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2022.05.03

「脂肪肝は酒飲みだけがなる病気」は重大な誤解だ|糖質を摂りすぎると、肝臓に重大なダメージが


飲酒する人に多いイメージのある脂肪肝ですが、今はお酒を飲まない患者も増えているそうです(写真:recep-bg/GettyImages)

飲酒する人に多いイメージのある脂肪肝ですが、今はお酒を飲まない患者も増えているそうです(写真:recep-bg/GettyImages)

長野県の佐久市立国保浅間総合病院「スマート外来」では、患者の8割が3カ月で約5kgの減量と脂肪肝の改善に成功しています。その減量ノウハウとはーー。
肝臓外科医・尾形 哲氏が上梓した『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術 予約の取れないスマート外来のメソッド』から一部抜粋・再構成してお届けします。

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成人の3人に1人が脂肪肝という事実

現在、日本人成人の3人に1人が肝臓をむしばまれています。最新データでは、日本国内で約2,266万人が「脂肪肝」という病気です。これまでは、肝障害のある人の約9割は、慢性ウイルス肝炎か、アルコールを多飲しているかのどちらかでした。

しかし、今は違います。お酒を飲まないにもかかわらず「脂肪肝(非アルコール性脂肪肝疾患)」になる患者が増え続けています。

主な原因は「糖質」の摂りすぎです。肝臓は、「食べた脂」よりも、「精製された糖質」から中性脂肪を合成します。それが脂肪肝へとつながっているのです。

脂肪肝の組織を顕微鏡で見ると、肝細胞が風船のように膨らみ、細胞質内にはラーメンのスープに浮いている脂のような滴がたまっています。脂肪肝とは、肝臓のまわりに脂肪がつくのではなく、肝細胞の中に脂肪がたまって起きる病気なのです。脂肪のたまった肝臓は、自覚症状のないまま、徐々にその機能を失っていきます。

肥満との相関も非常に高いのですが、従来、日本人は欧米人ほど肥満率が高くないにもかかわらず、脂肪肝の発症率は欧米と同程度です。つまり、肥満の人はもちろんのこと、見た目は痩せていても脂肪肝という人が多数存在しているということです。

アジア人は脂肪肝になりやすい遺伝子を持つ人が多いことも、遺伝子解析で解明されていますから、国内の脂肪肝患者は今後も増加の一途を辿ると予測されています。

脂肪肝の本当の怖さとは?

脂肪肝患者の1〜2割には慢性的に肝臓に炎症が起きています。これが「脂肪肝炎(非アルコール性脂肪肝炎)」。

「NASH(ナッシュ)」と言われるこの病態を放置すれば、5年間で20%程度の割合で肝硬変に進行していきます。アメリカではすでにNASHが肝臓病における死亡原因の第一位で、日本でも10年以内に同様の状況になることが懸念されています。

お酒を多飲せず、肝炎ウイルスにも感染していないのにNASHになり、次第に線維化して肝臓が硬く変化していく。肝硬変は、腹水、胸水、黄疸などの症状が起こり、最終的に肝不全で命を失う“死に至る病”です。

肝臓は、24時間、摂った栄養素を体の各部で働く形に変換し、害のある物質を速やかに解毒。ウイルスや細菌、カビなどの病原菌が全身に回らないように闘っています。全臓器の中で最も大きく、脳よりも重くて、最もエネルギーを使って、絶え間なく、多くの仕事を同時進行で行う臓器ですが、現在のところ、臨床現場で実用化できている人工肝臓はありません。つまり、肝臓が機能しなくなれば、死に直結するのです。

そして脂肪肝の本当の怖さは、肝硬変に進行するまで、ほとんど自覚症状がないこと。肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんです。スマート外来の患者も、健康診断で肝機能検査のE判定を受けての来院が多く、そんなにお酒も飲まないのに? と、最初は半信半疑です。

慢性C型肝炎には経口薬ができていますが、脂肪肝を単独で治す薬はまだ開発されていません。このような現状で、脂肪肝患者を救う方法はどこにあるのか。これを解決するヒントは、「生体肝移植ドナーに対する術前の食事指導」にありました。

「生体肝移植」とは、ウイルス肝炎などで肝硬変が進行して肝不全となった患者に対し、健常な臓器提供者(ドナー)の肝臓の一部を切除し、移植する治療法のことです。ドナーの肝臓が健常であれば、手術後、患者・ドナーの肝臓それぞれが、元の大きさ、元の機能にまで回復します。しかし、ここで思わぬ問題が立ちはだかりました。ドナーに脂肪肝があると、移植した肝臓が働かないことが判明したのです。

これは肝移植を受ける患者にとって、生死を分ける大きな問題です。患者の余命は、概ね6カ月以内のことが多く、仮に1年後にドナーの脂肪肝が治っても遅すぎるのです。

そこで、生体肝移植に携わる世界中の医師、研究者が“ドナー候補の脂肪肝を短期間で確実に改善させる方法”を研究。その結果たどり着いたのが、「食事の改善」でした。薬ではなく、食事で肝臓から脂肪を落とすことこそ、王道なのです。

パリ大学付属の肝臓移植センターに臨床留学したのち、2009年から日本赤十字社医療センター(東京)で生体肝移植チーフとなった私は、肝臓病学、栄養学の文献を読み漁り、さまざまな学びを得ながら、ドナー候補の脂肪肝指導を実施。肝臓の組織を採取し、顕微鏡で見ては食事指導の効果を確認する日々を送りました。

そして、「脂肪肝は適切な食事をすれば、わずか3カ月で改善する」と確信を持つに至りました。実際、私が指導したドナー候補の脂肪肝改善の成功率は100%でした。

ゆるやかな糖質制限が脂肪肝を救う

その後、2016年に佐久市立国保浅間総合病院(長野県)に赴任した私は、生体肝移植ドナーの脂肪肝治療で培ったノウハウを、一般病院の脂肪肝患者の皆さんにも届けたいと考えるようになりました。

脂肪肝は、糖尿病や脳血管障害などの生活習慣病の始まりでもあり、脂肪肝を改善する食事はこれらの予防にもなります。そこで、糖尿病専門医の西森栄太氏と、脂肪肝改善の効率的な食事法の臨床研究を実施。

体重や活動量に応じて摂取カロリーを厳格に守らせる「カロリー制限」と、体格等考慮の必要がなく、糖質量のみを制限する(1日のトータル糖質量130g以下)、「糖質制限」による脂肪肝改善効果の両方を研究しました。

すると結果は「カロリー制限食」も「糖質制限食」も、いずれも脂肪肝の改善に役立つことがわりました。同等の効果があるのならば、患者がより実践しやすい糖質制限を採用することにしました。

糖質制限食と一口に言っても減らす糖質量によってレベルがありますが、清涼飲料水や乳酸菌飲料などの加糖飲料は一切やめ、主食を半分にします。1食当たり糖質量40gまでの、いわゆる“ゆるやかな糖質制限”です。

主食を完全になくすような極端な糖質制限を続けると、リバウンドの可能性が高まります。そこで、スーパーマーケットで買える食材でできて、続けやすく安全な糖質制限の方法を目指しました。

研究のために特別に行った外来は「短期間で痩せることができて、元気になる」と評判になり、研究終了後も継続を望む声が寄せられました。

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『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術 予約の取れないスマート外来のメソッド』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

そして2017年、満を持して立ち上げたのが、肥満・脂肪肝の専門外来である「スマート外来」です。メソッドの根幹は“肝臓をいたわる”こと。具体的には、①糖質や加工食品を減らすこと、②加糖飲料をやめること、③野菜を増やすことなど。

特別な薬や特殊な健康食品も必要ありません。これらを実践すれば、おのずと痩せていきます。そして肝機能が改善すれば、疲れにくくなり、免疫力も上がります。

スマート外来の患者の大半は、これまでダイエットの失敗をくり返してきた方々。減量がうまくいかない方も確かにいます。しかし、うまくいかないのは“医療者側の責任”と考え、医師、看護師、栄養士が協力しあい、患者一人ひとりの生活環境や心の問題に寄り添いながら指導を続け、外来患者の8割以上が3カ月で5kg減、脂肪肝の改善を成功させています。

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寝ても疲れがとれない人がすべき「3つのこと」

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提供元:「脂肪肝は酒飲みだけがなる病気」は重大な誤解だ|東洋経済オンライン

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