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2022.08.23

在宅ばかりの人は脳が本来の役割を果たせてない|体を動かさないことは脳の存在理由と矛盾する


昔より50%歩かなくなった私たちが認識しておかなければならないことは?(写真:shimi/PIXTA)

昔より50%歩かなくなった私たちが認識しておかなければならないことは?(写真:shimi/PIXTA)

スマホやタブレットの登場。そしてコロナ禍の在宅ワークにより、歩かなくなった私たち。「体を動かす時間の減少は脳にとって深刻な問題。脳への影響が免れない」と語るのは、『運動脳』を上梓したアンデシュ・ハンセン氏。座りがちで画面に釘付けなライフスタイルが脳をどう変えているのか、デジタル社会への警鐘を込めて同書より一部抜粋・再編集してお届けします。

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われわれの脳は「サバンナ時代」から変わっていない

今この記事を読んでいる人で、生きるために狩りをする必要のある人はどれくらいいるだろう。大半の人は、インターネットにアクセスして指を動かせば、食材が家まで届く。こうした変化によって、私たちが身体を動かす機会は大幅に減った。歩数計をつけていたはずもない祖先と厳密な比較は難しいが、今でも狩猟採集生活や農耕生活を営んでいる人と比べれば参考値が出せる。

東アフリカ・タンザニアで狩猟採集生活を行うハッザ族、農耕生活を営むアメリカのアーミッシュ、そして欧米の一般人の歩数を比較したところ、実に2倍の開きがあった(前者2つが1日1万〜1万4000歩、現代人が6000歩)。

古代の狩猟採集生活から現代のデジタル社会へと世の中が変遷するなかで、私たちの活動量は少なくとも半分に減ったと推察できる。

この歩数の減少は、私たちの脳にダイレクトに影響する。私たちの生活様式は、脳の進化をはるかにしのぐ速さで変わった。生活様式の変化に、肉体が追いついていない状態だ。遺伝子に大きな変化が起きるまでには、数万年が必要となる。しかし、工業社会が始まり、人類が「体を動かさなくてよくなった」のはほんの200年前に過ぎない。

生物学的には、私たちの脳はまだサバンナにいる。人類の歴史において、ほとんどの時代、身体を動かさなければ食料を手に入れることも、生き延びることもできなかった。そのため、私たちの脳と身体は動くのに適したつくりになっている。つまり、体を動かさないことは脳の存在理由と矛盾するのだ。結果、不安にとらわれて悲観的になったり、物事に集中できなくなり、脳のさまざまな機能が衰えてしまう。

脳は、身体を活発に動かすとドーパミンを放出して気分が爽快になるようにプログラムされている。それは、狩りが生存の可能性を増やすからだ。そのほか危険な猛獣から逃げたり、住みやすそうな場所を探したりすることも、生存の可能性を増やす。

脳は1万年前からほとんど進化していないため、現代の私たちにも、このメカニズムが残っている。祖先の生存の可能性を増やした行為と同じことをすれば、脳はそれを繰り返させようと快感を与えてくれる。私たちがランニングやウォーキングをして家に戻ると、脳は食べ物や新しい住処を探していたと解釈し、報酬として多幸感を与えてくれる。

「集中力」「記憶力」の低下も運動量と関係が

さらに、運動すれば「集中力」や「記憶力」「学力」にまでいい影響が及ぶことが判明している。これは、祖先が置かれた環境を考えれば理解しやすい。

サバンナで狩りをしていたとき、集中力を保つことは必須だった。獲物を仕留めるには精神を集中して忍び寄り、わずかな動きも見逃さず、素早く行動する必要があった。あなたや私が運動すると集中力が高まるのは、そのためだ。

また、祖先にとって動き回ることは新しい住処や環境を探すことでもあった。生存に最適な場所を見つけたなら、今度はそれを覚えておく必要がある。座ってばかりいて動かないと、脳は新しい体験をしていないと解釈し、記憶力を高める必要はないと判断する。スマホやパソコンを通して新しい経験をするために、脳は進化していない。座って画面を眺めていても、脳はそれを新しい経験だと考えないので、記憶力は高まらない。

運動をすると創造性や、ストレスに対する抵抗力も高まる。情報を素早く処理できるようにもなる。裏を返せば、体を動かさなければ、これら運動の恩恵と真逆の「お仕置き」を喰らうことになる。日常的な運動量が減ることで、認知症リスクの上昇も懸念されている(事実、歩く習慣のある人は認知症発症率を40%減らせることが判明している)。

基本的には、移動する生物にだけ脳がある。植物は移動しないため、脳はない。

初めてこの世に脳細胞が登場したのはおよそ6億年前で、主な機能は原始的な生物の動きを制御することだったと考えられている。

あのエジソンの言葉にも残っている

つまり、地球上に初めて現れた脳細胞の最も大事な仕事はその生物を移動させることだった。その頃の脳細胞は、「集中力を発揮する」といった複雑な仕事ではなく、もっと単純で本能的な仕事のために働いていた。栄養分を摂り入れるために、その生物をほうぼうに移動させていたのである。

記事画像

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人類も同じだ。最も大切な脳の仕事は「動きの制御」だったと考えられ、今の時代でもそれは変わらない。そう考えれば、もし体を動かさなかったら、脳が影響を受けないはずはない。脳なくして体は動かせない。そして体を動かさなければ、そのためにできている脳も機能できない。トーマス・エジソンの「身体の主たる機能は、脳を持ち運ぶこと」という言葉は言い得て妙と言える。

ほんの少しでも祖先の生活に近づいて体を動かせば、私たちの脳は、今よりもっと効率よく働いてくれることだろう。脳本来の役割を果たすためにも、少しでも体を動かす機会を取り入れたいところだ。

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提供元:在宅ばかりの人は脳が本来の役割を果たせてない|東洋経済オンライン

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