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2022.05.13

「五月病」を撃退するツボと養生、漢方薬の活用術|季節の変わり目は「気」と「胃腸」に注意を払おう


この時期に起こる気分の落ち込み「五月病」の対処法を、専門家が解説します(写真:lingtsyr/PIXTA)

この時期に起こる気分の落ち込み「五月病」の対処法を、専門家が解説します(写真:lingtsyr/PIXTA)

「五月病」という言葉があるように、ゴールデンウィーク明けはだるさや疲れ、精神的な落ち込みなどを訴える患者さんが増える時期です。今年は特に寒暖差が大きいため、自律神経失調気味になり、メンタルに不調を抱えている患者さんが少なくないようです。

「土用」とは季節の変わり目のこと

季節の変わり目は心身が次の季節に適応するため、より多くのエネルギーを消耗します。東洋の考え方では、季節の変わり目を「土用(どよう)」といいます。

「土用の丑の日」にうなぎを食べる人も多いと思いますが、実は、土用は夏だけでなく、春夏秋冬のそれぞれにあります。立春、立夏、立秋、立冬の前の約18日間が土用の時期で、春の土用は4月下旬からゴールデンウィーク明けぐらいまでを指します。

土用には“壊して再生させる”という意味があり、春の土用は春という季節を壊して夏を作る時期と捉えます。

漢方の考え方の基礎となる五行説では、「土(ど)」は胃腸と深い関わりを持ちます。というのも、次にやってくる季節のために栄養やエネルギーを蓄えておくため、食べ物を栄養やエネルギーに変える胃腸がしっかり働く必要があるからです。

その一方で、気温差などの変化で自律神経が疲弊すると、自律神経が支配する胃腸の機能が低下するため、そこから全身への不調へとつながりやすいのです。

ですので、土用の時期にボリュームのあるものを食べるのは、漢方的にはNG。うなぎや焼肉、とんかつなど、アブラの多い食事も、消化力が落ちやすい土用には逆効果なのです。

春はまた、五行の考え方では「肝」の不調が表れやすいとされています。漢方でいう肝は、精神的ストレスや自律神経のことなので、春の土用はメンタルと胃腸両方にダメージが出やすい時期といえるのです。

今年のゴールデンウィークは制限が解除されたこともあって、久しぶりに旅行を楽しんだ方も多いのではないでしょうか。気分が解放されるのはいいのですが、羽目を外して暴飲暴食をしたり、ごろ寝をして不規則な時間にダラダラと食べたりしていた人は、ゴールデンウィーク明けにツケが回ってきますので、要注意。これからの生活の仕方が大事になります。

春の土用に必要なのは、胃腸の状態を整えながら気を巡らすことです。何より大切なのは、規則正しい生活を送ることです。

不規則な生活は「気」を消耗させる

寝る時間や起きる時間がバラバラだったり、食事の時間が不規則だったりすると、自律神経が乱れて、生命エネルギーである「気」が消耗します。

患者さんのなかには体調が悪いにもかかわらず、「就寝するのは毎日深夜12時過ぎ」と話される方が多くて、驚きます。たまに夜更かししてしまうのは仕方ないかもしれませんが、起床時間は一定にしていただきたいと思います。

ほかにも、「休日は昼まで寝ている」という方もいらっしゃいます。週明けに自律神経が乱れて、気を消耗するのでよくありません。1時間以上の朝寝坊はしないようにしましょう。中国の医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』には、「春は日の出前に起きてゆっくり庭を散歩するのがよい」と書かれています。むしろこの時期は少し早く起きて、近所を歩かれるのがいいでしょう。

この時期は寒暖差の大きい日が続きますが、それも体にとっては大きなストレスになります。寒さにより胃腸の働きが悪くなったり、暑くて発汗したりすれば、毛穴から気が漏れ出て気が不足する「気虚(ききょ)」につながります。薄い服を重ね着して、暑さや寒さには臨機応変に対応するようにしましょう。

同書には心の持ち方についても書かれています。怒ったり、他人や自分に厳しくして責めたり、罰したりするのはいけません。新しい環境で頑張っている自分をほめてあげてください。

五月病によいツボとセルフケアを紹介します。

まずは胃腸の働きを整える「足三里(あしさんり)」です。足三里は胃経にあるツボです。胃の働きを整え、気を作る働きを助けます。

この時期は温かくなってきても足元は冷えている方が多く、関節や腰を痛める方もわりと多いです。足三里にはお灸がおすすめです。ふくらはぎ全体を冷やさないために、ハイソックスをはくといいと思います。

もう1つは、自律神経を整える「百会(ひゃくえ)」です。百会は頭のてっぺんにあるツボです。指で押すとズーンと響きます。緊張が続き首や肩が凝っている場合、頭皮も硬くなっていることが多いものです。

頭がボーッとして考えがまとまらないようなとき、頭皮全体を指の腹でやや強めに押すように刺激してから髪を洗うのがおすすめです。

外出の予定がない日におすすめなのは、オイルを使ったセルフケアです。オリーブオイルまたは太白ごま油をコットンに染み込ませて百会に置き、落ちないようにヘアバンドや包帯のようなもので固定して数時間置くと、頭がスッキリします。インドの先生から教わった治療法ですが、メンタルケアにもよいようです。

ツボの位置(イラスト右:ナミッコ、左にしやひさ/PIXTA)

ツボの位置(イラスト右:ナミッコ、左にしやひさ/PIXTA)

胃腸を整えて気を巡らす漢方薬の代表的なものは、香蘇散(こうそさん)です。保険適用となっている漢方薬で、一般用医薬品として市販もされています。

気を巡らす代表的な漢方薬「香蘇散」

香蘇散は特に日本で多く使われていて、漢方の名医といわれる曲直瀬道三(まなせ・どうさん)をはじめ、歴代の医師がさまざまな使い方を記載しています。例えば、江戸時代の香月牛山(かつき・ぎゅうざん)は著書『牛山活套(ぎゅうざんかっとう)』で次のように書いています。

「香蘇散は気を散じ、気を快し、 鬱を散ずるの剤なり。耳鳴り、頭痛、眩暈(げんうん)や咳嗽(がいぞう)、痰喘(たんぜん)、腹痛、瘧疾(ぎゃくしつ)などを治す」

これは、風邪のごく初期や気が滞ったときに気を巡らせる「理気剤(りきざい)」の働きがあるということです。

入っている生薬は、香附子(こうぶし)、蘇葉(そよう)、陳皮(ちんぴ)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)です。香蘇散という名前は、構成生薬の香附子の香、 蘇葉の蘇に由来しています。

香附子以外の4種類の生薬は、蘇葉はシソの葉、陳皮はミカンの皮、生姜はショウガで、甘草はしょうゆをはじめとする多くの食品の甘味料に入っています。いずれも食品としても馴染みの深いものです。それぞれの生薬の薬効を理解しておけば、単独でも食養生に応用することができます。

蘇葉(シソの葉)は、体を温める作用や解毒作用があります。

刺身にシソの葉が添えられるのは、胃腸を温めて魚介類の食あたりを予防する効能があるためです。さわやかな香りで気の巡りがよくなるため、メンタルケアの漢方薬に含まれることも多いです。気分が鬱々とするときには、シソの葉をメニューに取り入れるといいでしょう。

陳皮(ミカンの皮)は、胃腸の働きを助けて気の巡りを調えます。

無農薬のミカンの皮を乾燥させることで作ることができます。1年中使えますので、しっかり乾燥させて保存しておきましょう。入浴剤などにするとさわやかで甘い香りが楽しめ、リラックス効果が得られます。陳皮がない場合は、柑橘系のアロマオイルでも応用できます。

生姜は、胃腸を温めて働きを活発にします。

胃腸の働きが弱っているなと感じたとき、食事の30分前に100ccほどの湯に薄くスライスした生姜を入れ、飲みごろになったらゆっくりと飲みます。胃腸を温めて消化力を高めてくれます。生姜を用意できないときはチューブの生姜を1〜2cmほど入れて代用してもかまいません。

ただし、昔から「生姜は夜に食べるのはよくない」といわれていますので、夕食後から寝る前は控えましょう。体が温まりすぎて寝付きが悪くなったり、睡眠の質が落ちたりする可能性があります。寝付きは体の深部体温が下がっている必要がありますので、生姜を食べるのは日中に。

服用する際は医師や薬剤師に相談を

このように、香蘇散は含まれている生薬のどれもが胃腸の働きを助け、気の巡りを整えます。

体力のない高齢者や小児、妊婦にも安心して使うことができます。私はよくお子さんに香蘇散を処方しますが、グズグズして、どこが悪いのかよくわからない症状によく効きます。

服用する際は自己判断ではなく、漢方に詳しい医師、あるいは薬剤師に相談してください。また調子がよくなったら服用はやめます。漫然と服用を続けるのは、漢方薬でも避けたほうがいいのです。

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提供元:「五月病」を撃退するツボと養生、漢方薬の活用術|東洋経済オンライン

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