2022.01.07
正月太りに悔やむ人が知っておきたい脂肪の真実|皮下脂肪がなくなったナタリーに起こった悲劇
何かと悪者になりがちな「脂肪」。あなたはその脂肪のこと、どれくらい知っていますか(写真:Deja-Vu/PIXTA)
「脂肪」と聞いて、よいイメージを思い浮かべる人は少ないでしょう。食べすぎてジーンズの上に乗っかったお腹を見て落胆したことは、誰もがあると思います。メディアや広告でも、「ダイエットをして、醜い体脂肪とお別れしよう!」「スリムになって、新しい人生を手に入れよう!」と、現代において脂肪は立派な「悪者」に仕立て上げられています。
ですが、「脂肪は私たちの体に欠かせない、重要な器官です」と語るのは、医師で医学博士のマリエッタ・ボンとリーズベス・ファン・ロッサムです。脂肪は、食欲を抑えたり、健康を維持したりするために必要なホルモンを産生してくれます。健康的に痩せたいなら、脂肪についての正確な知識を持ち、最大限に利用することが重要です。両氏による共著『痩せる脂肪』から、自身の体と健康的に向き合っていくためのヒントを紹介します。
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三が日も最終日を迎え、そろそろ平常運転の生活を取り戻そうと考え始める人も多いのではないでしょうか。この時期に気になりだすのが、「正月太り」の影響です。生活が元通りになっても、あなたの体型は元に戻らないかもしれません。
2021年12月23日、フィットネスメディアQOOLを運営する株式会社ORGOが、「正月太り」に関するアンケート調査の結果を発表しました。 その結果、正月太りで経験した体重増加は平均2.7kg、解消までに1カ月以上かかった人が半数を超えることが明らかになりました。
クリスマス、忘年会、おせち料理、お雑煮……。楽しかった年末年始のツケを払うかのように、誰もが自身の脂肪に悩んでいます。
ですが、実は脂肪は、かつては富や健康の象徴でした。それどころか、健康に生きていくためにはなくてはならない不可欠な存在です。このやっかいな同居人のことを理解し、うまくやっていくことが、本当に健康的な生活につながります。
人が生存するために必要な存在だった
それでは脂肪は、いつから「悪者」になってしまったのでしょうか。その歴史をみていきましょう。
現在、私たちの世界には食べ物があふれています。食料を手に入れるために苦労して探し回る必要はなく、ただスーパーで買い物かごをいっぱいにすれば目的達成できます。ですが、先史時代の先祖たちはそういうわけにはいきませんでした。
彼らは食べ物を探して歩き回らなければならず、毎日何キロも移動し、何の収穫もないままに家族のもとへ帰らざるをえない日もありました。しかし幸運にも彼らには、いつでも頼りにできる貯蔵庫がありました。それが体脂肪です。
食べ物が手に入らないときでも、体脂肪がエネルギーを供給することで、心臓や脳などの重要な器官が機能し続けられます。つまり脂肪は、生き残るために欠かせないものであり、ある程度の体脂肪がある人だけが、長い飢饉などを生き延びることができたというわけです。
この特徴のおかげで、人類は種として存続できました。そのため、先史時代では脂肪があればあるほど称賛され、場合によっては崇め奉られました。
狩猟採集の時代が終わると、人々は定住し始め、村や町を築くための第1歩を踏み出しました。家畜を飼い、穀物を植え、食料を貯蓄できるようになったため、厳しい飢饉はあまり起こらなくなりましたが、自然災害などのときは別です。穀物が育たなければ太刀打ちできないため、脂肪は人間にとって必要な友達であり続けました。
体脂肪に対する見方は歴史上、ころころ変わってきました。古代エジプトでは、道行く女性たちは整ったスリムな体つきで、古代ギリシャでも人々は痩せて引き締まった体を好んだといいます。ギリシャ人哲学者のソクラテスも、体型維持のために毎朝、飛び跳ねたりしていたそうです。古代スパルタでは、肥満者は町に入ることが許されなかったといいます。
時代と共に変わった体脂肪に対する見方
ところが17世紀になると、ルーベンスが大きなお尻と小さな胸の女性たちの絵を描き、「ルーベンス風」と呼ばれて人気になるなど、変化が見られるようになりました。ルネッサンス後期からぽっちゃり体型を目指す人が増え、19世紀に入ってもふくよかな体型は人気で、富、成功、権力の象徴とされました。
20世紀初頭はどうでしょうか。アメリカ合衆国、バーモントにウェルズ・リバーという小さな町があり、そこでは毎年、ある週末に男たち(大きなお腹を抱えた二重顎の男たち)が酒場に集まり、「ニュー・イングランド太っちょおじさん倶楽部」が開催されていました。
裕福なビジネスマンがコネをつくるためのクラブで、メンバーになるには体重が100kg以上あり、金持ちでなければなりませんでした。19世紀初頭にはアメリカ合衆国やフランスのいたるところで、このような集まりが開かれていました。脂肪の全盛期です。
しかし、それも長くは続きませんでした。
次第に脂肪の評判は落ち、スレンダーな体型が理想とされるようになりました。1920年代には、この流行に乗って利益を上げようとする会社が出現しました。25年にタバコ製造会社の「ラッキー・ストライク」は、「お菓子じゃなくて、ラッキーに手を伸ばせ」をスローガンに、マーケティング・キャンペーンを打ち出しました。
30年代には、ジニトロフェールという薬を使った、とても危険なダイエット法が登場しました。この薬は脂肪の塊を燃やし、大幅に減量できるものの、ガンガン燃やしすぎるために高熱が出るものでした。死者まで出し、38年に禁止されましたが、80年経った今でもインターネット上では違法取引が行われているというから驚きです。
50年代には、オペラ歌手のマリア・カラスが試して減量に成功した「奇跡の薬」が登場しました。その錠剤にはサナダムシの卵が入っており、それを服用して彼女は30kg以上痩せたのです。効果的ですが、あまりに気持ちが悪く、危険な方法です。
60年代には痩せ細るのがはやり、そのトレンドはツイッギーが英国で人気を博したことで加速します。若い女性たちは彼女を目指し、極度に痩せようと努力しました。その後も痩せることへの人々の飽くなき追求は続き、ここ数十年でさまざまなダイエットがはやり、今世紀に入る頃には、減量に取り組む人たちを題材にしたテレビ番組も放映されるようになりました。
20世紀の初頭から、痩せたいという人々の願いは、太っている人や肥満を抱えて生きる人をネガティブにとらえる傾向とともに大きくなってきました。そして往々にして、太っているのは、その個人のせいだと思われてきました。過食だけが原因ではないにもかかわらず、食事量を抑えられない「弱い」人間のせいだと思われ、肥満に苦しむ人たちはこの偏見によって、精神的に苦しめられ始めました。
20世紀に、ある研究が、肥満と死亡率の高さの関連性を発表したことで、状況は悪化しました。ただ特筆すべきは、この研究を行ったのが保険会社であることです。この瞬間から、過剰な体脂肪は健康問題として認識されるようになったのです。
ですが、冒頭でお伝えしたように、脂肪は人類にとって不可欠な存在です。ここで、脂肪がなくなったために、トラブルを抱えた人の例を紹介します。
脂肪がなくなったナタリーはどうなった?
ナタリーは18歳。温かな家庭に恵まれ、細身で活発な女性でしたが、何不自由ない暮らしは急に終わりを告げました。生理不順など、さまざまな症状が現れ始めたのです。ナタリーは当時を、こう振り返ります。
「ひどい疲労感があり、体を動かすたびに痛みを感じました。医者は腺熱だっていったけど、全然よくならなくて、違う症状まで出たんです。脂っこいものが食べられなくなったし、すごくムカムカして、頻繁におう吐するようになりました」
ナタリーの症状は一向によくなりませんでした。血液テストで血糖値が高すぎることが判明し、21歳のとき、糖尿病と診断されました。
「インスリン注射をしなければならなくなりました。だけど、どんなに注射しても、血糖値は全然下がりません。疲労感もすごくて、仕事もままならなかったんです。自転車で家まで帰ることすらできませんでした。医者もすごく戸惑い、私も途方に暮れて、それで初めて、原因は違うところにあるんじゃないかと考えだしたんです」
紹介された内科医は、ナタリーの四肢が不自然に痩せ細っていて、腹部がやけに大きいことに気づきました。MRIが行われ、驚きの事実が判明しました。
「皮下脂肪がほとんどなかったんです。その代わり、心臓とか、つくべきじゃない場所にたくさん脂肪がついていました。肝臓にもすごい量の脂肪があって、肥大していました。いつも吐き気がしたのも、脂っこい食べ物を受け付けなくなったのも、すべてそれが原因でした。皮下脂肪は全然ないのに、血中のトリグリセリド(脂肪)値はすごく高かったんです」
ナタリーは、リポジストロフィーという、1000万人に1人の確率で起こる稀な体脂肪の異常がおきていました。この病気になると皮下脂肪が脂肪を蓄えられなくなるため、行き場のない脂肪は血中を移動してさまざまなところにたどり着きます。ナタリーの場合は心臓と肝臓でしたが、腎臓など、あらゆる臓器の周りにつく可能性もあります。
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こういった場所に脂肪が蓄積されると、循環器系疾患や腎不全、肝臓病など、非常に危険な状態を引き起こす可能性があります。さらに、臓器に脂肪が蓄積するとグルコースが吸収されづらくなり、それによって血糖値が上がり、糖尿病になります。
このナタリーの経験から、体脂肪がきちんと機能することの重要さがわかってもらえたのではないでしょうか。大切なのは脂肪をなくすことではなく、正常な脂肪を、適切な量、身につけることなのです。
「お正月太り」を実感したからといって、無理なダイエットに踏み切るのはやめましょう。
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提供元:正月太りに悔やむ人が知っておきたい脂肪の真実|東洋経済オンライン