2022.07.21
【健康とスポーツを科学する】減量と運動
20歳からトレーニングを開始し、50代でも10㎞50分を切って走っていた長尾光城先生。スポーツ医学の専門家が、この世の中を元気あふれる中高齢者でいっぱいにするため、これまでの講演を精選して、運動の健康のかかわりをお届けします。
なぜ減量が必要か
私は、メタボリックシンドロームは、「内臓脂肪こそが悪さをして起きる」と、いつも強調してお伝えしていますが、ダイエットをするにあたっては、適切体重を考慮する必要があると思っています。「BMI22」がすべての方にとっていいわけではなく、BMIが25であっても、内臓脂肪の値が低く、筋肉量が多ければ問題ないことになります。この飽食の時代で運動量が減少し、食事量が減らず、しかも不規則な生活をしていることが問題だと思われます。生活習慣病にならないような体重を維持することが大切です。
年齢を重ね、体力が落ちてくることは致仕方のないことですが、立ち上がるときに、「よいこらしょ、どっこいしょ」と言って起き上がるようでは情けないではありませんか。さらに、膝が痛くて動かないでいる一方で、以前と変わらずに食べてしまうと必然的に体重増加があり、結果的に、膝にはいいことになりません。この悪循環を断つためにも、減量が必要になってきます。日常生活を行う上で「体重が重いな」と感じることなく、活動できる体重を維持するための減量こそが必要です。つまり、内臓脂肪や皮下脂肪を減少させ、筋肉量を増加させることが必要になる、ということです。
エネルギー消費について
身体活動によるエネルギー消費には2つあります。
一つ目は、家事などの日常生活活動が該当する非運動性身体活動によるもの、二つ目は運動によるものです。個人差がありますが、標準的な身体活動レベルの人の総エネルギー消費量のうち、身体活動によって消費するエネルギーは約30%を占めています。
総エネルギー消費量(24時間)は、大きくは、(1)基礎代謝量(約60%)、(2)食事誘発性熱産生(約10%)、(3)身体活動量(約30%)の3つで構成されています。
(1)基礎代謝量は、体格に依存しています。
(2)食事誘発性熱産生は食事摂取量に依存していて、個人内での変動は大きくありません。
(3)総エネルギー消費量が多いか少ないかは、身体活動量によって決定されます。
さて、加齢に伴って基礎代謝は低下しますが、これは、除脂肪量(LBM)の低下によるものです。つまり、骨格筋量の減少がみられるわけです。脂肪は加齢に伴って蓄積していく傾向にありますが、代謝量が低いので、総エネルギー消費量の大幅な増加にはつながりません。
運動による減量の効果
私の教室で行った実験から考えてみます。若年女性と中高年女性の有酸素運動による減量を行った結果を提示します。
期間は7か月で、被験者の若年女性はジョギング、中高年女性はウォーキング、運動強度は年齢予測最大心拍数(220-年齢)の40~70%で行い、運動時間は30分以上継続して行った結果が図1に示したとおりです。
図1.7か月間の運動による体重の変化(長尾研究室のデータ)
若年者は3か月間順調に体重が減少したものの、停滞期に入っています。中高年女性は4か月間順調に体重が減少して横ばいになっています。
ここで考えられることは、運動量を増やして有酸素運動を続けると、あるところで止まるということです。食事を変えることなく行うと、このようになります。結果的に、ジョギングなりウォーキングに適した体型になっていくということだと思います。体重の最大減少は若年者で5.1kg、中高年者では7.1kgという結果でした。
減量についての注意事項
体重が減ったと、それだけを喜んではいけません。基礎代謝を減量前後で測定したものが図2です。若年女性では基礎代謝が114kcal減少したものの、中高齢女性では75kcal増加しました。つまり、若年女性ではLBM(除脂肪体重=体重から脂肪量を除いた重さ(主に筋肉、骨、内臓、血液の重さ))が減少したことが考えられ、中高年女性は逆にLBMが増加したことが考えられます。若年者のLBM量と体重に対する比を表したグラフが図3です。9月から体重に対するLBM量の減少が見て取れます。
図2.7か月間の運動による基礎代謝の変化(長尾研究室のデータ)
図3.若年女性のLBM量と体重に対する比率の変化(長尾研究室のデータ)
ここから言えることは、人によっては有酸素運動だけでは初めは体脂肪が減少するものの、LBM(除脂肪体重)の減少が伴ってくることがあるということです。したがって、筋力トレーニングを、少なくとも3か月目からは併用していくことが適切だと思います。
さあ皆さんも、有酸素運動に筋力トレーニングを加えながら行いましょう。基礎代謝を上げて、筋肉質な体に変えましょう。
著者:長尾 光城 博士(医学)日本スポーツ協会認定スポーツドクター
略歴
1975年、東京学芸大学教育学部A類数学科卒業。大学時代に学習塾を開設。全身で体当たりする指導法は、生徒はおろか、父兄にも大きな影響を与えたという。その後、一念発起して、1984年、山梨医科大学医学部に再入学。
1994年、山梨医科大学大学院医学研究科博士課程修了。
2007年、川崎医療福祉大学医療技術学部健康体育学科教授・学科長・医療技術学部長。
2017年~現在 兵庫大学看護学部教授・学部長・地域医療福祉研修センター長。
岡山陸上競技協会医事科学委員長(1999年~)
岡山県体育協会理事(2009年~)スポーツ医科学員会委員長(2012年~)
倉敷市体育協会副会長(2009年~)
記事提供:介護・福祉の応援サイト「けあサポ」
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