2022.04.05
いい人間関係「開拓」したい人に伝えたい4大秘訣|現代社会で忘れられている「頼り合う」メリット
良好な人間関係を築くための方法を解説します(写真:kou/PIXTA)
「リモートワークは孤独」「自己責任論に押しつぶされそう」「もっと雑談したいのにできない」「人手不足でパンク寸前」――新型コロナウイルス感染症予防で人との対話が生まれにくくなり、孤立する人の増加が問題になっています。
そのような状況の中、重要性を増すものとして「受援力(人に助けを求める力)」を挙げるのは、医師で公衆衛生学専門家の吉田穂波氏です。新著『「頼る」スキルの磨き方』を上梓した吉田氏が、良好な人間関係を築くための方法を解説します。
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「ソーシャル・キャピタル」が健康に与える影響
受援力は相手に「人の役に立つことができた」と感じさせ、自己肯定感を高め、「いい気分」にさせる能力でもあります。社会参加をし、人と助け合うことが健康にとっていいことは、社会疫学(Social epidemiology)の研究においても実証され、健康の要因として、食生活、運動に加えて社会参加や人付き合いがプラスの効果を与えることが明らかになっています。
この社会疫学とは、「健康状態の社会内分布と社会決定要因を研究する疫学の一分野」であり、具体的には、文化、社会システムなどの社会構造要因が集団あるいは個人の病気や健康状態に与える影響を明らかにする学問です。
人間関係が健康に影響を与えるということを考えるとき、そのキーワードの1つとなるのが、近年注目されている「ソーシャル・キャピタル(人間関係資本)」です。
これは1993年にアメリカのロバート・パットナムが著書の中で記述した考え方であり、信頼、規範、ネットワークといった人間組織が健康に好ましい影響を及ぼすとして最近注目されています。また、「ソーシャル・キャピタルが豊かな地域は抑うつ尺度が低い」、「喫煙・多量飲酒などのリスク行動が減る」、「身体活動を促進する」など、健康指標が高いという報告もあります。
ビジネス界における人材を表すものとして、ヒューマン・リソース(人的資源)やヒューマン・キャピタル(人的資本)という言葉がありますが、ソーシャル・キャピタルのほうは、「あるネットワークや社会構造の一員であるということでつながることができる資本」のことであり、個人ではなく、グループや地域レベルでのまとまった活動や状態を指すものです。
利害関係のあるビジネス上のネットワークではなく、より広い意味で、「その人の社会性に関係する、家族、近隣、知人、すべてを含む幅広い人間関係が、あなたの財産になる」と考えるとわかりやすいでしょうか。
私が初めてこの概念を知ったのは、2008年にハーバード公衆衛生大学院に留学し、社会疫学を教えていた研究科長のイチロー・カワチ先生の授業を受けた時でした。留学生活は貧困と過労の連続で、人の助けなしには生き延びることができていませんでしたので、実感として、「なるほど、人間は社会的動物で、コミュニティや人間関係に心身両面の影響を受けるのだな」と、社会疫学という学問の重要性を痛感したのです。
日本でも、少子化対策の研究で、ソーシャル・キャピタル指数の高い地域は孤独死が少なく出生率が高いこと(内閣府、平成15年)など、さまざまな調査からソーシャル・キャピタルの重要性が明らかになっています。
頼ることで人間関係が生まれ、頼られることで自己価値観が向上する。助けを求めることで新しいリソースが見つかり、エネルギーがわき、困った状況の中で人とつながることができる――これはよくよく調べれば、人間が社会的動物として古くから培ってきた能力です。
「人に頼る」原始的なスキルが低下している現代
ところが現代社会に生きる私たちは、他の機械やツールで代用できるので、人間関係による助け合いの頻度が減り、「人に頼る」という原始的なスキルが低下しました。
私自身、医師として、母親として、学生として、研究者として、また一支援者として、さまざまな立場を通して「人に頼ること」「人に助けられること」について勉強を重ねた中で、現代社会では「頼り合うことのメリット、総力戦で当たることの重要性」が忘れられている、という思わぬ落とし穴があることに気づきました。
ソーシャル・キャピタルは、ソーシャル・ネットワークとは異なります。ネットワークとは新しい人と出会うプロセスのことであり、1人が持つ接触の機会を増加させるものです。ネットワーク上で出会う人々がやがて資本となるまで、ネットワークはソーシャル・キャピタルとは言えません。
このソーシャル・キャピタルは経済的な見返りをもたらすとも言われています。例えば、社員1人ひとりの持っているリソースを他の社員も使えるようになったり、メンバーや上司や部下の相互理解によって離職率が低下したりします。また、それらによって採用に関わる費用や研修費の節約、自然に作り上げられる相互理解の効果などがもたらされると言われているのです。こうしたソーシャル・キャピタルの恩恵は、もちろん会社の業績とも相関します。
ソーシャル・キャピタルのポイントは、その言葉のとおり「キャピタル(資本)」であるということです。リソース(資源)は使い続ければ枯渇しますが、キャピタル(資本)、つまり、助け合える社会的なつながりは、開拓し、投資し、増やすことができるのです。
それではどうやって人間関係を開拓し、育てていけばよいのでしょう。
人といい関係を続けていくには、まず「心理的安全性」(「否定されない、拒絶されない」と感じられ、安心して何でも言い合える状態)が必要です。
この心理的「安全」「安心」レベルを上げていくために私が重視しているのは、自分が接する相手に対して、(1)受容、(2)傾聴、(3)誠実、(4)共感の4点を持って向き合うことです。
【受容】
・メンバーの話を受け入れ、相槌や、うなずきを交えながら聞く
・メンバーから勧められた本や情報を読み、出されたアイデアを積極的に取り入れ、「あの本、○○だったよ!」と報告する
・食事会や雑談会など、メンバー同士の交流を促進する機会を企画する
【傾聴】
・メンバーの話を遮らずに最後まで聞く
・メンバーと話す時の表情や声のトーンで相手に安心感を与える
・メンバーからの、自分にとって耳の痛い話に対しても聞く耳を持つ
【誠実】
・メンバーとの会話の内容は他人に口外しない
・自分が知らないこと、わからないことは正直に開示してメンバーに相談する
【共感】
・メンバーの感情に共感する(「わかりますよ」ではなく具体的に)
・「そうなんだね」「辛かったんだね」
日常的なおしゃべりや雑談も大切
この4つのほかにも、日常的なおしゃべり、本題とは関係ない雑談も大切にしています。
「相手がこれまでやってきた仕事の歴史」「印象に残っている仕事上の成功や失敗」「好きな言葉や仕事のスタイルなどの自分の性格」「好きな食べ物や趣味、家族構成」など、メンバーをより身近に感じられるようにさまざまな質問をします。あらかじめお互いがどんな人間なのかを知ることで、安心してもらうことができるからです。また、メンバー同士が気軽に話しかけるきっかけをつくりたいという気持ちもあります。
仕事上の相手にここまでしなくても、と思われる人もいると思いますが、この4つを重視しているのは、私が医療従事者で、相手との信頼関係にとても重きを置いているためかもしれません。
また、東日本大震災の被災地支援(前々回記事『「人に頼る=恥」と考える人に伝えたい重要な視点』参照)で、外から支援に駆けつけたよそ者の私が、被災された皆さんとフラットな関係を築き、なんでもオープンに話してほしい、頼ってほしい、よそ者の私たちと一緒に、健康で便利な街として復興するためにお手伝いさせてほしい、と必死になった経験から学んだことでもあります。
『「人に頼る=恥」と考える人に伝えたい重要な視点』 ※外部サイトに遷移します
人は、1人で進めるよりも、自分とは違う能力やネットワークを持つ他人と協力することによって、単独で取り組んだときよりも大きな目標を達成することができます。
仕事上で、プロジェクトの結果に直結する個人の「能力」が重視されるのはもちろんですが、チーム全体の成果・目的から考えれば、チームの仲間に期待されているのは、ずば抜けた能力ではありません。
アメリカのビンガムトン大学の研究チームによると、仕事仲間を選ぶ際には能力よりも「親しみやすさと信頼性」が重視され、「人的資本」と「社会的資本」を持ち、チームへの参加意欲が強い人が求められます。チームにとっては、個人のスキルだけが必要とされているのではなく、ほかの人と生み出す相乗効果が必要とされているのです。
これからは、勤め先や肩書ではなく、誰もが個人として価値を持ち、生き抜く時代です。また、多世代、多様な人材との切磋琢磨を通じて、自分の才能を磨き、成長する必要があります。
現代を生き抜く個人が持つべき「起業家精神」
私は以前から、自分がライフワークとする分野で起業してみたいと思い、「アントレプレナーシップ(起業家精神)」に関する本を読んだり講座を受けたり、勉強をしたりしていました。
『社会人に最も必要な 「頼る」スキルの磨き方』(KADOKAWA) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
2021年からは、早稲田大学が主幹機関を務め、神奈川県立保健福祉大学が共同機関を務めるT-UNITEが提供するアントレプレナーシップコースで学び始めました。
早稲田大学は、アントレプレナーシップセンターやグローバル科学知融合研究所などで人材を輩出しており、学生だけでなく、新しいことに挑戦したい、生涯学習者を志す社会人にも学習の機会を提供しているのです。
起業、というと、私も昔はベンチャー企業を立ち上げることをイメージしていましたが、ハーバード・ビジネススクールによると、アントレプレナーシップとは「コントロール可能な資源を超越して機会を追求すること」(アントレプレナーシップ研究のゴッドファーザー、ハワード・スティーブンソン教授)だそうです。
この「個人でも自分の強みを活かして活躍する精神」は、限られた資源を超えて、新たな製品/ビジネス/サービスなどを創造する姿勢、活動全般を指し、外部環境が激変する現代を生き抜く際に個人が持つべき重要な素養と考えられます。
「この会社の中にいれば助けてもらえる」「自分から求めなくても誰かが何かをしてくれる」という時代ではなく、これからますます個人としての能力が求められる時代になるからこそ、「アントレプレナーシップ」とともに「ソーシャル・キャピタル」そして「受援力」を築く意識が必要となってくるのです。
前回記事:実は「人に頼るほど自分の能力も高まる」納得理由 ※外部サイトに遷移します
前々回記事:「人に頼る=恥」と考える人に伝えたい重要な視点 ※外部サイトに遷移します
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:いい人間関係「開拓」したい人に伝えたい4大秘訣|東洋経済オンライン