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2022.09.07

左脳の機能失った脳科学者が発見、凄い脳の使い方|4つのキャラを知れば、なりたい自分になれる


脳卒中で左脳の機能を失ったものの、8年のリハビリの末に機能を回復させたジル・ボルト・テイラー氏。その経験からたどりついた理論について解説します(写真:Martin Boling Photography)

脳卒中で左脳の機能を失ったものの、8年のリハビリの末に機能を回復させたジル・ボルト・テイラー氏。その経験からたどりついた理論について解説します(写真:Martin Boling Photography)

脳科学者のジル・ボルト・テイラー博士は、37歳のときに左脳の脳出血(脳卒中)で、それまでの認知機能、身体機能を失いました。その後、8年間のリハビリの末、すべての機能を取り戻しましたが、その実体験と神経解剖学の科学的見地から、「脳の仕組みを知れば、考え方・感じ方の嫌なクセは変えることができ、心穏やかな人生が手に入る」と指摘します。

いったい、どういうことなのか。テイラー氏の新著『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』の翻訳を務めたサイエンスライターの竹内薫氏が、テイラー氏に聞きました。前編は「脳の4つのキャラ」とそこから生まれる「世代間ギャップ」についてです。

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脳を客観的に捉えれば、なりたい自分になれる

竹内薫(以下、竹内):脳卒中になったのは37歳のときだったそうですね。

ジル・ボルト・テイラー(以下、テイラー):ハーバード大学精神医学部で教鞭をとっていたときでした。研究生活に没頭して人生の最盛期を迎えていたころのことです。

4時間のあいだに、自分の脳の左半球が完全に停止し、細胞や神経回路がその機能をすべて失っていきました。その日の午後以降、歩くことも話すことも、読むことも書くことも、自分の人生を思い出すこともできなくなり、そのときの自分はまるで、おとなの女性の体をした乳児でした。

その後、8年をかけ、自分の脳の右半球に残っていたものを最大限に使って、左半球の回路を再構築し、完全に機能回復しました。

今回の『WHOLE BRAIN 心が軽くなる「脳」の動かし方』は、脳卒中を経験した人にかぎらず、人間関係や社会生活がいつも同じようなパターンでうまくいかないと感じている人や、さまざまな依存症から抜け出せずに葛藤している人などに向けて書きました。

自分や相手の脳の動きを客観的に捉える方法を知ることによって、相手に敬意を払い、なりたい自分になれるということを伝えたかったのです。

竹内:それについて、もう少し詳しく教えてください。

テイラー:私は部位ごとの脳機能のオンとオフを体験したことで、自分の脳内に、特徴のある複数の人格があることに気づきました。

一般に言われている「右脳は感情、左脳は思考」という単純な右脳/左脳の考え方は十分ではなく、左右の脳それぞれに感情と思考を司る細胞群があり、考え方や感じ方の異なる4つの個性的な<人格(キャラ)>、もしくはアイデンティティーのようなものがあるんです。

私は、脳出血によって左脳の機能を失ったとき、言葉を失くしていました。言語能力は左脳が司っているからです。また、左頭頂葉の細胞群がオフラインになってしまったので、自分がまるで宇宙と同じくらい大きくなったように感じていました。

Jill Bolte Taylor/1959年、アメリカ・ケンタッキー州生れ。神経解剖学者。インディアナ州立大学で博士号取得後、ハーバード医学校で脳と神経の研究に携わりマイセル賞を受賞。また、精神疾患に関する知識を広めるべく全米精神疾患同盟(NAMI)の理事を務めるなど活躍する中、37歳で脳卒中に倒れる。その後、8年を経て機能を回復させた。現在は、ハーバード大学脳組織リソースセンター(ハーバード・ブレインバンク)のナショナル・スポークスマンとして、重度の精神疾患の研究のために脳組織を提供することの重要性について、啓蒙活動を行っている

Jill Bolte Taylor/1959年、アメリカ・ケンタッキー州生れ。神経解剖学者。インディアナ州立大学で博士号取得後、ハーバード医学校で脳と神経の研究に携わりマイセル賞を受賞。また、精神疾患に関する知識を広めるべく全米精神疾患同盟(NAMI)の理事を務めるなど活躍する中、37歳で脳卒中に倒れる。その後、8年を経て機能を回復させた。現在は、ハーバード大学脳組織リソースセンター(ハーバード・ブレインバンク)のナショナル・スポークスマンとして、重度の精神疾患の研究のために脳組織を提供することの重要性について、啓蒙活動を行っている

その細胞群は、自分の体がどこから始まり、どこで終わるのかという境界を認識する役割を果たしています。その機能がシャットダウンした、つまり、私は「私」という個の感覚を失っていたのです。

それまで私が知っていたジル・ボルト・テイラーという女性は、あの日、死んでしまいました。彼女の好き嫌いも、彼女の過去も未来も消え去りました。もう、彼女のことを考えることはありませんでした。

そして、右脳の機能だけが稼働する状態の私は、生死の境をさまよっているというのに、なぜか、とてつもない多幸感に包まれていたのです。

竹内:そこから長いリハビリが始まるのですね。リハビリの結果、左脳の機能も元どおりに?

テイラー:はい、私は脳の右半球の細胞群を使って、左半球の回路を再構築していこうと懸命に努力しました。そして、ある一定の回復レベルに達すると、過去の自分の人格が再びオンラインになることに気づきました。私が<キャラ1>と呼んでいる「左脳の思考」が、復活したのです。

<キャラ1>は私の合理的な思考です。整理整頓が好きで、秩序を作るのが好きで、分類するのが好き。人、場所、物をコントロールするのも得意です。彼女は以前の「私」自身でした。 そう、ジル・ボルト・テイラーです。私は、どこからどこまでが自分かという、その境界線を再び手に入れたのです。

彼女はオンラインに戻ってきて、私を牛耳ろうとしました。完全に機能的になって「ただいま! 帰ってきたわ。また私が仕切るわよ。ついてきなさい!」と張り切っていました。でも、ほかの<キャラたち>は、「あなたのスキルが戻ってきたのはうれしいけど、またあなたに仕切ってほしいとは思わない」と言うのです。

こんなふうに、私の脳の異なる部位の間で、リアルな会話が繰り広げられていたのです。

こうして私は、左右の脳の半球にそれぞれ1つずつある、人格をもった感じる細胞群と、考える細胞群の存在を知ることができました。

脳は4つの独自の人格を有している

テイラー:脳の中には、2つの感じる細胞群、2つの考える細胞群があり、それぞれが独自の人格を有しています。

●脳の中の4つのキャラ

<キャラ1>時間を厳守する自我の強いリーダー。整理整頓好き

<キャラ2>傷ついた子どもの自分、不安、恐怖、怒り、自己嫌悪

<キャラ3>ありのままの自分。私は宇宙の一部

<キャラ4>無邪気な自分。好奇心・遊び心がいっぱい。今が大事

出所:『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』

出所:『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』

(外部配信先では図や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

心と頭が別々のことを言っているときは、脳の異なるキャラ同士が争っているんです。

自分自身を進化させれば、自分を形成する4つの細胞群すべてを尊重することができるようになります。

それができれば、私たちは自分自身の選択に基づいて、自分が何者でどういうふうになりたいかを、その都度、選ぶ力を持つことができるのです。

竹内:<4つのキャラ>は、ユング心理学とも符合するそうですね。

テイラー: カール・ユングは4つの元型について述べています。元型とは、私たちが、ある時どきに示す性格のこと。いわば、私たちを決定づける性格のプロフィールのようなものです。

竹内 薫(たけうち・かおる)/理学博士、サイエンスライター、サイエンス書翻訳家。1960年生まれ。東京大学教養学部、理学部卒業。カナダ、マギル大学大学院博士課程修了。主な翻訳書にJ. B. テイラー『奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき』(新潮社)、P. ナース『WHAT IS LIFE? 生命とは何か』(ダイヤモンド社)などがある

竹内 薫(たけうち・かおる)/理学博士、サイエンスライター、サイエンス書翻訳家。1960年生まれ。東京大学教養学部、理学部卒業。カナダ、マギル大学大学院博士課程修了。主な翻訳書にJ. B. テイラー『奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき』(新潮社)、P. ナース『WHAT IS LIFE? 生命とは何か』(ダイヤモンド社)などがある

私は、カール・ユングの4つの元型と、脳の4つの部分によって表される<4つのキャラ>がほぼ完璧に重なりあっていることに気がつきました。

ただし、違うところもあります。ユング心理学では、4つの元型のうち1つだけ意識的な「自我」があり、それ以外はすべて無意識だとしていることです。私の世界では、<4つのキャラ>にみな意識があります。

私の左脳に脳出血が起こったとき、私は<キャラ1>と<キャラ2>を失いました。<キャラ1>はユングの言う「自我」、<キャラ2>は「シャドウ」つまり、過去の苦しみや将来への不安です。それらがなくなって、私に残されたのは、「今、この瞬間の経験」であり、ユングが「アニマ・アニムス」と呼び、私が<キャラ3>と呼んでいるものと、私が<キャラ4>と呼んでいる「真の自己(セルフ)」だけでした。

これはとても興味深いことです。100年以上にもわたって、4つの特定の性格のタイプが、人間の内面を表出するという考えが受け入れられているのです。

もちろん、それが心理学なのだということはできます。しかし、心理の動きはすなわち脳の機能であり、その出力の仕方なのです。神経解剖学者である私は、脳細胞を見て「この細胞がもっている能力に基づいて、その人の性格が決定づけられる」と考えます。

私は自分の脳のどの細胞群がどのような働きをしているのかを知ることで、意識的に行動することができるようになっていました。心理学や精神医学に興味がある人なら、これはとても興味深いことだと思います。

世代間ギャップは脳の働き方の違いから生まれる

竹内:世代間ギャップは脳の働き方の違いから生まれる、という指摘もされていますね。それぞれの世代に、典型的な強いキャラがあると。

テイラー:そうですね。脳の情報処理の仕方が世代によって異なると考えて、それを<4つのキャラ>に当てはめてみてみると、興味深いことがわかったんです。日米の世代の捉え方は多少ずれるかもしれませんが、その違いについては、ほぼ同様の見方ができると思います。

今アメリカを動かしているのはミレニアル世代ですが、ミレニアル世代は、団塊の世代とはまったく逆のやり方で、ビジネスや仕事に取り組んでいます。

この2つの集団の間には大きな溝があって、その溝は団塊の世代が左脳的なスキルセット、つまり言語、数学、工学、こういった構造を「左脳」を通して学んだことと、その子どもの世代(ミレニアル世代)はテクノロジーの進歩によって「右脳」を通して学んだということが、一部起因していると考えられます。

右脳の情報整理の仕方は、左脳のそれとまったく違うのです。ですから、左脳に偏った人々と、右脳に偏った人々の間には、世界をどのように見て、何に関心を持ち、何を大切にして、どのように生きるのかということに関して、大きな隔たりがあるのです。

竹内:私の運営する小さなインターナショナルスクールでの経験からも、20〜30代の親と40代以上の親はすごく違うように感じます。その違いは彼らの、脳の<キャラ>からきているのかもしれないと思いました。若い世代の親は、前の世代よりも「繊細」な気がします。そして<キャラ2>も強いように感じるのですが。

テイラー:そうですね。ミレニアル世代は、ちょうど2001年、私たちアメリカ人にとって、大きな衝撃をもたらしたツインタワーへの攻撃(アメリカ同時多発テロ)があったころ、成人になった世代です。

あの事件は、アメリカ人には初めての経験でした。確かにそれまでも、戦争はありましたし、多くの紛争もありましたが、それがこんなにアメリカ国民の身近に迫ったことはありませんでした。私たちは長い間、自分たちは安全で守られていると感じて生きることができていたのです。

ミレニアル世代は誰かと一緒にいるのが好き

テイラー:あの事件が起こったころから、国民の恐怖と不安のレベルが上がりました。そして、2008年には金融危機が起こりました。そのため、若い家族が団塊世代の親と同居するようになり、不安定な状況が生まれました。ミレニアル世代は、こういった社会情勢の変化によって、不安や恐怖のレベルが高くなっています。

一方、彼らは右脳優位で、集団主義的なところがあり、みんなで何かをするのが好きです。誰かと一緒にいるのが好きなんです。一緒に決断し、一緒にビジネスをするのが。そして「まあ、もう3年勤めたんだし、他のチームに移って別な仕事をしてもいいかな」という考え方で仕事に向き合っています。

かたや団塊の世代は、いい仕事は絶対に手放さない。40年間ずっとその仕事を続ける、その仕事に飛び込んだら一生を捧げるわけですね。このように世代間の価値観がまったく異なっていると同時に、不安感が高まっているため、それを紛らわすため、アメリカでは薬物の使用率が非常に高くなっています。

日本でも、若い世代が台頭してきたものの、社会的な規範になじめないという実情があると聞いています。私たちはそれに対処しなければならないのです。

そして今、Z世代が育っています。彼らは上の世代にとっては、まるで野生動物のようです。彼らは「今、この瞬間」を生き、非常に活動的で、「今、目の前にあること」に夢中です。

彼らはあらゆるものの一部であり、何か1つの確かなものに興味を示しません。彼らにとっては、「これがだめならあれ、あれがだめならこれ」という感じなのです。それが、彼らの社会を見る目に表れています。

団塊の世代とはまったく違う世界に生きている

アメリカでは今、大学進学の割合が最も低いレベルにあります。

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彼らは「大学教育なんか必要ない。コンピューターのプログラミングもできるし、ソフト開発だってできる」と考えます。団塊の世代とはまったく違う世界に生きているのです。

かつても世代間ギャップはありました。しかし、テクノロジーが脳細胞や学習の仕方に影響を及ぼしたことで、世代間に自然な緊張関係が生まれました。そして、そのギャップがこれまでよりも大きいということが言えると思います。

1つの対処の仕方として、自分はどの<キャラ>が優勢なのか、周りの仲間たちはどうかと考えるようになると、とても興味深いことがわかります。

自分の祖父母はどうなのか? 両親はどうか? 私たちの子どもたちはどうでしょう? それぞれの優位な<キャラ>を見極め、自分の<キャラ>の表出をコントロールすることで、互いの間の溝を埋めることができると思うのです。

(後編「左脳の機能失った脳科学者が教える、心軽くする技」に続く) ※外部サイトに遷移します

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提供元:左脳の機能失った脳科学者が発見、凄い脳の使い方|東洋経済オンライン

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