2022.02.09
実は「寒いほど脂肪は燃える」冬に減量が有効な訳|コロナ太りは薄着になる前に解消できる…かも
実は寒いこの時期こそ、痩せるチャンスだって知っていましたか?(写真:akeuchi masato/PIXTA)
「脂肪」と聞いて、よいイメージを思い浮かべる人は少ないでしょう。食べすぎてジーンズの上に乗っかったお腹を見て落胆したことは、誰もがあると思います。メディアや広告でも、「ダイエットをして、醜い体脂肪とお別れしよう!」「スリムになって、新しい人生を手に入れよう!」と、現代において脂肪は立派な「悪者」に仕立て上げられています。
ですが、「脂肪は私たちの体に欠かせない、重要な器官です」と語るのは、医師で医学博士のマリエッタ・ボンとリーズベス・ファン・ロッサムです。脂肪は、食欲を抑えたり、健康を維持したりするために必要なホルモンを産生してくれます。健康的に痩せたいなら、脂肪についての正確な知識を持ち、最大限に利用することが重要です。両氏による共著『痩せる脂肪』から、自身の体と健康的に向き合っていくためのヒントを紹介します。
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新型コロナウイルスの影響が続くなかで、「コロナ太り」に悩む人が増えています。株式会社からだにいいことは、株式会社ネオマーケティングと共同で全国の20~69歳の女性を対象に「代謝」をテーマにした調査を実施しました。すると、「コロナ太りを解消したい」に対して「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した人が、48.0%と最多だったのです。
しかし、今は寒い冬の季節。着込んで体型も隠れるからと、「もう少し暖かくなったら運動しよう」と考える人も多いのでは。ですが、実は寒い冬こそ「痩せる」最大のチャンスなのです。
なぜ寒い時期こそ痩せるチャンスなのか?
寒い季節ほど、痩せやすい。これには「褐色脂肪」がかかわっています。
褐色脂肪は、脂肪を蓄える役割がある「白色脂肪」とは異なる機能を持つ脂肪です。例えば、冬眠する動物たちは、多量の褐色脂肪を有しています。できる限りの低体温を保ちながら、冬眠中のエネルギー消費を抑え、冬眠から抜け出す直前に体を短時間で温める必要がある彼らは、身体内に、脂肪と糖を素早く熱に換えるヒーターを持っています。それが、褐色脂肪なのです。
人間の赤ちゃんも大量の褐色脂肪を、とくに肩甲骨のまわりに身につけています。赤ちゃんは大きな頭から熱を失ってしまうにもかかわらず自ら筋肉を震わせて熱を作れないため、褐色脂肪を働かせて、熱を生み出しています。
褐色脂肪は人類の進化における素晴らしき残りものです。先祖たちは、長い極寒の氷河期も生き延びています。寒い気候を生き延びるには、内側から温めてくれる別の器官が必要になり、進化とともに褐色脂肪を得ていったのです。
しかし、最後の氷河期からは大分時間が経ち、現代では、家の中は快適に温められている場合が多いでしょう。そして、思春期を過ぎ、筋肉量が増加し、効率よく体を震わせることができるようになると、褐色脂肪に頼る必要がなくなります。
そのため、幼少期を過ぎると肩甲骨まわりの褐色脂肪のほとんどは消え、そのままなくなると思われていました。
しかし、最近の研究で、そうでもないことがわかりました。
大規模な病院では、PETスキャン(陽電子放射断層撮影による画像検査)を使用してがんの検査をします。がん細胞は糖代謝が高く、たくさんの糖を吸収します。糖に類似した放射性物質を患者の血管に注入し、それをスキャンすることで、糖をため込んだがん細胞がほかの健康な細胞よりも明るく見え、発見につながるのです。
およそ15年前、核医学の医師がこれらのスキャン中にある奇妙な現象に気づきました。冬の間にスキャンを受けた多数の患者が、首と大動脈周辺に糖をため込んでいたのです。ここは通常、がんができる部位ではありません。では、何が起こっているのでしょう?
現代人にも「褐色脂肪」が存在していた?
組織を顕微鏡で観察した研究者たちは目を疑いました。組織は脂肪の小さな粒で満たされており、「小さな発電所」であるミトコンドリアでいっぱいだったのです。彼らは褐色脂肪を(再)発見したのです。
その後、たくさんの研究で、成人にも褐色脂肪があることが確認されました。特に首と大動脈に沿って多く存在していることや、痩せている人ほど褐色脂肪を有していて、若者には300グラムほどの褐色脂肪があることなどがわかりました。この(再)発見により、胸躍る新しい研究分野が生まれたのです。
褐色脂肪を働かせれば痩せることができるのでしょうか? 答えはイエスです。バーバラの例が、そのことを示してくれます。
バーバラは61歳で、洋服店で働いていました。彼女は結婚し、成人した2人の娘がいます。これまでずっと細身で、体重が安定するようにいつも気を配ってきました。しかしある日、奇妙なことが起こったのです。
「すごくお腹が空くようになったのよ。お昼ご飯にサンドイッチを食べても、全然足りないの。お昼過ぎにどうしてもお腹が空くから、戸棚のクッキー缶をぺろっと平らげちゃったり。夕飯もおかわりするようになっちゃって。でもそれだけ食べても、寝る時間にはまたお腹が空くのよ」
食欲は増したのに、バーバラの体重は増えませんでした。それどころか、体重が減り始めたのです。3カ月経った頃、体重計に乗ると5キロも痩せていました。
「お店の鏡で自分の姿を見ると、服がずり下がってきてるの。顔もげっそりして、常連さんからはどうしたのって聞かれたわよ。ちょっと変だなって自分でも感じるときがあってね。急に何の前触れもなくほてりを感じたり……」
バーバラはしばらく様子を見ようと思っていましたが、翌月にまた1キロ落ちたので、かかりつけ医師の診察を受けました。しかし、彼女の身体の変化が何を意味するのか、医師もわかりませんでした。血液検査をしても変わったところはなかったのです。
そこで、代謝を速めているほかの原因がないかを調べるためにPETスキャンを受けたところ、すごいことがわかりました。
腰付近に、直径6センチほどの丸い塊があり、大量の糖を吸収していたのです。その塊が一体何なのか調べたところ、その物体は脂肪とミトコンドリアでいっぱいでした。良性の腫瘍で、それを構成していたのは褐色脂肪だったのです。
塊を除去すると、たちまち空腹感がなくなり、数カ月でなんと10キロも増量しました。バーバラの例から、多量の褐色脂肪が体内にあると急激に痩せられるとわかり、その「副作用」に科学者たちは胸を躍らせました。
バーバラの例はとてもまれです。一般の人の体内には、褐色脂肪細胞は300グラムしかありません。それでも、体のなかにすでに存在する褐色脂肪を刺激することで、代謝を上げることは可能です。
冷水に触れると褐色脂肪のスイッチが入る
ライデン大学医療センターのマリエッタ・ボンが所属する研究チームは、褐色脂肪が健康な人たちの代謝に与える影響を調査しました。若い男性たちを冷水が流れるマットの上に寝かせて、冷水に触れる前と後で代謝率を測定したのです。
その結果、2時間で男性たちの代謝率は1日200キロカロリーも上昇しました。つまり、残存する褐色脂肪のスイッチを「オン」にして可能な限り活発にすれば、1日に200キロカロリーを余分に燃やすことができるのです。
なぜ冷水に触れたことで、褐色脂肪のスイッチは「オン」になったのでしょう。ここに「寒さ」が関係しています。
人間の皮膚のいたるところには温度センサーがあり、このセンサーが、脳の視床下部にある温度センターに情報を伝達します。視床下部は脳の管制塔であり、入ってくるすべての情報を処理し、熱を作り出すべきか、熱を逃すべきか判断しています。熱を作らなければいけないときに、褐色脂肪のスイッチを入れるよう、脳から信号が送られるのです。
寒さにさらされて脳が褐色脂肪のスイッチを入れると、さまざまなことが一斉に起こります。例えば、脂肪から脂肪酸が分泌され、それが代謝の燃料として、褐色脂肪細胞内にあるミトコンドリアによって燃やされます。その結果、エネルギー豊富な物質を伴わず熱だけを産生することができるのです。
日本のあるグループによる実験結果もあります。10人の健康な若い男性たちを室温17度の空間に毎日2時間ずつ、6週間滞在させ、これを課されなかったグループと比較しました。すると、冷たい空間で過ごしたグループは、6週間で平均1キロの脂肪を落とすことができたのです。
これらの研究から、褐色脂肪が代謝のスピードを上げ、(白色)脂肪量を減らす可能性があるとわかりました。
毎日のシャワーに冷水をプラスしよう
「冷たさ」によって褐色脂肪細胞のスイッチが入るため、刺激を与えるのは比較的簡単です。次のことを試してみましょう。
•毎日のシャワーの最後の数分を冷水にする
•ときどき水風呂に入る
•毎日、室温を数度下げた部屋で数時間過ごす。その際にセーターなどを着ない
•運動はジムより屋外で。肌寒い日は特に自転車通勤をする
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寒くなると褐色脂肪が刺激されることに疑いの余地はありません。ですが、寒いところにいるのが好きな人はあまりいないでしょう。というわけで、実際に寒いところに行かずに、褐色脂肪を活発にする方法も調査が進められています。
例えば、唐辛子の成分であるカプサイシンを、6週間続けて若い健康な男性に錠剤の形状で飲んでもらったところ、代謝が上がることがわかっています。
食べものや薬の及ぼす長期的な影響は、これから定かになっていくでしょう。だからそれまでは、辛いものや冷たいものを食べて、冷たいシャワーを浴びようではありませんか。
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提供元:実は「寒いほど脂肪は燃える」冬に減量が有効な訳|東洋経済オンライン