2022.02.06
「イスに長時間座る人」が知るべき甚大な健康被害|座る時間が長いと「最大酸素摂取量」が減少
最新の医学的研究から「運動不足」がさまざまな疾患の原因で、「筋トレ」が有効な予防法だとわかってきました(写真:kokouu/gettyimages)
20年間に2000人以上の大腸がん手術に携わってきたがんの専門医であり、予防医療のヘルスコーチでもある石黒成治氏は、「筋トレは万能薬です」と語ります。医学的な根拠と石黒氏自身の実践を通じて導き出された、健康な運動法とは? 『医師がすすめる 太らず 病気にならない 毎日ルーティン』を一部抜粋・再構成してお届けします。
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筋トレが「糖尿病」予防につながる医学的理由
2000年まで、運動は健康によいもの、やったほうがよいものという捉えられ方だった。しかし、ここ20年の医学的研究により、運動不足は、慢性疾患や死亡の実際の原因である、と分類されるようになった。それは運動不足が、喫煙やアルコール、悪い食習慣と同じく病気の原因であるという意味だ。
「健康」と「運動」に関する10万件以上の論文が発表され、心臓病、認知症、乳がん、大腸がんなど35もの疾患の原因と定義された。そして、「運動」はこれらの病気のリスクを低減することがわかってきた。
2000年に、運動刺激で筋肉が、「インターロイキン6」というホルモンを分泌し、筋肉以外の場所で働くことが発見された。運動をすると、筋肉から分泌されたこの物質が脳に働いて食欲を落とす。そして脂肪を分解するのだ。
筋肉が収縮する間に分泌されるため、筋トレはホルモンの強力な誘発剤だ。分泌には筋肉を壊すほどの刺激は必要ないため、適度に筋肉を動かすトレーニングで十分だ。
インターロイキン6は、一般に炎症を引き起こす化学物質(サイトカイン)だ。普段から濃度が高い場合、慢性的な炎症を原因とする糖尿病などを引き起こす。主に脂肪組織がこの物質を分泌し、インスリンというホルモンの働きを悪くする(インスリン抵抗性)。内臓脂肪の多いメタボリック症候群になると、インスリン抵抗性の病的状態である糖尿病になりやすい。
しかし運動によって筋肉から分泌されるインターロイキン6はまったく逆の働きをする。インスリン抵抗性を改善して糖尿病を予防する効果があるのだ。このメカニズムは筋肉と腸の会話によって引き起こされる。
そして、運動によって、腸内の善玉菌の割合が増え、腸内細菌の多様性(種類)を増大させる、ということもわかってきた。
運動が腸内の善玉菌である乳酸菌の数を増加させる。乳酸は腸内を酸性環境に保ち、病原菌を排除し腸粘膜の免疫機能を維持するうえで重要な物質。さらに運動によって数が増える別の菌がこの乳酸を餌にして短鎖脂肪酸を合成する。
習慣的に運動を行っている人は運動を行っていない人と比べて明らかに「腸内細菌の多様性が高い」ことも報告されている。「腸内細菌が多様であること」が、免疫力を高め病気にならないために重要であることがわかっている。
運動不足の人の代表は、座っている時間が長い人だ。仕事で1日中デスクワークをしている人は、その行為自体が寿命を縮めていると認識しなくてはいけない。座位時間が延びれば延びるほど、全死亡および心臓病による死亡に関連があることが報告されている。座位時間が最大の場合、死亡のリスクは1.54倍だった。
その要因は、筋肉の血流が低下することだ。筋肉はわずかながらの動きがあれば代謝が低下することはない。しかし座った状態では筋肉の活動、とくに下肢の筋肉の活動は完全に停止している。筋肉内の血管の刺激がなくなり、血管の細胞で作られる一酸化窒素合成酵素が低下する。この結果、慢性炎症を引き起こしてさまざまな疾患の誘因になることが想定される。
健康寿命を左右する「最大酸素摂取量」
最大酸素摂取量は、運動中に体内に取り込むことができる酸素の最大量で、全身持久力の指標になる。動いているうちに酸素をたくさん取り込むことができれば、細胞内のミトコンドリアでたくさんのエネルギーを作ることができる。
イギリスの研究で40~69歳(平均58.1歳)の被験者に自転車をこいでもらい、その運動レベルによって経過観察を行ったところ、運動可能レベルが低くなるにつれて生存率が低下した。
最大酸素摂取量の年齢による低下もまた生存率に関連がある。フィンランドの研究で42~60歳の男性の値を測定し、11年後の値と比較した。その結果、最大酸素摂取量の値が大きく下がった人は死亡リスクが高く、逆に改善している人は死亡リスクが低下していた。
運動に取り組むと、最大酸素摂取量の低下を食い止めることができる。運動に取り組まずに値が低下していくと、年を追うごとに死亡リスクは上がっていくが、逆に積極的に運動に取り組むと死亡リスクは低下し最小限に食い止めることができる。
イスに座って生活する時間が長いと最大酸素摂取量は当然かなり低い値になる。座りがちな人の50歳時の値が、積極的な運動をしている人の80歳時の値に相当する。つまり30年分の健康被害があるといえるのだ。
これを防ぐためには、連続して15分以上座ることがないように、適宜立ち上がって簡単な下肢運動(屈伸や背伸びなど)を欠かさないようにしなくてはならない。
筋肉の量は30歳を超える頃から年間約250gずつ失われていく。しかしその重量に相当する脂肪(500g程度)が増加するため一見体重の増減がない。若い頃から体重が変わらないので安心と思っていても、その質は大いに変わっているということだ。
そして50~75歳に約25%の筋力が失われる。歩行困難や立位困難など日常生活に支障が出るほどの筋肉が萎縮する状態を「サルコペニア」と呼ぶが、「サルコペニア」になると、死亡や介護を必要とするリスクが2倍に上昇する。60歳で維持している筋肉の量が、その人の寿命の長さに一致する。
年齢に関係なく筋トレによって筋力を強化することは可能だ。40代であっても、50代であっても、60代になるまで待つことなく筋力トレーニングを開始すれば、将来のサルコペニアの心配はなくなる。
健康寿命を延ばす、最も効果的な運動法
「最大酸素摂取量」を改善するためには、心肺機能を高めるランニングのような「持久的トレーニング」をイメージする人が多いだろう。週3回、60分程度の持久力トレーニングであれば、健康上のメリットが得られる。しかしそれ以上の持久力トレーニングは体にとってはストレスになる。
長時間の持久力トレーニングによって酸化ストレスが増加するため、運動時間はなるべく短く行う必要がある。短時間の運動で最大酸素摂取量を向上させるために取り組むべき方法は、高強度インターバルトレーニング(HIIT)と筋力トレーニングだ。
高強度インターバルトレーニングは15~30秒の全力のトレーニングを行い、その後15~30秒程の休憩を1セットとして、このセットを数分繰り返すトレーニング法。高強度インターバルトレーニングも、ランニング、エアロバイクなどの持久力トレーニングと同じく最大酸素摂取量は向上する。
運動時間はたかが30秒と思うかもしれない。しかし実際行ってみると、単一の運動を30秒も続けることは難しく、普段運動をしていない人にはハードルが高すぎる。そのため最初はTABATA式と呼ばれる20秒運動、10秒休憩を、はじめは4セット(2分)、最終的には8セット(4分)のトレーニングができるように徐々に負荷を上げていく。
そして最も取り組むべきなのが筋力トレーニングだ。一般には筋トレは筋肉の力を増強し、筋肉を大きくするための刺激を与えるもの。しかし筋トレもまた最大酸素摂取量を増大させる働きがある。
とくに初期体力が低い場合は、筋トレをするだけで、筋力と心肺機能を同時に向上させることが期待できるため非常に効率的。健康効果を得るためには、30秒から始めて、4分程度の腕立て伏せ、懸垂、スクワットのような自分の体重を利用した自重トレーニング、タオルやイスを利用した自宅でのトレーニングで十分必要な筋力をつけることができる。
生活スタイル全般の改善が必要
運動を開始しようとするときにとくに注意しなくてはいけないのは、徐々に強度を上げていくことだ。若い頃と違って、関節や筋肉、靱帯を損傷してしまうと、回復に時間がかかるばかりでなく、一生もののケガになってしまう可能性もある。
運動の習慣化には、毎日続けられるように、疲労を残さないレベルで運動をやめることが重要。負荷を強くしてトレーニングするのは、運動の習慣ができてからであって、初期の頃はちょっと物足りないなというレベルで十分だ。
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疲労を残さないために十分な睡眠を取ることも必要。睡眠不足を繰り返すとストレスホルモンであるコルチゾールが徐々に増加していき、筋肉量の減少につながってしまう。
運動は酸化ストレスを与えるため、普段から抗酸化物質が豊富な野菜果物を摂取することも忘れてはいけない。そして抗酸化物質の摂取は極力食品から摂取すべき。多種多様な抗酸化物質を取り入れるために、色とりどりの野菜果物を摂取することが重要だ。
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提供元:「イスに長時間座る人」が知るべき甚大な健康被害|東洋経済オンライン