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2021.04.28

心理学者が考えた「OKをもらえる」依頼の極意|知らない人に「家の中全部見せて」もらうには?


人の行動を変える「小さなお願い」の中身とは(写真:タカス/PIXTA)

人の行動を変える「小さなお願い」の中身とは(写真:タカス/PIXTA)

商談相手との交渉に難航し、膠着状態に。説得したり、おだてたり、圧力をかけたり、ごり押ししたりと頑張っても結果は出ず、もう打つ手なし……。そんな交渉の場面に頭を悩ませるビジネスパーソンは少なくないが、相手の心を変えるためには「押す」戦略ではうまくいかないと言うのは、大学教授であり敏腕コンサルタントであるジョーナ・バーガー氏だ。

「それは無茶だ」と思うような突拍子のない要求でも相手にのませる交渉テクニックについて聞いた。

※本稿は『THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術』より一部抜粋・編集したものです

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小さなお願いから始める

社内文化を変えたいのであっても、子どもに野菜を食べさせたいのであっても、強く押せば相手は思いどおりになると考えるのが一般的だ。情報、事実、根拠をこれでもかと提示し、理由を説明し、さらに少しばかり力を加えれば、人は変わるということになっている。

このような考え方の根底にあるのは、人間はビー玉と同じだという思い込みだ。どちらかの方向にはじけば、ずっとその方向に進んでいくと考えている。

しかし残念ながら、このやり方では逆効果になることが多い。人間はビー玉ではないので、思いどおりの方向に転がってはくれないのだ。むしろ、人間は押されたら押し返す。

強引な営業をかけられたクライアントは、もう電話に出てくれなくなるだろう。ボスの「考えておくよ」という言葉の真意は、「きみの要望は受け入れられない」だ。そして追い詰められた犯人は、諦めて投降するのではなく、銃を発砲するだろう。

それでは「押す」戦略がうまくいかないのなら、いったいどうすればいいのだろうか?

職場のデスクで仕事をしているときに、携帯に電話がかかってきたとしよう。電話の主は消費者団体の者だと名乗り、調査に協力してほしいという。団体の職員があなたの自宅を訪問し、家にある日用品をすべて調べたいというのだ。

とにかく1つ残らず調べるので、自宅のすべての部屋を見せなければならない。戸棚はすべて開け、倉庫の中まで調べる。調査員は5人か6人で、所要時間は2時間を超すことはないだろう。しかも、調査への協力は完全なボランティアだ。言い換えると、タダで家をすべて見せろ、ということになる。

この話を聞いて、あなたは協力したいと思うだろうか?

大抵の人は、あまりにも突拍子もない話なので、話を聞きながら必死に笑いをこらえているだろう。5人か6人の見知らぬ人がやってきて、家の中をくまなく見て回る?

ありえない! そもそもそんなバカげたことを頼むほうがどうかしている。しかもタダで協力しろ? するわけがないだろう。このようなお願いは間違いなく拒絶の領域に分類される。ずうずうしいにもほどがあるというものだ。

スタンフォード大学の2人の心理学者が、実際に見知らぬ人に電話をかけて似たようなお願いをしたことがある。すると、協力に同意してくれたのはごくわずかだったという。

この少数派が誰だかは知らないが、おそらくよっぽどのお人好しか、あるいはそもそも何をお願いされているのかよくわかっていなかったのだろう。当然ながら、ほとんどの人は協力を断った。

「やりたくないこと」をやらせるには?

2人の心理学者は、すべての人が日常的に直面するある問題に興味を持っていた。それは、「人にやりたくないことをやらせるにはどうするか」という問題だ。

2人の心理学者も言っているように、大抵の人は「押す」ことでこの目的を達成しようとする。「気乗りしない相手に対して、できるかぎり大きなプレッシャーを与えることで、(略)むりやりそれをやらせるのである」
相手に向かって「それをしなければならない」と言う。そしてやらなかったら罰を与える。あるいは金銭的な報酬でやる気にさせる。とにかく相手が言うとおりにするまで押して、押して、押しまくる。

しかし2人の心理学者は、もっといい方法があるはずだと考えた。彼らは正しかった。別の相手にお願いしてみたところ、前の2倍以上の人が依頼に応じたのだ。

お願い事の中身は同じだ。5人か6人の見知らぬ他人がやってきて、2時間かけて家の中をくまなく見て回る。しかし今回は、半分以上の人が協力すると答えた。

違いはいったい何なのか?

2度目の実験では、小さなお願いから始めたのだ。

2つめのグループに例の突拍子もないお願いをする3日前、2人の心理学者は同じ人たちに電話をかけて、ごく小さなお願いをした。設定は前のグループと同じで、彼らは消費者団体の職員だと名乗る。

だが今回は、いきなり家中を見て回りたいと依頼するのではなく、もっと小さなお願いをした。現在使っている日用品について、電話でいくつか質問に答えてもらいたいと頼んだのだ。たとえば台所用洗剤はどのブランドを使っているかというような、ごく単純な質問だ。

電話に出た人のほとんどは、快く質問に答えてくれた。もちろん電話で質問に答えることが大好きというわけではないが、拒絶の領域に入るほど嫌いなことでもない。

その3日後、2人の心理学者が同じ人たちに再び電話をして、もっと大きなお願いをすると、協力してくれる人が大幅に増えたのだ。

最初の「小さなお願い」の効果

2人の心理学者はこう考えた。小さなお願いをされ、それに応じた人は自分自身に対する見方が変わる。彼らも最初のうちは、電話でいくつかの質問に答える以上のことはできないと思っていただろう。それぐらいなら、ぎりぎり許容のゾーンに入れることができる。

しかし、最初の小さなお願いに応じることで、彼ら自身の立ち位置が変化したのだ。2人の心理学者は次のように書いている。

「要求に応じることに同意すると、(略)自分自身を人のお願いをきく親切な人とみなすようになる」

大きなお願いに関連する小さなお願いを最初にすることで、相手を望みの方向に動かすことができる。最初に小さなお願いをされた人は、後から突拍子もないお願いをされても、許容範囲だと感じるようになるのだ。

フィールド上の位置を移動すると、それにつれて許容のゾーンも拒絶の領域も一緒に移動する。その結果、最終的なお願いが許容のゾーンに入る可能性が高くなるのだ。

誰かの考えを変えるのに苦労している?

そんなときは、押しを強くするのではなく、まず小さなお願いから始めてみよう。

本来のお願いを相手の許容のゾーンに入るまで小さくしていく。そうすれば、最初のお願いだけでなく、本来の大きなお願いにも応じてもらえる可能性が高くなるだろう。

肥満の患者に減量指導をする医師も、よくこの問題に直面する。

20〜50キロの大幅な減量が必要な患者の場合、医者のほうも大きな変化を求めがちだ。毎日運動しなさい、ジャンクフードを食べないように、デザートもいっさい禁止です、というように。

しかし、大きな変化は大抵失敗に終わる。医者のアドバイスは正しいのだが、実行できる患者はほとんどいない。もちろん肥満を解消したいのなら、運動は毎日するべきだ。

とはいえもう何カ月も、場合によっては何年も運動してこなかった人にとって、それは大きすぎるお願いだ。

肥満患者に「1日ジュース3L」をやめさせるには?

ダイアン・プリースト医師は、ある肥満のトラック運転手に減量させようとしていた。その男性はマウンテンデュー(甘い炭酸飲料)が好きで、仕事中はいつも1リットルのペットボトルを手元に置いていた。1日にだいたい3本は飲むという。

マウンテンデュー3リットルには、60グラム以上の砂糖が含まれている。それを毎日飲み続けるのは、1カ月に100本以上のスニッカーズを食べるのと同じようなものだ。

このトラック運転手が減量するなら、マウンテンデューを飲むのをきっぱりやめるのがいちばんの方法だろう。しかしそれはできない相談だということは、プリースト医師もわかっていた。そこで、小さなお願いから始めることにした。

飲む量を1日に2リットルまで減らしてみましょう、とプリースト医師は言った。3本飲んでいたのを2本にするだけだ。そしてトイレ休憩のたびに、空になったペットボトルに水を入れて、マウンテンデューの代わりに水を飲むようにする。

最初のうちはそれも難しかった。しかし努力の結果、1日に3本から2本に減らすことに成功した。

次にプリースト医師は、2本から1本に減らすように言った。トラック運転手がその目標を達成すると、そこで初めて、医師はマウンテンデューを飲まないようにすることを提案した。

その運転手は、今でもたまには缶入りのマウンテンデューを飲んでいるが、それでも10キロ以上の減量に成功した。

誰かの考えや態度を変えようとするとき、大抵の人は最初から大きく変えようとしてしまう。今すぐに変わってほしいと考える。相手が一瞬のうちに炭酸飲料を飲むのをやめたり、支持政党を変えたりする魔法の言葉を求めている。

しかし大きな変化を起こした人をよく観察してみると、それが一夜のうちの変化ではないことがわかる。変化とはむしろプロセスだ。ゆっくりと着実にゴールに向かって進み、その間にはさまざまな段階がある。

小さなお願いは、そのプロセスを大切にするという意思表示だ。プリースト医師は、毎日飲むマウンテンデューを1本減らしてほしいというお願いから始めた。最初のお願いを小さくして、後からだんだんと大きくしていった。

だが、ただ小さなお願いをすればいいというわけではない。ここで大切なのは大きなお願いをどう分割するかということだ。いきなり大きな変化を突きつけるのではなく、相手にとってちょうどいい大きさに分割する。

1から始めて、そこから積み上げていく。フットボールの例えを使うなら、超ロングパスを投げて奇跡のキャッチを期待するのではなく、10ヤードか15ヤードずつ着実に進んでいくということだ。

Uberが成功したワケ

プロダクトデザイナーは、このプロセスを「飛び石を置く」と表現する。
たとえば、配車サービスのウーバーで考えてみよう。赤の他人の車に乗せてもらうというサービスをいきなり始めていたら、おそらく失敗に終わっただろう。私たちの多くが、「知らない人の車に乗ってはいけません」とお母さんに言われて育っている。

しかしウーバーは、ごく小さなお願いから始めた。

当初ウーバーは、ハイヤーを簡単に呼べるサービスだった。「みんなの専属運転手」をスローガンに、誰もが黒塗りの高級車で送迎してもらえるサービスを提供したのだ。この事業が成功すると、次に始めたのがウーバーXだ。高級車ではない分、値段は安くなるが、運転手の身元調査は必要だ。そうやって段階を踏んで、最終的には完全に自動運転の自動車による配車サービスを目指している。

ウーバーが最初から赤の他人の車に乗るサービスを始めていたら、おそらく失敗に終わっただろう。それまでの常識とあまりにもかけ離れている。いきなりこのサービスを提供されて、安全だと感じる人はほとんどいないはずだ。

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だが変化を切り分けることで、1回のお願いのサイズを小さくした。段階的に発表された新サービスはそれぞれが飛び石の役割を果たしている。顧客はその飛び石の上を歩きながら、最初のサービスから、まったく新しいサービスへと無理なく移行していくのだ。

激しく流れる川を歩いて渡るように言われたら、大抵の人が断るだろう。怖い、川が深すぎる、流されてしまうかもしれない、というように。

しかし飛び石があれば、渡ってみようと思う人も出てくるはずだ。最初の石から次の石へと飛んでいけばいいので、水に濡れる心配もない。

このように、お願いを小さくすると、目標までの距離を縮めることができる。相手に飛び石を提供する役割を果たす。その結果、最終的なお願いを手の届く範囲に引き寄せることができるのだ。

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提供元:心理学者が考えた「OKをもらえる」依頼の極意|東洋経済オンライン

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