる」「骨盤矯正をしたほうがいい」などと言われたことのある人も少なくないだろう。

けれども、骨盤のゆがみってそんなに問題なのだろうか。いや、そもそも骨盤は骨だ。簡単にゆがんだりしないのではないか――。整形外科医のDr.Koalaさんに伺った。

そもそも骨盤ってどんな骨?

――そもそも骨盤はどういうものなのか教えてください。

Dr.Koalaさん(以下、Koala):骨盤というのは、脊椎と大腿骨の間にある骨の一群です。骨盤は2つの寛骨(かんこつ:腸骨+恥骨+坐骨)と仙骨の3つの骨が環状に線維結合していて、仙骨の下部に尾骨がつながっています。それぞれの結合は強固で、ほとんど動きません。

――姿勢が悪かったり、足を組んだりしていると骨盤がゆがんでしまい、さまざまな不調の原因になるという説があります。そういった日常の習慣で骨盤がゆがむことはありますか?

Koala:日常の習慣のせいで、骨盤の形が変わることはありえません。そもそも骨盤のゆがみという言葉をどういう意味合いで使っているのか、整形外科医として疑問に感じています。

例えば、「窓枠がゆがむ」といえば、窓枠の形が変わったり、ねじれたりすることをいいますよね。ところが、先ほどお伝えしたように骨盤は強固な環状の骨ですから、簡単に形が変わることはありません。姿勢が悪いくらいで骨盤の形が変わるとしたらたいへんなことです。

――「骨盤のゆがみ」とか「骨盤矯正」って何なんでしょうか?

Koala:「骨盤のゆがみ」も「骨盤矯正」も、医学用語や医学的処置の言葉ではありません。しかも「骨盤矯正」はある施術院によって商標登録されている言葉です。ただ、近年は数多くの施術院が「骨盤矯正」という医学用語っぽい言葉を宣伝に利用していますよね。

「骨盤矯正」の意味は施術院でそれぞれ違うようですが、多くは手技によって「何らかの原因でゆがんだり傾いたりした骨盤を正しい位置に戻す」「何らかの原因で開いた骨盤を締める」といった意味で使っていることが多いようです。

ただ、先に述べたように骨盤は簡単にゆがんだり傾いたり開いたりしませんし、また人の手の力ではどうもできないんですよ。

――では、骨盤がゆがむこと自体「ない」と考えていいんでしょうか。

Koala:「骨盤がゆがむ」という言葉を「骨盤が変形する」と考えた場合、日常生活動作で骨盤が変形することはありませんが、特殊な状況では変形することはあります。

例えば、交通事故などの外力による骨盤の骨折です。この場合、「手で矯正する」なんて悠長なことを言っている場合ではありません。骨折の程度にもよりますが、入院したり、場合によっては手術が必要になることもあります。

妊婦に起こる「恥骨結合離開」

――骨折ですか⁉︎ ほかに骨盤の形が変わることはありますか?

Koala:あとは妊娠・出産時ですね。女性は妊娠中にリラキシンというホルモンが分泌され、全身の骨と骨をつないでいる靱帯結合や関節が緩みます。赤ちゃんが生まれてくるときに骨盤を通り抜けられるよう、そういった仕組みになっているわけです。

ただ、その場合でも、骨盤は本が開くようにパカッと開くのではなく、緩むだけ。ただし、全産婦さんの1%未満とごく稀ですが「恥骨結合離開」といって、恥骨結合部分が数センチくらい開いてしまうことがあります。

――恥骨結合離開になった場合、自覚できるものでしょうか。

Koala:もちろん、わかりますよ。恥骨結合離開になると、激しい痛みを感じるので、気づかないことはないでしょう。実際、うちのクリニックにも産婦人科からの紹介で受診される方がいますが、出産後も強い痛みが続きます。ちょっと痛いとか、不調といったレベルではありません。

出産と違って、恥骨結合離開は保険診療の対象となるので、激しい痛みがある場合は産婦人科や整形外科で診断してもらったほうがいいでしょう。

――出産後も骨盤が緩んでいるからケアが必要だと聞くことがあります。

Koala:最近は「産後骨盤矯正」を宣伝している施術院も多いですね。産後2〜10カ月くらいに骨盤を矯正するとよいと宣伝しているのをよく見かけます。なかには「産後すぐに施術しないと痛みが残る」「骨盤が開いたまま戻らなくなる」といった表現を使うところもあるようですが、これは行きすぎですね。

確かに出産によって骨盤は緩むんですが、数カ月が経過すれば、特に何もしなくても自然と元に戻っていきます。何かをしなければ元に戻らない、というわけではありません。だって、考えてみてください。もし出産で緩んだ骨盤が自然に元に戻らないのであれば、太古の昔から女性は出産すると骨盤が緩みっぱなしになって、日常生活に差し支えていたことになってしまいます。そんな事実はありません。

――産後の骨盤は勝手に閉じていくものなんですね。

Koala:そうです。恥骨結合離開の場合でさえ、つまり恥骨が離開していても数カ月程度で自然と元に戻るんです。整形外科を受診された場合は診断、ご説明のうえで安静にするようお伝えし、痛みのコントロールのために患者さんと相談しながら消炎鎮痛剤などを処方することもあります。

――産後ダイエットは骨盤を締めることから……というのも目にします。

Koala:産後であろうとなかろうと、体型維持やダイエットと骨盤の形態はまったく関係ありません。骨盤の形は変わらないからです。「産後骨盤矯正で体型を元に戻す」というのは、「骨盤の形態とは関係ない腰椎あるいは股関節周囲の運動、ストレッチ」をしてカロリー消費を促しているのだと思います。

骨盤の傾きが問題なのか?

――骨盤の傾きを整えることで均等にするといった理屈も耳にします。

Koala:それも医学的にはおかしいですね。もともとの骨盤の形状には個人差があるかもしれませんが、やはり何らかの手技で形を変えることはできません。変えることができたら骨折しているでしょう。それに、骨は上から順に、脊椎、骨盤、股関節と連なっていて、その位置関係を変えることはできません。

また、骨盤が前後左右に傾いているといっても、その骨の並びを手で変えることはできません。

――「骨盤矯正」の施術前後で脚の長さが変わるようです。

Koala:「骨盤のゆがみのせいで左右の脚の長さが異なっていましたが、骨盤矯正で改善しました」といったものですね。問題の1つに脚の長さの比較の仕方があります。施術前後の写真でよく見るのは、かかとの部分で脚の長さを比べたもので、それでは正確に脚長差を測ることはできません。実は脚の長さの測り方が正しくないのです。

また、股関節や下肢の疾患が原因で脚長差が出ている場合、手技で脚長差が改善したりはしません。脚長差を改善させるためには手術が必要です。

――では、これだけ「骨盤矯正」が広まったのは、なぜでしょう。

Koala:あくまでも個人的な推測ですが、なぜか人体において骨盤が聖域化され、「骨盤がゆがむと、血流が滞ったり、姿勢が悪くなったりして、さまざまな不調の原因となる」、「骨盤を矯正すると、血流や姿勢がよくなり、結果的に全身の調子が整う」というイメージが定着してしまったからでしょう。特に「骨盤矯正」は女性向けといった感じがします。妊娠や出産につなげられるのも、そのせいかなと思いますね。

――「骨盤がゆがんでいる」と言われると、ドキッとします。

Koala:そうですよね。「こんなに骨盤がゆがんでいると、元に戻すのに時間がかかります」「産後の数カ月の間に矯正しないと、骨盤が開きっぱなしになります」などと言われると、多くの人は不安になるでしょう。こういった医学的に根拠のない説明は問題だと思います。特に女性にとって妊娠、出産、育児の時期は心身共に負担が増えるときですから、気をつけていただきたいですね。

――確かにそうですね。では、どんなふうに考えたらいいでしょう。

Koala:個人的には、骨盤まわりであろうと足腰であろうと、マッサージやストレッチなどの手技を受けることによって、気持ちよくなったり、リラックスできたり、痛みが軽減できたりするなら、それはとてもいいことだと思っています。「骨盤矯正」などという不正確な言葉に惑わされることなく、全身をほぐすこと、リラックスすることなどを目的として、うまく付き合っていくといいのではないでしょうか。

Dr.Koala(ドクターコアラ)

整形外科専門医、医学博士。大学病院、市中病院に勤務後、整形外科クリニックを開業。診療の傍ら、インターネット上で情報提供を行っている。様々な分野の専門家との共著書に『子どもを守るために知っておきたいこと』(星海社)がある。

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提供元:整形外科医が解説「骨盤のゆがみと不調との関係」|東洋経済オンライン

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