2021.11.10
今すぐ実践!「気温差不調」漢方医学が教える対策|パンより米が◎、甘い物や冷たい物が×な理由
季節変わりに起こりがちな1日の気温差による体調不良、漢方による対処法をお伝えします(写真:june./PIXTA)
ここのところ、急な気温の変化による体調不良を訴える患者さんが増えてきています。1日のなかで10℃以上の気温の変化がある日などは、頭痛やめまいなどの症状を訴える患者さんが急増しました。
漢方は医学部教育にも組み込まれている
このような気温や気圧の変化が原因の症状は、近年、“気象病”として認識されつつありますが、実は3000年以上前に書かれた「黄帝内経(こうていだいけい)」という医学書にも、随所に記載されています。
かつては冷遇された歴史のある漢方ですが、現在では医学部の教育にも組み込まれていて、従来の西洋医学では治療のむずかしい、さまざまな“不定愁訴”と呼ばれる不調に対して効果を発揮します。
気温差によって起こる自律神経のトラブルは、病院での診察や血液検査でははっきりとした原因が見つからないことが多く、このような症状に対しては、まさに漢方の出番といえるでしょう。
それでは、気温や気圧の変化が体に与える影響について、漢方的な視点で説明させていただきたいと思います。
漢方では、すべての生命活動は「気」によって行われると考えています。気とは体のすべての活動の原動力とされていて、車に例えるとエンジンのようなものといえるでしょう。気のなかでも、最前線で私たちの体を防御している気を特に「衛気(えき)」といい、ウイルスなどの病原体や気温変化などから守ってくれています。
衛気は、毛穴の開閉による温度調整にも関わっています。暑ければ毛穴を開いて汗を出して熱を逃し、寒ければ毛穴を閉じて熱が奪われないようにしてくれます。寒暖差が大きいと、そのたびに調整をしなければなりません。それが気の消耗につながり、結果的に普段以上に疲れやすくなります。
後述しますが、気は作ることができます。しかし、作られる以上に消耗してしまえば、気は不足します。そして、気の不足は疲労だけでなく、さまざまなトラブルにつながります。
気が不足することを漢方では「気虚(ききょ)」といいます。虚という字は、漢方では不足することを意味します。気虚の代表的な症状には以下のようなものがあります。
疲労感・倦怠感、めまい・立ちくらみ、動悸・息切れ、冷え、風邪やインフルエンザなど感染症にかかりやすい、手足が重だるい、食欲不振、便秘・下痢、声に力がなくなる、など
気虚になるのは、作られる気の量が足りないか、消耗する気の量が多すぎるか、あるいはその両方です。気を充実させるためには、しっかりと気を作り、さらにそれを無駄に消耗しないことが重要となります。
では、まず気がどのように生成されるかについて説明したいと思います。
漢方では、気は胃で作られると考えています。胃は単に食物を消化するだけではなく、活動の原動力である気を作る重要な場所なのです。ですから、気を十分に作るには、胃の状態を整えることが重要になります。
漢方の考え方では、「胃腸は温かい状態でよく働き、湿気を嫌う」としています。胃の状態をよくするには、まずは冷たい食べものや飲みものを控えることが重要になります。「冷たい」とはどれくらいの温度を指すかというと、自分の体温を基準に、それ以下のものは冷たいと考えてください。
氷を入れた飲みものやアイスクリーム、冷蔵庫から出したての冷たいサラダやくだものは、なるべく避けたいところです。これからの時期はあまり食べる人は多くないのかもしれませんが、最近は「寒い時期のアイスは美味しい!」という方もいるので、そういう方は要注意です。
気はを作るために摂りたいのは「米」
もう1つ、胃の働きを悪くするのは水浸しの状態です。近年は夏に熱中症を恐れるあまり水分を摂りすぎて、体内に余分な水が停滞する「水滞(すいたい)」の状態になっている方が多くみられます。
「秋バテ」といわれる言葉がここ数年出てきましたが、今、不調を感じるようなら、来年の夏からはこのようなことに気をつけてほしいと思います。また、砂糖や果糖を摂りすぎると体内に水が滞りやすくなるので、こちらもあわせて控えたほうがよいでしょう。
逆に、気を作るのに摂ったほうがいいものもあります。それはお米です。
気という字(旧字)は、「气」+「米」からできています。私の漢方の師は体調を崩している方たちに対して、「パンを食べている奴には漢方薬は出さないよ! 気は米を食べないと作られないのだからね」と言っていました。
最近は、糖質制限のブームで米をまったく食べない人が増えていますが、漢方的にはこれは大きな偏りを生み出します。
米は春夏秋冬のすべての季節の気を受けた、優れた穀物であるとされています。私は施術の前に患者さんに毎日食べているものを聞いていますが、「朝はコーヒーとトーストにヨーグルトやフルーツ、昼は麺類、夜はおかずだけでご飯は食べない」といった食事をしている方がたくさんいて、驚きます。
理想は焼き魚定食のようなメニューです。ご飯に味噌汁、肉あるいは魚、野菜をバランスよく食べるのが、漢方の考えからみても優れているのです。
飲みものに関していうと、コーヒーなどカフェイン入りのドリンクには気を巡らせる働きがあるので、少しの間は元気になります。しかし、気が不足しているときに飲んでしまうと、気を無理に巡らせることとなり、結果的には気の消耗を招きます。ドーピングのようなものであるので、気が消耗しているときは控えたほうがよいでしょう。
気虚は冷えを生み出しますから、冷えに対する対策も必要です。この時期、上着を1枚羽織っている女性は多いですが、足元をみると寒々しい格好をしている方が少なくありません。
漢方では、「足元は温かく、上半身は厚着しすぎない」ことを理想としています。上熱下寒の状態は、気の巡りを逆行させてしまうため、気の消耗を招いて、気虚に陥ります。上半身よりも下半身を温めることをおすすめします。
続いて入浴について。湯温は熱くしすぎないことが重要です。42~43度の熱めのお湯に短時間つかるという入り方は、気を消耗して気虚に傾きます。
少しぬるいと感じる38~40度ほどのお湯でゆっくり温まり、汗をかく前に出るのがポイントです。気は毛穴から汗とともに漏れ出ますので、ムダに汗をかくのは気虚の方にとってはよくありません。
最近はサウナが流行っていますが、これも同様で、気虚の方では体調を悪化させる要因となります。高温のサウナで汗をかいて水風呂で毛穴を閉めるのは、気が充実した人が血管を鍛えるためには悪くありませんが、すでに気虚になっている方は、一時的にはスッキリして元気になった気がしますが、結果的には気虚が進むことになります。
サウナに入りたいという方は、低温サウナや岩盤浴にとどめ、汗が出る前に終わらすのがよいでしょう。
これからの季節はいつも以上に睡眠を
睡眠も気の生成には重要です。漢方では春夏秋冬それぞれの季節で、必要な睡眠時間が異なります。これからの季節は、「日が出てから起きる」ことをすすめています。ほかの季節は日が出る前に起きるのに対して、冬はより十分な睡眠が必要なのです。
気は眠っている間に満ちていき、起床後に体中を巡ります。休息が少ないと巡る量が減り、日中に活躍することができません。眠れないからと夜遅くまでスマホやパソコンを見ているのはよくありません。眠れなくても体を横たえて、目を閉じてみましょう。
ここまで紹介してきたような生活習慣の改善を「養生」といいます。「一に養生、二に薬」と昔からいわれるように、まずは生活習慣を改善し、それでも及ばない場合に薬や治療が登場します。
気を補う代表的な漢方薬に「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」があります。「中」とは胃腸を指します。「気を作る場所である胃を補って気を益す」という名のこの処方は、気虚の代表的な処方です。
ツボ刺激も有効です。手の指先には「井穴(せいけつ)」という、気の出入り口となるツボがあります。爪の根元の左右にあり、ここを親指と人差し指ではさんで押し、刺激するといいでしょう。
温かいペットボトルを股に挟んだり、首に当てたり、小さな湯たんぽやカイロでお腹を温めたりするのものもおすすめです。
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