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2022.07.29

和田秀樹「70代でも元気な人とそうでない人の差」|定説を覆す70~80代向けの書籍がよく売れる訳


これまで売れないとされていた70~80代向けの本が、多くの高齢者から支持されている理由とは(撮影:今 祥雄)

これまで売れないとされていた70~80代向けの本が、多くの高齢者から支持されている理由とは(撮影:今 祥雄)

高齢者専門の精神科医として6000人以上の患者と向き合ってきた、和田秀樹さん。70代、80代向けに書いた、老いへの備えや生き方の指南書が発売されるや否や、次々とヒットを連発。「70歳は人生のターニングポイント!」として、70代からの人生を元気に乗り切るための生活習慣や考え方をまとめた、近著『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』もベストセラーとなり、大きな話題に。

2回にわたるインタビューの前編では、これまで売れないとされていた70~80代向けの本が、なぜ多くの高齢者から支持されているのか? ヒットの背景や高齢者を取り巻く日本社会の現状について伺いました。

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70~80代は想像以上にITリテラシーが高い

――70代、80代向けに書かれた著書が軒並みベストセラーになっています。ヒットの背景は何だと思われますか。

以前は、視力の低下が顕著になる70~80代向けの本は、絶対に売れないと言われていました。実際、これまでに高齢者向けの本を何冊か書いてきましたが、出版社から「70代、80代とタイトルにつけると売れなくなるのでやめましょう」と、まるでタブーワードのように捉えられていたんですね。

ところが、2020年に『六十代と七十代 心と体の整え方』(バジリコ)を出したところ、6、7万部売れ、「70代」とはっきり年代を入れたほうが読まれることに気づいた。

そこで『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)という本を出したら、31万部のベストセラーに。さらにその上の年代に向けて書こうと、『80歳の壁』(幻冬舎新書)を出版したら、41万部を突破して、Amazon全体で1位になりました。

しかも、驚くべきは、電子書籍のKindle版のほうもかなり売れていたのです。

これは自慢をしたいわけじゃなくてね。今の高齢者の実態を知ってほしくて言っているんだけど、最近の70代、80代は想像以上にITリテラシーが高くて、常日頃からスマホやPC、タブレットを使って、情報を入手しているということなんです。

そして、欲しいと思ったものは、アクティブに取り入れていこうという意欲もある。そのことを今回の売れ行きを見て、実感したわけです。

――周囲の70~80代の方々を見ていても、若々しくアクティブに行動される方が多いように感じます。

僕が執筆した70~80代向けの本では、「長生きすることよりも、元気でいること」を提案しているんだけど、それも多くの高齢者に支持されている理由だと思うんですよね。

例えば、長生きするために血圧や血糖値を下げる薬を飲み続けたり、節制をして食べたいものを我慢したり。そうやって病や検査結果の数値におびえながら長生きを目指すより、自分のやりたいことをやり、適度に食べたいものを食べ、自由にのびのびと暮らしたほうが、結果的に長い高齢期を元気に乗り切ることができる――。

そういったことを伝えているわけですが、「長生きするより、元気でいたい」と願う高齢者が増えているからこそ、僕の本に共感する人が多いのかもしれない。

ただ、今の高齢者向けの本やビジネスは、長生きするための健康情報や終活、介護の分野が中心で、高齢者が楽しむためのエンターテインメントやグルメ、ファッションに力を入れていないのが現状です。

65歳以上は全国に3600万人超と言われているにもかかわらず、シニアをメインターゲットとしたビジネスの拡大はどの業界も二の足を踏んでいるように見えます。

――市場が大きいにもかかわらず、そこにビジネスチャンスを感じている企業がまだ少ないということですね。

そうです。ジャパネット(HD傘下のジャパネットサービスイノベーション)が豪華客船クルーズのツアーを販売し始めましたが、そういったセンスが今の時代には必要ですよね。おそらくジャパネットでは、通販の顧客にシニア層が多いことを実感していたんじゃないかと思うんです。

マーケットを適正につかむことはとても大事です。そうでないと、需要と供給のミスマッチが起きてしまいます。

景気低迷を打破するのは団塊世代の消費力

――近著『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』では、「団塊世代の“消費力”こそ、社会が必要としている」とありました。

長らく続く不況の一因は、「消費力不足」にあり、「生産力不足」にあるわけではないと思うんですね。

生産量を上げれば上げるほど、物余りになり、価格が落ちていく。利益が上がらないから、給与も上がらず、物を買わなくなるわけです。それでは一向に景気が上向きません。

生産力を上げることよりも、消費を伸ばすことが重要な今の時代において、欠かせないのは、一番のボリュームゾーンである団塊世代の「消費力」です。高度経済成長期の日本の消費を支えてきたのはまさしく団塊世代ですが、それは今も変わらないのです。

仕事を引退すると、「自分はもう働いていないし、何の生産性も上げられない」「社会の役に立っていない」と、卑下する人もいますが、そんなことはない。消費によって社会を支え、経済を動かしていることに胸を張ってもらいたいです。

――著書のタイトルにもなっている『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』――。両者の差は、「レジリエンス(回復力)と免疫力にある」とおっしゃっています。その点について詳しく教えていただけますか。

私たち人間の身体というのは、病気やケガをしても自ら回復する能力、いわゆる「レジリエンス(回復力)と免疫力」が備わっています。その力は適度に身体を動かしたり、脳を使ったり、食事などでしっかりと栄養を摂ったりすることによって高まっていくんですね。

ところが、ここ数年の日本はレジリエンスと免疫力を高めるどころか、下げる方向に進んでしまった。それが、コロナによる不要不急の外出の自粛です。

高齢者の多くは、重症化のリスクを恐れ、家に閉じこもるようになりました。毎日の散歩を控え、友人たちとの趣味の活動や食事会にも行かなくなったのです。それでは筋力も衰え、脳の刺激も減る一方……。食欲もなくなり、かえって免疫力が落ちてしまった人も多いかもしれません。

1日中、誰とも話さず、テレビの前で過ごすような変化のない毎日を送れば、心の元気もなくなります。知らずしらずのうちに、うつ状態に陥ったり、実際にうつ病や認知症を発症したりする高齢者は増えていると感じます。

世の中の流れに逆らっている人のほうが元気

――先生のクリニックでは、高齢者の患者さんも多いと思いますが、実際に接してみていかがですか。

僕の保険診療の外来に来ている患者さんたちの中には、本人ではなく、家族が薬を取りに来るケースが増えました。

理由を聞くと、「コロナを怖がって外に出なくなってしまった」と。「ちゃんと歩いていますか?」と聞くと、「全然歩いていないんです。だから、最近よぼよぼしてきてしまいました」いう人が多いんですね。

和田秀樹/1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって、高齢者医療の現場に携わっている。主な著書に『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス新書)などがある(撮影:今 祥雄)

和田秀樹/1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって、高齢者医療の現場に携わっている。主な著書に『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス新書)などがある(撮影:今 祥雄)

一方、コロナ禍でも外来に訪れる患者さんは、「外に出ないと歩けなくなるから」と積極的に歩いている様子。つまり、世の中の流れに逆らっている人たちのほうが、元気だったりするんです。

――高齢者が外出しなくなったのは、子ども世代が親を心配して、行動を控えるように促しているケースもあるでしょうか。

それはあると思いますね。過剰な心配のあまり、「外出はしばらく控えたほうがいい」などと行動面で制限をかけてしまうケースも多いかもしれません。

老いというのはそれぞれ個人差があって、70歳を超えても健康状態が良く、元気な人もいます。「親父も70過ぎたんだから、そろそろおとなしくしたら?」などと、年齢を理由に押さえつけてしまうのは、本人の元気や生きがいを奪ってしまいかねません。

物分かりのいい老人になるなかれ

――著書の中で「今の高齢者は遠慮の塊になって暮らしているように見える」とありましたが、それはなぜだと思われますか。

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『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス新書) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

もともと日本人は真面目で控えめですし、我慢強いところがありますからね。そのうえ、若い世代からは「勝ち逃げだ」と恵まれた世代のように思われたり、医療費や介護費で国の財政を圧迫しているかのように言われたり……。

面と向かって言われないまでも、なんとなく社会から疎まれているように感じている人は多いかもしれません。だからこそ、社会に迷惑をかけないように、縮こまって生活する人が増えたのではないかと。

僕は今、62歳ですが、ひと回り上の団塊世代の人たちは勉強熱心で努力をいとわない世代というイメージが強くあります。さらに学生運動や反戦運動など権力の弾圧に逆らってきた世代でもありました。

本来、気骨のある人が多い世代ですから、周りからの同調圧力に負けずに、もっともっと声を上げてほしいですね。

そして、物わかりのいい老人になろうとするのはやめて、自分の生きたいように生きてほしいです。そのほうがよっぽど健康に、元気に過ごせるのではないでしょうか。

ー後編に続きますー

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【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

孤独死した30代女性の部屋に見た痛ましい現実

コロナショックの先に待つ4つの最悪シナリオ

「たばこ休憩」を不公平と思う人に欠けた視点

提供元:和田秀樹「70代でも元気な人とそうでない人の差」|東洋経済オンライン

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