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2022.08.27

耳鼻科専門医が教える「なぜ鼻の穴は2つあるか|加温と加湿、除湿機能を兼ね備えたすごい器官


鼻のすごい働きについて、専門家が解説します(写真:kei.channel/PIXTA)

鼻のすごい働きについて、専門家が解説します(写真:kei.channel/PIXTA)

寝不足の原因は、もしかしたら「鼻」の不調のせいかもしれません――。
いびきに悩む人は実に4000万人いるといわれています。いびきや鼻づまり、アレルギー性鼻炎などで「鼻呼吸」がスムーズにできないことで、睡眠負債が蓄積され、さまざま不調や病気になることも。

睡眠医学の専門医である高島雅之氏の著書『専門医が教える鼻と睡眠の深い関係 鼻スッキリで夜ぐっすり』から一部抜粋して紹介します。

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瞑想やリラクゼーション、運動などにおいても、呼吸を意識される場面がいろいろあると思います。大きくゆったりとした呼吸をすると、心も次第にゆったりとしてきますよね。

息を吸うと肺は膨らみ、吐くとしぼんで息を外へと排出する。いたって当たり前のことですが、息を吐いても、肺はなぜペチャンコにつぶれないのでしょうか。

実は、その役割に鼻が関係しています。

鼻から肺まで、息の通り道には抵抗があり、その抵抗があるおかげで肺はつぶれずにすんでいます。例えば紙風船。小さな穴があいていますが、風船の中の空気は一気にその穴から出入りすることはできません。これが抵抗です。この紙風船が破れてしまうと、一気にしぼんでしまいます。

大きな穴が開いてしまうことで、風船の中の空気は何の抵抗もなく外へと抜けてしまうことが、想像していただけると思います。呼吸において鼻から気管支までの通り道の抵抗のうち、全体の6割は鼻による抵抗になっています。

もし人の呼吸が鼻や口からでなく、胸から直接空気を取り込んでいたとしたら、呼吸における抵抗はきわめて少ないため、とても浅くて1回に換気できる量も少ない呼吸だったでしょう。ラジオ体操の深呼吸もできなかったかもしれませんね。

鼻呼吸には加温効果と加湿効果がある

肺で酸素と二酸化炭素を交換することが呼吸の目的なのであれば、肺からもっと近い距離で呼吸をしたほうがずっと効率的なはずです。

しかし、なぜ距離の離れた鼻から呼吸をするような構造になっているのでしょうか。実は、肺で効率的な酸素と二酸化炭素の交換を行うためには、適度な温度と湿度が必要になり、その役割も鼻は担っています。鼻から吸い込んだ空気は鼻の奥に到達するまでに温められ、温度を上昇させます。

例えば、22.5度の空気は、鼻の奥で33.4度にまで温められています。また、極寒の地域ではもっと機能を発揮させ、マイナス24度と非常に冷たい空気も、鼻の奥では24度近くまで上昇させることができるのです。とってもすごい役割を果たしているんですね。

加温と同時に加湿も必要です。鼻は吸った空気の湿度を、相対的に80パーセント前後にまで上昇させています。以前、北海道の内陸地に仕事で1年ほど住んでいたことがあります。真冬にマイナス20度を下回る日が何日かありました。濡れタオルを外で振り回すと、あっという間にカチカチに凍ってまっすぐに立ってしまうほどです。

もし、鼻がなかったら、息の通り道はすぐに凍ってしまい、人は極寒の地で生存することができなかったでしょう。極寒の環境で、鼻は空気を温めてくれるのです。

鼻のすごさは、空気を吸ったときだけではありません。吐いた息に対しては、3~4度温度を下げ、湿度も下げる働きを持っています。これにより結露を生じさせ、鼻水をたらします。その3割は鼻の粘膜に再び吸収されて、次の息を吸うとき、乾燥した空気の加湿に再利用されているのです。鼻は、なんてマルチな働きをしてくれているのでしょう。

つまり鼻は、エアコンに高性能な加温と加湿、さらに除湿の機能も兼ね備わっていて、なおかつ自動運転で完全お任せ状態。しかもわざと結露を生じさせて、それを再利用までしてくれる、なんともサステナブルな機能を有しているんですね。

もし、鼻づまりによって口呼吸になってしまうと、この加温と加湿が十分にされないまま空気は気管を通って肺に到達します。鼻呼吸に比べて温度は約2度低く、水蒸気圧も2mmHg(ミリ水銀)ほど低いのだそうです。

冷たく乾いた空気が肺に向かって吸い込まれると、肺がカサカサに近づいてしまい、伸縮性が悪くなって、呼吸による換気が不十分になってしまう恐れがあるかもしれない、ともいわれています。鼻は息の通り道全体のラジエーターのような働きも担っているのです。

鼻のおかげ!? 脳の温度調節

「デスクトップのパソコンって、大きさのわりに中身はスカスカなんですよ!」と、あるシステムエンジニアの方からお聞きしたことがあります。その理由は、機械からの熱がこもらないよう発散させるためなんだそうです。

脳は、人間の機能をつかさどるとても重要な臓器です。脳の温度は40.5度を超えると機能障害を起こしてしまいます。

たとえば、病気などで高熱でうなされているとき、もしも脳まで身体と同じ温度に上がってしまったら大変です。そのため、人だけでなく、哺乳類は体温調節とは別に、脳を保護するための独立した温度を調節するシステムを有しています。

脳は1分間に800mL近い血液が流れる血流量の多い臓器です。激しい運動をしたり、インフルエンザなどで高熱が出たりすると、脳の温度も当然上昇してしまうはずですよね。では、どのようにして脳の温度を下げるのでしょうか。

1つには血液です。鼻の中や顔面、頭皮を走行する血管は外気に触れて血液の温度を下げ、その血液が脳内を還流することで冷やす仕組みを持っています。また、鼻の中は、その上方にすぐ脳があります。この距離の近さはダイレクトに脳からの熱を放散させ、直接冷やしているのではないかと考えられています。

脳は体温とは別に血液によって脳を冷やす水冷のようなシステムと、鼻の中の空気によって直接冷却する、空冷のような2つのシステムで冷やしているのです。

鼻づまりによって口呼吸になってしまうと、効率的な脳の冷却が難しくなります。脳の温度を測るときに代用される耳の鼓膜の温度を調べると、鼻づまりがあるとき、鼓膜の温度は高くなるといわれています。そのため、鼻づまりは、運動や発熱時などでは、脳の温度を下げることのさまたげとなりえます。

東京オリンピックではマラソンや競歩の開催地が北海道へ変更となりましたが、それでも記録的な猛暑からリタイヤする選手が多くみられました。鍛え抜かれたアスリートですら身体が対応しきれないほどの暑さだったのでしょう。

休息や手当てによって回復が可能な身体と異なり、脳はいったん傷むと回復が不可能です。そのため脳を保護するために優れた温度調整のシステムが備わっているのですね。生命の持つ機能のすごさを改めて感じます。

鼻の穴はどうして2つある?

人の鼻って、どうして左右に分かれているのでしょうか。呼吸をするために鼻があるのであれば、なにも2つに分けなくてもいいように思います。その理由を考えるため、鼻の構造をみてみましょう。

鼻の中には鼻甲介(びこうかい)と呼ばれる突起状のものが3つあり、それぞれ上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介と呼ばれています。このような突起が複数存在する理由として、先に述べた鼻の加温・加湿や、抵抗、冷却のために、空気と触れる表面積を大きくするためと考えられています。

今や日本人の約半分にあるとされる花粉症をはじめとしたアレルギー性鼻炎では、アレルギーの原因となる物質(花粉など)に対し過剰に反応することで、下鼻甲介から水鼻が多量に分泌され、その粘膜が腫れると鼻づまりを起こします。

下鼻甲介の粘膜は普段、左右のどちらかが腫れる―しぼむを、交互に繰り返しています。これを「ネーザルサイクル」と呼びます。

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ネーザルサイクルを直訳すると「鼻の周期」という意味ですが、左右の鼻が周期を持つ理由として、粘膜が腫れている側の呼吸を休止させることにより、鼻の換気機能を修復しているといわれています。ほかにも、休止中に免疫物質を運搬し、免疫機能を強化しているのだろうとも考えられています。

ネーザルサイクルの周期は人によって異なりますが、昼間は2~3時間ごとに左右交代しているものの、夜間寝ているときはもっとゆったりと遅いサイクルになり、寝返りやレム睡眠に移行したときに左右が入れ替わりやすいようです。

昼間は活動しているので、左右の入れ替わるサイクルが短いのかもしれません。夜寝ているときに鼻の機能をじっくり集中的に修復しているのでしょう。まるで高速道路の夜間集中工事みたいですね。

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提供元:耳鼻科専門医が教える「なぜ鼻の穴は2つあるか」|東洋経済オンライン

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