2022.09.13
【健康診断】血圧、血糖、脂質のボーダーライン値|適切に健康診断を受けるためのポイントも紹介
意外と知らない健診結果の読み方や適切な対処法を紹介します(写真:tokomaru7/PIXTA)
職場や市区町村で受ける年1回の健康診断。どこまでがセーフで、どこからがアウトか、ボーダーラインを知りたい人も多いだろう。だが、健診はがん検診と違って、血液検査が中心となるため、診断結果の数値を見ても、ピンと来にくい。
異常が示されているのに放置すれば、近い将来、脳卒中や心筋梗塞を発症する危険もある。健診結果の読み方や適切な対処法について、近畿大学医学部公衆衛生学教室主任教授の今野弘規(いまの・ひろのり)さんに聞いた。
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生活習慣病の兆候を早期に見つける
健康診断のうち、40〜74歳のすべての国民を対象にしているのが2008年4月から施行された「特定健診」だ。公費でまかなわれるため、受診負担はゼロが基本。脳卒中や心筋梗塞のリスクとなるメタボリックシンドローム(以下、メタボ)を中心に、生活習慣病の兆候を早期に見つけることが目的だ。
自営業者や専業主婦、退職者など国民健康保険の加入者は年に1回、市区町村から受診の案内が来る。会社員は労働安全衛生法に基づき事業者が雇用者に行うことを義務付けられている「一般健康診断」にこの特定健診が含まれている。
健康診断では人間ドックも知られているが、こちらは任意であるため有料(1日コースで3万~10万円と幅がある) 。血液検査の診断項目だけでも40種類を超え、目や耳の検査、腹部の超音波検査、がんの検査もついている。
「特定健診では病気の予防につながる、エビデンスが明らかな最低限の項目(10項目)が検査されます」(今野さん)
特定健診の2020年度の実施状況は53.4%(厚生労働省調査)で、受診率は年々増加している。今野さんは、「問題は受けっぱなしの人が多いこと。メタボや生活習慣病は症状がほとんどないこともあり、要受診(受診推奨)や要注意(保健指導)、などと書かれていても、そのままにされがちなのです」と指摘する。
重要な点を見逃さないためのポイントはあるのだろうか。
特定健診の必須検査項目は、大きく「問診(服薬歴や喫煙歴のほか、自覚症状などを確認する)」「身体計測(身長体重・腹囲・BMI※)」「血圧」「肝機能検査」「血中脂質検査」「血糖検査」「尿検査」にわかれる。※BMI(Body Mass Index):体重(kg)÷(身長m)の2乗
身体計測で腹囲が基準値(男性85cm以上、女性90cm以上)を超えれば内臓脂肪が蓄積している可能性が高く、これに血圧高値、高血糖、血中脂質異常の2つ以上が加わればメタボと判定されて積極的支援の対象となり、食事療法や運動などの保健指導を専門家から受けるよう指示が来る。
腹囲の問題は欧米より少ない
しかし、日本人でこの条件に該当する人は欧米に比べると少ないという。
「その一方で、腹囲やBMIが基準範囲内であっても、血圧高値、高血糖、血中脂質異常が単独で見つかる人は多い。いずれも病気の一歩手前の予備群です。1つでも当てはまる場合、当てはまらない人に比べ、将来、脳卒中や心筋梗塞を発症する可能性が高くなることがわかっている。絶対に見過ごしてはいけません」と今野さん。
(1)特定健診の必須項目:血圧
そこで今回は血圧高値、高血糖、血中脂質異常(コレステロール、中性脂肪)の3つについて、具体的な数値を見ていこう。まずは血圧だ。
高血圧の診断基準は、上の血圧(収縮期血圧)140mmHg以上、または下の血圧(拡張期血圧)90mmHg以上となっている。
「しかし、正常血圧のうち、本当に合格と言えるのは、上120mmHg未満、下80mmHg未満の場合のみ。上120~139mmHgまたは下80~89mmHgは高血圧予備群。腹囲やBMIが基準範囲内であればこのレベルで『要注意』と指摘されることはありませんが、それだけに気を付けなければいけません」(今野さん)
今野さんらの疫学研究で、高血圧予備群の人を平均10年間、追跡した場合の脳卒中の発症リスクを調べたものがある。
研究では正常血圧(上120mmHg未満、下80mmHg未満)と比較し、上120~129mmHgまたは下80~84mmHgのグループでは約2倍、上130~139mmHgまたは下85~89mmHgのグループでは約3倍高かった。
「健診時は予備群レベルでも、その後高血圧になるリスクが高かったり、他の危険因子(糖尿病や喫煙など)を持っていたりするケースもあることが、脳卒中の発症につながっていると考えられます」(今野さん)
一方、予備群レベルの血圧であれば、減塩を中心とした食生活やお酒の飲みすぎをやめる、運動を習慣にするなどの取り組みにより、適正な血圧値に戻せる可能性が高い。
「何もしなければ加齢の影響も加わり、年々、血圧が上がってきます。40代で予備群と指摘された場合、そこで生活を変えたかどうかで、50~60代になったときの血圧値に大きな差がつきます」(今野さん)
血圧のポイント:上120~139mmHg、下80~89mmHgの場合、「要注意」と記載がなくても対策を。将来、脳卒中や心筋梗塞を起こすリスクが高い
続いて血糖値。血糖値も侮れない。
糖尿病の診断基準では、空腹時血糖が126mg/dl、 過去1~2カ月の平均血糖値を表すHbA1cが6.5%以上で糖尿病の疑いが大。空腹時血糖100~125mg/dl、HbA1c5.6~6.4%は予備群だ。
(2)特定健診の必須項目:高血糖
「HbA1cが予備軍の範囲に入っている人は、特に注意。空腹時血糖は正常でも食後急激に血糖が上昇して、すぐ下降するいわゆる『血糖値スパイク』や、食後高血糖(食後2時間時点でも血糖値が140mg/dl以上の高い状態が続く)を起こしている可能性がかなり高い」(今野さん)
今野さんらの疫学研究では食後8時間以内の血糖値が高い人は予備群レベルでも、そうでない人に比べ、脳卒中や心筋梗塞を発症するリスクが高かったという。
「ここ数年、予備群の状態が続いている人は、可能であれば、医療機関にかかり、定期的に検査を受けたり、食事指導を受けたりすることをおすすめします」(今野さん)
なお、血糖値スパイクや食後高血糖を抑えるには早食いや欠食、まとめ食い(ドカ食い)、炭水化物の重ね食べ(例えば、ご飯とお好み焼き、ご飯とうどんなど)を控えることがポイントだという。
血糖値のポイント:HbA1c5.6~6.4%(予備群)が続いたら要注意。食後高血糖により脳卒中や心筋梗塞を発症リスク大
体に必要だが多すぎは問題の脂質
最後は脂質。高いと心筋梗塞のリスクになる一方、脂質は血管の壁や胆汁酸、ホルモンの原料となる、体に必須の脂質なので低すぎるのもよくない。
特定健診では総コレステロールの項目はなく、いわゆる悪玉のLDLコレステロールと善玉のHDLコレステロールの数値が表示される。
(3)特定健診の必須項目:血中脂質異常
LDLコレステロールの基準範囲は60~119mg/dl(120~139mg/dlで要注意、140mg/dl以上で要受診)、HDLコレステロールの基準範囲は40mg/dl以上(35~39mg/dlで要注意。ただし、極端に高い人については、本当にいいのか議論になっている)。
いずれも要注意や要受診と出たら、改善に努めるべきだ。根本的に大切なのは生活習慣の改善だという。
LDLコレステロール値を下げるには、肉の脂身や加工食品、菓子類などコレステロールの原料となる飽和脂肪酸の多い食品を減らし、不飽和脂肪酸の多い食品、具体的には大豆製品や種実や食物繊維が多い野菜、果実、海藻類、きのこ類がすすめられる。
「LDLコレステロールについては、低いほど心筋梗塞のリスクは下がりますが、私どもの追跡研究ではLDLコレステロールが80mg/dl未満で脳出血のリスクが高くなることが示されています」(今野さん)
一方、HDLコレステロールを高める効果があるのが運動だ。
コレステロールのポイント:LDLコレステロールは、140mg/dl以上の場合、要受診(特に男性は高値に注意)。薬だけでなく生活習慣の改善が大事
最後は中性脂肪。高いと動脈硬化のリスクになる。基準範囲は30~149mg/dlで、150mg/dl以上は要注意とされている(ここから上の区分はない)。
「男性に比べ、女性ではより心筋梗塞のリスクが高いので、改善に努めるべき。中性脂肪は食事の影響を受けやすく、魚以外の脂質や糖質、アルコールを控え、魚の脂肪を多めにとるように心がけたいですね」(今野さん)
魚特有の脂肪酸である魚油(n3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸:EPAやドコサヘキサエン酸:DHA)はカプセル剤で、薬としても認可されている。
中性脂肪のポイント:150mg/dl以上で要注意(特に女性)
適切に健診を受けるポイントは…
健診の数日前から、「いい数値を出そう」と慌てて食事療法や運動に取り組むのは、決して好ましいことではないという。
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「健診が終わって元の生活に戻ってしまっては意味がありません。学校の成績表と違って、自分をよく見せる必要はありません。これはほかの検査でも言えますが、いつもの食事、いつもの生活を送り、ありのままの状態で健診を受けてください。そして、結果を客観的に評価する。これが健康診断を利用する上手なコツと言えるのです」
【健康診断】40代以上なら絶対受けたい検査5つでは、がんや全身病の発見にもつながる特定健診に追加したい他の検査について、紹介する。
(取材・文/狩生聖子)
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近畿大学医学部公衆衛生学教室主任教授
今野弘規医師
1993年筑波大学医学専門学群卒業。大阪府立成人病センター集団検診第Ⅰ部医員、大阪府立健康科学センター健康開発部主幹兼医長、大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学准教授などを経て2022年4月より現職。専門は脳卒中・心臓病や糖尿病などの生活習慣病の疫学研究に基づく予防医学と公衆衛生。
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提供元:【健康診断】血圧、血糖、脂質のボーダーライン値|東洋経済オンライン