2021.10.05
疲れ抜けず悩む人に急増「主食抜きすぎ」の大問題|食事内容を「見える化」すれば改善策を打てる
原因不明の疲れは糖質オフの影響かもしれません(写真: CORA/PIXTA)
季節の変わり目や生活リズムの変化、新生活に会社での異動や昇進……。気づかずに心身ともに疲労が蓄積してしまっているということはよくあるものです。休日をうまく使って休みたいのだけども、なかなか疲労が回復しないまま月曜日を迎えるなんてことも多いでしょう。睡眠時間もそれなりに確保しているつもりなのに、今一つ体調がすぐれない。そんなときにはまず食事を見直すことが王道です。栄養士、フードアナリストで新著『何もしない習慣』を上梓した笠井奈津子氏が、食事の採り方や考え方について解説します。
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原因不明の疲労感があるときは食事内容を確認
普通に睡眠を取り、とくにストレスも感じていないにもかかわらず原因不明の疲労感がある……。そんなときは「食事内容」を3日分ほど抜き出して詳しく振り返ることをおすすめします。
食事バランスのよさを見るにはさまざまなチェック法がありますが、判断基準が簡単でシンプルなほど思考と生活にゆとりができるので、私は食事内容を「主食」「主菜」「副菜」の3つで考えています。これは基本中の基本の考え方ですが、基本ゆえに最低限押さえるべきものだともいえます。
分類の仕方は次の通りです。
主食…ごはん、パン、麺など(炭水化物の供給源)
主菜…魚、肉、卵、大豆・大豆製品を主材料とする料理(たんぱく質の供給源)
副菜… 野菜、芋、きのこ、海藻などを主材料とする料理(ビタミン、ミネラル、食物繊維の供給源)
食事内容の記録に役立つ「9マスリスト」(画像提供:KADOKAWA)
自分の食事内容を3日分ほど記入してみると、不足しているものが一目瞭然で把握できます。疲れや不快症状を改善しようと思っても、それぞれの現状によって最適な食事はまったく異なります。そこで、必ず3日分の食事内容を振り返り、なにが過不足なのかを把握して、バランスが悪いところを調整していくのが大切になります。
食事内容をしっかり把握できると、自分には関係がない「余計な情報」に振り回されなくなります。「○○には△△がいい」といった小手先の情報ではなく、まずは土台をしっかりつくること。家の建築にたとえるなら、基礎工事をしっかりすることです。いま現在、なんらかの疲労感を感じているなら、最も欠けているものから埋めていくようにしてください。
とくに「主菜」の欄が埋まっているかどうかは要チェック。メンタル面でもフィジカル面でも、調子がよくない人は主菜、つまり、たんぱく質が不足している場合が大変多いからです。ちなみに、現在の日本人のたんぱく質の摂取量は、戦後まもない1950年代とほとんど変わりません。
たんぱく質は心の動きに影響する神経伝達物質セロトニンやドーパミンにも関係しているため、不足するとフィジカル面だけでなく、メンタルの不調につながる場合があります。
ただ、最近私のところにくるクライアントのなかで、疲労感を訴える人には「主食」が不足しているケースも増えてきました。いわゆる糖質オフの影響もあり、主食については、むしろ摂らないことを健康的だと考えている人も多く、食べることに抵抗がある人も多いと感じます。
自分自身の「行動ログ」を記録して判断する
最適な主食の量にはいろいろな考え方がありますが、まずは自分自身の「行動ログ」を毎日記録しておきましょう。それを判断軸にすることができます。
例えば、主食を抜いたときに「疲れやすい」「間食の頻度が高い」「集中できていない」などの記述があれば、いまよりも少し量を増やしたほうがいいでしょう。試しにしっかり食べた日はどうなのか、気持ち控えめに食べた日はどうなのか、その違いを比べてください。
また、便秘気味なら、おそらく主食を抜きすぎています。炭水化物は悪者のように思われることがありますが、糖質と、食物繊維という素晴らしい栄養素が合わさったものが炭水化物です。ごはんは食事に占める容量が多く、主食をいたずらに抜くと、食物繊維の量がごっそり減ってしまい、お通じが悪くなりやすいわけです。
最近、脳腸相関というキーワードがよく聞かれるようになりました。緊張やストレスを感じるとお腹が痛くなるなど、体と心のつながりを感じることは日常にもあると思います。ここでのポイントは、腸と脳は密接に影響を及ぼし合っていて、腸内環境が脳の活動にも影響を及ぼすということ。メンタルや仕事のパフォーマンスにも影響があるものとして、「たかが便秘」と放置しないことが大切です。
基本的に摂取するエネルギーが減ると、体は筋肉を分解してでもエネルギーを得ようとするため、代謝が落ちていきます。そうして筋肉量が減ると、さらに代謝が落ちてしまう。特に40歳以降はなにもしなくても筋肉量が落ちていくので、食べないのはとてももったいない行動ともいえます。
また、食事の9マスリストと1日の行動を併せて見ることで、「朝食を食べた日は暴飲暴食していない」「昼をサラダだけにするより、しっかり食べたほうが夕食を食べすぎずかえってやせている」というように、自分にとっての快適な量や食事のタイミングがわかるようになります。
摂食行動の乱れがストレスの原因と気づかせてくれることもあり、生活全般の立て直しにもつながるはずです。
経営者たちが例外なく食事に気を使う理由
私は、仕事で経営者の人たちに会う機会もたくさんありますが、みなさん、例外なく食事に気を使っています。そこで「なぜ食事に気を使うのですか?」と聞くと、「え、どうしてそんなことを聞くの?」というくらいの勢いで、「パフォーマンスが上がるから」と答えます。そして、忙しさを理由に食べない人はまずいません。忙しいことがわかっているからこそ、事前に対策を考え、5分でも時間を捻出しようとしています。
食事に気を使ったり、パーソナルトレーナーをつけて運動したりする生活は、「お金にゆとりがあるから」できると思われるかもしれません。でも、充電がしっかりできているからこそ、第一線で活躍できるだけのエネルギーがあるともいえます。
私は、このようなライフスタイルは一部の特別な人たちのためにあるのではなく、人生をよりよくしたいと望むすべての人たちのためにあるのだと考えています。少しの意識や投資で、それまでより高いパフォーマンスを出せるようになる、万人にとって大きなメリットが得られるものだと感じます。もちろん健康的な生活を優先すればするほど、慢性疾患や過度なストレスなどのリスクは必ず低下します。
そのためにも、これからは食事を軽んじるのはやめましょう。「食べすぎ」と同じように、「食べなすぎ」もよくありません。食事の乱れはほかのさまざまな乱れにつながっていくので、食事の9マスリストのすべてのマスがしっかり埋まっているかを基準に、食事内容をチェックするのをおすすめします。
一方で、毎食しっかり9マスを埋めることを考えるのがストレスになっては元も子もありません。食事は生活の一部ですから頑張り続けないことも大切。食事コンサルでも、「いまは頑張らずに休んでください」と惣菜の買い方の話だけに終始することもあります。ただし、「いつも気にしない」のと「今日は食事のことを考えるのは休もう」というのは大違いだということを、ぜひ意識してほしいと思います。
生活と仕事のパフォーマンスを上げるためには、食事のタイムマネジメントも欠かせません。ただ、3食とも規則正しい食生活を送るのはなかなか難しいものです。せめて1食だけでもタイムマネジメントをするとしたら、私のおすすめは夕食です。
食事の時間は健康的な食生活を考えるうえで重要な要素ですが、朝食と昼食は少々時間がずれ込んだり、食べすぎたりしてもそこまで問題にはなりません。ですが、ひとたび夕食の時間がずれ込むと、悪循環の起点になりやすいのです。「夕食を制する者がすべてを制す」といってもいいほど、1日の最後に摂る食事時間は体に大きな影響を与えています。
20時までに夕食が終わるようにマネジメントする
消化には3~5時間かかるため、寝る直前に食事をすると、睡眠中も内臓は消化活動にいそしむことになり、睡眠の質を低下させます。そうなると、朝スッキリ起きることは難しくなります。ギリギリまで寝ていたり、胃がもたれていたりして朝食が食べられず、充電ゼロの疲れた体で仕事に向かうことになりがちです。
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さらに、睡眠不足によって食欲が増すホルモンの分泌が活発になり、エンドレスの悪循環がはじまるというわけです。ですから、1日のなかで最低1食をタイムマネジメントしようと思うなら、それを夕食に設定し、20時までに終わらせるようにすれば、効果はかなり高まります。
早い時間であればそのとき食べたいと思うものを食べられるので、心も満たされるし、食べすぎさえしなければ大きな問題にはなりません。
夜遅くなると、頭のどこかでカロリーを計算し、「あまり体によくないな」と罪悪感を抱きながら食べる人もいるでしょう。だからといって、ビールとおつまみ程度の夕食にしたり、サラダだけで終わらせたりしたら、9マスのほとんどが空欄になります。それでは、食事で充電するどころか健康にマイナスです。
食事の時間がきちんと充電の時間になるようにするには、夕食の時間をコントロールするのがいちばん簡単なやり方なのです。さらにもう一歩先に進めそうなら、夕食だけではなく、自分が快適に過ごせる食事の時間・タイミングの目安を把握しましょう。そうすると、日常にもっと好循環を生み出せるようになります。
1日を長距離マラソンにたとえるなら、いつ、どのタイミングに自分の「給水スポット」を置くと、疲れず、体調よく働けて、生活できるのか。そこを見極めることはとても重要です。
ゴールだけに給水スポットを置いても、一時的には回復するかもしれませんが、そこまでに蓄積されていく慢性的疲労に対してほとんど効果はありません。効率がよくなるように給水スポットを配置することが、疲れない体をつくる大切なポイントになります。
1週間分の行動ログをためて見直す
そこで1週間分のログがたまったら、次の問いで見直してみてください。
・パフォーマンスが高いまま、1日を快適に過ごせた日の食事のリズムは?
・「充電できた」と感じられた食事は、どんな内容やシチュエーションだった?
本来、食事は回復に必要な「充電」そのものです。自分にとって最適な給水スポット、つまりリズムを把握することからはじめるのが、とても大切なステップになります。また「充電できた」と思える食事にもパターンがあるはず。すごく好きな食べものでも、「これくらい食べるとあとで体がしんどいな……」という気づきもあるかもしれません。
この2つの問いに対する答えは、正解を書くというよりも、問いによる気づきを次のようにいろいろな角度から挙げてみてください。
・朝からバランスよく食べようとすると、準備にバタバタしてかえって疲れてしまう。朝は軽めにして、代わりに昼は少し早めにしっかり食べるようにしよう
・おやつに「大好きなプリンがある!」と思うだけで、昼食後すごく集中できた。これくらい食べていると、夜もあまり空腹ではないから食べすぎないでいられる
・お昼は軽めにしたほうが、夕食の時間が早くなって全体的によいリズムで過ごせる気がする
・夜の晩酌はビール1缶なら、そのあとのしたいことに影響もなく楽しめる
・今日のお昼はしっかり食べられたので、午後も集中できた。昨夜の残り物のおかげ。これから夕食は多めにつくるようにしておこう
・ホットプレートで焼き肉パーティー。準備の手間もないし、家族みんなよろこぶから頻度を上げてもいいかもしれない
こうした気づきを、1日のスケジュールにどんどん書き込んでいってください。パターンがわかったら、リストにまとめていくといいでしょう。どんなタイミングで、もしくは、誰と、どこで、どんな食事をすれば回復できたのかを集めると、「自分のトリセツ」が充実していきます。
自分のエビデンスは多ければ多いほど、健康的な選択ができるようになります。それは、「食事」が充電であることをより実感できるのと同時に、自分を疲れさせる食べ方があることに気づくからです。
夕食時のお酒ひとつとっても、飲むか飲まないかで意志力を試すような選択ではなく、自分のエビデンスをもとに「飲むけれど20時まで」「平日は1杯までにする」と決めて、「ここまでなら体に負担をかけず、心もしっかり満たされる」という自分の指標を持っておくことが大切なのです。
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提供元:疲れ抜けず悩む人に急増「主食抜きすぎ」の大問題|東洋経済オンライン