2022.01.31
いつもと同じ選択を好む人の伸びしろが小さい訳|「前例踏襲」「これまで通り」に安住しない生き方
経済学的意思決定のプロセスから考えてみます(写真:アオサン/PIXTA)
新しいことに挑戦しようとしても「前と同じで」「これまでやったことがないから」と、なかなか進まなかった経験はありませんか? SDGsやDX、ニューノーマルなど、新しい考え方が次々と生まれ、また、「人生100年時代」と言われる中、ビジネスパーソンにとって、学び続けること、成長し続けることは不可欠であるにもかかわらず、「前例がない」という理由で進まないことは珍しくありません。
いったいなぜ、多くの人は「前例踏襲」をしたくなるのでしょうか。そして、そこから抜け出し、新しく挑戦していくためにはどうしたらいいのでしょうか。
柳川範之さん(東京大学経済学部教授)と為末大さん(400メートルハードル日本記録保持者)の共著『Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」』から、一部抜粋して紹介します。
前回:30代で伸び悩む人が知らずとかかる「呪い」の正体(1月20日配信)
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「いつも通り」「前と同じで」はなぜ快適か?
「人は、目の前にある選択肢の中から、どれが自分にとってもっとも満足度が高いかをよく考えて選択している」
これは、経済学が通常想定している意思決定プロセス、いわゆる「合理的意思決定プロセス」と呼ばれているものです。
たとえば、決められたお小遣いを使って、お菓子屋さんでお菓子の組み合わせを選ぶ場合。クッキーとチョコを買うのがいいか、あるいはクッキーを2個買うのがいいか、チョコ2個だと予算をオーバーしてしまうし等々、いろいろ考えて(計算して)選択しますよね。これは合理的意思決定の典型例です。
でも、実際にはこんなふうに、きちんと計算をして選択しているとは限りません。何かを決める場合、目の前にある選択肢は、お菓子の組み合わせよりもはるかにたくさんあるし、それぞれの選択の結果、何が起きるのかがよく分からないものも少なくないからです。
近年の経済学の研究は、人々がいつも合理的な意思決定をしているとは限らないことを明らかにしていて、それを前提に議論を組み立てることが増えています。
では、多くの人はどのように意思決定をしているのか?──その答えは「パターンで決めている」ということになります。無数にある選択肢のすべてを検討して行動を決めているわけではないのは、日常よくある次のような場面のことを思い浮かべれば一目瞭然です。
「今夜、何を食べようか?」
何を食べるか、というのは毎日のように繰り返される「選択」の場面です。友人や恋人、家族と相談する場合もあれば一人で決める場合もあるでしょう。
いずれにしても、このとき、ありとあらゆるジャンルの料理を選択肢として思い浮かべる人はいません。外食する際にも、慣れ親しんだいくつかの店の中から選ぶことがほとんどでしょう。
「今日は初めての店に行ってみよう」
というときでさえも、エリアについてはあまり冒険しないものです。「渋谷で」「六本木で」「銀座で」など、普段の行動パターンの中で選ぶことになります。「こういうときは、これを食べる」、すなわち「渋谷→センター街→今日はちょっと寒いね→いつものラーメン屋」というふうにほぼ自動的に決まっていることすらあります。
もちろん、パターン化されたものがあるおかげで意思決定のコストを節約することができるわけで、その結果スピーディな決断ができるというのは、日常生活においては大きなメリットでもあります。膨大な選択肢の中から「今夜食べるもの」を毎日選び続けるなんていうことは、実際はできることではありませんし、そんな必要もありません。
ただし、「知らず知らずのうちにパターン行動をしている」と知っておくことはとても重要です。わかったうえでパターン化を利用しているのか、無意識にパターン化に組み込まれているのか。この違いはとても大きいと思います。
僕たちの脳には「省エネし過ぎるクセ」がある!?
日々の行動だけでなく学習のプロセスや能力開発、キャリアの選択などの場面でも、ほとんどの行動はパターン化しています。まずはそのことを知っておくこと。
そして「このパターンは(今の自分にとって/本来の目的にとって)正しいのか?」をチェックする習慣を持ちたいものです。
「前はこれでうまくいったので」「いつもこれで失敗しないので」という安心感のある選択にはいい面ももちろんありますが、弊害も大きいものです。
もっとよい選択肢に気づけない。
ほんとうにやりたいことから外れてきているのに、そのずれを無意識に我慢している。
実は誰も満足していない……。
パターンにハマってしまうことの怖さがそこにはあります。
次にレストランを選ぶ際には、いつもとはまったく違う場所、違うジャンルの店に行ってみる。失敗するかもしれないという不安がつきまといますが、それをいったんのみ込んで、あえて「判断を揺らす」ことを楽しむのです。
パターンが固定化しないように揺らし続けることが、変化の激しい世の中をストレスなく楽しく生きていくために、とても重要なことなのです。
「何気ないことへの違和感」が、成長のチャンス
判断を揺らそうとするときにしばしば妨げになるのが、「今あるものを手放したくない」という感情です。誰だって、今あるものを手放したくはない。それを手放して、次にもっとよいものがつかめるかどうかわからないのだから、だったら今のままでいいじゃないかと考えます。
この傾向は、過去の成功体験が多い人ほど顕著です。「いろんな苦労をして築き上げてきた今の自分は、評価されてしかるべき」という自負があるために、今あるすべてを肯定的に、唯一の正解のように信じて大切に抱え込んでしまいます。
ですが、「これまで」と「これから」は、続いてはいるけれど、まったく別ものです。昨今のように変化の激しい時代を生き抜くためには「これまでと同じ」で「これから」の未来にうまく対応できるとは限りません。
とはいえ「なるほど、そういうことなら成功体験は手放しましょう」とあっさり実行できる人はほとんどいません。多くの方は、「無理」「手放すのが怖い、もったいない」「またゼロから築き直さなきゃいけないなんて不安だ」と感じて、頑なにそれを拒むに違いありません。
「足元が崩れてしまうような不安や恐怖」、これがいつも変化や成長の妨げになります。
ですが実際には、新しいことへの挑戦によって、これまでに築いた大切なものがすべて消えてしまうことはありえません。成功体験を手放すことは、これまでのすべてを捨てて生き直す、というような大げさな話ではないのです。
価値観の揺らぎを感じたときが次なる成長のチャンス
もう少し、軽やかに考えてみるとどうでしょうか。
日々、起こる物事を、客観的に見ようと心がけていると、
「あれ? なんかいつもと違う」
「えっ、そういうときってそういう対応なの?」
と「ハッ」と驚くことがたくさんあります。その、自分の中での価値観の揺らぎを感じたとき、それが次なる成長のチャンスです。
小さな驚きや気づき(たいていは違和感という形で現れます)を無視したり拒んだりするのではなく、自分の「当たり前」のほうに少し疑問を持ってみる。
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「どうしてここでは違う考え方なんだろう?」
「いつもとは違うけど、それはどうしてなんだろう?」
そんな小さな問いかけが、自分の周りに張りめぐらされた「パターン化」にスキマをつくってくれるでしょう。
こうした、「自分にとっての当たり前」に対して疑問を投げかけ続け、新しい可能性を探っていくプロセスは、「アンラーン」と呼ばれる学びの手法の1つです。アンラーンは「学びほぐし」とも言われ、凝り固まった経験や知識、スキルを一度客観視し、とらえなおすことで、新しい伸びしろの獲得を目指します。
「いつも通りで」「前と同じで」というやり方は、快適である反面、いつの間にか環境が大きく変化していても気づけず取り残される、という大きなリスクを抱えています。
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提供元:いつもと同じ選択を好む人の伸びしろが小さい訳|東洋経済オンライン