2022.07.26
「ヨーグルトや納豆に頼った腸活」には限界がある|「生きて腸に届く商品」もそれほど有効ではない
腸にいいといわれているヨーグルトなどの発酵食品ですが……(写真:shige hattori/PIXTA)
健康のために「腸活」に興味を持つ人は多いもの。しかし、一般的に広く行われている、ヨーグルトや納豆に頼った腸活には限界があると語るのは『結局、腸が9割 名医が教える「腸」最強の健康法』の著者で、消化器専門医の川本徹医師。では、本当に腸に有効な対策は何か、同書より一部抜粋・再編集してお届けします。
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全身の健康の9割は腸と関係している
以前、こんな質問をされたことがあります。
「あらゆる健康法の中で一番おすすめは何ですか?」
私は迷うことなくこう答えました。
「それは、腸を整えることです。疑う余地はありません」
腸を整えることをおすすめするのには理由があります。それは、腸が体全体の「健康の要所」だからです。なぜなら、ウイルスや細菌などの「体に悪いもの」を体に入れないようにする防衛ラインが「腸」なのです。
このラインが突破されると、血液を通じて全身に体に悪いものが運ばれてしまいます。
一方で、腸は「体にいいもの」を吸収したり、作ったりして、全身に届けることもしています。
さて、ここで、クイズです。
腸で作られる「体にいいもの」とは一体何でしょう? 次の3つの中から選んでください。
(1)全身の健康に欠かせないビタミン類
(2)ウイルスや菌をやっつける免疫抗体
(3)心を明るくするホルモン
おわかりになったでしょうか?
実は、(1)~(3)はすべて正解です。
最近の医学の進歩で、腸の役割が多岐にわたることがわかってきました。つまり、腸がちゃんと働かないと、栄養がうまく吸収されないだけでなく「悪いものが吸収され、いいものが作られない」可能性すらあるのです。
そして、腸と関係があると言われている病気・症状はこんなにたくさんあります。
うつ、認知症、感染症、アレルギー、花粉症、肥満、糖尿病、高血圧、動脈硬化、肌あれ、体臭、不眠、むくみ、慢性疲労、便秘、下痢、小腸炎、大腸炎、潰瘍性大腸炎、すい炎、大腸がん、肝臓がん
まさに全身の健康の9割は腸と関係していると言っても、言い過ぎではないと思います。
腸が超動くことが重要
では、どうすれば腸が元気になると思いますか?
「ヨーグルトを食べているから大丈夫」
「私は、朝はいつも納豆ご飯です」
こう言う方、たくさんいますが実はそれ、思っているほど意味がないのです。なぜなら、ヨーグルトの菌のほとんどが胃酸で死んでしまいます。納豆の菌は生きて腸まで届きますが、その後、私たちの腸で善玉菌として活躍してくれるのかというと残念ながらそうではありません。どちらの菌も、1~2日で便として排出されてしまいます(菌の死骸が善玉菌のエサになるので、まったく無意味ではありません)。
では、ヨーグルト以外の発酵食品に含まれている乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌はどうかと言うと、そのほとんども調理時に加熱する過程や胃酸によって、大腸に届くまでに死んでしまいます。
最近では「生きて腸に届く」と宣伝されている商品もよく見かけるようになりましたが、生きて腸に届いたとしても、食べ物から摂るこれらの善玉菌は、私たちの体を通過するだけで、定着するわけではないのです。
善玉菌を増やす一番のポイントは、エサを与えること。善玉菌のエサの代表選手は、水溶性食物繊維です。ごぼうなどに多く含まれ、胃酸で消化されることなく大腸まで届きます。さらに、水溶性食物繊維は、さまざまな種類がいる善玉菌たちすべてのエサになるので、とても効率がよいのです。ですから、腸活として気軽に食に取り入れるものとしては、水溶性食物繊維がイチオシなのです。
とはいうものの、実は私は「食」だけでは不十分だと考えています。腸活の重要性が叫ばれつつも、日本人の腸内環境が改善しないのは、ある大事な要素が、日本人の腸活からすっぽり抜け落ちているからなのです。それは何かというと、「超動きがいい腸」にすることです。
具体的には「ぜん動運動」を活発にすることです。腸のぜん動運動を促すことにフォーカスしなければ、腸内環境の改善はできないと言っても過言ではありません。
ストレス過多な社会、食生活の欧米化といった時代の変化で、日本人の「腸の動き」は一昔前より悪くなっています。だからこそ、腸の動きに着目することがより重要です。
ぜん動運動は、入って来た食べ物を分解・消化し、吸収し、さらに便を作っていらないものを排出するために欠かせない動きです。
胃と腸それぞれが筋肉を収縮・弛緩させる動きを繰り返し、中に入っているものを移動させていきます。ですから、もしもこのぜん動運動が止まってしまったら、消化吸収も排便もうまくいかなくなります。
慢性便秘に悩む方は、たいてい大腸のぜん動運動が弱くなっているのです。
ぜん動運動が活発なら、便が大腸内に居座らず排出されます。便と一緒に悪玉菌のエサになるタンパク質のカスや、悪い脂なども排出されるので、悪玉菌が腸内で極端に増殖する心配はありません。
しかし、ぜん動運動が弱いと、せっかく善玉菌を増やすような食事をしても、それらがきちんと腸に作用しない可能性が高くなります。
また、意外と知られていませんが、腸がよく動けば、腸粘膜からムチンという液体が出てきます。このムチンはビフィズス菌や乳酸菌のエサになります。
つまり、ぜん動運動が促進されることで、結果的に善玉菌も増えるのです。
食事には気をつけているのに腸の調子が改善しないという人は、腸のぜん動運動の促進を意識する必要があります。
基本的には自律神経、すなわち交感神経と副交感神経のバランスが上手く取れていると、腸の動きが活発になります。
言ってみれば、腸のぜん動運動は、私たちの意思とは関係なく起こっています。「動け!」と命令をして動かすこともできませんし、腸の中に命令するものがいるわけでもありません。
けれど、諦めるのは早計です。ちょっとした工夫で、腸を動かすことが可能です。
体操とスープで「超動く腸」をつくる
腸のぜん動運動を促すのに有効な方法の一つが「適度な物理的刺激」です。体を軽くねじる、お腹をさするといった簡単な動作を、短時間行うだけでよいのです。
また、食材でアプローチできる方法もあります。ダイレクトに有効なのが、ビタミンB群のひとつである「パントテン酸」という成分です。パントテン酸は、自律神経(副交感神経)を刺激してぜん動運動を促進する作用があります。パントテン酸を多く含む食物(シイタケなど)を意識して摂るといいでしょう。
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本書では、日常の中でできる「腸元気体操」やパントテン酸と水溶性食物繊維の両方がバランスよく含まれている「腸のクリーニングスープ」のレシピも掲載してます。
腸内細菌は本当に不思議です。
例えば、外部から体内に入ってくるブドウ球菌のような細菌は、腸内に定着して生きることはできません。異物として消化液で殺されたり、殺せないものは大急ぎで体外へ排出されます(そのような場合に、下痢が起こります)。
それは、悪い菌だけでなく、いわゆる善玉菌も同様で、外部から取り入れようとしても思ったほど定着しません。すでに体の中で定着している善玉菌が、できるだけ増えるような生活習慣を心がけることが、腸活のポイントというわけなのです。
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提供元:「ヨーグルトや納豆に頼った腸活」には限界がある|東洋経済オンライン