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2022.04.19

長生きしたいなら「プロテインより海藻」の理由|腸環境を整える善玉「酪酸菌」のすごい力とは?


腸内の環境を整えるスーパー腸内フローラ「酪酸菌」は、がんや糖尿病などの予防に貢献できる可能性が示唆されているようです(写真:kei.channel/PIXTA)

腸内の環境を整えるスーパー腸内フローラ「酪酸菌」は、がんや糖尿病などの予防に貢献できる可能性が示唆されているようです(写真:kei.channel/PIXTA)

腸内細菌の善玉菌といえば「ビフィズス菌」や「乳酸菌」ですが、近年もっとも注目されているのが「酪酸菌(らくさんきん)」です。酪酸菌は、腸にとって大切な「酪酸」を作り出す腸内細菌です。最新の研究では酪酸菌ががんや糖尿病の予防、筋力アップ、花粉症の改善、さらには新型コロナの重症化予防など、さまざまな驚きの作用をもたらすことがわかってきました。

酪酸菌とはいったい何なのか。なぜ健康長寿者の腸には酪酸菌が多いのか。消化器専門医・江田証さんの新刊『すごい酪酸菌 病気になる人、ならない人の分かれ道』から一部を紹介します(第2回。第1回はこちら)。

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第1回はこちら ※外部サイトに遷移します

免疫力の低下が招く代表的な疾患には、がんがあります。酪酸はがんのなかでもっとも患者数が多い、「大腸がん」の発生を抑えるという報告もあります。

すでに医薬品として医療現場で使用

酪酸を作り出す酪酸菌で有名な菌として、「クロストリジウム・ブチリカム」があります。この菌は、千葉医科大学(現・千葉大学医学部)の宮入近治博士が日本人の腸内フローラから発見し、分離した菌で、すでに医薬品として医療現場で処方されています。

大腸がんができやすいマウス(APC遺伝子ノックアウトマウス)に高脂肪のエサを与えると、さらに大腸がんが発生しやすくなります。しかし、このマウスに酪酸菌であるクロストリジウム・ブチリカムを与えると、大腸がんができづらくなるのです。

つまり、酪酸菌は大腸がんの発生を抑える効果が期待できるのです。

大腸腫瘍細胞における酪酸の効果(同書より)

大腸腫瘍細胞における酪酸の効果(同書より)

反対に、酪酸は免疫の過剰反応が招く「アレルギー」や「自己免疫疾患」にも役立つ可能性が示唆されています。

アレルギーと聞くと、真っ先に思い浮かべるのが「花粉症」ではないでしょうか。花粉による季節性のアレルギー性鼻炎は、毎年、特に春になると発症。ひどい鼻水や鼻づまり、くしゃみに悩まされたり、苦しんだりする人が多く、国民病ともいわれています。これは免疫の反応が過剰になることで起こるアレルギー症状の1つです。

そもそもアレルギーとは、花粉やほこり、食物など、通常なら体に大きな害を与えることがない物質に対して、過剰な免疫反応が引き起こされることです。現在、日本人の約半分がなんらかのアレルギーを持つとされ、さらに年々増加傾向にあります。

アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、喘息の有病率の増加(同書より)

アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、喘息の有病率の増加(同書より)

酪酸には、そんなアレルギーが引き起こす症状も改善させる可能性があります。まだ、マウスでの遺伝子解析の段階ですが、人間でも同様の可能性があることは十分に考えられます。

難治性の副鼻腔炎の炎症を抑制

難治性副鼻腔炎の1つに「好酸球性副鼻腔炎」があります。治療としてステロイド剤の投与や手術がありますが、再発を繰り返すことが多いのが特徴です。そんな好酸球性副鼻腔炎にも、酪酸が効果がある可能性が報告されています。

好酸球性副鼻腔炎の患者さんから得た鼻ポリープに短鎖脂肪酸の酢酸、プロピオン酸、酪酸を投与したところ、酪酸が有意に炎症を抑制しました。

また、分泌が過剰になると次々と炎症反応を起こす炎症性サイトカインでも、酪酸を投与するとサイトカインを抑制できる可能性が明らかになったのです。

免疫システムに異常が起こると、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し、攻撃してしまうことがあります。こうして起こる疾患が「自己免疫疾患」で、「1型糖尿病」や「関節リウマチ」、「潰瘍性大腸炎」などが挙げられます。

こうした自己免疫疾患の患者さんでは、健康な人に比べて酪酸を作り出す酪酸菌の量が減少していることが報告されています。

そもそも糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)が増え続ける病気です。通常、糖質は分解されてブドウ糖に変わり、血液中のブドウ糖が増え、血糖値が上がります。すると、すい臓がインスリンを分泌し、ブドウ糖を肝臓や筋肉、脳に取り込み、血糖値が下がります。

しかし、インスリンが十分分泌されなかったり、効きが悪かったりすると血糖値は上がってしまうのです。

糖尿病には、自己免疫疾患の1つでインスリンを出す細胞が壊される「1型糖尿病」と、遺伝的な影響に肥満やストレスなどの生活習慣がかかわって発症する「2型糖尿病」があります。

自己免疫性糖尿病モデル動物(NODマウス)という、糖尿病モデルマウスを使った研究報告があります。糖尿病マウスは、生後20週、30週と歳をとってくると、自然に1型糖尿病を発症します。しかし、この糖尿病発症マウスに「クロストリジウム・ブチリカム」という酪酸菌を飲ませると、年齢を重ねても糖尿病にならなくなるのです。

すなわち、酪酸菌が腸内フローラの乱れ(ディスバイオーシス)を改善し、糖尿病を予防するのではないかと考えられています。つまり、酪酸菌は1型糖尿病の発症を抑えるということです。

筋肉を増やすには肉より酪酸菌

「将来の日本人は、男性はメタボ(メタボリックシンドローム)で早死にし、女性は筋力低下で寝たきりになる」。そんな暗い予想が医学者たちによって立てられています。といいますのも、近年、日本の女性の筋力が低下し、骨粗しょう症の筋肉版ともいわれる「サルコペニア症候群」の人が増えているからです。

サルコペニア(サルコ=筋肉、ペニア=喪失)とは、主に加齢による体を動かす筋量および筋力の減少で、高齢化が進む日本において、いまや深刻な健康問題となっています。

たとえば、四肢体幹の筋肉のサルコペニアが進めば寝たきりになります。そこまでは想像がつきますね。それ以外にも、嚥下(えんげ)筋や呼吸筋、舌の筋肉が衰えれば、嚥下障害、窒息、誤嚥(ごえん)性肺炎、呼吸障害が起きてきます。こうなると生活の質が下がるだけでなく、介護が必要になってきます。

実は、日本人の死因第3位は老衰です。病気が原因ではなく、全身が衰えて亡くなる老衰。つまり、日本人の寿命を決めるのは、内臓でも血管でもなく、筋肉といえるのではないでしょうか。

「フレイル」という言葉を聞いたことはありませんか?「寝たきり寸前」というような意味です。日本人の死因の第3位が老衰ということは、サルコペニアによってフレイルに陥り、そのまま亡くなる日本人が多いことを意味しているのです。つまり、まだまだ元気で長生きできる人たちが、筋肉の衰えによって死を招いてしまうのです。

長寿地域の住民にはサルコペニアの人は少なく、命が尽きるときまで自分の脚で歩き、寝たきりにならないということがわかっています。

では、長寿地域の人々は、肉などのたんぱく質をたくさん摂っているのでしょうか?

答えはNOです。日本の長寿地域、京丹後市での調査では、筋肉量とたんぱく質摂取量とは関係ありませんでした。日本人にとって筋肉量と相関していたのは、「酪酸」でした。

つまり、筋肉を増やすために摂るべきは、肉よりも酪酸菌を増やす海藻、豆、野菜、果物だということです。昔から食べられてきた日本食が筋力低下を防いでいたのです。海藻を食べて、酪酸を腸のなかで増やすことのほうが、ずっと自然で、日本人らしい筋肉の増やし方なのです。

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しかも、酪酸が増えると新型コロナウイルスなどの感染症にもかかりづらくなるなど、さまざまな副次効果があります。通常の食事から摂取できるので経済的でもあります。

ぜひ「プロテインよりも海藻を」と覚えておいてください。

最近では、高齢者向けのプロテインも登場しています。それは高齢者の一度落ちた筋力を回復させるのは難しいからです。深刻な状態になる前に、普段の食事から意識して筋肉を増やしたいものです。

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「糖質制限ダイエット」を勧めないこれだけの理由

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提供元:長生きしたいなら「プロテインより海藻」の理由|東洋経済オンライン

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